ギャンブる(2) 投稿者:貸借天
 艶やかな長い黒髪が舞い上がり、大きく広がりながら跳ね回る。
 形良く盛り上がった胸の膨らみが、誘惑するように上下に揺れる。
 短い丈のスカートがきわどいところまでめくれ、ギャラリー(男)どもの官能と
溜め息を誘う。
 スラリと伸びた色白の両肢が前後左右に動き回り、ギャラリー(男)どもの視線
を捕らえて離さない。

 綾香と志保は、実に楽しそうに華麗なステップを踏んでいた。踊りながら、とき
おりちょっとしたパフォーマンスを交えている。
 そんな二人にすっかり魅了され、釘付けになってしまっているのは、オレも同様
だった。
 そして、気がつけばついつい胸とスカートに目が行ってるんだよなぁ。
 くっそ〜〜、この小悪魔どもめ。
 さてはオレを骨抜きにして、勝ちを拾うつもり作戦なんだな?
 へ、へへん。そんな作戦、絶対引っかかってやんねーからな。
 と、スカートがまたきわどいところまでめくれた。
 そのとたん、無意識に視線がそっちへと行ってしまう。
 ああっ、見えそで見えない、この胸を掻きむしりたくなるような焦れったさ!
 そして、抜けるような白いナマ足! まぶしすぎるぜ、どチクショウ!!
 って、オレはおっさんか!?
 何気なしに隣のニイチャンを見ると、ギリギリまではめくれるのに最後の一線は
決して越えないスカートの動きと、今にも付け根まで見えそうななまめかしい両肢
に目を奪われながら、焦れったそうで悔しそうな顔をしている。
 よく見ると、その隣の奴もだ。まったく、どいつもこいつもおっさんだな。
 ……うーん、この言い方はおっさんに失礼かな。

 それにしても……だ。
 ふと周りを見渡してみると、だれもかれもがミョーに真剣な眼差しで、踊る二人
を見つめている。
 まあ、綾香も志保もかなりの美少女でスタイルも抜群だからな。おまけに、たま
に交えるパフォーマンスがまた可愛かったりするんだよ、これが。
 いつの間にか、ギャラリーの数は最初の頃よりも二倍以上に膨れ上がっていた。
 その、野郎どもの大集団の中には、わずかながら女性の姿も見受けられる。
 なるほど、男も女も関係ないって京本正樹も言ってたもんな。
 って、それこそまったく関係ねーな。(っていうか、takataka様ごめん
なさい(汗))
「ねえ、祐くん。もう行こうよ〜」
「ちょ、ちょっと待って沙織ちゃん。もう少し……」
「う〜〜〜〜」
 ふと、そんな声が聞こえた。
 そちらへと目を向けると……あらまあ。
 そこにはカップルがいた。
 男女ともにオレと同い年ぐらいだが、ちょっと根暗っぽい感じの男の方は、踊っ
ている綾香と志保の二人を食い入るように見つめていた。
 女の子はそんなカレシが面白くないらしく(当たり前だが)、腕を引っ張りなが
ら、しきりに「早く行こう」を連発している……が、聞き届けてもらえない。
「もう! 祐くん!」
 あ。
 業を煮やした女の子が、根暗っぽいカレシの足をギュッと踏んづけた。
 しかし、カレシの方はまるで気がついていない。
「う〜〜〜〜ッ。祐くーん!」
 額に青筋立てて、女の子は踏んづけた足をグリグリとひねった。
 それでも、カレシの方はまるで気がついていなかった。ただひたすら、綾香と志
保に熱い視線を注ぎ続けている。
「も、もう! 祐くんなんて知らない!」
 頭から湯気を出しながら、女の子はカレシを放ったらかして、独り先を歩いてい
った。
 だが、カレシはそちらに見向きもしない。
 てっきり後を追いかけてくるだろうと思っていたらしい女の子は、今にも泣きそ
うな顔で振り返った。
「ゆ、祐くん! あたしもう行くからね!?」
「ちょ、ちょっと待って沙織ちゃん。もう少し……」
「……くすん。祐くんのバカーー! えーん!!」
 ついに女の子は泣き出して、どこかへ行ってしまった。
 しかし、やっぱりというかなんというか、カレシの方はまるで気がついていなか
った。
 踊る二人の女子高生に心ぜんぶ奪われて、それ以外のものがアウト・オブ・眼中
になってしまっているのだ。
 そう。さながら、どこぞのアイドルのマネージャーさんのように……。
 それにしても、あ〜あ。あの子もかわいそうに。
 っつーか、あの二人はもう終わりだな。
 オレは、この世界の厳しさをかいま見たような気がした……。
 って、なんのこっちゃ。



 ダンッ!!

