LF98(38) 投稿者:貸借天
第38話


 日が中天に差し掛かったころ、あかりは目を覚ました。
 寝ぼけまなこをこすりながらゆっくりと上半身を起こし、眠気を払うために両手
を高く掲げて大きく伸びをする。
「〜〜ぅぅう……ん……!」
 頬にかかった髪を軽く払いのけ、周囲を見回す。
 すぐ隣のベッドでは、志保が穏やかな寝息をたてている。反対側の壁にあるベッ
ドには雅史。その隣のベッドは無人だった。本来なら、浩之がそこで眠っているは
ずである。
「……浩之ちゃん……?」
 ポツリ呟き、思い出す。
 ゆうべ、夜遅くまで祭を見物して四人そろって宿へと帰ってきたのだが、さあそ
ろそろ寝ようという段になって、寝られないことに気がついた。
 それは、浩之がまき散らす強い気配が原因であった。その圧倒的なまでの存在感
に絶えず意識を刺激され、目が冴えてしまうのだ。
 浩之自身は眠る必要がないため、一晩中起きていて大人しく本でも読んでいるつ
もりだったのだが、ただそばにいるというだけで他の三人はどうしても眠ることが
できず、結局志保との口論のすえ、浩之は部屋を出ていくことになった。
 志保だけでなく、あかりや雅史にとっても安眠の妨げになるのだ。志保に言い負
かされたのが悔しそうだったが、納得して部屋から遠ざかっていった。
「……浩之ちゃん、今どこにいるんだろ……」
 睡眠に影響があるのは、あかりたちだけではない。蛍崎で眠っている者すべてに
も同じ事が言えるため、人家の少ないところで一夜を明かしたはずだった。
 木にもたれかかり、独り寂しく夜空を見上げる浩之の姿が目に浮かんで、あかり
は少し胸が痛んだ。
「捜しに行こっかな……」
 呟いて思考の淵から這い上がった時、窓を突き破って室内に飛び込んでくる祭の
ざわめきが意識に引っかかった。
 カーテンをそっと開けて外の様子をうかがってみると、照りつけるまぶしい陽光
の下で、昨日に勝るとも劣らぬ膨大な数の人間たちが押し合いへし合いしていた。
「はぁ〜〜」
 あかりは、ため息を洩らした。
 昨日に引き続いて、今日もすごい活気である。威勢のいいかけ声や拍手喝采があ
ちらこちらで沸き起こっていた。
 他国からの来訪客の割合がどっと増えたらしく、窓の下に広がる世界は文字通り
人種のるつぼだった。目の色、髪の色、肌の色、様々に異なる人間たちがごちゃ混
ぜになって、所狭しとひしめている。
 あかりはしばらくぼんやりと、通りを行く人々の流れを眺めた。

 コンコン。

 ドアがノックされた。
「あ、はい」
 寝床を脱け出し、スリッパを履いてドアへと近づく。
「なんでしょうか?」
「藤田様、お客様がお見えです」
 ドアの向こうから、柔らかな女性の声が来客を告げた。
 あかりたち四人は『藤田浩之』の名前で部屋を取っている。
 そのことを一瞬忘れていたあかりは、浩之は不在であることを告げそうになって
踏みとどまった。
(いっけない、忘れてた。えーと、お客様……? 誰だろ。あ、来栖川さんたちか
な? 遊びに来るかもしれないって、浩之ちゃんも言ってたし)
 鍵を外してドアを開けると、人の良さそうな笑顔を浮かべた中年の女性が立って
いた。『くまチュウ亭』の女中である。
「えっと、名前はなんて言ってました?」
「矢島様、とおっしゃる方です」
「えっ、矢島くん?」
 意外な名前にあかりは面食らった。
(どうして矢島くんが……)
 わからなかったが、訪ねてきた以上会わないわけにもいかない。
「えっと、それじゃあロビーの方で待っててもらえるよう、伝えてくれますか?」
「かしこまりました」
 あかりの言葉に丁寧に一礼して、女中は向きを変えて歩き去っていった。
「……さてと、それじゃあ、まずは着替えないと……」


 日は高く、空も高い。
 どこまでも広がるさわやかな蒼のキャンバスに、ぷかぷかと白い雲がいくつか浮
かんでいた。
 浩之は高い木の根もとに座り込んで空を見上げていた。
 かすかに湿気を含んだ風が頬をくすぐって通り過ぎてゆく。
 静かだった。
 祭の喧噪もここまでは届いてこない。
 周囲には人の気配はまるで感じられなかった。
