LF98(8) 投稿者: 貸借天
第8話


 散らばっていた意識が収束しつつある。
「う…うう……ん」
 そして彼女は、自分のうめき声によってはっきりと覚醒した。
「…………」
 はじめに視界に飛び込んだのは、黒く汚れた天井だった。いや、汚れているのは天井だけではない。ひと続き
になっている壁や床、そして空気ですら黒く汚れている気がした。薄暗いから、そう感じているだけかもしれな
いが。
「…………」
 硬い石の床で仰向けに寝かされているらしい。だが、短時間で目を覚ましたらしく、身体はそんなに痛くない。
いや、殴られた腹部はまだ少しズキズキするが。そして、頭部はとても柔らかい物の上に乗せられていて、少し
暖かかった。
「あ、目が覚めた?」
 かわいらしい声が耳朶を打つ。
 彼女はゆっくりと上半身を起こし、身体ごとそちらへと向き直った。
「大丈夫?」
 少し首を傾げて、心配そうに尋ねるその仕草がいかにも似つかわしいような、そんな可憐な少女がそこにいた。
「え…っと……」
 彼女は記憶をさかのぼった。そしてすぐに思い出す。
「こ、ここって……」
「牢屋…みたいなものかな……」
 やっぱり……と彼女は沈んだ声を出した。
 バイトの休憩時間中、見物のために少し遠くまで行ったので、近道として裏通りを走っていると2人組の男に
襲いかかられたのだ。必死に抵抗して大声で悲鳴を上げたが、表通りの人間に聞こえるわけがない。なにしろ今
日はリーフ祭なのだから。そして彼女は、腹部への一撃で気を失った。
「裏通りは、やっぱりまずかったよね……。はあ……」
 店長怒ってるだろうな……と、彼女は呟いた。
 その呟きを耳にして、少女――初音がクスリと笑った。
「なに?」
「あのね、私たちね、捕まっちゃったんだよ。奴隷商人に」
「奴隷商人……そうなんだ……。ああ、それで……。のんきな人だなあって?」
「ご、ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったんだけど……でも、なんか、つい……」
 ごめんなさい、と初音はまた頭を下げた。
「ううん、いいよ。……ところで、その人は……?」
 彼女は、初音の膝枕で眠っている娘を不思議そうに見た。
「あ、この人? 私の次に連れてこられたんだけど、ずっと目を覚まさないの。でも、ちゃんと息はしてるから」
「そう……。あ、そっか。私はこの人の……」
 彼女は目を覚ましたとき、柔らかくて少し暖かい物の上に頭を乗せていることに気づいたが、それはこの娘の
太腿だったのだ。
「あなたがやってくれたの?」
「うん……」
「ありがとう」
「うん」
 初音がにっこりと微笑んだ。と、その時、
「う……ん……ん……?」
 眠り姫が目を覚ました。だいぶ眠ったのと、すぐ頭上でやりとりがあったからだろう。
「…………」
 ゆっくりと目をあける。そして……、
「え……? あれ? あれ?」
 娘はあわてて起きあがった。
「えっと? ……あれ? あれ? あれ?」
 まだ事態がよく飲み込めてないらしく、あきらかに混乱している。
「お姉ちゃん。落ち着いて落ち着いて」
 苦笑しながら初音が声をかける。
「こ、ここ……どこ?」
 落ち着かなげに、娘がキョロキョロする。
「あのね、お姉ちゃん。私たち捕まっちゃったの、奴隷商人に」
 初音は再びそのセリフを口にした。
「ど、奴隷商人……?」
「うん……」
 娘は一番最後に残っている記憶を拾い上げた。
 確か、裏通りを走ってて、いきなり肩をつかまれて、見知らぬ男の顔が視界に入って、腹部に衝撃が走って、
それから……。
「それから……」
「気絶したお姉ちゃんをここに運んできたんだと思う……」
「そんな……」
 と、そこで身体の節々がズキズキすることに気づく。
「いたた……」
「あ、大丈夫? お姉ちゃん、この硬い床でずいぶん長い間眠ってたから……」
「そ、そうなんだ……。え? ずいぶん長い間って……い、今何時かわかる!?」
「え? えっと……」
「私が捕まったときはもう夕方ぐらいだったけど……」
 返答に窮した初音に代わって彼女が答えた。
「ゆ、夕方……。冬弥君とお昼に約束してたのに……」
 力なくうなだれる。
 冬弥君怒ってるだろうな……と、娘が小さく呟いてふたりはクスクス笑いだした。
「え? なに? なに?」
「あ、ううん。何でもないの、ごめんなさい」
「ごめんなさい。あ、ところで、あの、おふたりの名前教えてもらえないかな。どう呼べばいいか、わからない
し。私、雛山理緒っていうの」
 と、彼女は名乗った。
「あ、そうだね。私、鶴来初音です」
「私は森川由綺……です」
