セイント・トゥ・ハート 第二話その1 投稿者: とーる【葵】
 この小説はARM氏のHP内企画「鳩いう奴が鳩じゃ」のお題18「ものおき姫」への
解答……本当か? 本当にそうだと言いきれるんか自分(笑)?
 ようやく、パロディらしくなってきたような気がします(自我自賛)

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第二話 金牛宮の激闘(前編)〜重甲執事登場!


「さて、おひつじ座の次はおうし座か」
「金牛宮、というらしいですよ、藤田さん」
「……意外と冷静だね」
「目標がはっきりしているし、この、聖衣だったら多少のことなら私を守ってくれそ
うです。皆さんの足を引っ張る可能性が減った分、気が楽になりました」

 龍座の聖衣を身にまとい、左の手甲に装着されている円形の盾をかざしている瑞穂
を見て、浩之は複雑な面持ちになる。
 確かにこれは彼女が願ったことだが、この先に何が潜んでいるのかわからないのに、
こんな小さくてかわいい女の子を連れていってもいいのだろうか?
 そんなことを考えていると後ろから追いついてきた祐介が言わずもがなで、大丈夫
だよ、と言葉を継ぐ。

「いざとなったら僕が守る。藍原さんは絶対に危険な目には合わせない」

 確固とした意志。
 人知を超えた能力、「電波」を使う祐介や瑠璃子たちの過去に何があったのか、そ
れとなく聞いていた浩之であったが、祐介のその言動には、愛とか保護欲とか友情と
いったもの以上にある種悲壮なものを感じていた。どことなく物悲しい、そんな決意
のようなものを。

「そんなに気負うことはないと思うぞ。君一人が闘うわけではないんだから」

 年はさほど変わらないのだが、大学生と高校生といえば実は思っている以上の格差
がある。この3人で並ぶと兄貴の位置に必然的に収まる耕一は、いつの間にか個性的
な後輩二人のまとめ役になっていた。

「第一、闘うとか危険な目にあうとは誰も一言もいっていないだろ?」
「それならばなぜ、僕たちは鎧をまとっているんですか? 鎧をまとう必要があるか
らじゃないんですか?」
「なるほど、それも一理あるな」

 耕一につっこむ祐介の言葉はここにい合わせた全員が漠として持っていた不安であ
った。
 安全なら、何もないのなら「身の危険に対する装備」は必要ないのではないか?
 鎧とは、すなわち闘いの象徴。

「ま、本当に必要になるまで闘いのことは考えることはないさ。闘いなんて、ないに
越したことはないんだから」
「狩猟者であり、闘いを無上の喜びとしたエルクゥの血を引く耕一さんでも、そう考
えるんですか?」

 おいおい、オレだってそこまではっきりはいわねえぞ。
 浩之はそう思って首をすくめた。ときとして、祐介の言葉はナイフ以上の切れ味を
持つ。
 だが、当の耕一はわずかに肩をすくめただけで淡々と語った。

「エルクゥの血を引くからこそ、闘わずに済ませることを考えるんだよ。本当に大事
な人を守るとき以外に、俺はエルクゥの力を解放する気はない……いや、解放したく
はないというほうが正しいか」

 やや自嘲気味に耕一は一言付け加える。俺は弱いんだよ、と。

「千鶴さんや梓、楓ちゃんに初音ちゃん。彼女たちに守られて今の俺がある。俺はそ
う思っているのさ」

 卑下するでもなく淡々と、自分を弱い、と言いきれる。浩之はそんな耕一を「強い」
と思った。果たして、自分はそれだけの強さを持っているのだろうか……?
 思考に埋没する瞬間は、浩之には与えられなかった。

「ん?」
「どうしたんです、耕一さん?」
「何かいる。祐介は感じないのか?」
「……電波って、そんなに便利にできているわけではないんですよ。エルクゥの意識
伝達とは違います」
「いや、これはエルクゥのものじゃない。だが、相当な力を持つ気配がこの、金牛宮
の中にいる。それは間違いない」

 奥までは見とおせない宮殿の向こう側を、耕一はじっと見据えている。
 その緊迫した雰囲気を感じたのか、瑞穂は下唇をかみ締めてじっと震えをこらえて
いた。そんな瑞穂を力づけるように、右の肩に祐介の手が置かれた。
 ずん、ずん、ずん、ずん……。
 何か巨大なものが宮殿の床を踏みしめている。
 浩之たちは慄然とする。何が出てこようとしているのだろうか……。