 当然だ。浩之自身がそういう場所を望み、探し出して留まり続けていたのだから。
 ――ここは街のはずれ。
 ほんの少し整備の手が入った程度の、地ならしすらほとんど行われていないよう
な場所である。
 広範囲に渡って灌木がまばらに生えており、開拓もあまり進んでいないようだ。
もちろん、近くには人家など一軒もない。
 浩之にとっては、誰に迷惑をかけることなく一夜を過ごすにはまさにうってつけ
の場所だった。
 彼は一晩中、この近辺でずっと格闘のトレーニングに励んでいた。
 前日闘ったフランの動きをイメージしての修練である。
 浩之は自身で、自分の闘い方には無駄な部分や荒削りなところがあることを自覚
していた。
 その道に関しては先輩にあたる綾香や葵にいろいろ教わったとはいえ、格闘家と
してはまだまだ未熟なのである。正面切って一対一で闘えば、おそらくどちらにも
かなわないであろうことをよく知っていた。
 それでも、その綾香と葵の二人掛かりでさえ倒せなかったフランに浩之はただ一
人で立ち向かい、勝ってしまったのである。
 はるかによって尋常じゃない身体になっていたとはいえ、驚くべきことだった。
 どちらかというと調子に乗りやすい性格の彼はそのことで気をよくし、それで格
闘のトレーニングに明け暮れて一晩を過ごしたのである。
 まあ、他に特になにもやることがなくて暇で暇でしょうがなかったという事実も、
もちろん否定できないことではあるのだが。
「しっかし……なんちゅうスタミナだ。あれだけ激しく動き回ったってのに、息切
れひとつしなければ、汗の一滴も出やしねえ……」
 呆れた口調で独りごちる。
 夕べのうちに、試しに一時間、一度も休憩を取らずにぶっ続けでシャドーをした
のだが、身体にはなんの影響も出なかった。
 息ひとつ乱さず、汗ひとつかかなかったのである。
 ちなみに一晩の間まったく休まず、ずっとトレーニングしていたのかというと、
実はそうでもない。むろん、疲れることはないので休みを入れる必要はまるでなか
ったのだが、日頃の習慣と気分の問題である。
 それでも、この一晩で一気に一週間分ぐらいの運動をしたつもりだったが、あま
りそんな実感がわかなかった。何しろ、どれだけメチャクチャに身体を動かしても、
ちっともこたえないのだ。理不尽なまでに、エネルギー全開である。
 運動というのは疲労を覚えてこそ、そしてそれが深ければ深いほど、身体を動か
したという満足感が得られるものなのかもしれない。
 あれほどトレーニングしたのにそれを味わうことができず、逆にストレスさえ溜
まりそうだった。
「……なんだか、時間を無駄に費やしちまったような気がするなぁ……」
 浩之は無性に脱力感を感じていた。
 身体の体力は無限でも、精神の体力はそういうわけではないらしい。
 しかし、力が抜けた身体はありあまる体力によって、すぐさま元気を取り戻す。
「やれやれ……」
 浩之はひょいと立ち上がった。
 食欲、睡眠欲がなくなる。
 疲労を感じることもなければ、息切れが起こったり鼓動が早くなったりもしない。
 体温調節のための汗が出ないということは、激しい運動による発熱も起きていな
いということだ。
 この凄まじい氣勢によって授けられる恩恵は、単に体力が無限になるだけでなく、
自分の身体を快適に、自然な状態に保つという効果もあるようだった。
「……ハルカさんのワザって、すっげーな……」
 病人にかけてやれば、いったいどうなるのだろうか。あるいは、たちどころに治
ってしまうのかもしれない。
「いや、待てよ。治っているのは一週間の間だけで、それが過ぎるとまた病人に逆
戻りっていう可能性もあるな……」
 気が抜けたような微笑みを浮かべるはるかの顔を思い出し、苦笑いする。
 なにか、あの笑顔を前にすると誰も怒れないんじゃないだろうかという気がした。
 天を振り仰ぐと、陽光がまぶしい。
 もう間もなく昼食時だ。街の中心の方に目を向ける。
「あいつら、そろそろ起きたかな……」
 夕べはかなり遅くまで外をウロウロしていたので、同室の三人は昼過ぎまで眠っ
ているだろうと踏んで、いままで待っていたのである。
 しかし、もうそろそろ起き出すころではないだろうか。
