LF98(21) 投稿者:貸借天
第21話


「冬弥!!」
「させるかッ!」
 後ろの二人――美咲と彰に先立って、はるかとともに前を走っていた冬弥は足を
止め、腰に挿した刀の柄の根もとを右手、鞘頭を左手でつかみ、軽く身を沈めて居
合い斬りの態勢に入った。
 セリオと呼ばれた少女の狙いは美咲――彰に言われるまでもなく、阻止しなけれ
ばならない。
 身体をやや斜めに構え、腰を落とし、強く大地を踏みしめて足もとを固める。
 集中した精神を細く細く縒り合わせ、針の穴をも通せるような細い、しかしなが
ら力強く張り詰めた一本の糸と化す。
 ほど良い緊張感が全身に充ち満ちてゆく。
 意識は冬の空のように澄み渡り、極めて冷静だった。
 冬弥の眼に映っているのは、猛スピードでこちらへと迫るセリオだけで、それ以
外の一切が排除された。
 そして――稲妻さながらの踏み込みでセリオが剣の間合いに入った時、冬弥は鯉
口を切り、刃音も鮮やかに鞘走らせて一気に抜刀した。
 刀身がかすみそうなほどの豪速の斬撃が、首もとめがけて横薙ぎに飛ぶ。
 その細い首に刃が食い込もうとする刹那、セリオの上体がふっと沈んだ。
 烈風をともなった刃は大きく乱れ舞う朱い髪を何本か斬り裂いたが、しかし身体
にはかすりもせずセリオの上を疾り抜けていった。
(かわされたっ!?)
 居合いは一撃必殺の代わりに、放ったあとは完全に無防備状態になる。冬弥は戦
慄という氷を背中に押しつけられたような気分になった。
 だが、スキだらけの冬弥には一瞥を投げかけただけで、セリオは低い姿勢のまま
あっさりと彼の横を駆け抜けていった。彼女の狙いはあくまで美咲であって、それ
以外の相手にはまるで関心がないのである。
「美咲さんっ!」
 冬弥が振り返った時には、美咲はすでに防御魔法を展開しようと呪文を唱えてい
る最中だった。しかし……。
(は、迅い……!!)
 セリオの尋常ならざるスピードに、美咲は精神集中を乱しそうになった。高速詠
唱法を使っているにもかかわらず、まるで間に合いそうにない。
 間違いなく、セリオは魔法の完成よりも早く懐に飛び込んでくる。そして、凶悪
な破壊力を秘めたその小さな拳は美咲の命をたやすく砕き、容赦なく心臓をえぐり
出すだろう。
「――――!」
 なんの感情も読み取れないセリオの瞳と目があう。
 透き通るような無表情。
 死をもたらす者が風をまとって迫り、美咲は身体の奥底から恐怖が沸き立ってく
るのを強く感じた。
「美咲さん、危ない!」
 彰が美咲をかばうように立ちふさがった。
(な、七瀬くん!? ダメ……!!)
 美咲の澄んだ瞳が大きく見開かれる。
 セリオが、彰の三メートル手前まで接近したちょうどその時――。

 ヅドオオオオオォォォォォン!!!!!

 出し抜けに天からイカズチが降ってきて、セリオと彰の中間あたりの地面に直撃
した。
 しかし、あれだけ勢いのあった身体を少し前のめりにしただけで、セリオは一瞬
にして踏みとどまっていた。とんでもない足腰である。
 慣性によって大きく跳ね上がった夕焼け色の髪が、小さく暴れてから緩やかに舞
い降りた。顔にまとわりついてくる長い髪をセリオは無造作にかき上げ、片手で軽
く整える。
 石畳には黒い焦げあとが残り、わずかな煙を立ち上らせながら、ときおり数条の
紫電が走っていた。
「――――!?」
「なっ……!?」
 彰と美咲は、新たな展開に思考がついていけないという様子で、呆然とその光景
に見入っていた。
 と、何かに気がついたように美咲がはっと表情を変え、自分の斜め後ろの空を見
上げた。セリオも同時にそちらへ視線を向けている。二人の様子を見て、彰も後方
を顧みた。
 そこには黒髪、黒目、黒いローブを身につけた魔道士姿の少女がいた。地上から
五メートルほどの空中にたたずんでいる。
 三人六つの視線を受けている少女が、明らかに自由落下に逆らってゆっくりと降
りてきた。
「…………」
 少女がわずかに口を開く。発した声は消えそうなほど小さかったが、
「セリオさん……やっと見つけました……」
 美咲と彰には確かにそう聞こえていた。


