悪夢 投稿者:貸借天
 夢。
 夢を見ている。
 
 何の温度も感じない暗い世界。
 永遠とも思える無限の空間を漆黒が埋め尽くし、俺はその中で一人立っている。
 そんな夢だ。
 
 深遠なる闇。
 光と対をなすもの。
 視界に入っているのは、ただそれだけだ。
 上下左右どこを見渡しても、見えるものはただそれだけ。
 自分の身体すら、横たわる闇に溶け込んで見ることが出来ない。
 
 これは本当に俺の身体なのだろうか。
 自分の意志とは無関係に動いたりしないだろうか。
 例えば、レズの気がある少女や雑誌記者などをさらって陵辱したりしないだろう
か。 
  
 俺は試しに歩いてみることにした。
 右足を前に出す。
 勝手に左手が前に出る。
 ──これは俺の意志じゃないぞ!?
 次に左足を前に出す。
 今度は、勝手に右手が前に出る。
 ──これも俺の意志じゃないぞ!?
 
 やはり、俺の身体じゃないのか!?
 って、これが普通の反応やねん!(ビシッ)
  
  ……一人ボケツッコミまで出来るところをみると、どうやら先の心配は杞憂だっ
たようだ。
 俺は胸をなで下ろした。
 
 そうなると、自分以外のものに目を向ける余裕が出てくる。
 ここは一体なんだろう。
 いや、夢なんだからこんなことを考えたところでどうにもならないことは分かっ
てるんだけど、やっぱり釈然としない。
 目が覚めるまで、ボーッとしてるしかないのか。
 何でもいい、何かほんの些細な変化がないか、俺がぐるりと見回していると、
 あっ──!
 この世界を切り裂くように、光。
 目を凝らして見てみると、こちらに向かってわずかに開かれたドアとおぼしき物
があるのが分かる。そこから黄色い光が漏れ出ているのだ。
 一体いつの間に……?
 さっきは気付かなかった。
 見落としていたということはあり得ない。
 黒しかないこの世界で黄色の光を見過ごすなんて考えられない。
 ということは、俺が一人ボケツッコミやってる間に出現したのだろうか。
 まあ、何だろうと関係ない。取るべき道は一つ。
 俺はそこへ向かってまっすぐ駆けた。
 どうせ夢だ。
 あの先に何が待っているのか知らないが、こんなところでボーッとしてるよりは、
はるかにマシだろう。
 
 真っ暗でも、障害物が何もないから走るには不自由しないが、代わりに目印にな
る物もないので距離感がいまいちつかみにくい。
 ちゃんと近付いていってるのか疑問だったが、それでも、ほどなくして俺はドア
のノブを握ることが出来た。
 はじめから開かれているので、ひねる必要はない。
 俺は腕を引いた。
 その途端、食欲を刺激するいい匂いが流れてきた。笑い声とともに。
「あはははは、もうやだぁ、弥生さんったら、冗談ばっかり」
 ……由綺の声だ。どうやら、弥生さんも一緒のようだ。
「はあ、おいしかった、御馳走様でした」
「デザートもありますよ、由綺さん」
「え、ほんと?」
 何だろう、食事をしていたのだろうか。
 いま気が付いたが、このドアの向こうは家のようだ。というより、ドアが家の一
部のようだ。だけど、玄関のドアではない。
 俺はしっとりと落ち着いた雰囲気の廊下に立っていた。
 ここから少し先にある部屋から、光と匂いと声があふれてくる。
 由綺の家ではないだろう。では、弥生さんの家だろうか。
「わあ、おいしそう! これ、弥生さんが?」
「はい。おなか、大丈夫ですか?」
「うん! 甘い物は入るところが別だもん。でも、なんか、食べるのもったいない
ような気もするけど……やっぱり、いただきま〜す」
 一体どんなのかちょっと見たかったが、それ以上に気になることがある。
『弥生さんったら、冗談ばっかり』
 ──弥生さんが冗談を!?
 これは非常に興味深い。なんとしても聞かねば。
 だけど、俺が出てきたら彼女は口を閉ざすかもしれない。
 ここは隠れて聞いておくべきだろう。そのうち、言うかもしれない。
 でも、それ以前に、これ、夢だからなあ……。
 ここで弥生さんが冗談を言ったところで、それは本当に弥生さんが言ったわけじ
ゃないんだもんなあ……。
 やっぱりどうしようか、俺も一緒にまぜてもらおうか、などと逡巡していると、
急激に視界がぼやけてきた。
 な、なんだなんだ。
 もしかして、夢から覚めたのか?

