LF98(42)  投稿者:貸借天


第42話


 朝。
 鳥たちが鳴き交わす時刻を過ぎ、人々がそれぞれの仕事の準備にとりかかり、街
全体が目を覚ましはじめる頃。
 悠凪の王都、蛍崎の中央からやや北寄りにそびえ立つ大嶽城。その城門前にて、
幾人かの人影と、そして四頭仕立ての立派な馬車がたたずんでいた。
「あの……本当にいいの……?」
「うん。遠慮なんてしないでいいから」
 ためらうような口調で問う初音に、由綺は屈託のない笑みを浮かべてみせる。
 家族が心配していることを懸念して、初音は一刻も早く隆山に帰りたかった。し
かし、その交通手段といえば徒歩しかない。悠凪王国にやってきたのは不測の事態
であったため、先立つものなど何一つ持ち合わせていなかったのだ。
 そんな彼女に、由綺は自分専属の馬車を、屈強な戦士数人の護衛付きでいともあ
っさりと貸し与えたのである。『気前がいい』という言葉の範疇を超えたはなむけ
だ。が、由綺本人はいたって呑気であった。
「祭が終われば、私も緒方さんや冬弥くんたちと一緒に旅に出るし。その時までに
馬車が入り用な特別な行事なんてないからね。それに、みんなと旅に出れば当分の
間は私にも専用の馬車なんて必要なくなるし」
「うん……。ありがとう、由綺さん」
 初音は天使の微笑みを浮かべて、由綺に感謝した。
「しばらくすれば姫様も旅立たれるんですなぁ……寂しくなりますな」
 口の回りにひげをたくわえた、恰幅のいい壮年の男がしみじみと呟く。
 彼は、由綺が生まれた時から十四になるまでお守り役と教育係をつとめてきた人
物である。
 弥生が由綺の近衛を任命されたと同時にその役目もそちらへと移転したので、現
在は王家御用達の馬車の一括責任者を任されていた。
 今回初音を送るにあたり、特に信頼している彼に御者を引き受けてくれるよう、
由綺自らが頼んだのだ。
「そうだね……私もちょっと寂しいけど……」
 物心つく前からの付き合いである。二人の間には親子の情愛と言っていいものが
流れている。
 由綺は実の父である悠凪国王と同じくらい男に懐いていたし、男の方も自分の娘
と同じくらいに由綺を愛していた。
「でも、私……がんばるから」
 文脈がおかしい、まったく答えになってない返事だったが、男は満足したのか穏
やかに目を細めてうなずいた。
「初音ちゃんのこと、よろしくお願いします」
「かしこまりました。――それでは、どうぞお乗りください」
「あ、はい」
 男に促され、初音は車の昇降口に足をかけた。
 その小さな背中に向かって理奈が声を投げかける。
「道中、気をつけてね」
「うん」
「二週間後ぐらいに私たちもそっちに行くから、もてなしの準備を忘れないでね」
「あはは……うん! 楽しみに待ってるから」
 冗談っぽく言った理奈の言葉に、初音は大輪の花が咲くような笑顔で応えた。
「じゃあね、初音ちゃん。私たちも近いうち遊びに行くから」
「うん、ぜひ来てね。うちの温泉はすっごく気持ちがいいよ」
「そっか、そういえば隆山っていやあ温泉だったよな。そいつは楽しみだ」
 浩之やあかりとも笑顔で挨拶をかわし、初音は馬車に乗り込んだ。
「それでは――出します」
「お願いします」

 ぴしぃっ

 初音の返事を聞いて、男は軽くムチを入れた。それに応え、四頭の馬がゆっくり
と前進をはじめる。
 自分を見送るために集まってくれた一同に向かって、初音は馬車の中から手を振
った。それに応えて皆が手を振り返した頃、馬の足取りが力強くなり、やがて徐々
に加速しはじめた。車輪と路面との摩擦音がだんだんと大きくなり、窓の外を流れ
る風景にも勢いがつきはじめる。
 そして、街の出入り口で数人の護衛と合流し、初音を乗せた馬車は悠凪から隆山
地方へと向けて出発した。


