セイント・トゥ・ハート 第一話 投稿者: とーる【葵】
 この小説はARM氏のHP内企画「鳩いう奴が鳩じゃ」のお題18「ものおき姫」への
解答……っていっていいのかなぁ(笑)?
 とにかく、基本ラインは「ものおき姫」にしたがっている……はずです……多分。

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第一話 聖衣発動〜12宮の死闘の幕開け


「で、オレ達を呼び出したのは、3次遭難組の救出作業、ってわけなの?」

 来栖川家の庭先で、浩之が珍しく芹香をとがめるように言葉を継ぐ。
 よほどのことでは怒りをあらわにしない浩之だが、事情が事情だ。
 来栖川家の次女、綾香が自宅の物置で行方不明になる(!)という事件から2週間、
彼女の無事は確認できたものの、尋常ならざる広さを持つ物置で彼女は野生化、一般
人では手におえないという体たらく。
 かくして、綾香の身を心配する心やさしき友人たちが揚々と物置に殴りこみ……も
とい、捜索に向かったのが1週間前のこと。
 あいつがそんなタマかよ、とたかをくくっていた浩之はこのとき捜索隊に参加しな
かったことを後悔する。
 なぜなら、捜索に向かった全員がことごとく消息を絶ったからだ。
 事態を重く見た芹香はガディム騒動以来懇意にしている柏木一族と瑠璃子たちに連
絡をとり、2次遭難者の救出を依頼した。
 物置、と説明された巨大な建造物に唖然としながらも、瑠璃子の小さな、

「何か、呼んでるね」

 というつぶやきに気を引き締め、勇躍物置に挑みかかった。これが5日前。
 それ以来、柏木4姉妹からも、瑠璃子からも連絡はない。

「まぁまぁ浩之くん。芹香さんを責めても事態の解決にはならないよ」
「だけどコーイチさん、オレ……」
「心配なのは僕も耕一さんも一緒さ」
「裕介……」

 両脇から耕一と裕介になだめられ、居心地の悪さを味わう浩之だが、表情に乏しい
芹香の瞳から謝罪の念と心痛が伝わり、ささくれ立った心を鎮めようと努力する。

「ごめん先輩、綾香のこと、一番心配してるのは先輩だもんな」

 いいえ、と芹香が首を横に振る。

「……ご迷惑をおかけしたのはこちらなのだから、責められても当然です? そっ、
そういわれると、その、なんていったらいいのかな……」
「とりあえず、千鶴さんたちは心配要らないと思うよ。中で何が起こっているのかわ
からないのが気になるけど、柏木4姉妹の結束力はそんなにやわじゃない」
「沙織ちゃんと瑠璃子さんもきっと大丈夫。病み上がりの太田さんは心配だけど、き
っと沙織ちゃんと一緒にいるんじゃないかな」

 正直、根拠のない類推だが、耕一が指摘した通り、物置の中で何が起こっているの
かは入って確かめない限りわからない。見る前から絶望していては、救えるものも救
えないではないか。
 心強い援軍である、エルクゥの力を制御している『鬼』の末裔、柏木耕一と、強力
な毒電波を使いこなす長瀬裕介。考えうる限り最強の布陣が整いつつあった。

「でも、本当についてくるの、藍原さん?」

 ちょっと神妙な顔つきになって振り返った裕介の視線の先では、眼鏡をかけた小柄
な少女、藍原瑞穂が唇をかみ締めていた。

「だって、香奈子ちゃんも沙織ちゃんも、瑠璃子ちゃんも帰ってきてないじゃないで
すか。私、いても立ってもいられなくって……」
「中が危険とも限らないけど、安全だって保障もないんだよ?」
「足手まといにはなりません! 私じゃついて行けないと思ったら引き返します。だ
から、行けるところまではいっしょに行かせてください!!」

 こう、と思いつめたら後に引かない強さを瑞穂が持っていることは、裕介も承知し
ている。しかも今回は彼女の親友である太田香奈子までが遭難しているのだ。
 大きくため息をつくと、つい浮かんできてしまう苦笑を裕介は禁じえなかった。

「わかった。でも、もし本当に危ないとわかったら、その場で引き返すこと。1人で
帰れないようなら、僕が送っていってあげる。それでいいね?」
「はいっ!」

 ようやく、きつく引き締めた表情をほころばせる瑞穂に芹香が歩み寄ると、深深と
頭を下げた。

「……ご迷惑をおかけします? あっ、あの、その、気になさらないでくださいっ迷
惑だとかそう言うのはその、全然、あんまり、ちょっとしか思っていなくて……ああ
っ」
「慌てなくていいよ藍原さん。ここにいる人間全員が中の人を心配しているんだから、
来栖川さんだって怒りはしないさ」