「よし、帰るか……と、その前に教会に寄っていくか」
 目の前には、申しわけ程度に整備された街路がある。
 この街路を道なりに行くと、芹香たちが厄介になっている教会があるのだ。
 行きがけにそこに立ち寄ることにして、浩之は街の中心に向かって歩き出した。


「こんにちは、浩之さん」
 浩之が片手を上げて声をかける前に、セリオは花壇に水をやっていた手を止め、
頭を下げて挨拶した。
「おっす、セリオ。なんだよ、来るのがわかってたみてーに……って、そういえば、
いまのオレの状態じゃあ、近づいただけでバレバレなんだっけ」
「はい。すぐにわかりました」
 うなずいて答えるセリオは、おろしたての真新しい服を着ていた。
「おっ。セリオ、服変えたのか?」
 浩之が訊ねると、能面のようなその顔に、かすかに喜びを表す彩りが加えられた。
「はい。昨晩、綾香様に買っていただきました」
 昨日最後に見た時点では、機能面を重視した、戦闘を意識したデザインの服装だ
ったのだが、いま身につけているのは清楚という言葉がピッタリくるさわやかな水
色のワンピースである。
 セリオの豊かな双丘はたしかな膨らみを形作っており、その存在を主張するよう
に柔らかな生地を押し上げていたが、教会のイメージを損なわないようにするため
か、胸元が強調されないデザインになっていた。
「綾香が選んだのか?」
「はい」
「へぇー、あいついいセンスしてるなぁ……うん、よく似合ってるぜ、セリオ」
「――ありがとう、ございます」
「ふーむ、ほおー、へえー」
 浩之は感心したような顔でセリオを上から下まで見回した。
「なあ、セリオ。ちょっと、クルッと回ってみせてくれよ」
「――はい?」
「クルッ、て回転するんだよ、こう」
 と、実技をしてみせる。
「こう――ですか?」
 セリオは従順に、その動作をしてみせた。
 朱い髪がふわりとなびき、弧を描くようにして風に流れる。
 スカートの裾が軽く浮いて、抜けるような白い太腿が少しだけ露わになり、すぐ
に水色の下に隠れた。
 とても洗練されたしなやかな所作と相まって、浩之は一瞬、完全に目を奪われた。
「――これで、よろしいのでしょうか?」
 どこかに恥じらいのかけらを見出せそうな無表情で、セリオは固まっている浩之
に覗き込むようにして訊いた。
 はっと我に返り、
「ブラボー! オオ、ブラボー!!」
 浩之は大仰に手を叩いた。
「うん、なんかもうスゲェいい。断言しよう。セリオはいいオンナだ」
「…………」
 まさにお調子乗りなその台詞に、セリオは黙して言葉を返さず、ただ視線だけを
下に落とした。
 その無表情に浮かんでいた恥じらいのかけらが、少し大きくなったような気がし
た。
「ちょっと浩之。なにやってるのよ」
 後ろから呆れたような声がかかった。
 振り返ると、声の調子とは裏腹に綾香がおかしそうに微笑んでいた。
「おっす綾香。あ、先輩も」
「はぁい」
「…………」
 綾香はパチリとウインクで応え、芹香は挨拶の言葉を述べながらゆっくりと丁寧
にお辞儀した。
「夕べはよく眠れた? 先輩」
 こくり。
「そりゃ良かった。だいぶ遅くまで遊んでたんだろ? なんか先輩デリケートそう
だし、いつもとあまりにかけ離れた場所でよく眠れずに、目の下にクマ作ってるん
じゃないかって心配してたんだよ」
「…………」
「大丈夫ですって? そっか。んじゃ、今日もめいっぱい楽しめるな」
 こく。
「ねえ浩之。私の心配は?」
 綾香が浩之の袖を引っ張る。
「うん? ああ……夕べはよく眠れただろ、綾香」
「……どうして質問じゃなくて確認口調なのよ」
「だってお前って、すぐ隣でチャンバラしてても平気でグースカ眠ってそうだし」
「……浩之、もしかしてケンカ売ってる?」
「滅相もない。つまりはまあ、なんだ。それだけ器がでかいと言いたいわけだよ」
「……なんか、そこはかとない悪意を感じたんだけど……まあいいわ」
「そうそう。そういうさっぱりした性格がお前の魅力のひとつだよな」
 予想もしていなかった浩之の言葉に綾香は面食らった。
「な。ちょ、なに言ってるのよ浩之。ここへ来るまでにお酒でも呑んできたの? 