 荒い呼吸を繰り返しながら、浩之は壁にもたれかかって座り込んでいた。
 身体のあちこちを鮮血で染めたまま、綾香とゾルトの一騎打ちを見ている。そん
な彼の周りには、立っている者は一人もいない。重なるように地面に横たわってい
る男たちと、土くれが取り囲んでいるだけだった。

 間合いを詰め、ゾルトが右手の長剣を袈裟斬りに打ち下ろした。鼻先数ミリでや
り過ごした綾香に、今度は左で彼女を追いかける。魔狼と化した左腕が、咆吼とと
もにあぎとを大きく開いて襲いかかった。
 綾香は上体をそらしながら同時に右足を跳ね上げ、デスロフィアを下から蹴り上
げた。
 前後の足および尻尾はなく、胴体から首、そして顔までがゾルトの左腕となって
いる三つ目の魔狼が悲鳴を上げる。
 痛覚を共有しているのか、悲鳴を上げてはいないが顔を歪めているゾルトが、さ
っきとは逆の軌跡で剣を疾らせた。
 綾香は左足だけで地面を蹴って高く跳び上がり、後方宙返りをひとつ打って、少
し離れたところへ軽やかに着地した。
「グルルルル……!」
 小さな額の中央、縦長の紅い眼も合わせてギラギラとした視線を綾香に浴びせな
がら、デスロフィアが低いうなり声を上げる。
「……くす。狼さんはずいぶんお腹を空かせてるようだけど、そう簡単には食べら
れてあげないわよ」
 綾香の言葉に、人語を解するらしい魔狼は凶悪な歯並びをむき出しにした。
「落ち着け、デスロ。あの女は必ず食わせてやる」
 あるじに頭を撫でられ、魔狼は眼を細めた。
「ふぅん、必ず……ね。できる?」
「やってやるさ。いくぞ、女!」
 ゾルトが距離を詰めてくる。綾香はその場を動かず、両腕をあげて軽く腰を落と
し、構えをとった。
 真っ直ぐに突っ込んでくる牙の群れを左へとかわす。
 ゾルトの右腕が振り上げられているので、それに注意を向けていると、綾香の首
がいきなりのけ反った。
「!?」
 完全にノーマークだったデスロフィアが、身体をひねって綾香の長い髪に噛みつ
き、下へと強く引っ張ったのである。
「なッ……!?」
 そこへ、ゾルトが右腕を振り下ろした。露わになった白いのど目掛けて長剣が迫
る。完全ではないが、それでも頭部はある程度ロックされてしまって避けきれない。
 だが、綾香は落ち着いて状況を見極め、左の拳で剣を持った手首を打ち上げて弾
いた。続けて、右の裏拳でデスロフィアの腹を殴りつける。
 デスロフィアはたまらず大口を開けて悲鳴を上げた。縛が解け、すかさず右足を
跳ね上げて追い打ちをかける。
 まえ以上の大きな悲鳴を上げつつ重い衝撃に苦悶する魔狼を尻目に、綾香は右足
を素早く引き戻しながら一歩退き、直後に飛んできたゾルトの払い斬りを冷静に見
切ってかわした。
 そして、綾香はさらに退がってゾルトとの間合いを開けた。
「──ああっ、唾液でベトベトになってる……! 女の命になんて事してくれんの
よ、まったく……!」
 つややかな長い黒髪を点検しながら、綾香は毒突いた。うなじより少し下のあた
りの髪が、生暖かく粘着質の液体で湿っている。
「うう……気持ち悪い……」
 不快感に顔をしかめる。早いところ拭き取りたい気分だったが、まさか戦闘中に
そんなことをするわけにもいくまい。
「こうなったらもう、速攻で倒すわ」
 綾香は顔を上げ、ゾルトとデスロフィアを睨みつけた。
 魔狼は、鼻面に幾本もの深いしわを刻み込んで、のどの奥で何かが絡みついてい
るようなうなり声をあげた。
 その主人も剣を構え直して、綾香と眼をぶつけ合わせる。
 今度は綾香から仕掛けた。一気に間合いを詰め、十分に踏み込んでからの右ミド
ルキック。
 ゾルトが唇の端をつり上げた時には、デスロフィアはすでに反応していた。蹴り
の軌道上にて大きくあぎとを開き、飛び込んでくる獲物を待ち構える。
 だが、綾香はこう来ることを予想していた。デスロフィアで綾香の蹴り足を噛み
砕き、動きの止まったところをゾルトが剣でとどめ……こんなところだろう。
 蹴りを放ってから予想したのではない、蹴りを放つ前から予想していたのだ。当
然、本命は脇腹ではない。
 綾香の、細くも無駄なく引き締まった両脚の筋肉が張り詰められた次の瞬間、ミ
ドルキックはハイキックへと変化してゾルトの左の肩口に激突した。
 ゾルトとデスロフィアの顔が激痛に大きくゆがむ。
「ぉッ!! ごぉッ……ァッ……ッ!!」
「ッッギィジャァァッッ!!」
 明らかに苦しみ方が変わった。
 両者を分ける境界線―─左腕の付け根は双方にとっての急所だったのだろうか、
ゾルトはびっしりと脂汗を滲ませながら大きく目を剥いて歯を食いしばり、デスロ
フィアは口から泡を飛ばしながらもがき苦しんでいた。
 意外な結果に驚きつつも、綾香は蹴り足を地面に下ろして踏み込みの足とし、そ
の足に体重を移動するように前へ出て右半身の体勢で懐に入りこもうとした。
 そこへ、上体を斜めに傾けた苦しい体勢ながらも、ゾルトが剣を振るって迎撃し
てきた。
 しかし、これも読んでいた綾香は剥き出しの左腕であっさりと受け止める。
「なっ……!」
 生身の腕で楽々受け止められたことに大きく目を見開いたゾルトの顔面に、懐に
入りこんだ綾香の右の裏拳が鋭く飛ぶ。赤い血を霧状にしぶかせて頭部と上体がの
け反ったところへ続けざまに左のボディーブロウを突き刺し、一気に降りてきたあ
ごをさらに右アッパーで跳ね上げる。ゾルトの両足が地面を離れた。
「ィヤアアァァーーッ!!!」
 そこへとどめの右後ろ回し蹴りが風を巻いて疾り、未だ宙にいるゾルトの横っ面
にかかとをめり込ませ、勢いよく吹き飛ばした。

