セイント・トゥ・ハート 第三話その3 投稿者: とーる【葵】
 浩之たちが巨蟹宮へと向かう最中、別のところに飛ばされた耕一。
 耕一は今どこに? そして、彼は信じられないものを見る。
 ちょっと反則かもしれないと思いつつ(笑)、双児宮最後のエピソード、開始。

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第三話 幻惑の双児宮(終章)〜黄金の命の炎、再び


 ……大丈夫ですか?
 しっかりしてください……!
 ぼんやりとした霞の向こうから、切迫した声が聞こえてくる。そのくせ、鈴を転が
すようなきれいな女性の声であった。
 この声は聞き覚えがある。物心ついてからあこがれて止まなかった、姉であり、女
であり、ときに母のようでもあった、美しい女性(ひと)。
 自分の意識が覚醒していこうとするのを感じつつ、水面に顔を出すような感覚とと
もにその人の名前を呼ぶ。

「……千鶴……さん……」

 そして、耕一は自分の声で目を覚ました。
 最初に目に入ったのは石造りの柱と床。
 ここはどこだろうと考えた刹那、背中に鈍い痛みが走り顔をゆがめてしまう。

「……よかった、気がついたのですね……」

 女性の声が頭上から聞こえてきて、耕一は初めて自分がどこに寝かされているのか
に気づく。
 ここは多分、黄道十二宮殿の中。どこの宮かはわからないが、琴音やセバスチャン
の気配を感じない以上、白羊宮や金牛宮ではないだろう。
 それよりなにより問題なのは、耕一の頭は目下、とても柔らかいものの上に乗せら
れているということだ。それが声の主の女性の太ももであることに気づくまで数秒。
 慌ててそこから起きあがろうとしたが、背中に鈍い痛みが走り、身体はいうことを
きかなかった。

「ああっ、だめです。まだ動いてはいけません」

 頭上の女性がやさしく耕一をたしなめる。
 顔を見ると、確かに千鶴のようだった。が、どこかおかしい。

「……あれ……?」

 千鶴の髪は黒。だが、目の前の女性は亜麻色の髪。それに、頭頂からピンとはねた
一本の髪には見覚えがあった。

「千鶴さんじゃなくて、初音、ちゃん、なのか……?」

 どういうことか。確かに千鶴によく似たその女性は、4姉妹の末っ子である初音な
のだろうか?
 だが、それにしては年齢が合わない。よくよく見てみれば、この女性も琴音やセバ
スチャンと同じく、黄金の鎧を身にまとっている。膝枕されていた頭が痛くないのは、
右足の脚甲を外してくれているためだろう。
 背中に二本の棍(ロッド)、右の肩と左の腕に円形の盾(ラウンドシールド)を備
えた左右非対称の鎧を身にまとうこの女性は、耕一の疑問をよそにさらに混乱するこ
とを口にする。

「一時はどうなるかと思いました。この天秤宮に突然現れて、気を失ったまま動かな
いのですから」
「て、天秤宮? ってことはここは7番目の宮ってことなのか……」
「でも、本当によかった、ジローエモンの身に何かあったら私……」

 顔を伏せる女性のひざの上で、耕一は目を見開く。
 今、俺のことをなんて呼んだ?
 次郎、衛門?

「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は次郎衛門じゃなくて、柏木こ……」
「あのっ落ちついてください! はっ、まさか、怪我のショックで記憶が混乱してい
るのですか? 私のこと、覚えています?」
「覚えていますって、君は初音ちゃん……なのか?」
「ああ、どうしましょう……思い出してください」

 初音……と思われる女性……は両手で顔を隠すと必死に訴えかけるように耕一にす
がった。

「私です、リネットです。ジローエモン、私のこと、忘れてしまったのですか?」
「なっ、リネット、だって!?」

 耕一の前世がエルクゥの細胞を移植された侍、次郎衛門であったように、柏木4姉
妹はそれぞれ、かつてのエルクゥ皇族4姉妹の転生した姿である。千鶴、梓、楓がそ
れぞれリズエル、アズエル、エディフェル。そして末の妹である初音の前世の名は、
リネット。
 あろうことか目の前の女性はリネットを名乗った。耕一はいったい何が起こってい
るのだろうかと、慌てて飛び起きる。今度は全身の痛みよりも驚きが勝ったようだ。

「そうです、私の名はリネット。あなたはジローエモンでしょう?」
「なんでこんなことになっているんだ? 俺は柏木耕一であって、次郎衛門ではない。
君は、本当にリネットなのか? 初音ちゃんじゃないのか?」
「あっあっあっ、あの……」

 いつの間にか耕一は、リネットの両肩をつかんで揺さぶっていた。
 鎧の上からなので痛みを感じているわけではないが、耕一の思いつめた、荒げた言
葉にリネットは怯えてしまう。
 その思いが伝わったのか、幾分気を落ちつけて耕一は居住まいを正した。