もうできあがっちゃってるわけ?」
「いやあ、なんか知らんがナチュラルハイになってるみたいでな。徹夜が原因かな、
ひょっとして」
「そんなこと知らないわよ。あ〜びっくりした。まったく、いきなり妙なこと言わ
ないでよね」
 綾香は胸に手をやって、大げさに深い溜め息をついてみせた。
「ま、それはそれとして、先輩も綾香もしっかりおニューの服装になってんな」
 浩之はあごに手を当てつつ、二人の着衣を交互に見る。
「当然でしょ。これだけ大きな祭ならいろいろな物が集まってくるからね。それぞ
れの国や地域で流行ってる物をさんざん物色してきたわよ」
「先輩のそれも綾香が見繕ったのか?」
 芹香の着ている服は海の底を思わせるような深い蒼を基調とした物で、やはり控
えめなデザインで装飾されていた。
 教会を意識してのことなのだろうが、出掛ける時はそれなりに華やかな物に着替
えるのだろう。
「ううん。これは姉さんが自分で選んだのよ。でも姉さんったら、ごく普通の服に
関してのセンスもちゃんとあるんだけど、どちらかというとすごくユニークで奇抜
なヤツに惹かれやすいのよね。結局、そういうの三着も買っちゃったし」
「…………」
「え? もっと買いたかったって? よしなさいってば。魔法的な紋章が刻まれた
ヤツならまだしも、ドクロだの触手だのはさすがに趣味が悪すぎるわよ」
 真っ向から否定され、芹香はしょんぼりと肩を落とした。
「う」
 綾香がややひるんだ様子を見せる。
「…………」

 じーーー。

 イジイジと服の裾を弄びながら、なにも語らずにただ上目遣いに妹を見つめる。
 そんな仕草をされては抵抗もかなわず、綾香はあっさり折れた。
「わ、わかったわよぉ。まあそりゃ、人の趣味にとやかく言う権利はないしね……。
はぁ……それじゃ、今日は姉さんが好きなの買ってきて。浩之時間作れる? 姉さ
んに付き合ったげてくれない?」
「おっけ。じゃあ先輩、あとで一緒に行こうか」
 芹香はぽっと頬を染めて、うつむくようにうなずいた。
「ところでさ、浩之。話は聞いた?」
 綾香が急に改まった口調で訊く。
「話? なんの話だ?」
「あら、まだ聞いてなかったんだ。お姫様の命の恩人である私たち全員、お城に招
かれたってこと」
「ああ、なるほど。まあ、今日あたりだろうなぁとは思ってたけどな。時間は?」
「午後四時よ。とりあえず今回の事件に関して、それぞれから詳しい話を聞きたい
って。で、話が済んだら、そのあとはディナーパーティにご招待」
 浩之は口笛を吹いた。
「そいつは楽しみだな。しかし、なんでそんなことまで知ってるんだ?」
「今朝、私と葵が泊まってる宿に城からの使いが来たのよ。で話を聞いて、そのあ
と教会に行ってみたらここにもすでに話が伝わってたわ。浩之たちが泊まってると
ころにも使いが行ってるはずよ。たしか、矢島くん……って言ったっけ? 彼がね」
「へー、アイツがか。いや、オレは一晩中外にいたからな、これから帰るところだ
ったんだよ」
「ああ……確かに『それ』じゃあね」
 綾香は納得顔でうなずきつつ苦笑した。
『それ』というのは、浩之の身体から爆発するかのように吹き荒れている、氣の奔
流のことを指している。
 彼がそばにいれば否応なしに意識を刺激されて、同室の三人はとても眠れたもの
ではないだろうことを察したのだ。
「うーむ、しかしこのまま行ってもいいのかねぇ。なんか必要以上に目立ちそうで
嫌だな。特にパーティのほう」
 風もないのに髪や衣服がバタバタとあおられている自分の身体を見下ろして、浩
之はしみじみと呟く。
 すると、いままで静かに二人のやりとりを見ていた芹香が口を開いた。
「…………」
「え? それに関しては、たぶん城仕えの魔道士さんがなんとかしてくれると思い
ますって?」
 こく。
「…………」
「悠凪最高位の魔道士タスケさんは、魔力の収束と拡散における権威ですから?