 ドガアアアッ!!!

 背中から壁に激突し、ゆっくりとずり落ちていく時にはゾルトはとうに意識を手
放していた。力なく横たわるあるじの隣では、デスロフィアが苦鳴を上げながらな
おものたうち回っている。
「──ふうっ」
 起きあがってくる気配がないのを確認して、綾香は一息ついた。魔狼の方はまだ
闘えるようだが、主人が動けない限り何もできまい。
 そう判断してから、ふと思いついて懐からハンカチを取り出し、周囲への警戒心
は残したまま髪にまとわりついたヌメる液体を拭き取る。それから、ゾルトと反対
側の壁にもたれている浩之のそばへゆっくりと歩み寄っていった。
「大丈夫? 浩之」
「…………」
 だが浩之は答えず、やにわに綾香の左手をつかんで引き寄せた。
「えっ?」
 綾香の胸の奥が小さく跳ねる。
「…………」
 少しだけ日に焼けてはいるが、みずみずしく、シミひとつ無い綾香の左腕。
 薄く筋肉がついてはいるが、猫科の獣のようなしなやかな弾力を秘めた彼女の腕
はきめ細かく張りがあり、女性らしさを微塵も損なってはいない。
 その肘と手首のちょうど中間あたりに、浩之は無言のまま視線を注ぐ。
「ど、どうしたの浩之?」
 浩之の突然の行動に戸惑いつつも、かすかな喜びは隠し、代わりに照れを浮かべ
て綾香が訊ねる。
 きゅっと握られている左手から、じっと見つめられている腕を通って顔に熱が伝
わり、頬がほんのりと染まっていくような気がした。
「いや……確か斬られたの、こっちの腕のこの辺だったよな? 大丈夫なのか?
まあ、傷ひとつ無いみたいだけどよ……」
 不思議そうな眼差しで見上げてくる浩之に、綾香は合点がいったように「ああ」
とうなずき、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫よ。『硬氣功』っていってね、瞬間的に自分の身体を頑丈にする技で、敵
の剣を防いだのよ。自分と相手の力量の差によっては完全には止めきれないことも
あるけど、あの程度なら問題なしよ。おまけに敵の体勢も崩れてたしね。それに、
ちゃんと前もって準備してたし」
 綾香のミドルキックに対してデスロフィアが構えた時には、ゾルトの右腕はすぐ
に追い打ちをかけられるように攻撃の下準備に入っていた。だから多少体勢が崩れ
ていても迎撃は可能だということに気づいていた綾香は、それに備えて“氣”をし
っかりと練り込んでいたのである。
「いまの私なら、一流の剣士のそれでも無傷で防げるわよ。強い魔力が込められた
武器だったら、ちょっとわからないけど」
「へぇ……すげぇな」
「くす……心配してくれたんだ」
 綾香は優しく目を細める。
「そりゃあ、まあな。あまり勢いがなかったとはいえ、振り下ろされた剣に対して
無造作に腕を差し出すからよ。なんか手甲でも着けてたんならともかく……」
「ふふ、ごめんね。あと、ありがと。あ、ちなみに葵も硬氣功使えるからね」
「おー、しばらく見ない間にパワーアップしてんだなあ、二人とも」
「もちろんよ。私たちは、もっともっと強くなるわよ」
「うわ、おっかねぇ〜」
 軽く笑い合いながら、綾香は未だ握られたままの浩之の手を逆に握り返し、さら
