LF98(36) 投稿者:貸借天
第36話


 明かり取りの窓から射し込む弱々しい陽の光が、少しやつれた顔に影を落として
いる。
「大丈夫? 美咲さん」
「うん……」
 深く枕に沈めた頭が、小さくうなずいた。
 ここは冬弥と彰とはるかの三人が寝泊まりしている宿『白きアルバム亭』の一室。
 たったいま、冬弥のベッドで美咲が横になったところだった。
 全員が部屋には入りきれないことと、入ったところで美咲が落ち着いて休めない
ことから、他のメンバーには席を外してもらっている。
「じゃあ俺、そろそろ行くから」
 冬弥が席を立ちながら言った。
「僕はここに残っておくよ」
「私も残る」
「ああ、あとは任せた。それじゃ美咲さん」
 彰とはるかにうなずき返してから、美咲に目を向ける。
「うん……ごめんね」
 力無いその言葉に、冬弥は苦笑した。
「なにに謝ってるんだよ、美咲さん。あ、そうそう。教会の人たちには、俺から言
っておくから。明日には帰れるよね?」
「うん。ゆっくり休めば大丈夫」
「じゃあ、行くよ。美咲さん、お大事に。彰、はるか、あとよろしく」
「うん」
 二人がうなずくのを確認して、冬弥はドアを開けて部屋を出ていった。


 ロビーで思い思いにくつろいでいる皆のところに戻った冬弥に、英二が声をかけ
た。
「大丈夫そうかい? 彼女」
「あ、はい。ゆっくり休めば、明日にはもう治ってるだろうって本人も言ってます」
「そうか。まったく、いまにも倒れそうな顔してたからな。本当に、ゆっくり休ん
でもらいたいものだ」
「ええ」
「それはそうと青年。理奈も本調子を取り戻したようだし、俺たちはここから自分
の宿に戻ることにするよ。いや、俺から連れていってくれって頼んでおいて、悪い
んだが」
「あ、そうですか。いえ、気にしないでください」
「あら、兄さんは戻るの? 私は一緒に行くわよ」
 正反対の意見を口にする妹に、英二は困った顔を向けた。
「おいおい理奈。お前、もう元気になったんだろ? 自分の足でちゃんと宿に戻れ
るのに、わざわざ教会に泊まる気か? 迷惑だぞ」
「違うわよ、教会までついていくだけよ」
「なんだ? で、そのままUターンするのか? いったい、なにしに行くんだ?」
「別に確固たる目的があるわけじゃないけど。ちょっと初音がね……」
 浩之たちの話の輪に加わって談笑している初音に、話と目の焦点を合わせる。
 こうして無事助かったことにはもちろん安堵しているようだが、やはり姉たちの
ことが気がかりなのだろう。その笑みには、少し翳りを残していた。
「へえ。これはまた、あの子のことをずいぶん気にかけてやってるんだな。もしか
して、そっちの方の趣味に目覚めたとか?」
「なにワケのわからないこと言ってるのよ。あ〜あ、私にもあんなかわいい妹が欲
しいわ。こんなかわいくない兄よりもね」
「う、俺、いまのはちょっと傷ついたな〜」
 胸を押さえて痛みに顔をしかめているような、大仰なゼスチャーをする。
 そんな兄に、理奈はジト目を向けた。
「まったく……先に変なこと言ったのは兄さんでしょう? ……あ、ごめんなさい
冬弥くん、なんか私たちだけで話しちゃって」
 ジト目を急速に柔らかくして、冬弥へと視線を移す。
「あ、いや別に」
 二人の会話がおかしかったのか、かすかに顔をほころばせながら、冬弥は軽く手
を振って応えた。
「もう。兄さんが余計なこと言うから笑われちゃったじゃない」
「……俺のせいか?」
「まあ、それはとにかく。私はみんなと一緒に行くわ。兄さんは戻るの?」
 改まった口調で訊ねられ、英二はうなずいた。
「ああ、さすがに疲れたからな。いや、とりあえず先に医者に寄って、それから劇
場の方に顔を出して、あとはまっすぐ帰るさ」
