LF98(11) 投稿者: 貸借天
第11話


「すっごかったね、浩之ちゃん!」
「……まあな」
「剣なんか飲み込んだりしてホントに大丈夫なのかな!? おなか、怪我とかして
ないのかな!?」
「……さあな」
「大型兄妹って人たちもホントよかったよね! 『大陸一の芸能人、緒方兄妹のバ
ッタモンです』って言ってたけど、あんなに大きな身体してすごい身のこなしだし、
ダンスも二人でピッタリと一致してたし、もう本当に面白かったよね!!」
「……そうだな」
「もうサイッコーだよね! リーフ神ばんざーい!!」
「あ、あかりちゃん、もう少し落ち着きなよ……」
 一人でやけに盛り上がっているあかりを苦笑いを浮かべた雅史が止めようとする。
しかし……
「ダメだよ、雅史ちゃん! もっとノリノリでいかなきゃ! ノリノリで!」
「は、ははは……」
 もはや笑うしかない。
「ほら、雅史ちゃんも一緒に、リーフ神ばんざーい!!」
「ば、ばんざーい」
 諸手を上げるあかりと雅史は周りから思い切り注目の的となっていた。浩之と志
保は他人のフリをしている。
「ほらほら、志保、どうしたの!? 暗いよ! ダーク入ってるよ!」
(ゲッ)
 こっそり人込みに紛れようとしていた志保はあかりに肩をつかまれ、逃げるに逃
げられなくなってしまった。
「あ、あははは……。ど、どうしたのよ、あかり。なんでそんなにハイになってん
の?」
「決まってるじゃない、今日はお祭りなのよ!? カーニバルだよ!? フェステ
ィバルなんだよ!? 人生バラ色〜!! きゃはははははっ」
 あかりは両手を広げて、くるくると回転し始めた。
「タ〜ラちゃーん、イクラちゃーん、ジャ〜イア〜ン……♪」
 おまけに、なにか歌ってるし。
「ヒロ〜。なんとかしなさいよ〜」
「俺は赤の他人……」
「あ、そんな薄情なこと言うわけ!? なんだかんだいっても、ヒロってそんな奴
なのよね〜」
 何故か勝ち誇った顔をする志保。
「なんか気に入らねーな、その顔……。まあそれはいいとして、自分でやりゃいい
じゃねーか。いちいち俺を巻き込むな」
「なによ〜、あんたの幼なじみでしょ〜? あ、もう一人の幼なじみの雅史はすで
に殺られちゃったから、そこんとこ、よろしく」
「勝手に殺さないでよ、志保」
「何がよろしくなんだか……」
 雅史はいつもの苦笑で抗議し、浩之はジト目で呟いた。
「なによなによ、二人がかりで! 男らしくないわよ!」
「なに、わけのわかんねーこと言ってんだ、お前は?」
「だーっ、もういいから早くあかりを止めなさいよ〜!」
「ラン、ランララランランラン、ラン、ランラララン。ランラン、ランララランラ
ンランラン、ララララランランラン……♪」
 あかりは、いつの間にか曲を変えていた。
 しかし、この場にはあまり似つかわしくないような……。
「ああ、判った判った。ったく、しょうがねえなあ……」
  志保のしつこい要請にブツクサ言いながらも、ついに浩之が出動することになっ
た。
「あかり! ハウス! ハウス!!」
 浩之が手をパンパンと叩きながら叫ぶ。すると、あかりは歌も回転もピタリとや
め、急におとなしくなった。
「よ〜し、いい子だ」
 浩之はあかりの頭をなでてやる。
「あ、あれ? 私いったい……?」
 あかりは疑問符を頭上に四つぐらい浮かべて浩之を見上げた。
「っとに、世話の焼ける奴だな」
「え? え?」
「やるじゃない、ヒロ。一発でおとなしくさせるなんて」
「ふふん。年季が違うんだよ、年季が」
「え? え?」
 一人事態が飲み込めていないあかりが目を大きく開けて、その視線を浩之と志保
の間で行ったり来たりさせる。
「さすが、神岸あかり研究家よね」
「誰がだよ」
「え? え?」
「アンタよ、アンタ。あかりが言ってたわよ」
「バカ、そりゃ逆だ。俺が、じゃなくて、あかりが、藤田浩之研究家なんだよ」
「え? え?」
「あら、そうだっけ?」
「そうだよ、ったく……。ああ、そうか、判ったぞ。そうやってお前が事実を勝手
に歪めるから、志保ちゃん情報ってのは信頼率がやたらと低いのか、なるほどなる
ほど」
「え? え?」
「こら、ちょっと! いまのは聞き捨てならないわね! 誰の情報が……」
「あ、あのさ、二人とも。盛り上がってるとこ悪いんだけど……」
「え? え?」
 あかりは相変わらずの調子で、今度は雅史に視線を向けた。
「お前は、いい加減落ち着け」
 浩之があかりの額をペシッと叩く。
「ふみん……いたい……」
「で、なんだって? 雅史」
 たいして力は入れてないはずだが、額を両手で押さえて情けない声を上げるあか
りは置いといて、浩之は彼に尋ねた。
「う、うん。その、早くここから離れた方がいいと思うんだけど……」
「あん?」
 と、彼はそこであることに気付き、ふと周りを見渡してみる。すると……、

