セイント・トゥ・ハート 第三話その1 投稿者: とーる【葵】
 第三の宮、双児宮にて、浩之たちは信じられないものを見る。
 永遠の迷宮に閉じ込められた浩之たちの運命は!?
 おお、すごい、今回は綾香が出るぞ!!(一部誇張表現あり(笑))

============================================================================

第三話 幻惑の双児宮(章前)〜執事と主


「……む、ううむ……ここは……」
「……」
「おおお、お嬢様!? これは、いったい?」
「気がついたようですね、セバスチャンさん」

 金牛宮の床に寝かされていたセバスチャンは、自分の傍らに座り込む、自分が仕え
るべき主である来栖川の麗嬢を頭上に見て、慌てて立ちあがろうとした。

「あぁ、まだ寝てないといけませんよ」

 立とうとしたのだが、全身に走る激痛と普段のスーツの数万倍固い……そのくせ重
みは普段のスーツ並の……黄金の鎧が邪魔をする。セバスチャンは仕方なく、上半身
を起こすにとどめた。
 セバスチャンの無茶を制したのは主である芹香ではなく、同じような黄金の鎧を着
こんだ孫ほどに年の離れた娘であった。セバスチャンはその顔に見覚えがある。

「あなたは、確か、芹香お嬢様の後輩の」
「はい、姫川琴音といいます」
「……」
「もうしばらく動かないほうがいいです、と芹香さんもおっしゃられています」

 こくこく。
 いつものように無口にうなずく芹香だが、瞳を見ればそれが精一杯セバスチャンを
いたわっているのがわかる。
 セバスチャンは恥じ入るように、それでいて無理はせずにゆっくりと肩から力を抜
いた。

「わしは……そう、綾香お嬢様を探しに行こうといわれたお嬢さんがたをご案内して、
倉庫の中に入っていった……」
「そして、綾香さんに会ったところまでは私も記憶があります」
「気がついたらここにいて」
「黄金聖衣を身に着けていた、というわけですね」

 いまだに記憶の混乱があるらしい。こめかみに手をあて頭を振るセバスチャンの髪
を、芹香の手がゆっくりとなでている。その感覚で少しずつセバスチャンは平静を取
り戻していった。

「綾香お嬢様は、ご無事なのでしょうか……最後に見た綾香様は、野生化などという
より、何かとても混乱していらっしゃったように思えるのですが……」
「……」
「おびえて逃げ回っているだけでは事態は解決しないのに……? 芹香さん、それは
どう言うことですか?」

 すべてを見透かすような、それでいて茫洋とした芹香の瞳は、黄金の杓杖の光を受
けて天空の星々を思わす輝きを湛えていた。

============================================================================

第三話 幻惑の双児宮(前編)〜メビウスの輪


 そのころ、浩之たち4人は次の宮、双児宮の入り口に立っていた。

「よし、一気に抜けていくぜ。セバスチャンのおかげで時間食っちまったからな」

 心底嫌そうな顔をして浩之が毒づく。それを見てなぜか祐介はくすくすと笑みを浮
かべていた。

「……なにがおかしいんだよ?」
「いや、確か浩之は長瀬さんのこと、セバスチャンとは呼んでいなかったよな、と思
って」
「……細かい事を気にする奴だなぁ。はげるぞ」
「性分でね」

 何とも温かみのかけらもないような会話だが、まっすぐ斜に構える浩之と電波を受
け取れるぐらい繊細な感受性を持つ祐介。接点がなかったはずの二人は時間も空間も
共有していないが、奇妙に互いのことが許せた。背中合わせや隣同士に立つことが当
然のように思えるのは、ガディムとの闘いと言う非現実がもたらした結果なのかもし
れない。

「さて、と……」

 浩之、耕一、祐介、瑞穂の順で双児宮に踏み込む。

「ん?」
「どうしたんですか、藤田さん?」
「いや、気のせい、だと思う」

 小さく首を傾げるが、そのまま宮殿の中を駆け抜けていく。
 3分と走らずに、前方に光が見えてくる。

「出口だ」

 踏み込んだ順番どおりに外に出る。何の妨害もなく抜けてこられた、はずなのだが。

「よーし、次はかに座だったな。このまま一気に……!」
「そうはいかないようだぞ」

 耕一のつぶやきにつんのめった浩之は、文句を言おうと振り返った。そして気づく。

「……なんで、後ろはまだ金牛宮なんだよ?」
「安心しろ、前は双児宮だ」
「そういう問題じゃなくて」
「まぁ、落ちつけ、浩之」
「コーイチさんが落ちつき過ぎなんですよ!」

 激昂したところで何も解決するわけではない。とはいえこれが落ちついていられる
状況と言うわけでもない。

「私たち、確かに宮殿を駆け抜けてきたんですよね?」
「それは間違いないと思う。でも……」
「何か気づいたの、長瀬くん?」
「さっき双児宮に踏み込むとき、かすかだけど違和感を感じた。カーテンを一枚くぐ
ったような、霧の中に飛び込んだような……」

 首を傾げる祐介の隣で、浩之も大きくうなずいている。

「よし、今度はもう少し慎重に進んでみよう」

 耕一に促され、4人はもう一度双児宮に踏み込んだ。
 数分後。
 やはり4人は先ほどと同じ場所、双児宮の入り口前に飛び出していた。

「……どうやら、双児宮の中は空間が捻じ曲がっているらしいな。このまま進んでも
先には進めないということか……」

 耕一の推論は他の3人の方に多大な疲労感を覚えさせた。

「双子座の聖衣の力なんでしょうか?」
「それは俺にもわからない。だが、これは闘うよりも厄介な相手かもしれないな」

 不安げな顔の瑞穂に耕一はこれまた難しい顔で答える。確かに、打開策を見出せな
ければこの先には絶対に進めないのだ。
 焦燥感だけが募る。どうすればいい?