 その言葉で、兄の身体があまり芳しくない状況であることに、理奈は改めて気が
ついた。
 顔や腕には青アザや刀傷が無数に刻み込まれ、また、切り裂かれた衣服の隙間か
ら覗いている、血で赤く染まった包帯が痛々しい。
 言われるまでまったく失念していたことに、理奈は少し自己嫌悪を覚えた。
「あ……大丈夫? 兄さん……」
「いまさら心配されても嬉しくないぞ」
 やや憮然とした顔で言うが、眼だけは表情を裏切っていた。
「そっか……兄さん、医者に寄っていくのよね……。ん、やっぱり私、兄さんと一
緒に行くわ」
 いままで兄の怪我の具合にまったく見向きもしなかったことを気に病んでいるの
か、いくぶんすまなそうな口調で言った。
「ん? なんだ、どういう風の吹き回しだ? なにか企んでいるのか?」
「なにを企むってのよ。一人だと、やっぱり心細いでしょ? だから……」
「俺のことなら心配いらないぜ。一応、ほぼすべての傷は止血してあるからな。俺
は大丈夫だから、お前は愛しの初音ちゃんのそばにいてあげるといい」
「兄さんっ……!」
 いつもの締まらない笑みを浮かべた兄に、理奈が突き刺すような視線で睨み付け
る。
「まあ、そういうことだ。青年、理奈のことよろしくな」
「え……あ、はい……」
 急に話を振られて、冬弥は口ごもりながら返事した。
「それじゃあ、俺はそろそろ行くよ。理奈、あまり遅くまでお邪魔するんじゃない
ぞ」
「あ、待って兄さん。劇場の方は私が話を付けておくから、兄さんはお医者様に診
てもらったらまっすぐ帰って」
「ん、そうか? それじゃあ、そっちの方はお前に任せるとしようか」
「ええ、じゃあ兄さん。気をつけてね……」
「ああ」
 最後に一つうなずいて、英二は二人に背を向けて歩き出した。
 出入り口を抜け、やがてその後ろ姿が雑踏に紛れて見えなくなった頃、それを見
送っている冬弥と理奈のもとに浩之がやってきた。
「あれ? エイジさん、一人でどこに行ったんですか?」
「あら、浩之くん。ああ、兄さんは一足先に宿に戻るって」
「そうなんですか。そういえば、訊くのを忘れてたな。お二人はどこの宿に泊まっ
てるんすか?」
「私たちは大葉通り六番街の『運命の音色亭』よ」
「あ、そっか。よく考えれば、当然ですよね」
 浩之は納得したようにうなずいた。
 蛍崎にやってくる芸能人は、たいてい『運命の音色亭』を利用しており、そのこ
とはこの街では子供でも知っている。
 なぜ『運命の音色亭』なのかというと、その宿は劇場から通り一本を隔てた場所
にあるので近いから、という単純な理由からであった。
 しかしそれでも、開業初日以来、毎日の宿泊客の中には芸能人が必ず一人はいた
ため、いつの間にか、芸能人はここに泊まるのが普通という妙な伝統が確立してい
た。
 もちろん、金がない無名の新人も利用するので、宿泊料金は良心的な数字になっ
ている。
 そして、その値段の割に部屋の間取りは大きく、食材は豊富で質が高く、外観内
装ともに落ち着いた涼しげな雰囲気を醸しており、気配りも行き届いているので、
王都蛍崎でも最も人気が高く、また悠凪一という呼び声も高い宿だった。
 特に、一般人はなかなか宿泊することができない。
 平時は平時で一般人、芸能人ともに予約者が多いため競争率が高く、祭の時期に
は芸能人を優先的に顧客とするからだ。そのせいで、宿泊権を巡って争うというト
ラブルが起こることもしばしばだった。
「ええ。あそこを選ぶ一番の理由はやっぱり近いからなのよね。それでも、あれだ
け質が高くて良心的な値段なんだから、一番人気ってのも深くうなずけるわ」
「オレたちも一応当たってみたんですけど、やっぱ無理でした」
「まあ、それは仕方がないわよ。私たちは今年度のリーフ祭に仕事しに来る予定だ
