屋上にて 投稿者: てるぴっつ
PS版To Heartの琴音ちゃんシナリオのネタバレを、おそらく含みます。
最後の選択肢で、もし本当に彼女が自殺していたら、ってやつです。


屋上にて



「さようなら……」

 去り行く背中にかける言葉は無かった。

 俺は痛烈な無力感を感じていた。

 結局思い上がっていただけなのか……。

 彼女を引きとめようと手を伸ばすが、無限にも近い距離がそこにあった。

「琴音ちゃ……」





 目を開けると、いつもの風景が広がっていた。見飽きた俺の部屋だ。

 目覚めの悪い朝だった。

 理由はわかっている。

 今朝見た夢だ。

 あの日、俺は彼女を引き止めることができなかった。

 その後、何が起きたかは、語るまでもないだろう。

 もう、この半径6500キロの薄汚れた惑星の上に、彼女は存在しない。

 そう、彼女はこの悪しき世界より自ら魂を開放したのだ。



 はっきり言って、学校に行くのは気が進まなかった。

 しかし、あかりが迎えに来たのでは仕方がない。

 校門の近くまで来たとき、一番会いたくない奴が話し掛けてきた。

「聞いた聞いた? あの超能力少女が、自殺したんですって。何でも……」

「うるさい」

 殺気すらこもった視線で、俺は志保を睨み付けた。

 俺の言葉に含まれる何事かを感じ取ったのだろう、志保はたじろぎ、そして何かを
言おうとしたが、押し黙った。

 結果はわかっていた筈だ。だが、他者の口からそれが語られるのは、やはり耐えら
れない。

 俺は二人を無視して歩き出した。






 俺は授業をさぼり、屋上に行った。今は一人になりたかった。

 俺の内心とは対照的に、爽やかな陽光と暖かな風が吹いていた。

 かぎりなくクリアブルーの広がる空を見上げながら、彼女の事を考えた。

 俺は彼女に何をしてあげられたのだろう。

 一時の夢を見せただけなのだろうか。

 それだけは否定したい。

 彼女の後を追うか……。

 いや、それは許されないことだろう。

 少なくとも俺は、あの空よりも高い場所に行くことはできない。

 俺はこの罪を一生背負って生きていかなくてはならないからだ。

 なぜあの時、引き止められなかったのだろう。

 いまさら後悔しても遅いが、やはりやりきれない思いが残る。

 畜生……

 畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜

生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜

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生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜

生畜生畜生畜生畜生畜生……



 いっそのこと狂ってしまえれば、楽なのに。

 視界が滲んできた。

 今ごろ彼女に対する気持ちに気づいても、遅すぎる。

 やはり俺は馬鹿野郎だ。愚か者だ。無能な働き者だ。






 一体、俺には、何が残されているのだろう……。





終わり




て 終わったぜ。
浩 やっぱり貴様は殺す。
て 何を言い出すんだい、同志藤田君。
浩 やはり理解していないようだな。では、その身で知れい。

パンパン
乾いた音が響き渡った。
かつて後頭部と呼ばれていた個所から、赤黒い何かを垂らしたタンパク質の塊が、そこに
転がっていた。

て 中途半端に琴音ちゃんとかかわるとこうなると言うことだな。
浩 まあ、結構きついシナリオだからな。
て 俺、マジで痕・雫並のバッドエンドを期待していたのだがな。
浩 もう一度このレミィの親父さんにもらったM‐1ガーランドを食らいたいか?
て いや、もうその半世紀も前の博物館の遺物はしまってくれ。


おまけ

佐藤節東鳩(笑)

生徒

 もし仮に、浩之はそう思った。

 もし仮に、俺が旺盛な精力を持っていたら、彼女達をどう扱うだろうか。

 食指を伸ばすだろうか。いや、無理だな。あり得ない。

 たとえ精力が有り余っていても、俺にはあかりがいない。彼女がいなければ、俺は男と
しての機能を完全に発揮できない。

 やはり、個人としての俺には何も残されていないのだ。雅史と、彼の部下達を使って準
備をしている計画を進める他は無い。俺は、この国に対する復讐を完結させねばならない。

 浩之はかつて自分が死に追いやる要因を作り上げた少女と似たような年恰好の娘達を見
つめ、思った。そうか。俺はもしかしたら彼女達も死なせることになるのか。藤田浩之と
いう人間はそのように生まれついているという事だな。

 自虐的な思いにかられた彼は口元に歪んだ何かを浮かべた。矢島の言葉を思い出す。戦
争を望むものは誰一人として存在しない……

 ああ、その通りだよ同志。その通りだ。

 だが、俺だけは例外だ。俺はこの国に対する復讐を完結させるため、戦争を望んでいる。



佐藤大輔著「征途」(氏の唯一完結しているシリーズ物)のパクリです。
すいません。

http://www.aax.mtci.ne.jp/~tirpitz