セイント・トゥ・ハート 第二話その2 投稿者: とーる【葵】
 この小説はARM氏のHP内企画「鳩いう奴が鳩じゃ」のお題18「ものおき姫」への
解答……という範囲を逸脱してますな(笑)
 第一、当の綾香がまだ出てきてないじゃないか(^_^;) もうしばらくすると出てく
るんじゃ、ない、かなぁ(笑)

============================================================================

第二話 金牛宮の激闘(中編)〜黄金聖衣の力


「なんだ、何が起こった……うわあああああああああああああああああっ!!!!」

 腕組みのポーズを崩すことなく、セバスチャンの身体から閃光とともに放たれた衝
撃波は、浩之の身体をきりもみ上に回転させ、4メートル以上ある石の柱にめり込ま
せた。

「がはっ」

 むせるように血反吐を吐いた浩之は、前のめりに柱から落下し床に叩きつけられる。

「な……なんだよ、今のは……?」

 セバスチャンを見る。だが、先ほどの腕組みの姿勢から微動だにしていない。

「ちくしょお、もう一度だ!」

 浩之が駆け出す。宮殿のど真ん中に立つセバスチャンを大きく迂回して駆け抜けよ
うとする。

「今度こそっ!!」
「グレートホーーーーーーーーーーーーーンっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「ぬわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」

 距離にして5メートル以上離れているにも関わらず、セバスチャンから放たれた黄
金の閃光は浩之の身体を真横に弾き飛ばしてしまった。岩が砕ける音とともに、浩之
はさらに5メートル以上吹っ飛びさっきと別の柱に激突した。

「……ぐぅっ、こいつぁ、マジやばい、ぜ……」

 全身の骨と筋肉がきしむ。考えてみたら、散々邪魔はされてきたものの、セバスチ
ャンに本当に殴り飛ばされたのは今回が初めてだ。鍛えぬかれた体は伊達じゃないん
だな、と浩之は感心すらしていた。アドレナリンのせいだろうか。本来全身に激痛が
走っているはずなのに痛み自体は鈍かった。

「……けど、ぶっ倒れてるわけに、いかねえんだよな……これが」

 浩之は言うことを聞こうとしない身体全体に命令を下す。
 立て、立て、立ちあがれ、立ってこの先を目指せ、俺の身体!!

「邪魔すんなよ、この先に、綾香たちがいるんだろ?」

 血反吐にむせる浩之が、ようやく立ちあがりながら言う。
 綾香、という言葉に、今まで浩之の言葉には一切無関心だったセバスチャンがぴく
りと反応した。

「あ……や……か……様……」
「そうだよ、綾香だよ。あんたの大事なお嬢様だよ」
「……お、じょう……様……」

 途切れ途切れのセバスチャンの言葉を聞いているうちに、浩之はふと違和感を覚え
る。
 普段のセバスチャンなら、芹香や綾香に対して何らかのアクションをしたときにだ
け、浩之の行動を諌めようとする。芹香たちが浩之に対して好感情を持っていること
を知っているだけに、セバスチャンは常にアンビバレンツを内包しながら浩之に接し
ているのだ。
 それは仕えるべき主人の大切な友人であり、手塩にかけて育てた娘にまとわりつく
悪い虫でもある、歓迎すべき、排除すべき存在。
 追い払ったときの達成感と芹香たちへの罪悪感。
 セバスチャンの行動原則は常に揺れ動いていたのだ。浩之にもそれはよくわかって
いた。
 だが、今目の前にいるセバスチャンからは、その迷いが感じられない。

「……なんだよ、ボケたか? ったく、年寄りの冷や水もほどほどに……」

 鼻を鳴らして浩之がセバスチャンを睥睨する。
 顔を伏せるように視線を外していたセバスチャンは、そのとき初めて浩之に意識を
向けた。年に似合わない、敵意と憎悪を。

「お……お……」
「お?」
「おぉぉぉぉじょおぉさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「なんだとぉっ!?」

 絶叫とともにセバスチャンの身体から閃光が広がる。
 3度目ともなるとある程度は予想がついたが、それでも圧倒的な攻撃を受けきれる
わけではない。無数の衝撃波を全身に浴びて、浩之はまた壁に吹き飛ばされた。

「ちっ、くしょぉぉ……バルカンか速射破壊銃かよ……正気じゃねえ分、遠慮もない
ってか……」

 ぶふぅ、という獣じみた呼気を聞きとがめ、浩之は舌打ちする。
 あれだけのガタイを鉄壁の鎧で守り、こっちの間合いの外からとてつもない連撃を
繰り出してくる。倒さずにかわすって真似もできそうにない。
 鉄壁の肉体を持つセバスチャンは、高くそびえるバーサーカーと化していた。

「構えすら崩さずに飛んでくる攻撃なんて、どうやってかわせばいいんだ……?」

 八方塞の浩之であった。けれど、一矢報いることができなければ、先には進めない。
どうする、どうする?
 腕を組んで宮殿の真ん中に立ちはだかって以来、セバスチャンはそこから微動だに
していない。先ほどの動揺がわずかに身体をずらしたぐらいだ。
 つまり、セバスチャンは仁王立ちの態勢から予備動作なしで浩之に対して攻撃をし
ていることになる。