じゃあ、その魔道士だったらこの状態を解除できるかも知れねーんだ?」
 こくり。
「へえぇ、もしそうだったら本当に助かるんだけどな……」
「やっぱり、一晩起き続けるのは辛かった?」
 綾香が興味深そうな視線を向けつつ、気の毒そうな声で問いかける。
 わざとそうしていることを見抜き、浩之は苦笑しながら答えた。
「いや、肉体的には辛いって感覚は一切ないけど、精神的にな……。とにかく、ヒ
マでヒマでしょうがなかったよ。街外れで一人きりで夜を明かさなければならねー
んだぜ? 話相手がいれば、だいぶマシだったんだけどな」
「なるほど、身体には無限の活力が宿っているけど、精神のほうはそうはいかない
ってわけね」
「ま、そういうこった。で、やることなかったから、ずっとトレーニングしてたん
だけどな」
「一晩中? 疲れなかった? って疲れないのよね、そういえば」
「ああ、ちっとも。だもんで、なんかぜんぜん身体動かした気にならなくて、よけ
いに気が滅入っちまったわ」
「ふーん、大変ねえ」
 まったく大変そうではない、まるっきり他人事の調子で綾香が呟いた。
 そのことに茶々を入れようと浩之が口を開きかけた時、
「藤田先輩!」
 青空冴え渡るこんな晴天にふさわしい、元気な声が響いた。
 振り返ると、笑顔の葵が手を振って駆けてくるところだった。
「よう、葵ちゃん」
「先輩、こんにちは」
 ぺこっと挨拶する。
「葵ちゃんもここに来てたんだ」
「はい、綾香さんと一緒に。あそうだ、先輩、話、お聞きになりました?」
「ああ、城の会合の参加とパーティの招待の話だろ? さっき綾香に聞いたよ」
「たぶん王様とかともお話しするんですよね。ううっ、すごく不安です……きっと
私、思いっきり緊張しちゃって、帰ってきたらどんな話をしたのか、ぜんぜん覚え
てないかもしれません……」
「はは。葵ちゃんの緊張癖は相変わらずかぁ……今回に関して言えば『葵ちゃんは
強い』ってのは関係なさそうだしなぁ」
「そ、そうなんです」
 葵はかすかに頬を染めてうなずいた。そのあと、芹香と綾香に目を向けて言う。
「あ、ところでお二人とも、お昼ご飯の準備が整いましたよ」
「あらそう? それじゃあ行きましょうか、姉さん」
 こく。
「浩之はどうする? 食べてく?」
「なーんも食いたくねえ。食欲がこれっぽっちもねぇ。オレはいったん『くまチュ
ウ亭』に帰るわ。んじゃあ、先輩。一時間後ぐらいにここで待ち合わせするか」
「…………」
「わざわざ来てもらうのは悪いって? はは、気にすんなって。街ん中を適当にぶ
らついて、頃合いを見計らって戻ってくるだけだし。ま、ゆっくり食べててくれ」
 こく。
「よし。それじゃあな」
「…………」
 ぺこり。
「じゃあね、浩之。またお城でね」
「それでは浩之さん。またのちほど……」
「先輩、またあとでお会いしましょう」
 笑顔で手を振り合うと、彼らは背を向けてそれぞれの方向に歩いていった。




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 うー、ちょっと長くなった……。
 それにしても、やばいなぁ……続き、早く書かねば……。