 ね? とばかりに裕介が芹香のほうを見ると、かすかにこくんとうなずくのがわか
った。

「それじゃ先輩、中に入ろう」

 浩之に促され、物置の入口のセンサーを芹香がのぞきこむ。網膜パターン解析式の
電子ロックが解除され、巨大な扉が重々しい音と共に開き始めた。



「さてと、どこから手をつければいいのやら……」

 耕一が360度全周を見まわして頭をかく。
 あきれるのも無理はない。物置、とはいったものの、広さが尋常ではない。家どこ
ろかそんじょそこらのコンベンションホール全館よりも広いのだ。天井は高く、奥の
ほうはかすんでいてどこが端なのかよくわからない。

「とりあえず、行けるところまで進んでみようぜ。入口で突っ立ってても誰もみつか
りゃしないし」

 乱暴な物言いだが、今は浩之の意見に従うしかない。意を決して浩之が先導しよう
としたそのときである。

『待ってください』

 脳裏にひらめく一言。

「……耳に聞こえていない? 電波でもないな、これは、遠話(テレパシー)か?」

 裕介が今の現象をそう解釈するのと同時に、浩之が叫ぶ。

「今の、琴音ちゃんか? そうなんだろ!?」
『そうです、私、琴音です。浩之さん、これから私が導きます。こちらに来てくださ
い』
「琴音ちゃんが導く?」

 いぶかしげに繰り返す浩之の脳裏に、ある光景(ビジョン)が浮かび上がる。

「北西の方角? これは、何だろう……?」
「ギリシャ神話の宮殿のようですね」

 同じ光景が見えているのだろうか、浩之のつぶやきに瑞穂が解説を加えた。

「とにかく行ってみよう。ここに琴音ちゃんがいるんだろうな、きっと」

 耕一に促されるまでもなく、全員が北西へと進んでいく。
 ほどなくして、脳裏の光景とまったく同じ、ギリシャの観光案内から抜け出してき
たような石造りの宮殿が見えてきた。

「よく来てくださいました、みなさん」
「琴音ちゃん、無事だったんだね……って、何、その格好!?」

 浩之が驚くのも無理はない。宮殿の柱の影から出てきた琴音は、見たこともない金
色に輝く全身鎧に身を包んでいた。両肩の装甲にレリーフのようにのっている1対の
角が印象的な、曲面主体の鎧である。
 もしこれが本当に金属でできているものならば、大人の男ですら歩くのもままなら
ないだろう。琴音に念動力(サイコキネシス)があるにしても、限界はある。
 だが、当の琴音は着ている鎧の重みをまったく感じさせずに、かちゃかちゃという
金属音を伴って石段を降りてきた。

「これは、牡羊座(アリエス)の黄金聖衣(ゴールドクロス)です、浩之さん」
「アリエス? ゴールドクロス? いったいなんだよそれ!?」
「どういうことかは私にもよくわかりません。ですが、綾香さんを追い詰めたとき、
彼女を守る巨大な力が、私たちをここ、黄道十二宮殿へと導いたのです」
「黄道……十二宮殿?」
「西洋占星術のことですよ、藤田さん」

 瑞穂の言葉に意を得たりとばかりに芹香がうなずく。

「黄道とは、太陽の公転軌道を意味します。占星術では、太陽の公転軌道上に位置す
る星座を1年12ヵ月で区分し、黄道上にある12の星座に特別な意味を持たせてい
ます。よく見る生まれつきの守護星座とは、黄道上にある12の星座を指しているん
です」

 ここまで一気に言って息をつく瑞穂の頭を、芹香がよしよしとなでている。自分の
仲間を見つけたことがよっぽどうれしいらしい。

「んで、なんでここでその十二星座が出て来るんだよ? それにその、琴音ちゃんが
着こんでる、えーと、ゴールドクロスだっけ? これはいったいなんなのさ?」
「それは、きっとこれが教えてくれるでしょう。来栖川先輩、受け取ってください」

