「伸ばすの...?」 「ん...?」 「...髪...」 「ん...」 はるかは少し言葉に詰まる。 そして、ちょっとたどたどしく、 「...また切ろうと思ってるけど...」 「ふうん...」 「...長い方が...好き...?」 俺は、それを、答えなきゃいけない質問だとは認識しなかった。 ただ、正体なく目に湧き上がってくる熱いものを押さえるのに必死だった。 春先の空が俺達に強いる、あの不思議な侘びしさを。 「...冬弥...?」 「...判らないよ...」 「ん...?」 「...どっちがいいかなんて、俺...」 「うん...」 霞んでゆくみたいな眼差しで、はるかは俺を見上げる。 「...目...潤んでるよ...?」 「ん...? 風...強いからね...」 「ふうん...」 「...はるかだって...」 「え...? 風...強いから...かな...」 そして、はるかは俺の胸に頬を埋める。 「真似するなよ...」 俺もその上に頬を近づける。 「うん...」 そんな青空の下で、冬から春へのみずみずしい色彩の中で、俺達は静かに口づけを交わした...。 そして次の日...。 「おはよう、冬弥」 後ろからはるかの声がした。 「おう、はる...どわぁっ!」 今日のはるかはいつもとちょっと違っていた。 「お、おまっ、お前その頭は一体...」 「ん、アフロ」 そう、何故かはるかの髪型はアフロになっていた。しかもかなりでかい。直径1mはあるんじゃないだろうか...。 「いや、なんていう髪型か聞いてるんじゃなくてな、どうしてそんな頭にしたのかをだな...」 「大きくて軽いよ」 「人の話を聞けぇぇぇい!」 すると、はるかはちょっと困った顔をして、 「だって冬弥、長い方がいいか短い方がいいか判らないって言ったから」 「いや、だからって何故アフロ...」 「間をとって」 「とっちゃいなぁぁぁい!」 「でもこれでニュータイプになれるね」 「...は?」 「アフロ=レイ」 「てめえ、全国○千万人のガンダムファンを侮辱する気かぁっ!」 すると、はるかはちょっと考えて、 「じゃ、ユウキ=コスモ」 「それじゃそのままじゃねーか...ってなんでお前がそんなこと知ってんだよ!」 「私独自の情報網」 はるかは胸を張って威張る。どんな情報網だよ、そりゃ...。 「名付けて 『HKネットワーク』 」 「名付けんな、んなもん! だいたい 『HK』 ってなんだよ。 『はるか=かわしま』 の略か?」 「ん、 『はぐれ刑事純情派』 」 「全然関係ないだろうが!」 「あ」 「...なんだよ」 「冬弥、今、全国○千万人の藤田まことファンを侮辱した」 「するかぁぁっ!」 ...ぜえっぜえっ。朝っぱらから一日分の体力を全て使い果たしてしまったような気がする...。 「とっ、とにかくだな、もうアフロはやめろ、いいな?」 「冬弥はアフロ嫌い?」 「いや、嫌いとかそう言う事じゃなくそれ以前の問題だと...」 「じゃ、やめる」 と言ってはるかは髪の中に手を突っ込み、何かをパチン、パチンと外していった。 「...え?」 「これはカツラ」 「...は、はは、そうだよな。よく考えたらはるかの髪でこんなボリューム出せる訳無いもんな、は、ははは...」 そして全ての留め金を外したらしく、はるかはアフロをぐいっと持ち上げた。 「ほんとはパンチ」 「おんなじじゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!」 ...その後、俺の必死の説得でパンチパーマをやめたはるかは、今度は髪を伸ばし始めた。 「...心境の変化か?」 「ん、短いとアフロに出来ないから」 「すなああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――