ったから、半年前から予約を入れておいたんだけど、その時点でもう部屋に空きが
なかったらしいからね。最後に入った一般客に断りの連絡を付けて、部屋を確保し
てもらったのよ。でも、いくらあそこの宿に芸能人優先の規約があるとはいえ、な
んだか強引に割り込んだ感じで、あんまり後味よくないわね……」
「うーん、でもやっぱり一般の客はそれを承知で宿泊するんですから、いいんじゃ
ないですか? 金も返してもらえるんですし」
「……そうね。まあたしかに、あんまり気にしなくていいのかもしれないけれど…
…」
「リナさんって、優しいんすね」
 ちょっとからかい混じりの浩之の言葉に、理奈は一瞬だけ息を詰まらせ、それか
ら冗談っぽく凄みのある笑みを浮かべてみせた。
「……浩之くん。年上の女をからかおうなんて、なかなかいい度胸してるじゃない
?」
「はは……すんません。それにしても、半年前で空きがないんですかぁ……そりゃ、
一週間前じゃ無理だよなぁ。ああ、そういえばリナさん。やっぱ初日の今日から仕
事の予定が入ってるんですか?」
「ええ、入ってるわ。でも兄さんがあんな状態だし、私も疲れが抜けきってないか
ら今日の仕事はキャンセルするしかないわね。帰りに劇場に足を運んで、関係者に
それを伝えるつもりよ。それにしても、緒方兄妹、プロ失格ね。私たちを見に来て
くれた人たちに申し訳が立たないわ……」
 理奈は表情を曇らせた。
 もともと救出に関して、英二は嫌がっていたわけではなかったが、乗り気ではな
かった。舞台が終わったあとでもいいだろうと言う兄を無理に手伝わせたのである。
 客に半端なモノを見せることにならないよう、怪我には十分に注意することを約
束し、そして行動を開始してから事ここに至るわけだが、ふたを開けてみれば怪我
に泣いたのは英二の方で、言い出しっぺの自分はピンピンしている。なんとも皮肉
な結果になってしまった。
 その事実が、理奈にはどうにも辛く感じられた。兄を身代わりにしてしまった気
がしてならないのだ。
 明日になれば、美咲は元気になっているという。もし、治癒魔法を使うのに負担
が掛からないようならば、兄の治療を頼んでみようと理奈は考えていた。
「でも……しょうがないよ。あんな怪我してたんだし……ゆっくり休まないと」
「ええ……そうね」
 励ますように言う冬弥に、理奈は淡く微笑んでみせた。
 それから、なんとはなしに三人は口を閉ざした。
 わずかな沈黙を挟んで、
「……えっと、じゃあトーヤさん。そろそろ教会の方に行きたいんすけど、案内し
てもらえますか?」
 呼びかけられて冬弥が顔を上げると、いつの間にか浩之の後ろには芹香、綾香、
葵、好恵、フラン、セリオ、初音の全員がそろっていた。
「え? あ……そうだな。それじゃあ、行こうか」
 うなずき、冬弥を先頭にして彼らは一斉に歩き出した。
 フロントの女性の義務づけられた謝辞を背中で聞きながら、様々な客が出入りす
る大扉を抜け、多くの人間でごった返している雑踏の中へと足を踏み入れる。
 そうして、人の奔流を掻き分けながら、彼らは『白きアルバム亭』をあとにした。


 教会へはたどり着いたものの、聖堂に足を踏み入れる前に、彼らは大勢の人間に
遠巻きに取り囲まれた。
 別に、敵意があるわけではない。浩之が撒き散らしている凄まじい気配に、いっ
たい何事かと教会にいた人々がこぞって集まってきたのである。
 そのことを除けば、話は滞りなく進行した。
 やはり浩之の気配をいぶかって出迎えに来た神父長に、冬弥はまず、今日美咲は
疲労のため別のところで一夜を明かすことを告げた。詳細は話さなかった。周りに
は他のシスターや一般のリーフ信者もいる。のちほど、神父長一人に事の顛末を伝
えるつもりだった。