「「「「「「………………」」」」」」

 すべての人間が浩之たちを見ていた。
 一言も漏らさず。
 そして、誰も彼もが興味津々の目つきである。
「…………移動すんぞ」
「そ、そだね」
「そ、そうしましょ」
 あかりは物も言わずにこくこくと首を縦に振る。
 彼らは急ぎ足で静寂が支配するその場から離脱した。大勢の人間に見送られなが
ら。


  強烈な西日に照らされた王都蛍崎は、いろいろな意味でのお楽しみの夜が近付く
につれ、ますます賑やかになっている。
 人々のなかにはすでに酒を呑んで赤くなった顔や、隣を歩く恋人との甘い時間を
意識して赤くなった顔を、夕陽の茜色で誤魔化している者も少なからずいることだ
ろう。
 また、祭りという雰囲気に大いに浮かれた人間たちが入れ替わり立ち替わり出入
りする、軒を連ねる出店や立ち並ぶ建物たちも人間の持つ正の感情に満たされ、喜
んでいるように見えた。
 そんな、歓喜にあふれた夕暮れの大通りを彼らは歩いていた。
「──やれやれ、志保のせいでえらい目にあった」
「なんであたしのせいなのよ!」
 浩之の言葉にすかさず噛みつく志保。しかし彼はそれ以上取り合わずに、
「ところで、ここはどの辺だ? なんかもう適当に動き回ったし、人は多すぎるし
で判らなくなっちまったぞ」
 辺りを見回す。
「……何よ、なんか張り合いないわね」
「なんだって? 聞こえねーぞ」
  ボソッと呟いた志保に浩之は顔を寄せた。
「多分、大葉通りの八番街って言ったのよ!!」
「……志保〜、てめえ、こんなに顔近付けてるときに突然デカい声出すんじゃねえ
よ……!」
 浩之は耳を押さえて顔をしかめながら、彼女を半眼でにらむ。
「あ〜ら、それは失礼」
「お前なあ……!」
「ちょっと二人とも、それくらいにしておいた方がいいよ。また注目の的になっち
ゃうよ」
 雅史が仲裁に入った。あかりは眉毛を困ったような八の字にしている。
 浩之はまだ何か言いたげだったが、不服そうに押し黙った。志保も口をつぐみ、
周りを見渡す。今はまだ大丈夫のようだ。
「で、これからどこ行こっか?」
 気を取り直してあかりは浩之に尋ねた。
「そうだなあ……。あかりはどっか行きたいとこ、ないのか?」
「私? う〜ん、何でもいいけど……。どれを見ても珍しくて面白そうだから」
  逆に尋ねられたあかりは小首を傾げ、少し思案して答えた。
「雅史は?」
「僕も何でもいいかな。浩之に任せるよ」
「志保はパス。よし、じゃあ、あっちの……」
「ちょっとヒロ! なんであたしはパスなのよ!」
「お前も何でもいいんだろ?」
「勝手に決めつけないでよ。ちゃんと見たいものがあるんだから」
 浩之は少し意外そうな顔をした。
「へえ、何だ?」
「んっふっふ。知りたい?」
 何故か唇の片端を上げる志保に、しかし彼は、
「いらん。よし二人とも、行くぞ」
 あっさりと言い放ち、彼女に背を向けた。
「ちょっとお〜っ、ここまで来たんだから最後まで言わせなさいよ!」
 憤慨する志保に肩を揺さぶられて、浩之はしぶしぶ振り返った。
「判った、判った。で、何を見たいんだ?」
「んっふっふ。知りたい?」
「いらん。よし二人とも、行くぞ」
「ヒロ〜〜〜〜〜!」
 またも憤慨する志保。
「だったら、早よ言わんかい! 前置きが長いんだよ、お前は!」
 浩之も負けじと怒鳴り返す。
「物事には順番ってものがあるのよ!」
「ああ、そうだな! ここまで順番通り来ました! さあ、志保、お前が見たいも
のを言う番だ!」
「い〜え、まだよ! あたしが『知りたい?』、んで、あんたが『知りたい』。
 そこで、あたしが『しょうがないわねえ、じゃあ教えてあげる』となって、はじ
めてあたしが言うのよ! というわけで、もう一度最初から……」
「じゃかぁしわい! だから前置きが長すぎんだよ! お前がとっとと言えばそれ
で終わりだ!」
「物事には風情ってものがあるのよ!」
「関係あるかいっ!」
「「ふ・た・り・と・も〜」」
 雅史とあかりが声を揃えて二人を止めた。しかし、もう時すでに遅く、彼らをチ