 バッチリ着地のポーズを決めて、最後の三曲目が終了した。
 綾香と志保は満足げな笑顔を浮かべて、ガッチリ握手なんか交わしてる。
 そんな二人を眺めながら、オレは頭を冷静にして状況を分析してみた。
 その結果。
 ――これは勝てる。
 そう、思った。
 綾香も志保も確かに出来る……が、まだ甘い。
 さすがに踏み損ねはなかったが、タイミングが少し合ってない部分がままあった。
 新作である以上初挑戦になる曲が多いと思うが、見た感じ二人が選択していた曲
は、前作で難度Sランク級の『瑠璃子−jv1080Mix』より簡単なものばか
りだった。
 そしてオレは、そのSランクの曲を一度だけだが、パーフェクトクリアしたこと
があるのだ。もちろん、それ以外の曲でパーフェクトを取った回数も数知れない。
 さっきまで二人が踊っていた曲を見る限りでは、これぐらいなら余裕だなと思っ
た。
 まあ、いきなりパーフェクトは無理だろうが、初挑戦とはいえオレならかなりの
高得点を叩き出せそうだ。
 よし、初挑戦に関する不安はこれで払拭できたぞ。
 まあとりあえず、綾香と志保のどちらが、どれくらいの点数で勝つのかを見なく
てはな。
 点数計算はたぶん前作と同じだろうから、オレのハイスコアと比べてみたらよく
わかるだろう。
 ……そして。
「あっちゃーー」
 志保は片手で顔を隠すようにしてうつむき、
「やりぃ!」
 綾香は満面の笑顔でパチンと指を鳴らした。
 オレも心の中でパチンと指を鳴らした。ついでに万歳三唱もしておく。
 勝者である綾香の点数は、オレのハイスコアよりもだいぶ下だったからだ。
 っしゃーーー!!
 勝てる! これは勝てるぜ!!


 ギャラリーたちの間を縫うようにして、二人はオレの方に近づいてきた。
「お疲れさん」
 ねぎらいの言葉をかけると、綾香が不敵な笑顔を見せた。
「さて、浩之。チャレンジャーは私に決定したわよ」
「おう」
「あ〜あ。ヒロの鼻っ柱をへし折るのは、あたしがしたかったのに……来栖川さん、
こうなったらあなたにすべてを託すわ」
「まかせといて」
 ふたたび、ガッチリと握手する二人。なんだか知らないが、闘うことで女の友情
が芽生えたらしい。
 しかしだ。
「ふふん。おめーらの腕のほどはじっくり見せてもらったことだしな。勝ちはもら
ったぜ」
 ニヤリと笑うと、志保は唇を曲げた。
「ホント、こすっからいわよねぇ。来栖川さん、こんなやつ思いっきり叩きのめし
てやんなさいよ」
「ええ。あなたの分までね」
「ま、とりあえず休憩するか? 疲れただろ?」
 休息を促したが、綾香はまったくこたえた様子もなく言った。
「私は平気よ。あれくらいでバテるほど、ヤワな鍛え方してないわ」
「そうか……そうだったな」
「ん? あんた、スポーツか何かやってるの?」
「ちょっと、格闘技をね」
「か、格闘技ぃ? 来栖川のお嬢様がぁ?」
 完全に予想外だったらしく、目と口をポカンと開ける志保。
「ふふ、意外?」
「まあ……あんたの姉さんを見慣れてるしねぇ……」
「浩之にも言われたわね、それ」
「確かにな。でも、たいていこんな反応をするんじゃねぇの?」
「かもね。さて、浩之。並びましょうか」
「そうだな」
 順番待ちの最後尾へ行こうときびすを返したオレの背中に、志保の言葉が追いか
けるようにぶつかった。
「それじゃ、あたしは高見の見物と決め込みますか。ヒロ、あんたの無様な姿をよ
ーく見ててあげるわ」
「けっ。言ってやがれ」
 そして、オレたちは別れた。