「喝ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!」

 びりびりと鼓膜が震えるほどの大音声が響き渡る。

「こっ、この声は……」

 浩之が実にげんなりとした顔になる。
 単純にびっくりした瑞穂は耳を押さえたままうずくまるが、

「下がって!」

 と祐介に後ろ手にかばわれる。その刹那、

「喝ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!!」

 今度は強烈な衝撃波を伴った叫びが床板を割り飛ばして4人に迫る!
 とっさにかばったものの、

「何ぃっ!?」
「うわぁっ!!」
「きゃあっ!!」

 耕一と祐介と瑞穂は姿勢を崩して後ろに吹っ飛ばされてしまった。

「おっおい! 3人とも、大丈夫か!?」
「喝ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!!」

 鉄槌、という表現が適当であろう衝撃波が、そのとき浩之がいた場所の床板をこな
ごなに破壊した。
 慌てて横に飛びずさってかわした浩之だったが、宮殿の奥から視線は外さない。
 もうもうと立ちこめる噴煙の中から、黄金の鎧に身を包む巨大な闘士が現れた。
 筋骨隆々のその体躯は、とても実年齢を感じさせないほど鍛え上げられている。
 黄金の鎧はその身体にふさわしく剛毅で重厚、兜の両脇から生える1対の角は、雄
々しい野生の雄牛を思わせた。

「やっぱりあんたか、長瀬のぢぢい!!」
「喝ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!!」

 黄金の鎧……牡牛座の黄金聖衣を身にまとった重甲執事セバスチャン長瀬は、浩之
のほうを一瞥するとおもむろに右足を一歩渾身の力をこめて踏み降ろした。
 すると、その一歩は衝撃波を生み、床板を一直線に切り裂きながら浩之に迫る!

「でたらめ度が増してやがる……おおっとぉ!」

 身にまとう天馬座の聖衣を象徴するかのような軽やかな跳躍で、その攻撃は回避し
た浩之だが、

「喝ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!!」

 着地の瞬間に合わせて繰り出された右拳はかわし切れない。

「うわぁっ!!!」

 腹にまともにセバスチャンの拳を食らって床に叩きつけられる。
 それでも、浩之は立ちあがった。

「……今ばっかりは先輩と琴音ちゃんに感謝するぜ。この聖衣がなけりゃ今の一撃で
御陀仏だった」

 口の縁に張りついた血をぬぐい、セバスチャンをじっとにらみつける。
 仁王立ちのセバスチャンが、とても大きく見える。いわば、黄金の障壁。
 ただでさえ執事用のスーツがぴちぴちになるあきれるほど頑丈な体格が、牡牛座の
黄金聖衣によって武装しているのだ。見た目数倍の大きさは、それ以上の威圧感とな
って浩之にのしかかっていた。

「でも、こいつを抜けなきゃ先には進めないんだよな」

 どうすれば出し抜くことができるんだ?
 まともに戦ったところで勝ち目はない。勇気と無謀は似ていても行動の意味が違う。
浩之はなんとしても正面対決を避けようと考える。
 そのときである。
 がしゃん、というひときわ大きな金属音とともに、仁王立ちのセバスチャンは胸の
前で腕を組んだ。

「なんだ?」

 その態勢のまま微動だにしない。
 これなら通りぬけられるか? と思った浩之は、しかし、次の瞬間、すさまじい衝
撃波によって吹き飛ばされていた。

「グレートホーーーーーーーーーーーーーンっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「なんだ、何が起こった……うわあああああああああああああああああっ!!!!」

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 ……いきなり前中後編かい(^_^;)
 どもども、とーるです。ちょいと長くなってしまったので、分割アップします。
 いきなりの難産でした。結局、このバトル丸々書き換えちゃったし。
 浩之には災難だったかもと思いつつ、やっぱ☆矢だったら身体で地面耕すぐらいで
きなきゃだめだしー(笑)
 セバスから人格奪っちゃったので、燃える会話がないのがちょっち心残り。

 んでは、オフラインで読める範囲の感想いきます。

「後悔」 くま氏
 うーん、重い。救われてほしいです。たとえ一時の気の迷いでも、痕のなめ合いで
も、ないよりはましだと思うので、救われてほしいです。
 でも、痕のTrueだと救いないんだよねー(;_;)

「Bit players.〜それぞれのはじまりの予感〜」 久々野 彰氏
 このセバス、いいなぁ。今回セバスを書いてるだけに余計になんか琴線に響きます。
 長瀬の一族って、結局こういうスタンスなんですよね、どの話でも。

「ヒヒよさらば〜フォーエバー・ヒヒ〜」 MIO氏
 む、むぅ……こういう不条理系はコメントのしようがないんだけど、どうしても気
になる。「サンバ」って、なんなのぉっ!?(笑)>るりるり

「神岸家の暴走2『超一流と究極』」 へーのき=つかさ氏
 あかりちゃん、君ってなんてピュアでけなげなんだ(;_;)<感涙
 しかもなんか対決の様相を呈してきて、こいつぁ目が放せませんな!<何様だ俺
 芹香お嬢が悪役……なのか? 何か裏事情がありそうな気が……。

 ということで、中後編は近日アップします。ではではー。