 ……いまや視界はグチャグチャになり、眼に一体何が映ってるのか、何を見てる
のか全然分からない。
 やっぱり、このまま目が覚めるのかな……う〜ん、ちょっと残念だ。
 だがそうではないらしく、だんだんと元に戻ってきた視界にはある部屋が映し出
された。それは俺の部屋ではない。というか、部屋というべきではないかもしれな
い。なぜなら、そこは風呂場だからだ。
 まさか、寝ぼけて風呂場で眠っていた俺が目を覚ましたのか、とも思ったが俺の
アパートの風呂場はこんなに広くはない。
 ここはどっちかっていうと、浴場って感じだ。ともすれば「大」がつくほどの。
「──弥生さんって、胸、おっきいね……」
「まあ……そうですね。でも、由綺さんのも可愛らしくて、とても素敵ですよ」
「う〜ん、そう言われても、あんまり嬉しくないなぁ……」
「大丈夫です、由綺さん。あなたなら、形で勝負できます」
 なにやら面白い会話が聞こえてくる。
 思わずそちらに顔を向けると……おおっ!?
 二人の女性が身体を洗っていた。言わずもがな、由綺と弥生さんである。
 夢だけあって、いきなりな展開だ。
 二人とも長い髪をアップにしてタオルでまとめている。
 なんかもう、メチャメチャ色っぽい。
 ほんのり頬を上気させた由綺にしばらく見とれていたが、肝心なところは湯けむ
りが邪魔でよく見えない。
 ああっ、くそう、もう少しなのに!
 対照的に、弥生さんの方はなぜか湯けむりが邪魔することはなかった。
 彼女の裸身は雪のように白く、豊かな胸や引き締まった腰、大事な部分の淡い翳
りまではっきりと見える。
  熱の方から避けてゆくのか、頬を上気させることもなければ、身体を火照らせた
様子もない。いつもながら温度を感じさせない人だ。
 ……それにしても、入浴シーンが出てくるなんて、もしかして、俺、たまってる
のかなぁ。
  ……まあ、それはいいとして、このまま見てていいのか、藤井冬弥!?
 恋人の裸身を夢の中でしか見れないなんて、かっこ悪過ぎだぞ!
 いやいや、でも夢なんだから別にいいんじゃないか? こうなったら3Pだ、3
P! 夢だからこそ出来ることをやるべきだろ!?
 またもや、俺が逡巡していると……
「あ、あれ?」
 戸惑ったような、由綺の声。
「か、身体が……?」
 んん?
「あ、あれれっ……?」
  どうしたんだろう。
 由綺は糸の切れた操り人形のように力無く膝をついた。
「か、身体に力が入んない……」
「申し訳ありません、由綺さん」
「え?」
「食事に、筋肉弛緩剤を入れました」
「えっ? えっ?」
 な、なに!?
「ど、どうして?」
「私、もう我慢できないのです」
 お、おいおいおい。
「や、弥生さん……?」
 弥生さんは動けない由綺の背後にまわり、後ろから由綺の身体をそっと抱きしめ
た。そのまま、由綺の小さな耳の後ろ側に唇をつけると、いとおしそうに舌を這わ
せる。
「あっ……や、弥生さん……」
 そして、彼女は由綺の二つの膨らみを優しく揉み上げ……ってお〜〜〜い!
 そ、そんなこと俺でもやったことないのにぃ〜〜〜!
 ど、どうする!?

1  しょせん夢だ、最後はどうなるのか見極めよう!
2  いや、夢とはいえ俺の由綺にそんなことされてたまるか! 絶対阻止だ!
3  今こそチャ〜ンス。3Pだ、3P!  これっきゃない!!