 琴音ちゃんが右手を振り上げる。すると、琴音ちゃんの背後から1本の杓杖が芹香
の目の前に飛んできた。
 琴音が身にまとう鎧に負けるとも劣らない、黄金の輝きを放つ杓杖は、地面に落ち
ることなく芹香の眼前に浮いている。
 臆することなくその杓杖を手にすると、芹香の体を黄金の光が包み込む。その光に
導かれるように、今度は4つの大きな箱が飛び出し、浩之、耕一、裕介、そして瑞穂
の目の前に落ちてきた。

「うわっ!? なんだよ今度は?」
「……」
「それをあけてください? 開けるったって、どうやれば開くんだか……レリーフの
真ん中にある鎖を引いてください? んーと、これ、かな?」

 浩之は、目の前の箱の馬をかたどったレリーフの真中にある鎖を力いっぱい引っ張
った。すると、箱はあっけなく開き、中にある天馬(ペガサス)の人形が目に入った。
 同じように開いた3つの箱からはそれぞれ、耕一の目の前には白鳥、裕介の目の前
には鎖に絡まれた女性、瑞穂の目の前には龍が現れた。

「なんなの、このできそこないの木馬みたいなのは?」
「……これ、おまるじゃないよな?」
「マネキンみたいだけど、ちょっと倒錯的だな」
「……中国のお土産かしら……」

 4者4様の感想を抱いたようだが、それには頓着せず、芹香が手にした杓杖で地面
を軽くたたく。
 4つの人形は黄金の光に呼応するように自身をばらばらに分け、一つ一つのパーツ
が変形して、浩之たち4人の体を覆うように装着されていく。
 光が薄れた先には、琴音の体を覆う鎧よりも若干薄手の鎧に身を包んだ浩之たち4
人がたたずんでいた。
 さっきの人形の名残として、浩之と耕一と瑞穂の額にはそれぞれ天馬、白鳥、龍の
頭を象った額冠が装着され、裕介の両腕の手甲には鎖が巻き付いている。

「うわ、なんだこれ!?」
「鎧に、変形したらしいな」

 いいながら耕一は、おののく浩之の目の前で左正拳から右回し蹴りのコンビネーシ
ョンをシャドウで放つ。

「金属でできた鎧なのに重みを感じない。いったいこれは?」
「……」
「女神アテナの闘士にのみ使用を許された鎧、聖衣(クロス)です……芹香さん、知
っていたんですか? ……この杖が教えてくれたんですって?」

 耕一の確認に芹香はこくんとうなずいた。

「アテナっていうと、ギリシャ神話の戦女神、だっけ?」
「そうです。戦の正義を守護する女神のことですよ」

 裕介と瑞穂が改めて芹香が手にしている杖を見る。
 その姿は光り輝き、それでいてまぶしさを感じることはない。普段以上に神秘的な
雰囲気をかもし出す芹香の姿は、女神の神々しさを喚起させた。

「綾香さんは、この先、黄道十二宮殿を抜けたアテナ神殿にいるようです。そこへ登
るには、12の宮殿を順番に抜けていくしか道はありません。ですが、各々の宮殿に
は私が今身につけているような、12星座の黄金聖衣を身にまとった闘士がいます」
「あのさ、琴音ちゃん」
「何ですか浩之さん?」
「オレ、すっげー嫌な予感がするんだけどさ。この先にいるのって、やっぱり……」
「多分、想像通りです。みんな、そこにいます。何が起こったのかは私にもよくわか
らないのですが、12の黄金聖衣はそこにい合わせた人を選んだようです」
「……でも、人数が合わないぞ。琴音ちゃんだけじゃなくて、あかり、志保、委員長、
レミィ、葵ちゃん、マルチ」
「千鶴さんと梓と楓ちゃんと初音ちゃん、それにかおりちゃんもいなくなってる」
「月島さんと瑠璃子さん、沙織ちゃんに太田さんもですね」
「……」
「え? 長瀬のぢぢいに柳川さんまでいなくなってるの? そんなに行方不明者が出
てるんか……」

 一瞬顔を見合わせて、浩之たち全員は同時にため息をついた。
 改めて、事態が大事になっている上に得体のしれないものの出現でさらに混迷きわ
まることに気づき、力なくうな垂れてしまう。
 気力を振り絞るように、琴音が浩之たちを見渡して言う。

「その中には、何かの意志に飲み込まれている人もいるかもしれません。一刻も早く
その呪縛から解き放ってあげてください」
「琴音ちゃんは? 大丈夫なのかい?」
「……牡羊座の黄金聖衣は私を守ってくれました。これとあと天秤座の黄金聖衣は私
たちに協力してくれるはずだ、といっています」
「その、牡羊座の黄金聖衣が、いってるのかい?」
「そうです。きっと、みなさんが身につけている天馬座(ペガサス)、白鳥座(キグ
ナス)、龍座(ドラゴン)、アンドロメダ座の聖衣も、馴染んでくればみなさんに自
分の意思を示してくるはずです」
「……なんでこうなっちゃうかなぁ……」