 そして、友人として紹介した芹香、フラン、セリオ、好恵、初音の五人の寝床を
用意してもらえないかと頼んだところ、あっさりと承諾してくれたのだ。
「成田雅夫神父長、どうもありがとうございます」
「いいえ。すべては、リーフ神の慈悲深き御心によるものです」
 冬弥が丁寧に頭を下げると、髪にわずかに白いものが目立ちはじめた成田神父長
は、右手を胸に添え、左手で印を切りながら穏やかな声で言った。
「お世話になります」
 件の五人が挨拶するのを笑顔で受け止め、
「ただ、ひとつだけお願いしたいことがあるのですが、よろしいですかな?」
「それはどういったものでございましょう?」
 一同を代表してセリオが訊ねた。
「いえ、大したことではないのです。ここは教会である以上、一日に何度か祈祷、
礼拝を行います。もちろん、そのすべてに参加しろとは申しませんが、せめて食事
前と後に捧げる祈りだけは、ご一緒していただけないかと思いましてな。食するこ
との喜びは誰しも平等なもの。別にリーフ神でなくとも構いません。ご自身が信仰
されているもので結構ですから、私どもと一緒に感謝の祈りを捧げることをお願い
したいのです」
 確認のため振り返るセリオ。芹香、好恵、初音は躊躇なくうなずいた。
「当方に異存はございません。ご一緒いたします」
「ご快諾、ありがとうございます。では、お部屋の方にご案内いたしますので、ど
うぞこちらへ」
「あ、ちょっと待って」
 笑顔をこぼしてきびすを返す成田神父長が完全に背中を向ける前に、綾香が一歩
前に出て呼び止めた。
「はい、なにか?」
「ちょっと、まだ話したいことがありますので、もうしばらく待っていただけない
かしら?」
「ああ、これは性急に過ぎましたかな、あいすいません。どうぞ、ごゆっくりお話
ください」
「ありがとうございます。んっと、浩之。今日はこれからどうするの? まさか、
帰ってすぐに寝るってわけでもないんでしょ?」
「はは……あいにく、オレは一週間ほど寝られねーらしいわ」
 浩之は苦笑を浮かべ、首を振り振り答えた。
「あ、そっか。そういえば、食事を必要としないとも言ってたわよね」
「お前はとりあえず、医者だろ? だいじょーぶか? 血止めはまあ、ちゃんとし
てあるようだが……」
「まあね。うん、とりあえず先に医者に診てもらうつもりだけど、やっぱ止められ
ちゃうかなぁ……。せっかく姉さんやセリオとも逢えたことだし、みんなでお祭り
見物に行こうとか思ってたんだけど……」
 それを聞いて、浩之は呆れた顔になった。
「おいおい。お前、その身体で祭見物に出かけるつもりだったのか? あんまり無
茶すると、そのうち倒れちまうぞ」
「綾香様、どうか御自愛ください。祭は始まったばかりなのですから、まだまだご
一緒する機会はございます。今日のところは、お早くお休みください」
 それまで黙って聞いていたセリオが口を挟んだ。無表情ながら、澄んだその声に
は親友の体調を案ずる響きがある。
「あはは、冗談だってば。わかってるって、今日のところは大人しくしてるわよ。
でも、せっかく久しぶりにみんなと逢えたのに、やっぱりちょっと残念ね……」
「……ちょっと、よろしいですかな?」
 深みのある低い声が控えめに割り込んだ。
 白地に青と濃紫のさり気ない装飾を施された神官衣をひるがえし、話の腰を折っ
たことで多少申し訳なさそうな顔をしながら、成田神父長が歩み寄る。
「なんですか?」
「そちらのお嬢さんの怪我に関しては、私がなんとかしますよ。シスター美咲ほど
腕は良くありませんが、治癒魔法なら一通り扱えますので」
「えっ、ほんと?」
 綾香の表情がパッと輝いた。
「ええ。おまかせ下さい」
「ありがとうございます。それじゃ、お願いしていいですか?」