「……君がリネットだとして、じゃあ、なぜ君はここにいるんだ?」
「それは……」
「それを答える必要はない、あなたに聞かせる必要もないことです、ジローエモン」

 耕一の背後から、別の女性の声が聞こえてきた。
 振り返ると、また別の黄金の鎧に身を包んだ女性が立っていた。手甲の局面が優美
なイメージをかもし出している。鎧の後ろに流れる髪は漆黒。

「ち、千鶴、さん?」

 今度こそ見まごうことはない。耕一の目の前の女性は、柏木4姉妹の長女、千鶴で
あった。
 だが、この女性が千鶴だとしたら、どうして耕一を『次郎衛門』と呼んだのか?
 口の端にわずかに嘲りの感情を乗せ、千鶴が耕一を一瞥する。

「呆けたようですね。エディフェルを惑わせただけでなく、リネットをもたぶらかす
のですか?」
「……リズエル姉様……」

 リネットが千鶴をリズエルと呼ぶ。さすがに耕一ももう驚いていない。
 何か起こったのだろう。そうでなければどうして彼女たちは伝説となったエルクゥ
の名で互いを呼び合っているのか、説明がつかない。

「どうしたんた、千鶴さん……」
「誰と見間違えているのですか? 私の名はリズエル、エルクゥのリズエル」
「千鶴さん、初音ちゃん……」

 彼女たちに共通してるのは、身にまとう黄金の鎧。
 では、黄金聖衣が、彼女たちの前世の記憶を呼び覚ましたとでも言うのか?

「黄金聖衣にとりこまれるってのは、こういうことをいうのか」

 今だ意識がはっきりしない頭を振り、耕一は改めて千鶴と初音を見る。
 普段の暖かな雰囲気は皆無、冷徹な鬼の殺気を振りまく千鶴。
 子供っぽい肢体すら変わり、とびきりの美人になった初音。
 芹香が言っていた。黄金聖衣の意思を図り、それを汲むことができれば二人はきっ
と元に戻る。
 だが、どうすれば聖衣の意思を聴くことができるのだろう?

「リネット、あなたは下がりなさい」
「……! 姉様、まさか!?」
「ジローエモンは生かしておくわけにいきません」
「そんなっ、いけません、そんなことをしたら、エディフェル姉様が!」
「……あなたたちはだまされているのです。ジローエモンさえいなくなれば、それに
気づくはず、きっと」
「だめです、姉様!!」

 初音……いや、リネットは千鶴……リズエルの前に立ちはだかり、耕一をかばう。
 だが、リズエルは眉をひそめて首を振るだけだ。

「女にかばわれるのがお好みか、ジローエモン?」
「……千鶴さん……」

 刹那、耕一はリネットを押しのけ、リズエルの目の前に出た。

「ジローエモン!?」
「大丈夫、下がってて」

 耕一はリネットの肩をやんわりと押すと、リズエルに向き直る。

「今、確信しましたよちづ、じゃない、リズエル」
「何をです? 私に殺されるという宿業を、ですか?」
「あなたがその黄金聖衣に飲みこまれている、ということです」
「……いっていることがよくわかりませんね」
「生身の俺と闘うのに、エルクゥは鎧を纏うのですか?」

 己が能力で獲物を引き裂き、狩りつづける狩猟者。
 鬼の力は身体構造を変化させ、鉄壁の肉体を得る。同族と闘うのでもない限り、鎧
で身を守る必要などないのだ。
 プライドを逆なでされたリズエルは、その身にまとう闘気をいっそう強め、耕一を
じっとにらみつけた。

「……ジローエモン、あなたを殺します」

 なんと短絡的な、と耕一は考えたが、次の瞬間にこめかみを抑えてうつむくリズエ
ルを見て、慌てて声をかける。

「ち、千鶴さん!?」
「寄るな、ジローエモン。貴様さえいなければ、私たちは……!!
「……しっかりしてください、聖衣の意思なんかに、負けないで!」
「寄るな、寄るなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 激しい頭痛にさいなまれているのかリズエルは、左手で顔を覆いながら、右の手で
差し伸べられた耕一の手を払いのけた。
 そして、何かを吹っ切るように両の腕を頭上へ伸ばし、手を組み合わせる。

「……寒っ……千鶴さん!? なんだ、千鶴さんの周りの闘気が急激に温度を下げて
いってる?」
「……姉様、その技は!? いけません、それは!!」

 リネットが慌てて耕一に駆け寄ろうとする。だが、リズエルがその両手を振り下ろ
すのがわずかに早かった。

「これで終わりよ!! オーロラ・エクスキューション!!!!!!」

 振り下ろされた両の手から爆発的に凍気が広がり、耕一の身体を吹き飛ばす!