  だが、俺がどれにしようか迷っていると、ふと身体が動かないことに気が付いた
……って、ええっ!?
 じゃ、じゃあ「1」しか選べないじゃないか〜〜!
 その間にも、女体を知り尽くした弥生さんの指と唇は(わ〜、やらしい表現)動
けない由綺の身体にどんどん火をつけていく。
「あっ……はっ……や、弥生っさあん……」
 膨らみの頂点に息づく蕾をもてあそび、首筋を這わせていた舌を耳の中へ……。 ──「1」は選択外だ〜! こんなの生殺しだ〜!
 くっ、くっそお〜〜〜動けぇ〜〜〜俺の身体ぁ〜〜〜!!!
 うおおお〜〜〜〜〜っっっっ!!!! 
  頑張る俺の目の前で由綺は恍惚とした表情を浮かべている。
 抵抗する素振りは……無い……。
 身体が動かないんなら仕方ないけど、せめて拒絶の言葉を吐いてくれ〜〜。
  だが俺の心の叫びもむなしく、二人は唇を合わせると舌を絡ませ始めた。
 うわあーーーーーー〜〜〜〜〜〜!!!!!!??????
 ゆ、由綺〜〜〜〜〜!!!!!
 合わせた唇はそのままに、弥生さんの手のひらは今も由綺の胸を愛撫し続けてい
る。舌を踊らせたまま、由綺は時折鼻にかかった小さなうめき声をもらしながら、
弥生さんの行為を受け入れていた。
 ゆ、ゆきぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!
 俺の心の叫びはもう涙声だ。
 ようやく弥生さんが由綺を情熱的な口づけから解放したとき、離れてゆく二つの
唇を細い線がつなぎ、糸を引いてスッと切れた。
 それから弥生さんは右手を胸に残し、左手を下の方へ向かってゆるゆると滑らせ
始めた。由綺の息はますます上がってゆく。
 なだらかな曲線を描く(と思われる)下腹部を通り、足の付け根へ到達すると、
彼女は細長い指を由綺の一番大事な部分へそっと忍ばせた。
「や、弥生さん……そこは……!」
「うふふふふ……とっても可愛いですわ、由綺さん……」
「はっ……んっ……や……やよい……さあん……」
 うっうわあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!
 動けぇぇぇぇぇ動けぇぇぇぇぇ俺の身体ぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!
 うがああああああああああああっっっっっっっっっ!!!!!!!!!



「うがああああああああああああっっっっっっっっっ!!!!!!!!!」

 がばあっ!!!

「…………」
 気が付くと、そこは見慣れた部屋だった。
 呆然と室内を見回す。
 俺の部屋だ……。
 寝間着代わりのTシャツが寝汗でビショビショだ。
「……は、ははっ……」
 とてつもなく乾いた笑いが虚ろに響きわたる。
 俺はがっくりと首を落とした。
「……なんて夢を見るんだ、まったく……」
 俺は頭を振り振り呟いた。そして、あんな夢を見た理由に思い当たる。

