新曲 投稿者: たろすけ
 今日、由綺から久々に電話があった。何でも新曲のレコーディングが一段落ついて、久々のオフだったらしい。

「お疲れさん、由綺」
「うん、ありがとう、冬弥君」
「けど、仕事忙しそうだなってのはわかってたけど、まさか新曲作ってるとは知らなかったなあ」
「うん、今回は外には発売ぎりぎりまで秘密にしておこうって話だったんだ」
「へえ…。で、なんて曲なの?」
「え? だーめ、教えられないよお。冬弥君にも内緒なんだからあ」
「けど、その曲のこと話したくて電話してきたんだろ」
「え、あ…うん…。そうなんだけど…」
「じゃあ、教えてよー」
「もう、しょうがないなあ。みんなにはまだ内緒だよ?」
「うん」
「あのねえ、『だんごう3兄弟』っていうの!」
「…………」
「…どうしたの、冬弥君?」
「…あの…俺、似た名前の曲知ってるんですけど…」
「ああ、あれね。あれ、盗作だって」
「…あ、そうなの?」
「うん、あの曲が出たとき、緒方さんとっても怒ってたもん。『俺の曲を勝手にパクって炭水化物の兄弟の歌なんかに
しやがって! 憶えてろよ! 貴様等いつか命の炎を散らしてやるからな! クックックック!』って」

 …一部キャラが違っていたような気がするが、たぶん気のせいだろう。

「そうだ! 特別に最初のサワリだけ歌ってあげるよ!」
「え、いいの?」
「うん! でもちょっとだけだからね!」

 そう言うと、由綺は伴奏の部分も自分で口ずさみながら、その曲を歌い始めた。


 チャッチャッチャッチャッ、チャッチャッチャッチャッ

 大手企業とだんごう  ( だんごう )

 高級料亭でだんごう  ( だんごう )

 賄賂飛び交いだんごう  ( だんごう )

 だんごう3兄弟!  ( ちゃーちゃっ! )


「…どうだった?」
「…え…あ…う、うん! と、とってもいい曲だと思うよ! うん!」
「本当!? 良かったあ! 私もね、この曲とっても気に入っているの!」
「あ、そ、そう。…売れるといいね…」
「うん! そうだね! あ、いけない、もうこんな時間! 私、明日も早いんだ! じゃあ、そろそろ切るね」
「うん、おやすみ、由綺」
「おやすみ、冬弥君!」

 …しばらくして、「だんごう3兄弟」が発売寸前になって、販売停止になったとの話を聞いた。
 どうやら、歌詞の中で実際の企業名を使ったらしく、それがまずかったらしい。
 それからまたしばらくして、その企業に警察の強制捜査のメスが入ったらしいが、それはまた別のお話。

「あの曲好きだったのにな…」
「そんなに落ち込むなって、由綺」
「うん…。あ、でもまた緒方さんが新しい曲作ってくれるって!」
「へえ、良かったじゃん」
「うん! 今度は『ウルトラ6兄弟』っていう歌だって!」

 …由綺、おまえ絶対だまされてるって。