 待つこと約三十分、ようやくオレたちの順番が回ってきた。
 ヤックを賭けた闘いの幕が、ついに切って落とされることになったのだ。って、
ンな大げさに言うほどのもんでもねーがな。
「さーて、浩之。勝負よ」
「おう」
 コイン投入。

『ダンス・ダンス・ファイター、セカンド・パーティ!』

 本場の発音でのタイトルコールとともに、タイトル画面が表示される。
 2Pのスタートボタンを押し、モードセレクトで対戦プレイを選択。
 でもって、ミュージックセレクト。
「どれにする?」
 曲目の確認をしながら訊くと、
「ジャンケン――」
 綾香が問答無用のジャンケンを持ちかけた。
「ほい」
 綾香の勝ち。
「それじゃあ、一曲目と三曲目が私。二曲目は浩之が決めるってことで」
「おう」
「ん。さてと、まずは……」
 言いながらセレクトボタンに手を伸ばし、目当ての曲を探し始めた。
 勝負はフェアじゃなきゃつまらない。さっきの志保戦で選ばれなかった曲を探し
ているんだろう。
「んーと。じゃ、このあたりがいいかな?」
「どれどれ?」
 綾香が選んだのは“ためいき−AM2:30Mix”。
 ふむ。これは前作にもあったやつのアレンジバージョンのようだな。
「……あら? “ためいき”って、確か前作にもあったわよね」
 綾香も気づいたか。
 DDFをけっこうやってたってのは、どうやらマジらしいな。
「みたいだな」
「よし、これにしましょう。レベルは4か、物足りない?」
「いや。肩慣らしならぬ足慣らしってことで、ちょうどいいぜ」
 からかうような綾香の視線を悠然と受け流して答えてやる。
 とはいえ、前作は確かにやり込んだが、『セカンド』は初プレイなのだ。
 マジで、少しは慣らしておかねーとな。
「ふふーん、余裕ねぇ。じゃ、これで行くわね」
「おう」
 そして、曲が始まった。
 やたらとノリノリな曲調だ。初っ端からかなり違う。以前の曲を聞き慣れてるか
ら、ちょっと戸惑っちまうな。
 が、最初のステップを完璧なタイミングで踏めたことで調子が出た。
 初プレイとはいえ、しょせんレベル4はレベル4。
 リズムに乗ってしまえば、こっちのもんだ。
・
・
・
・
・
・
 一曲目終了。
 全体的に難しいポイントもなく、二人ともあっさりクリアした。
 ま、この程度なら肩慣らしには本当にちょうどいいくらいだ。
 点数は……ほんの僅差でオレがリード。
 初プレイなんだから、一曲目は後れをとっても仕方がないと思ってたんだが、上
出来だ。
 ……しかし、気のせいか、綾香の動きがどうも……。
「どしたの? 浩之」
「いや、なんでもねぇよ。さて、次はオレだな」
「ええ。なんでもどうぞ〜」
 少し乱れた髪をかき上げながら、綾香が不敵に笑う。
 こいつ……もしや……。
「綾香。オレも調子が出てきたし、一気に難しいやつ行くぜ」
「うふふ。なんでも来なさ〜い」
 相変わらず、綾香は年季の入った不敵な笑みを浮かべている。
 それを目にしたオレは、なんとなく思うところがあった。
 一曲目終了から、なんとなく違和感めいたものを感じていたのだ。
 綾香のやつ……ひょっとして……。
「よし。これにするぜ」
「なになに?」
 オレが選択したのは『バトルシーン2−鳥肌Mix』。
 ダンスレベルは7だ。
 これくらい難度の高い曲なら、きっと違和感の正体もつかめるはず。
「レベル7か。これと、この次の曲からが本当の勝負ね」
「おう」
「ふふっ。ヤックはいただくわよ、浩之。これくらいのリードなんて、あっという
間に追い抜いてあげるから」
「へっ。やってみやがれ」
 そして、二曲目が始まった。




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やっぱり大げさに書かれています。
冒頭のところとか、格闘技やってるから疲れないとか。
格闘技やってなくても、1ゲーム分やったところで、そうそう疲れたりはしません
よね(苦笑)

ところでtakataka様、ごめんなさいっす!!(大汗)