 朝。
 抜けるような青空には雲ひとつなく、これから旅立つ者たちにとって心も身体も
軽くなるような上天気だった。
 さわやかな涼風が頬をくすぐり、衣服の端を小さくはためかせて通り過ぎてゆく。
「さて……と」
 浩之は周りに集まった旅の同行者たちを見回した。
 あかり、雅史、志保、芹香、綾香、葵、好恵、理緒、フラン、セリオ。
 当初、悠凪にやってきた時は前の三人だけだったのだが、それがこれだけの大所
帯になってしまった。
「倍以上だぜ、おい」
「なあに? 浩之ちゃん」
「なんでもねーよ」
 おまけに、何故か一行のリーダーまでやらされる羽目になった。
 最初に言い出したのは綾香だった。

「やっぱり、こんなに人数がいるとパーティのリーダーが必要よね」
「そうですね、意見が分かれた時とか、最後に判断を下す人がいないと」
 葵が同調してうなずく。
「じゃ、綾香よろしく」
 浩之が投げやりに言った。
「えぇ? どうして私が?」
「言い出しっぺだからな」
「……そんなことで大事な役を決めるわけ?」
「よし、じゃあ他の奴にも訊いてみよう。セリオ、リーダーは綾香でいいよな?」
「ちょっとぉ。ここでセリオに振る?」
「私は……」
 セリオがチラリと目線を送ると、綾香は浩之から見えない位置で、隠すようにし
て彼のほうを指さしていた。
「……浩之さんが適任かと思われます」
 綾香はオッケーという風に、セリオにウインクをひとつ寄越した。
「げ。ちょっと待て、なんでオレなんだよ。綾香がリーダーの方がセリオだって嬉
しいだろ?」
「――私にはよくわかりません。とりあえず、綾香お嬢さまを身近に感じられれば
私にはそれで十分です」
「う、うー、しかしなぁ……」
「そういう意味では、今の連係プレーはとても満足です」
「は? 連係プレー?」
 浩之はわからんと言いたげに口を開けた。
 その開いた口から次の言葉が出てくる前に、綾香がさっと手を挙げる。
「はーい。私、リーダー浩之に賛成」
「てめえ、綾香! ってセンパイも!?」
「…………」
 芹香もコクコクとうなずきながら手を挙げていた。
「私も浩之ちゃんがリーダーに賛成」
「ぼくも」
「藤田先輩、よろしくお願いします」
「頑張って、藤田くん」
「おいおいおい。マジかよ……」
 続々と挙げられる手に、浩之は渋面で天を仰いだ。
「勘弁してくれよ……」
「いいじゃない。そんなに難しいことでもないんだし。ちょっとしたまとめ役が欲
しいだけなんだから」
「ぜったいミスマッチだと思うがなぁ……」
「そんなややこしく考えなくていいわよ。もともとあなたたち四人で旅してた時も、
浩之がリーダーやってたんでしょ?」
「そんなこと考えたこともねーよ」
「でも、やっぱり浩之ちゃんだったよ」
「あかりぃ……お前なぁ」
「大丈夫だよ。浩之ちゃんだったら、ちゃんとリーダーやれるよ。私たち四人の時
よりも単純に人数が増えただけって考えればいいんだよ」
「そうそう。いいこと言うわ、神岸さん。難しく考えないで、浩之」
「はぁ……ったく……しょーがねーなぁ……」
 今までで言った中でも一番感情を込めて、不承不承、浩之はいつもの口癖を吐き
出した。
「じゃあ、決まりね」
「わかったよ。それはそうと、志保と坂下とフランは異存ないのか?」
「異存ありません」
 間髪入れずにフランが答える。
「私もないわ。しっかりやんなさい、藤田」
 まさか好恵から励ましの言葉を聞かされると思っていなかった浩之は、頬をポリ
ポリと掻きつつ最後の志保を見やる。
「あたしも別に異議なしよ。ま、せいぜいがんばってね、ヒ〜ロ♪」
 こちらは励ましというには嫌みったらしかったが、ともかくこれでなんの問題も
なくリーダーが決定したわけである。
「おめでとう、浩之ちゃん」
「めでたくねーよ」
 浩之はげんなりした。

