カオリン愛に生きる! の巻 投稿者: たろすけ
 その日、俺は梓と買い物をしに街に出てきていた。
「ごめんな耕一、買い物色々つきあわせちゃって…」
「いや、そんなこと無いって。でも、まさかお前がスカート買うなんて思っても見なかったなあ」
「な、何だよ、あたしがスカート買っちゃ悪いのかよ。あたしだって一応女の子なんだからな!」
「い、ち、お、う、な」
 そう言うと、梓は腕を振り上げにじり寄ってきた。
「こ、耕一ぃ〜〜!」
「はははっ、冗談だって! でもスカート履いた梓ってのも結構可愛かったぜ?」
 俺は冗談混じりで言った。
「えっ…」
 しかし、梓はボッと音が出そうな勢いで顔を赤らめ、なんだかモジモジしはじめた。
「本当に…そう思った?」
「え…あ、うん…」
「良かった…。あの…あたしさ…耕一にそう言ってもらいたくて…このスカート買ったんだ…」
 そこまで言うと、梓は顔を一層赤らめてうつむいてしまった。
「えっ…」
 普段がさつな面しか見ていないだけに、こういった女の子らしい面を見ると、妙にドキッとさせられてしまう。
「あ…あのさあ、梓…」
「…え? な、なに?」
「…腕…組んで歩かないか?」
 そう言って俺は腕を差し出す。
「えっ…う、うん…」
 梓はためらいがちに、おずおずと手を伸ばしてきた。
 お互いの腕が触れ、そして絡み合う…。
 その時。
「でえやあぁぁっ!」
「どわあぁぁぁっ!」
 いきなり背後からものすごいパンチが飛んできて、俺は間一髪でそれを避けた。
「こ、耕一ぃ!」
 梓が叫ぶ。
「な、なんだ一体!」
 一瞬鬼の力を解放しかけた俺は、いきなり襲いかかってきたものを見た。
「…え?」
 そこには…。
「…か、かおりちゃん?」
 そこには、黒い革の上下(しかも左右に星条旗の模様があしらってある)で身を包んだかおりちゃんが立っていた。
「…お前がケンシロウか?」
「へ?」
「わたしの名はカオリン、恨みはねえが、貴様の首、もらい受けるぞ」
「え、『もらい受けるぞ』って…。な、なんで?」
「これのためだ!!」
 ビシイッ! 
 かおりちゃんは小指を立ててそう言った。
「…『これ』ってあんた…」
 梓がうめく。まあ、無理もないわな。
「ケンシロウ、お前、女はいるのか!?」
「え? いやまあ、いるっちゃあいるけど…」
 と、梓をちらりと見る。
 視線に気付いた梓はまた顔を赤らめてうつむいてしまった。
「ほう、いないのか。モテそうな顔してるのにな〜〜」
 こっちはこっちで話聞いちゃいねえし。
「フッ…まあどうでもいいか。これで安心してお前を容赦なくブチ倒すことができる。…馬から降りな!」
「いや、馬になんか乗ってないって。それに俺の名前は耕一…」 
「行くぞ二枚目!!」
 そう言ってかおりちゃんは自分の拳にチュッと軽く口づけ、構えた。
 どうでもいいけど、聞けよ話を。
「でやあぁぁ!」
 叫びながらかおりちゃんはパンチを繰り出してきた。
 まあ、所詮人間のパンチだし、軽く受け流すか。
 パパパパパパパパパァン!
 俺は両手でかおりちゃんの連続パンチを受け流した。
「ぬう! これはどおだあぁぁ!」
 かおりちゃんは渾身の一撃を打ち出してきた。
 まあ、これも受け流すか。
 …が。
 パァァン!
「あ」
 パンチは左手で受け流したのだが、勢い余ってつっこんできたかおりちゃんに、ちょうどその手が平手打ちの格好
で顔にクリーンヒットしてしまった。
「だ、大丈夫?」
 仕掛けてきたのは向こうだが、思わず聞いてしまう。
「…」
 しばらくかおりちゃんは呆然としていたが、
「やるじゃない」
 そう言ってニコッと笑うと、バッタリ倒れてしまった。
「ちょっ、ちょっと耕一ひどいじゃない! 女の子の顔を叩くなんて!」
 そう言って梓はかおりちゃんに駆け寄っていった。
 い、いや、俺そんなつもりじゃ…。
「ちょっと、かおり! 大丈夫!?」
「ア、アスカ…」
 おしい、母音と最初の1文字はあってた。
「へっ…コレのために死ぬってのはなかなかのもんだぜ……」
 と言ってかおりちゃんはプルプル震えながら、また小指を立てた。
「カ…カオリン…」
「フッ……少し…カッコよすぎるな………」
 ガク…
 な、なぜ死ぬ!?
「バ……バカヤロ〜〜!! てめえカッコよすぎるよ!!」
 そうなのか!? これってカッコいいのか!?
 そうこうしてると、いつの間にか来ていた千鶴さんが、かおりちゃんを抱きしめている梓に近寄っていった。
「ア……アズサ。泣いてもいいのよ……。思いきり泣いても……」
「……ううん、あたし泣かない…。あたしが泣いたらカオリン眠れない」
 そう言って梓はかおりちゃんの顔をなでていた。
「カ……カオリンはきっと…。この子が寝付くまではねむらない人だったのでしょうね」
 ちょっ、ちょっと…それってかおりちゃんと梓が一緒に寝てたってことで、つーことはつまり…。
「うっうう!!」
 ブワッと千鶴さんの目から涙があふれる。
「ふぐうっ」
 周りのギャラリーも一斉に泣き始める。
 な、なぜ泣く!? これって泣ける場面なのか!?
 と、みんなの視線が俺に集まる。みんなが『お前が悪い光線』を俺に浴びせかけている。
「な、なんだよ…。俺が…悪いのかよ……?」
 じ〜〜〜〜〜っ。
「そ…そんな目で俺を見るなよ。…う…う…うわああああん!」
 そして俺はその場から田丸浩史調に泣いて逃げ出してしまっていた…。


 …そんなこんなで隆山に居れなくなった俺は海を渡って修羅の国に行って羅将とかと闘っちゃったりなんかし
ちゃったりするのだけど(広川太一郎の口調で)、それはまた別のお話。