にもう一方の手も取って引っ張り起こした。
「……っと」
「えっ……?」
 しかし少し勢いがつきすぎたのか、浩之は足をつまずかせて綾香にもたれかかり、
思わずお互いに抱きしめ合ってしまった。
「あ……」
 二人の声が見事に重なる。
 抱き合って密着した状態のままなんとなく見つめ合ってしまい、それから慌てて
パッと離れた。
「あ……わ、悪ぃ悪ぃ」
 顔を赤らめつつも、浩之はすぐに落ち着きを取り戻して頭をかいた。
「あ、ううん。……ひょっとして、足にきてるの? まだ、立てない?」
 綾香の方も別段動じた風はなく、それでも顔は赤らめながら少し心配そうに浩之
に訊ねる。
「……いや」
 首を振り、浩之は両脚に力を入れてみたり、膝を曲げたり伸ばしたりして手応え
を確認してみた。
「……大丈夫だ」
「そう? ならいいけど……」
「でもまあ、しばらく戦闘はできそうにねーな……」
「そうね、ゆっくり休んでなさい。……それにしても……」
 と、綾香は辺りに大量に散在する土の塊や、累々と横たわっている男たちを眺め
て、
「あんなボロボロの状態で、よくもまあ一人でこれだけの敵を倒せたものね」
「そりゃまあ、半分以上はお前が片づけてくれたからな。それでも、あれから傷が
さらに三十は増えちまったぜ」
「それにしたってねえ。途中からあいつの相手をしてて、あなたのフォローができ
なくなったからちょっと心配してたのに」
「ま、お前や葵ちゃんにいろいろと鍛えてもらったしな」
「……ねえ、浩之。あなた、本格的に……」
「浩之ちゃん!」
 大きな声が上から重なり、綾香は言葉を詰まらせた。声のした方に目をやると、
あかりが息せき切って駆けつけてくるところだった。
「綾香さーん」
 さらに、その後ろを葵たちが急ぎ足でやってくる。
 到着するなり、あかりは息を呑んだ。
「ッ! 浩之ちゃん……!」
  髪は乱れ、疲労がありありとうかがえる顔色と表情、そして身に着けた野戦服の
上下はあちこちが切り裂かれ、身体じゅう至るところに赤いものがにじんでいる。
 文字通り、満身創痍を体現している浩之を見て、あかりは口もとを隠すように両
手を当てた。その大きな瞳に涙が盛り上がる。
「なんだなんだ、あかり、また泣くのか? 心配すんな、致命傷はねえから大丈夫
だよ」
「……っく……浩之ちゃん……ひろゆきちゃん……」
 泣きじゃくるあかりの頭をよしよしと撫でる。
「藤田先輩……ほんとに大丈夫ですか……?」
 その横で、全身に紅い花が咲き乱れたような浩之の身体を見回していた葵が、心
配そうに見上げてきた。
「ああ、本当に大丈夫だ。ただ、ひどく疲れてるだけだかんな」
「ま、ヒロのしぶとさはゴキブリ並みだもんね」
「あんだと、志保ぉ?」
 鋭い視線を投げる浩之をまあまあと雅史がなだめる。
「ったく……。ああ、ところで、エイジさんたちはどうなってるんだ?」
 彼はそのまま雅史に視線を向けた。
「ええと……」
「誰? その、エイジさんって」
「ああ、そうか。綾香たちは知らないんだよな」
 続けて、綾香と葵に目を向ける浩之。
「えっとな……」
 と、彼が事情を説明しようとした時、