 初音が蛍崎を発ってから五日が過ぎ、大陸最大のリーフ祭も幕を閉じた。
 緒方兄妹の舞台には連日雪崩を打ったように客が押し寄せ、収容人数の三倍の人
間があぶれるほどのすさまじい人気を博していた。
 その二人の仕事も全日程を無事に終了し、そして今は旅立ちの時を間近に控えて
いた。
「エイジさん」
「ん? ああ、藤田くんか。準備はできたか?」
「ええ。まもなく発ちます」
「そうか、気をつけてな」
「うぃす」
「藤田くんたちも出発かい?」
 顔を上げると、旅支度をととのえた冬弥がやってきたところだった。
「ってことは、そっちもそろそろっすか?」
「ああ。初音ちゃんが帰っていった隆山地方に向けて、ね。きみたちも近いうちに
来るんだろう?」
「ええ、行きます。方角的に似たようなもんだし、五日遅れぐらいでそっちに着く
かと」
「たしか、まず来栖川本邸に行くって言ってたっけ?」
「そうです。ちょっと知り合いがいまして……久しぶりに会おうかと。で、そのあ
とに隆山に足を向けるつもりです」
「そうか。まあ、道中お互いに気をつけような」
「そうっすね。っても、自分の面倒見るだけで精一杯なのに、なんでリーダーなん
かやらされたのやら……」
「ああ、そういえばお互いリーダー同士だったな。まったく、どうして俺が……。
そういうガラじゃないのに……」
「オレもです。なんか多数決で決められちまいました」
「あっはっは。同じだな」
 二人は顔を見合わせ、
「はぁ……」
 と溜め息をついた。
「なんだなんだ、いい若い者が。だらしないぞ」
「そう言うんでしたら、英二さんがリーダーやってくださいよ……」
 冬弥が恨めしそうに英二を見上げる。
 もともと、冬弥をリーダーに推したのは彼なのである。
 その後はあれよあれよという間に話が進み、反論は聞き入れてもらえず、他から
の異論もないまま、なし崩し的に押し付けられてしまったのであった。
「いや、俺はもう若くないからな。これからはきみたちの時代だ。だからこそ期待
してるんだよ」
「そのくせ、おっさん呼ばわりされると機嫌悪くなるのよね」
 理奈が含み笑いしながら現れた。
「あ〜、うるさいのがやってきた」
「……何か言ったかしら? 兄さん」
 目だけは笑っていない器用な微笑みを浮かべながら見上げてくる妹に、英二はい
つもの締まりのない笑顔であさっての方を向いた。
「さてと、弥生さんに挨拶してこようかな」
「彼女ならあっちよ」
「お〜、そうかそうか」
 自分が顔を向けているのと反対方向を理奈は指さしていたが、英二は一片の動揺
も見せることなくきびすを返して悠々と歩き去っていった。
「まったく、あの男ときたら……」
「はは、仲がいいんですね」
「……浩之くん、それ本気で言ってる?」
「え、ええ……まあ」
 理奈の凄みのある表情と口調に、浩之は乾いた半笑いを返すことしかできなかっ
た。
「ふう……まあいいけどね。それより、ほら。みんな待ってるみたいよ? 戻った
方がいいんじゃない?」
「え? ああ……」
 理奈の示す方には、すでに準備万端整えたあかりたちがいる。あとは浩之の号令
を待つばかりといった風情だ。
「そうっすね……じゃあオレたち、そろそろ出発します」
「ええ。気をつけてね」
「また隆山で会おう」
「うぃす。そちらも道中、お気をつけて」
 軽い会釈を残し、浩之は背を向けてその場をあとにした。
 遠ざかるその後ろ姿を見送りながら、
「それにしても、面白い連中と巡り合ったものよね」
 出逢いと、そして一緒に過ごした時間を思い出しているのか、理奈が感慨深げな
口振りで言う。
「俺からすれば、理奈ちゃんや英二さんと知り合ったってのもすごいことだと思う
けどね」
「そう? 私からすれば、一国の王女と付き合いのあるあなたたちも、けっこう珍
しいタイプだと思うけど?」
「はは……それはまあ、なんていうか、たまたまって感じなんだけど」
「それを言うなら私たちの出逢いだってたまたまかもしれないわよ? ……くす。
ううん。ひょっとしたら、この事件に関わったことそのものが運命だったのかもし