「なんだ、これはぁっ!?」

 鬼の力を解放する間もなく、耕一はリズエルの放った凍気で全身をずたずたに切り
裂かれながら入口近くの柱に激突した。
 全身がめり込んだ耕一は、血反吐とともに床に崩れ落ちた。

「姉様!! な、なんてことを……」
「とどめよ、ジローエモン」

 床に倒れこんで動けない耕一の傍らまで歩み寄ったリズエルは、黄金の手刀を耕一
の首目掛けて振り下ろそうとした。
 がきんっ!!

「リネット……」
「ジローエモンを、殺さないで!」

 鈍い金属音でリズエルの手刀を止めたのは、リネットの左の手甲から外された円盾
であった。つないである鎖の端は、リネットが握っていた。

「なぜ止めるのですか? ジローエモンを殺してしまえば、私たちはもう二度と苦し
められることはないのですよ?」
「苦しみを断ち切れても、今度は永劫の後悔と悲しみが襲ってくるでしょう。私には、
そのほうが苦しい……」

 千鶴と初音の会話をおぼろげに聞きながら、耕一は置きあがろうと必死に力をこめ
ていた。だが、身体がまったく言うことをきかない。凍気によって聖衣どころか身体
機能まで著しく低下させられてしまっているらしい。
 だめだ、もしも俺が原因だとしたら、俺が立たなくちゃ、俺がやらなくちゃいけな
いのに……! なんでこんなときに動かないんだよ俺は!!

「……わかりました。では、こうしましょう」

 リズエルの右手に凍気が凝縮していく。それは見る間に大気中の水分を凝結させ、
耕一の身体に降り注がれていく。
 ああ、だめだ、眠い、寝ちゃいけない、でも、気持ちいい、千鶴さん、梓、楓ちゃ
ん、初音ちゃん、ごめん、ごめんよ……。
 最後に浮かべた4姉妹の顔に向かって微笑もうとしたが、身体の支配権を放棄して
いる今ではそれもかなわなかった。
 耕一の身体は、程なく巨大な氷の塊に閉じ込められた。

「……姉……様……」
「この氷の棺は季節がめぐろうとも融けはしないし、黄金聖衣の力をもってしても砕
くことはできない。ジローエモンがここで眠りつづけるのならば、永劫に転生もかな
わないでしょう」
「なんで、なんで……」
「ジローエモンは、諍いの種。彼はいてはいけないのですよ、リネット」

 慰めようとリズエルはその肩に手をかけようとしたが、リネットはその手を払いの
けた。背後にいるリズエルに向き直ろうともしない。

「宝瓶宮に戻ってください」
「リネット……」
「戻ってください、リズエル姉様! 私、怒りに任せて姉様と殺し合いなんて、した
くありませんから……」
「……わかりました」

 目を伏せて、リズエルは天秤宮を後にした。
 宮殿を出たところで、リズエルはリネットの号泣、というものを初めて聴いた。
 なぜだかわからないが、達成感を凌駕するほどの悲しみが、リズエルの心に伝わっ
てきた。

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 あーあ、反則だこりゃ(笑)
 ということでお久しぶりです。
 千鶴さん、どっちのネタ(爪と冷気)を優先しようかと思ったんですが、柏木4姉
妹を登場させるためにこっちにしました。にしても初音ちゃんは反則です。
 ふざけるな! とお考えの方(^_^;)、批判メールはお手柔らかに(^_^;)。

 ということで感想〜。
 貸借天さん、うーん、かわいいぞ柏木4姉妹(^_^)
 鬼加減のよし悪しってのも修行がいるんですねぇ(^_^;) がんばれ楓ちゃん☆

 ARMさん……あっちでマイク出しましょうよぉ(笑) 志保をベースにしたAIで
いいと思うんですけどねぇ。
 それにしても、ずんどこポケモンから離れて行きますねぇ。こうなったらもう徹底
的にやってほしいです。

 だよだよ星人さん、やったぁ18禁だいけいけごーごーっ☆ と思っていたこの私
の胸のたぎりをどうしてくださるというのでしょう(笑)<やめれ
 とりあえず千鶴ちゃまがかわいいのでよし(笑)

 紫炎さん&ARMさん、魔界都市秋葉原(笑) あの街には『魔』が潜んでいると言
われます。皆さんも気をつけましょうねぇ(笑)

 本文が長かったので感想はこのぐらいで(^_^;) 少なくてごめんなさいっ。

業務連絡
 例のものはもうちょっとまってねぇ。

「浩之ちゃんの好色一代男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「うわあああっ誤解なんだよぉぉぉあかりぃぃぃっ!!!」(激烈謎)