 浩之がぼやく。まぁ、いきなりわけのわからない格好をさせられて、冷静でいられ
るほうが珍しいとは思うが。
 珍しいほうの1人、耕一が軽く浩之の肩をたたく。

「まぁ仕方ないさ。綾香ちゃん込みで17人、助けに行くとしよう」
「瑠璃子さんたちも、十二宮殿にいるのかな……」
「いなかったら探しに行くまでです! まずはここを突破して、綾香さんを助けまし
ょう」
「……やるっきゃねえか」

 浩之がまっすぐ宮殿の先を見据える。そこには、牡牛座の宮殿、金牛宮がある。
 浩之たちは、宮殿を駆け抜けて金牛宮へと向かおうとした。

「……」
「え、私は後から行きます? 黄金聖衣を説得しなければならないから?」

 黄金の杓杖を手に、芹香は小さく浩之にうなずき返すと、黄金聖衣に身を包む琴音
の元へと歩み寄る。

「聖衣と同じく、芹香さんに預けた杓杖にも意思があります。どうやら、聖衣以上の
力を秘めているらしいのですが、私にはよくわかりません」
「聖衣の意思、ねぇ……」

 いぶかしげに浩之は自分の身を包む天馬座の聖衣を見る。手甲からも額冠からも、
そんな気配は感じないのだが……。
 琴音の言葉に同意を示したのは祐介だった。

「聖衣から、かすかだけど電波を感じるよ。人の思考……いや、意志によく似ている」
「……」
「牡羊座の黄金聖衣の意思を図らねば、琴音ちゃんは白羊宮から動けません? だか
ら先輩が説得するって? ……それをするのはこの杓杖に選ばれた私の役目です……
うーん」

 得体の知れない、意思を持つ鎧、聖衣(クロス)。
 自分たちが巻き込まれた厄介ごとの原因はここにあるらしいが、その全貌は見えて
いない。浩之は我知らず膨らむ苛立ちを押さえきれずに白羊宮の床石を蹴りつけた。
 かつん、と軽い金属音が響く。
 自分は、普通の高校生じゃなかったのか? そんな疑問が浩之の脳裏をよぎる。
 だが、それまでSFや御伽噺の中にしか存在していなかった「電波」や「鬼」が目
の前にある。異形の魔物すら、存在していたではないか。
 それに、芹香のほんわかとした表情を見ていると、こういう「現実」もありなのか
な、とも思えてしまう。
 ……人、それを言いくるめられているという。

「いくぜ、みんながきっと、待ってる」

 自分を奮い立たせるように、浩之は先導するように白羊宮を後にした。

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 ということで、よくわからないものを始めてしまいました(笑)
 はじめまして、「とーる」と申します。以後、お見知り置きをm(__)m

 まぁ、そのまんま聖闘士星矢でございます。
 原典がわからない人は古本屋で8巻〜13巻まで買ってきて読んでみてください。
 ちなみに私、13巻がどうしても見つからなくてラストが決まりません(笑)
 オチは決めてあるんですけどね。

 あと、本日は琴音ちゃんのバースディということで、抜本的な矛盾がばれてます。
 今日ってことは蠍座なので彼女が本来着る黄金聖衣はスコーピオンになるはずなん
ですが……今回の聖衣の設定は「キャラクターイメージ優先」ということにしました。
 ですので、十二宮それぞれを守護する人は、必ずしも生まれと合致していません。
 おおよそ、予想はつくと思いますけどね(^_^;) まぁ、一応誰にどの聖衣を着せる
かは決めてありますので、ごひいきキャラが登場するのを待っててください。

 かんそー……も書きたいんですけど……リアルタイムに感想書けないので(^_^;)
 とりあえず、ARM氏の「マルマイマー」、AE氏の「ふきふき」(笑)およびセリオの
お話ひとざらえ、vlad氏の「関東藤田組」、アクシズ氏の「機動戦士マルチ」シリー
ズは愛読させていただいております。諸氏のこれからのご活躍を期待します(といっ
て続きを書けとプレッシャーをかけている私(笑))。

 近々、金牛宮の話をアップできると思います。それではまた。