れないわね。私たちは芸能人、冬弥くんたちは由綺っていう王女、浩之くんたちの
パーティには来栖川家、そして初音は鶴来屋。なかなかにすごい組み合わせだと思
わない?」
「はははっ。まあ、確かにそうそう無いことだとは思うけど、運命ってのはちょっ
と大げさなんじゃない?」
「あ、やっぱりそう思う?」
 冬弥と理奈はどちらからともなく、おかしそうに微笑みあった。
「それにしても、俺たちってあまり旅慣れてないから理奈ちゃんたちと一緒だと心
強いよ」
「でも冬弥くんたちだって、よその街からここへと移ってきたんでしょ?」
「それはそうだけど、その一度きりだからね。それに、安全な街道をただまっすぐ
来ただけだったから。こんな程度じゃあ経験者は名乗れないよ」
「そう……。まあ私たちのこれからの道行きも、まずは街道を道なりに進んで隆山
に行くだけだし、そんな大変な事じゃないわよ。あ、そういえば澤倉さんは馬に乗
れないって言ってたっけ?」
「うん。だから彼女は馬車に乗ってみんなの荷物の番をすることになったよ」
「あら、そうなの? その御者は誰がつとめるの?」
「英二さんだよ。あの人が立案したんだ」
「兄さんが?」
 理奈は少し驚いた顔になって、それから眉間にしわを寄せた。
「あの男、また何か妙なことを企んでるんじゃないでしょうね……」
「り、理奈ちゃん。それはちょっと言い過ぎなんじゃ……」
 冬弥が苦笑しながら取りなすように言うが、
「甘いわね、冬弥くん。兄さんは大陸一の芸能人なんて大層な二つ名があるけれど、
その実体は想像以上にロクでもない男なんだから」
「へ、へぇ……」
「長い間一緒の時間を過ごしてきた私でさえ予想もつかないような、突飛で奇抜で
とんでもない言動を取ったりするんだから。本当に同じ血が流れてるのかと、いっ
たい何度疑ったことか」
「そ、そんなに……」
「いい? 真面目な顔して裏ではどんな悪巧みを画策しているかわかったものじゃ
ないんだから、あの人の言うこと、あんまり真に受けたりしちゃ駄目よ」
「な、なんてひどい言われようだ。これが本当に血を分けた実の妹の言うセリフな
のか?」
 打ちのめされたように額を押さえ、わざとらしくよろよろとした足取りで英二が
戻ってきた。その後ろには弥生の姿がある。
「後半のセリフ、私はもう何度も実感として味わってきてるんだけど」
 憮然として理奈が言い返す。
「つれないなぁ……俺たちはたった二人っきりの兄妹なんだぜ?」
「そう言うんなら、もう少し常識人っぽく振る舞ってよね」
「おいおい。俺、そこまで言われるほど妙なことはやってないって」
 英二は苦々しく笑った。
「とにかく、今度の旅は連れがたくさんいるんだから迷惑かけちゃ駄目よ」
「わかったわかった。肝に銘じておくよ」
 降参とばかりに両手を上げる。
 妹に完全にやりこめられているその姿は兄の威厳形無しだが、二人のやりとりが
なんとなく微笑ましく思えて冬弥はこっそりと口元をゆるめた。
「冬弥くん、こっちはみんな準備オッケーだよ」
 由綺が嬉々としてやってきた。
 出発を目前にして、これからどんな日々が待ち受けているのかと嬉しくてしょう
がないのだろう。表情も仕草もうきうきしている。
「由綺様……どうぞ、お気をつけて」
 対照的に、弥生が神妙な顔で心配そうに声をかけた。そして、旅に同行できない
ことを口惜しく思って軽く下唇をかむ。
 実は、冬弥たち一行に弥生は加わらない。つい昨日、彼女の父が重い病に臥して
しまったのである。
 その時から今この時に至るまで父は病と闘い続けており、今夜あたり峠を迎える
だろうと専医から告げられていた。
 母を早くに亡くし、兄弟もいない弥生にとって父は最後の肉親である。いかに由
綺が大切でも、病床の父を放っていくことなどできない。ましてや、生きるか死ぬ
かの瀬戸際なのだ。
 その旨告げようと、弥生は国王に謁見を求めた。
「先ほど、篠塚卿が血を吐いて倒れたとの報を受けたが、具合はどうだ」
「はっきり申し上げますと、今日明日、息を引き取る可能性すらあるほどにかんば