 ……き

「ん?」
「どうした?」
「いや、なんでもないっす。何か聞こえたような気がしたんだけど」

 ふと顔を上げた浩之に習って、耕一が耳を澄ます。

「何も聞こえないな」
「やっぱ気のせいでしょ」

 ……ゆき

「あ、あれ?」

 ……ひろゆき

「気のせいじゃ、ない?」

 ……浩之

「……綾香……?」

 浩之の脳裏に綾香の声が響いたような気がした。
 気のせいで済ますには余りにはっきりしすぎている。

「綾香さん、ですか?」
「僕には何も聞こえないよ」
「確かに聞こえた。綾香が、オレを呼んでる」

 そんなバカな、と否定しようとした耕一の目の前で、これまた何かに気づいたのは
ほかならぬ瑞穂と祐介だった。

「……香奈子ちゃん!?」
「瑠璃子、さん?」

 二人には香奈子と瑠璃子の声が聞こえていたのだろうか? 浩之ともども、双児宮
の中をじっと見据えている。

「いくか?」
「行きましょう!」
「行くしか、ないだろうね」

 3人だけで話をまとめ、宮殿へと駆け込もうとするのを立ちはだかって止めたのは
耕一であった。

「ちょっとまて! 何か変だと思わないのか?」
「これ以上、何か変なことが起こるとも思えないけどね」
「落ちつけ浩之。もっとよく考えてから行動を起こせ」
「前に進まない限り、何も変わらないぜ」

 危険は承知の上という覚悟を込めて、浩之は耕一をじっとにらみつけた。
 しばしの逡巡。
 折れて道を開いたのは耕一だった。

「わかった。だが、くれぐれも気をつけてくれ。さっきとは違うことが起こっても不
思議じゃないからな」
「それこそ望むところ」

 不敵な笑みを浮かべてうなずく浩之を見ると、苦笑が浮かぶのを押さえられない耕
一であった。

「それじゃ、行こう」

 先導しながら耕一は、内心別のことを考えていた。
 浩之、祐介、瑞穂の3人は気に止めている人間の声を聞いている。
 ならばなぜ、耕一には誰の声も聞こえてこないのだろうか?
 そんなことを考えていたために、足元への注意がおろそかになった、そのとき。

「なっ、なにぃっ!?」

 4人はそこにあったはずの床を踏むこともなく、漆黒の奈落へと落ちてしまった。

「なんだよこれぇっ!?」
「くっそぉっ!!」

 浩之と耕一は怒鳴りながらまっさかさまに落ちていく。
 だが、祐介は冷静だった。

『僕に力を貸してください、王女アンドロメダ!』
「伸びろ、ネビュラチェーン!!」

 右の手甲から鎖を伸ばす。どこまでもどこまでも伸びる鎖は、やがて確かな手応え
とともに何かにからみついた。

「きゃああああああああっ!!!」
「くっ、藍原さん!!」

 自分のすぐそばを落ちていった瑞穂めがけて、祐介は使っていない左の手甲の鎖を
投げ出した。

「間に合え、頼むっ!」

 気が遠くなるほど長い一瞬だった。がくん、というかなりの衝撃とともに、左の鎖
が何かを捕らえたことを感じ取った。

「……ふぅっ」

 自分と瑞穂の体を支える両腕は肩が抜けそうに痛いが、我慢できないわけじゃない。
 祐介は両腕の鎖を引いて、自分と瑞穂の体を持ち上げる。

「大丈夫かな、浩之と耕一さん……」

 とっさに優先したのが自分の知り合いであったことは責められはしないだろう。
 今の祐介には二人が無事でいることを祈る以外できることはなかった。

============================================================================

 ということで久々です。
 うーん、最近サーバが落ちたり私自身が忙しかったり(笑)(チャットで? それは
いわないお・や・く・そ・く☆<やめれ)いろいろあって投稿どころかそもそもここ
を読んでいなかったと言う体たらく(^_^;)
 まぁ、書き上げるまでは止めないと心に決めているので、忘れたころにぽちぽち投
稿するでしょう。

 そんなわけで、感想はまた今度ということにします。ごめんなさい(^_^;)
 今流し読みしてましたけど、てぃーさんのバーチャリーフが載ってるぅぅ!!
 オラ・タンのプレイヤーの端くれとして密かにファンだったんですよー。あとでじ
っくり読ませていただきますねー。
 ではではー☆