『由綺さんを愛しています』
『彼女を抱きたいと思ったことも、一度ならず有ります』

 昨日、弥生さんの口から聞いた言葉だ。俺はため息をついた。
「だからって、いきなり夢に見ることもないだろうに……」
  でも、俺はどうも起きてるときにあった出来事をすぐ夢に見てしまうようだ。
 先日、はるかと話してたときにあいつの思いきり端折った説明を聞いて、その夜、
彰が子犬を生んだ夢を見てしまった。まあ、由綺や理奈ちゃんにそのことを話して、
しっかりウケはとっといたけど。
  俺はもう一度ため息をついた。
 それにしても、もったいなかったかなあ。せっかく由綺の裸が見れると思ったの
に……くそっ、あの湯けむりめ、許さん!
 夢の分際で、よりによって由綺だけを隠すとは……ってあれ……?
 そういえば、俺……由綺の裸……一度も見たことないんだよな……。
 でもって、弥生さんの裸は見たことがあると……。彼女とは、何度か肌を合わせ
たことがあるから……いや、もちろん好きあってそうしたんじゃなく……って、何
を言ったところで由綺を裏切ってることには変わりないんだけど……。
「…………」
 なんだ。
 つまり、由綺の裸がよく見えなかったのは、俺が彼女のラインをよく知らないか
らじゃないか……。まあ、少なくともナイスバディじゃないことは知ってるけど…
…。でも、大丈夫だよ、由綺。俺はそんなところも含めて由綺のことが大好きさ。
 俺は頭をぼりぼりと掻きながら、さっきの夢を思い浮かべた。
「明晰夢ってやつだよな……」
 はっきり夢と知覚してたんだから……って待てよ、そういえば……よその会社な
らいざ知らず、リーフの明晰夢はやばい。この場合、実際に起こってる可能性が高
いんだ。
「…………」
 と、なると……由綺が弥生さんに……!?
 いや、まさかそんな……大体そんな事して、万が一由綺のマネージャーやめさせ
られたら弥生さんは自分の夢を叶えられなくなる。いくらなんでも、そんな馬鹿な
ことは……でも、もし由綺が弥生さんにメロメロになってしまったら……あの超絶
テクニックで由綺を虜にしてしまったら……。
  ああっ、俺はどうすればいいんだ!?
 頭を抱えて苦悶していると、

 Prrrrrrrrr……。

 静寂を打ち破るように、電子音が鳴り響いた。
「──誰だろう、こんな朝っぱらから……」
 のっそりと布団から出て、テーブルの時計を見る。
 それはBOOK型置き時計で、自然を感じる天然木素材に制服を着た二人の少女
──そのうち一人は髪をリボンで結わえ、もう一人は耳にカバーを付けている──
がレーザーエッチングされており、メタルプレートには俺の名前が彫刻されている。
 由綺からプレゼントされた物だ。
「……ん〜? ……11時半!?」
 全然朝っぱらじゃないじゃないか! 俺は慌てて自己主張を続ける電話のもとへ
急ぎ、受話器を持ち上げて耳に押し当てた。
「はいっ、もしもし」
 あ、いかん。声がちょっと大きくなってしまった。
 しかし、相手の人は気にした様子もなく、きわめて冷静な口調で……
「……藤井冬弥様でございますでしょうか」
 げ。この声は……
「や、弥生さん……」
 俺の声はうわずっていた。瞬間、脳裏に由綺と彼女とのラブシーンが浮かび上が
る。
「あ、お、おはようございま……あ、もう昼か……いや、でも、挨拶はいつもおは
ようだっけ……いやいや、ここは局じゃないから……」 
 一人うろたえる俺に構わず、弥生さんは冬を感じさせる声でこう言った。
「藤井さん……私、あんな鬼畜外道な事、しませんっ……!」

 ぶつっっっ!!! 
 つーっ、つーっ、つーっ、つーっ………。

「…………」
 弥生さん……。
 俺の電波が届いたの……?



*************************************
どもども。
こっちには初めて書き込みます。
痕と思われた方、結構多いことでしょう……ふっふっふ。
しっかし……だらだらと長い割にはこの程度か……。
ふぅ……。 


ギャラ様
  うおおおぉぉぉっっっ!? か、感想だぁ〜〜〜!
  いや〜、こっちの方は全然チェックしてませんでしたから、余計に嬉しいっす!
  一粒で二度おいしいってやつですね!(何のこっちゃ)
    もし、以前の作品にも感想書いてくださったのでしたらその分もまとめて、
  どうもありがとうございましたーー!!
  でも、ちょっと悔しい。もっと以前から目を通してたら……くうぅっ!
  これからはちゃんと見ようっと。
     

これって18禁になりますよねぇ……。
転載伝言板の方には書き込むのやめとこ……。
後から気が付いたけど、由綺は体型維持のためにあんまりバクバク食べちゃいけな
いんだよな……ま、いいか、夢だし。
夢の中ぐらい、たらふく食べさせてあげよう。
ではでは、由綺ファンと弥生ファンと冬弥ファン(念のため)に殺される前に、
とっとと退散〜。


ジャンル:ギャグ/WA/冬弥、由綺、弥生
コメント:出だしで騙されないよーに(笑)    18禁(多分)