ラチラと見て行きすぎる者たちが何人かいた。
「いい加減にしてよ。このまま置き去りにして行っちゃうよ?」
 雅史が口をへの字にした。
「あ……わりぃ」
「ヒロが素直じゃないのがいけないのよ」
「あのなあ、志保……」
「ストップ! そこまで!」
 再び口論がはじまる前に、あかりが素早くチェックを入れた。
 そして彼女は志保に顔を向け、
「で? 志保。何を見たいの? 私、知りたい」
 にこやかに問いかけた。
 その屈託のない笑顔に、志保はやや気圧され気味に、
「あ……う、うん。いやあ、それがね。どうもこの蛍崎に、あの緒方兄妹が来てる
らしいのよ」
 はたして、三人は目を丸くした。だが、浩之はすぐに胡散くさげな眼差しになる
と、
「また、志保ちゃん情報か? どこまで本当か怪しいもんだ」
「これは確かな情報よ! 市長のところに契約に来てたって話……!」
 言葉半ばで、志保は固まっていた。その瞳は呆然と、ある一点を見つめている。
「…………?」
 はじめは自分を見ているのかと思ったがそうではなく、どうやら自分の後ろにあ
る何かを見ているらしい。そう思った浩之は振り返り、彼女の視線の先を追った。
 そこは薄暗く細い路地で、その先には今いる通りと平行して道が走っている。お
そらく裏通りだろう。路地の距離は三十メートルあるかないか、というところか。
 志保は路地の先──つまり裏通りを見つめているようだった。
「おい、志保。いったいどうしたんだよ?」
「あ……う、うん。その……いま話してた緒方兄妹の兄の方が見えたから……」
「はあ? 裏通りにいたっていうのか? そんなわけあるか、バカバカしい」
「志保ちゃんアイは、大事なものを見落とさないのよ!」
 浩之は呆れた表情で裏通りから視線をはずし、彼女の顔を見て何事かを口にしよ
うとした。だが、それを実行に移すまさに一瞬前──
「!──!?」
 四人の女性がそこを駆けていくのが彼の目に入った。
「今のは……理緒ちゃん!?」
 浩之は駆けていった四人の中に見覚えのある顔を見出して、思わずその名を口に
した。
「あら、あんたにもそう見えた?」
 志保は視線をそのままに尋ねる。
「ああ。っと、そういやお前、理緒ちゃんと知り合いだったっけ?」
 浩之も志保とそっくりの状態を保ったまま尋ね返す。
「もちろんよ。勉強不足よ、ヒロ。あたしが中庭で志保ちゃん情報を提供している
CGがあって、その聞き手の一番右側に彼女がいるのよ」
「へえ……。言われてみると、あったような、なかったような」
「それよりももっと大事なことがあるわ。一人は雛山さん、一人は知らない子で、
残り二人の内、一人は緒方兄妹の妹の方よ」
「マジか?」
 いつになく真剣な彼女の様子につられたか、浩之の声にも同じものが宿っている。
「それだけじゃないわ。最後の一人、おそらくは悠凪第二王女の……」
「ねえ、さっきから何の話をしてるの?」
 困惑顔のあかりが割って入ってきた。そして、その時、
「「!」」
 見つめ続ける裏通りを、今度は剣を持った男たちが駆けていくのが見えた。いや、
今でも見えている。数は結構多いようだ。
「雅史! ついて来てくれ!」
「う、うん!」
 浩之が路地に飛び込み、雅史が後に続く。
「あかり、あんたは残ってて!」
 志保もまた暗がりへと消えた。
「え?……わ、私も行く!」
 わずかな逡巡の後、あかりも三人を追って影の中へと踏み込んだ。




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なんか、前回のあとがきでアホなことを書いてしまった。
年下をさん付けで呼ぶことの、どこが変やっちゅうねん。
千鶴は「耕一さん」と呼ぶし、弥生は「由綺さん」「藤井さん」と呼んでる。
まったく問題ないやんけー!
さて、困ったぞ、理奈にどう呼ばせよう。
柏木さん?  雛山さん? 
初音さん? 理緒さん?……こ、これはちょっと……。
でも、今更変えるのもなあ……このままで行くしかないか。