 ヅドオオオオオォォォォォン!!!!!

 耳をつんざく轟音が炸裂し、彼らは一斉に音の聞こえた方へ振り向いた。
「なっ、なに!?」
「なっ……え!? あれは……芹香先輩!?」
 ここから少し離れたところでは、まだ仲間たちが闘っている。そこからやや視線
を上げると、黒いローブを身にまとった魔道士姿の顔見知りの少女が、空中からゆ
っくりと舞い降りていくところを浩之はとらえた。
「姉さん!? ど、どこ!? ……あっ!!」
「ほんとだ、来栖川先輩だ……!」
 他のメンバーも口々に声をあげる。
「なんで姉さんが……? じゃあ、いまのは姉さんの魔法……? ……葵、行くわ
よ! あ、浩之はゆっくり休んでて。無理しちゃダメよ」
「え? いや、オレも……」
「ダメだよ、浩之ちゃん!」
「ダメよ、浩之」
「ダメです、藤田先輩!」
 あかりと綾香と葵が口をそろえて制止する。
「お?」
「え?」
「あら」
「あ……」
 互いを見交わして、四人は同時に顔をほんのりと赤らめた。
「あ……わ、わかったよ、オレはおとなしくしてっから。でも、綾香も葵ちゃんも
気をつけてな、油断するんじゃねえぞ」
 なんとなくバツが悪そうに浩之が言い、
「え、ええ、大丈夫よ……」
「……あ、はい……気をつけます」
 なんとなく恥ずかしそうに綾香と葵が答えた。
「あ、そういや坂下がいたぜ、敵の方だけど」
「好恵が?」
「好恵さんですか?」
  二人は目を丸くする。
「ああ、オレたちの前に坂下が立ちふさがって、そしてオレの代わりにエイジさん
がアイツと……って、あれ?」
 浩之は彼女を最後に見たのはどこだったかと記憶を探りながら首を巡らし、そこ
で当の好恵が誰かと闘っているところが目に入った。
「坂下……の相手はエイジさんじゃねーな……マルチ!?」
「なんですって!?」
 綾香も浩之の見ている方向に目を凝らす。
 目まぐるしく動き回り、激しい攻防を繰り広げているのは、一人は確かに好恵。
もう一人は、小柄な身体に若草色の髪の少女……。
「……いや、そんなわけねえな。マルチには戦闘能力はないはずだ、ということは
フランか……!」
「ってことは……好恵と姉さんが敵対して闘ってるってコト……? でも……」
「綾香さん、とにかく行ってみましょう! まずは好恵さんに接触してみるのはど
うでしょうか?」
「……そうね。よし、それじゃ……」
 走りだそうとする二人を浩之が呼び止めた。
「あ、一応教えとかねえとな。敵は人身売買組織の奴らだ」
「人身売買!? ……好恵ってば、確か傭兵やってたはずだけど職業変えたのかし
ら……そんな仕事するような娘じゃないと思うけど……」
「それとも、敵側に雇われたんでしょうか……?」
 顔を見合わせる。
「それから、エイジさんってのは二振りの短剣を武器に持つ背の高い男の人だ。浩
之の友人って言えば通じるから。まあ、なんにせよ、気をつけろよ」
「オッケイ。じゃ、行くわよ、葵」
「はいっ」




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わはははは。綾香と葵が硬氣功を使えるようになってしまった。
そして、冬弥の武器は刀。彼は侍か!?
もうムチャクチャ。
……ごめんなさーい(汗)


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