「せめて、攻撃の構えだけでも見せてくれれば……」

 そのとき、浩之の脳裏にある光景が浮かび上がった。
 学校裏の神社の、葵とのスパーリングのときのことだ。



「これで、どうだっ!?」
「だめですよ、先輩!」

 浩之の右フックはすかさずダッキングした葵に完璧にかわされて、逆にカウンター
のボディブローを食らってしまう。

「ぐわっ」

 プロテクターを身に着けているとはいえ、寸止めではなく実際に打ちこまれた拳は
とてつもなく痛い。殴られたのが浩之であったとしても、殴ったのはめきめきと実力
をつけた葵である。体格以上に鋭く重い。

「あっ、あの、ついカウンターが……」
「だいじょーぶだいじょーぶ」

 地面にへたり込んで殴られたところをさすりながらでは、浩之のセリフにも説得力
はない。慌てて駆け寄った葵が心底心配そうに眉根を寄せる。

「それにしてもなぁ、なんで一発も決まらないのかなぁ? オレもいろいろと考えて
るつもりなんだけどさ」

 かたや小学生からの空手使い、かたやついこの間格闘技を始めたばかりのド素人。
 止まっている相手を殴っているわけではないのだ。当たらないのも当然、と浩之も
頭の中では理解している。
 だが、やっぱり大の男が年下の女の子にあしらわれていると言う事実は、浩之の精
神をずんどこに落とすに十分であった。
 彼我の実力差をよくわかっている葵は、その優しさからなかなか言葉を選べずにい
た。誰だって負けるのは悔しい。葵にしてみてもそうだ。だから、生半なことを言う
わけにはいかない。
 少しだけ困った顔のまま、葵は浩之の真正面にしゃがみこんだ。

「先輩って、とっても素直なんです」
「な、なんだそりゃ?」
「先輩が、動作に緩急をつけたり視線でフェイントをかけたりしてるの、すごくよく
わかるんです。あ、こっちの方にフェイントで注意を向けて、そしてここに攻撃する
んだな、って」

 最初の一言で面食らった浩之だが、葵は自分の現状を的確に表現している。いつし
か浩之は熱心に葵の言葉に聞き入っていた。

「相手がどこに攻撃しようとしているのかは、目や、耳だけでは把握しきれません。
目、耳、鼻、肌、そして、それらの感覚以上に勘と直感を鋭くして、全身でこの人が
どこをめがけて攻撃しようとしているのかを感じ取らなければ、相手の攻撃を見きる
なんてできやしません」
「ふむふむ」
「私も、必死なんですよ。スパーリングでも、寸止めじゃなく、先輩に反撃してもら
ってるのは、いつでも実戦レベルの感覚の鋭さを保っていたいから、なんです」

 なんか、アドバイスなのか励ましてもらっているのかよくわからなくなってしまっ
た。
 だが、葵ちゃんは実力差があっても見下したりすることなく、真剣に打ちこんでい
る。それがわかっただけでも浩之の心は幾分軽くなった。
 だからこんな軽口が出てしまうのかもしれない。

「そーかー、葵ちゃんはいつでもオレを全身で感じてくれているんだなぁ。うれしい
なぁなんか」

 何を言っているのか理解が遅れたが、一瞬後、葵の顔が真っ赤になったのは練習で
身体が温まっているのとはきっと違うだろう。



「勘と直感、ね……やってみるっきゃないか」

 そうはいったものの、浩之にも具体的に何をどうすると言う手段があるわけではな
い。葵が言う『勘』とは幾多の試合や勝負を経験したものでも身につくかどうかとい
うものだ。
 それでも、浩之は構えを改め、セバスチャンに正対するように立った。

「あんたの攻撃、見切ってみせる!」

============================================================================

 うー、もっとジャ○プみたいな引きにしたいのにー(笑)
 とりあえず破壊的な描写は増えたけど(^_^;)

 それじゃ感想いきまーす。

「箱入りセバス・偽典」 紫炎氏
 真空パックだったら固形酸素を入れてやらないと死んじゃいますね(^_^;)
 今度センパイを熱帯魚のお店にでも連れていってあげてください(笑)

『ToHeart if.「うしおが最期に跳んだ日」』 ARM氏
 ご苦労様でした。面白い話だったのですが、琴音の「状況」を説明したいがための
表現が冗長だったかもしれませんね。委員長SSのほうがテンポよく進行していたよう
に思えます。
 しかし……泣かせる展開作るのうまいなー(;_;)

「浩之、あかりに負ける」 MIO氏
 かゆいですか(笑) かゆいでしょうそーいうの書くと。
 その痒さがやがて快感に変わっていくと、あなたもリリカルSS使いの仲間入り!
 ……すんません暴走してますけど、いい話だと思いますよ。

「縁側」 ニャンヒデ氏
 はじめまして、これからもよろしくお願いします。
 このマルチ、絶対猫耳はえてると思う……。マニアにはたまらない一品(笑)

「落ちるということ」
「落ちるということ その2」 MIO氏
 ……なんかつらいことでもありましたか(笑)?
 常人はまずこの発想に到りませんよ、きっと(^_^;)

 ということで、次回でセバスチャン戦は決着がつきます。
 週明けにでもアップします。ではではー。