「はい。いや、実を言うと、それだけの怪我をされてることについの今まで気づき
ませんでしたので、情けなく思っておるんですよ」
 ちょうど今は夜に限りなく近い夕刻。まだ街灯に灯をともすほど暗くはないが、
太陽は地平線に半ば以上埋もれ、世界は薄い闇に覆われている。
 遠目に人のシルエットは見えるのだが、容貌までは判別できない、そんな中途半
端な時間帯だった。
 また、教会のあるこの辺りは街の中心から外れているので、大通りに立ち並んで
いる出店の明かりも届かず、よけいに薄暗く感じられた。そのせいで、浩之たち一
行の外傷の度合いがはっきりとはわからなかったのだ。
 神父長は綾香のそばまで近づき、小声で訊ねた。
「よく見ると、皆さんそれぞれ大なり小なりの怪我をされていた様子。着衣にも血
のシミなどが目に付きますし、なんとなく状況がわかりました。あなた方はシスタ
ー美咲ともどもなにか面倒ごとに巻き込まれ、そして彼女は術の多用で疲れ果てて
しまったのですね?」
「ええ、そうです。のちほど、藤井さんから詳しいお話がありますので……」
 神父長は綾香から視線を外し、冬弥と目を合わせた。
 冬弥が黙ってうなずき返す。
「わかりました。まあ、何はともあれ、まずはあなたの治療をしましょう。では、
目をつむって身体の力を抜いてください」
「はい」
 言われたとおりにする綾香。
 彼女の整った顔の前に両手をかざし、成田神父長が低い声で呪文を呟きはじめる。
 やがて術が完成し、神父長の両手からは翠の光があふれ、そして綾香は全身をさ
いなんでいた痛みが急速に引いていくのを感じた。
「ふぅ……終わりました。目を開けてくださって結構ですよ」
 呼びかけられ、綾香はそっと静かにまぶたを開く。
 魔狼に食いちぎられた右腕と右の首もと、深く切り裂かれた左脚に意識を向ける。
痛みはなく、違和感もなかった。
 実際に手で触れてみると、傷跡がなくなっていた。特に、腕の方は明らかに原型
が崩れていて手触りがおかしかったはずなのに、いまでは肉が盛り上がって完全に
復元している。
「へぇぇ……すごい……。あれだけの怪我が、わずか数十秒で完治してしまうなん
て……。神父長さん、どうもありがとう」
 にっこりと微笑む綾香に、成田神父長は穏やかな微笑みでもって応えた。
「他に、どなたか怪我をされてる方はいらっしゃいますかな? ああ、きみの傷も
けっこうひどいですね。どうぞ、こちらへ」
「え。あ、いや、オレはいいっすよ」
 手を振り、やや慌て気味に拒否する浩之。
「遠慮することはありません。さあ、どうぞこちらに」
「い、いや、いいんですってば。オレのことは気にしないでください」
 断固として拒む浩之に、神父長は怪訝な目を向けた。
「なぜです? 無理は禁物ですよ。なにやら人間離れした気配を放っておられます
が、だからといって傷を放置しておくのは得策ではありません」
「えっと、それはわかりますけど、ここじゃなくて、ちょっと別のところで傷の手
当をしてもらう約束をしてますんで……」
 頭を掻きながら、どことなく恥ずかしそうに言う。
「そうなんですか……わかりました」
 実際にはそんな大げさなものではないのだが、何か事情があるとでも思ったのか、
成田神父長はゆっくりとうなずいた。
「せっかく気を使ってくれたのに、どうもすんません」
「いえ、いいんですよ。と、邪魔をしてしまいましたな。それでは、話の続きをど
うぞ」
 そう言い残し、成田神父長は話をしやすいようにという配慮からか、その場を離
れいった。




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 ああ……なんかもう、どうでもいいような話……。
 早く終わらせたいのに、筆が進まねぇ……。