しくありません。つきましては陛下……」
「良い。皆まで言わずとも判っている。お前に命じていた『由綺の護衛』を取り消
そう。今宵は篠塚卿のそばについてやるがよい」
「ありがとうございます……」
 こうして、弥生は姫君護衛の任を解かれたのであった。
 それから屋敷に戻って静かに父の回復を待っていたが、状況は一向に好転しない
まま夜明けを迎えた。そして、朝一番にやってきて容態を診察した専医から「今夜
が峠でしょう」と告げられたのである。
 浮かない気分のまま屋敷を出た彼女は一行の出立を見送りに来ているのであるが、
由綺の顔を見るとますます気分が重くなった。
 もし、由綺の身に何かあったとしてもそれを知ることができず、そして何もして
やることができないのだ。仕えるあるじ、誰よりも大切な人だというのに。
「父の容態が良くなり次第、私もすぐに追いかけますゆえ……」
「大丈夫、みんないるから。弥生さん、心配しないで」
 由綺は安心させるようににっこりと微笑んだ。
 それから逆に気づかいの眼差しを向けて、
「とにかく今はお父さんの心配だけをしてあげて。私たちのことにまで気を回して
いたら、弥生さん、身が持たなくなるよ?」
「……はい」
「でも……お父さん、早く良くなるといいね。リーフ神のご加護があるよう、私も
祈ってるから」
「……はい」
 うなだれるようにうなずく。
 ふと顔を上げると、その場にどんよりと重い空気が漂っていることに気がついて、
弥生は慌てて表情から曇りをぬぐい去った。
「あ……申しわけありません、湿っぽい話をしてしまいまして……。それでは皆さ
ん、お気をつけて行ってらっしゃいませ。藤井さん、緒方さん。由綺様のこと、く
れぐれもよろしくお願いいたします」
「あ、はい」
「ああ。ま、こっちの心配はしなくてもいいよ。それよりも、回復の目途がついて、
もう大丈夫だって医者に診断してもらえるまで側にいてやった方がいいぜ。行く先
先に足跡を残していくから、それを見てゆっくり追いかけてきたらいい」
「……そうですわね。ありがとうございます」
 弥生が目を伏せて頭を下げる。
 その下がった顔が正面に向くのを待って、冬弥が口を開いた。
「さて……と。じゃあ、俺たちもそろそろ出発しようか。藤田くんたち、まだ門の
ところにいるみたいだし、せっかくだから最後の挨拶をしていこう」
「うん。そうだね」
「と言っても、また近いうちに会うことになるんだけどさ」
「うん。なんか単純なことだけど、でもやっぱり楽しみだね」
 しばらくの間彼らとは別行動をして、何日かのちにこことは違う土地で、また、
きっと今回とは違う展開で再会することになるのだろう。
 偶発的な再会ではないのだが、こういった旅先での出会いと別れを初めて経験す
る由綺にとっては、それは楽しみ以外の何物でもなかった。
 その心情を表すかのごとく、彼女はごく嬉しそうに微笑んだ。


 そして、浩之たち一行と冬弥たち一行は王都へと至る門前にて手を振り合って別
れ、それぞれの進行方向へと馬の足を進めて蛍崎から旅立っていった。


 彼らは気付いていなかった。
 この出会いこそが、すべての始まりであったことに。

 彼らは知らなかった。
 次に出会う時、互いに厄介なことに首を突っ込んでいることを。


 だが、彼らを取り巻く運命の輪はまだまだ回り続ける。
 さらなる仲間と幾多の冒険を引き寄せながら、決してとどまることはなく……。



							<了>

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 最後の六行はMA様の『旅立ち』を参考(^^;
 でもあっちとは違って、終わり方がちょっと無理矢理っぽいぞ(^^;;

 とにもかくにも、終わり。
 あー、しんどかった。

 正直言って、物語の展開のさせ方を完全に間違えた。しかも人数出しすぎ。
 オリキャラが出た頃から自分的に最悪だった……。
 まあ、多少は勉強になったからいいか……。
 
 こんなの読んで下さっていた皆さま、どうもありがとうございました(深々)