CGのお話。
「TO HEART」いま、手元にないので確認できないのですが……あってたか
なあ。確かに、理緒がいたと思うんですが……。

歌のお話。
あかりが二番目に歌っていたのはいったい何でしょう? 大抵の人が判ると思いま
すが……。一番目は気にしないで下さい。あれは俺もよく判らん。



MA様

 リーフ図書館はやけに軽いのか、すぐ表示されるものですから最近はあっちに入
り浸ってました。で、ひさびさに本家を覗いてみると……。
 やー、お久しぶりですー。
 一ヶ月以上(多分)全然お姿をお見かけしませんでしたから、もしかして引退な
さったのかなあと思ってたんですが……良かったです。
 おおっ、「その二」だー。こういうこと書いてもらえると、すごく嬉しいです。
 んー、両方とも……ちょっと無理かも。
 実は、俺、パトレイバー読んだことないんですよ。今、連載中の「じゃじゃ馬〜」
なら一応読んでますが……。でも、競馬は詳しくないから内容あんまり理解してな
いんですが(笑)。
 でも、それ以前に長瀬刑事は柳川と一緒でないと。そのうち、柳川も刑事として
登場させる予定ですし、そして彼の上司はやっぱり長瀬です。
 矢島の方は面白いなあ……。でも、浩之たちは別の街に住んでますので(矢島の
実家もそこにある)、都に出て立派な騎士になって帰って来たとしても、その頃に
はあかりに忘れ去られているかも(笑)。一応、矢島は別の使い方を考えてあるの
ですが……登場せずに終わる可能性「大」(笑)。
 というわけで、弥生の部下たちはもちろんいますが、存在感ゼロとして扱うこと
になると思います。要するに、名前だけ。んで、弥生は由綺の第一の側近で近衛騎
士の隊長ですから直属の上司はいない……かな? あえて言うなら由綺(えー?)。
この辺りの階級制度は詳しくないので適当です(いいのかなあ)。
 アイデアだけならいろいろあるんですけどねー。柳川VSドラゴンとか。
 史上並びに地上最強の種族であるドラゴンの命の炎なら柳川の本性も満足するで
あろう。年に一度、長い休暇を取って闘いに行ってることにしよう……そこへ、耕
一たちやこの世界のドラゴン・スレイヤーたち(オリキャラ)を絡ませて……とか。
ちなみに、ドラゴンとタイマン張れる奴はリーフキャラの中に少なくとも五人はい
ます。柳川と耕一と、あとは秘密(千鶴たちにあらず)。
 まあ、この辺りはあくまで構想の段階ですので実際に書くかどうか判りません。
ひょっとしたら、由綺救出で筆を置くかもしれません。出来ますれば、その時まで
お見捨てなきよう……(笑)。

 それにしても、柏木一族(っていうか、エルクゥ)を扱うのって難しいですよね
ぇ。本性に勝つか、負けるか。
 「コンタクト」では宇宙中に散って傭兵をやっているそうですが、彼らはみな本
性に打ち勝ったってことですよね。では、負けた者たちは……? やはり同族に殺
されたのか、あるいは自害したのでしょうか。痕本編では命の炎見たさに同族です
ら、手に掛けようとしていたし、なかにはそんな連中もいるんじゃないかと……。
でもって、さらには「死ぬのはまっぴら御免」って者たちが上手く逃げ出して、宇
宙の片隅で彼らを追ってきた同族と激突!……とか。あるいは、地球などよりはる
かに進んだ科学技術で、本性を押さえる装置を発明したのさ!……とか(笑)。い
や、本性に負けたとしてもエルクゥって別に狂ってるわけじゃないから、敵味方無
差別に殺しまくったりしないで、ある程度の我慢は出来るのかなあ。なんか判らな
くなってきました。
 柳川もよく判らないし……痕本編では完敗してましたが、LF97では打ち勝っ
てて(?)、でも命の炎を見るのは大好き(笑)だし。
 このSS(って呼べるのか? これ)ではどうしようか、ちょっと悩んでます。
 いや、柳川登場まで書くかどうか、まだ判りませんが……。
 うわ〜〜、なんて長さだ。ダラダラとすいません(汗)。



HMR─28様

 ワイズ長瀬……? ワイズ……ワイズ……確か、どっかで……。
 そんな事を考えながら読んでました。
 そして、最後の「戦え! パル志保ン!」を見て、「あ〜〜、これ、カプコンの
アレかい!」と、判ってなんか嬉しくなりました。
 格ゲーは大体カプコンのばかりやってますので……(たまにSNK)。
 でも、最近全然ゲーセンに行ってないし、このゲームもやったことがない……。
 感想ありがとうございました。