 悠凪の名は出さないでおくことにした。しかし……、
「え? 森川由綺って……ひょっとして……」
 理緒が素っ頓狂な声をあげる。
「う、うん。……悠凪の第2王女です。あ、でもさっきみたいに普通に話してくれていいから。私もその方がう
れしいし」
 由綺があわてたように言った。
「で、でも……」
「ううん、いいの、ホントに。街で知り合った友だちにもそうしてもらってるから」
 だからあまり気にしないで、と由綺は付け足した。
「えっと……じゃあ、あの、由綺さん……でいいのかな」
「うん」
 由綺はうれしそうに微笑む。
「街のお友達……って。お忍びで出かけたときに知り合ったとか?」
 初音が尋ねると、
「うん、そうなの。4人いるんだけど、なんかすぐに打ちとけちゃって。その内の3人は同い年で、1人は1コ
上なんだけど、みんなとは仲がいいんだよ」
「そうなんだ」
「うん。私が王女だって打ち明けて、今まで通り付き合ってほしいって言って、それからずっと」
 由綺がまたうれしそうな表情をした。
「あの、お城での生活ってどんな風ですか?」
 由綺は理緒に困ったような笑顔を向けた。
「……あ、でもその、一応年上ですから……」
「あ、そうなんだよね」
 と、初音が思い出したように言った。
「別にいいのに……」
 由綺がションボリとうつむく。
「あ、えーと。あの、私いろいろバイトやってきてずっと目上の人と対してたから、こういう口調が慣れてるん
です。あ、初音ちゃんは普通に話してあげてね」
 理緒と由綺がじっと初音を見る。
「う、うん。由綺さんがそれでいいのなら……」
「うん」
 と、由綺が笑った。
「それで、あの、お城って……」
「ああ、うん。えーと、どういえばいいかな。なんか窮屈っていうか……想像してるほどそんなにいいものじゃ
ないんだ……。礼儀作法にうるさいし、覚えないといけないことがたくさんあるし。
 ……好きな人は選べないし……ごにょごにょ」
「え?」
「う、ううん。あとね、私はよくわからないんだけど、貴族の人たちは、上流の物は中流、下流の動向に目を光
らせてるし、中流の物は下に注意し、上の隙をうかがってて、そして下流の者は上のふたつに取り入ろうと躍起
になってたり。最近は特にそういうのが多くてなんかギスギスしてるっていうか……」
 ふう、とため息ひとつ。
「……これって贅沢な悩みなのかもしれないけど……」
「そうなんですか……」
 と、理緒が呟いた。
「それで、半年ぐらい前にそれ関係でいろいろ嫌なことがあってうんざりしちゃって。それで、気分転換に初め
て内緒で街へ出かけたんだけど、その4人とはその時に知り合ったの」
「初めて街におりた時に知り合ったの?」
「うん。なんていうか、すごくラッキーだよね。いきなり街でお友達ができちゃったんだから」
 えへへ、と由綺がはにかむ。
「あ。ひょっとして由綺さん、さっきの冬弥君って人、恋人さんですか?」
「え? えっと…その……恋人っていうか……恋人になれたらいいなっていうか……」
 悪戯っぽい目で見る理緒に、由綺は照れ笑いを浮かべた。
「……あ、もしかして身分を気にしてる……とか……」
 と、遠慮がちに初音。
「たぶん……そうなのかな。結構ふたりだけで出かけたりもするし、私のこと意識してくれてるとは思うんだけ
ど、でも、まだはっきりと言われたことなくて。
 ……だから今日、私の方から告白しようと思ってたんだけど……」
 はああ……と、大きく息を吐き出す。
「そっかあ……。ああ、だから由綺さんなかなか目を覚まさなかったんだね。ゆうべドキドキして、あまり眠れ
なかったんでしょ?」
「あ、あははは……」
 由綺の頬がバラ色に染まった。
「なあ理奈。誰が心細くて不安で泣いてるんだって?」
「……言わないで、兄さん」
 その時、突然会話に割って入ってきた男女の声があった。
「え?」
 由綺がキョロキョロする。
「3人とも、なかなか図太い神経の持ち主だな」
「そうね。まったく、なんてのん気な会話なの? それとも自分たちが今、どういう状況に置かれているのか分
かってないのかしら」
 女のあきれ声とともに、由綺たちには壁が死角になって見えない部分から、ふたつの人影がスッと現れた。
 男のほうが懐から紙を取り出すと、所々に灯された明かりにかざし、
「似顔絵どおり………だな」
「ねえ、あなた由綺姫でしょ? この国の第2王女の」
 女のほうは牢屋越しに直接尋ねてくる。
「そ、そうですけど……あなた方は…あれ? えっと……まさか、そんな……」
 由綺は驚愕に目を見開いた。
「? ……どうかしたの?」
 女が小首を傾げる。
「あの、おふたりはもしかして……緒方兄妹さん……でしょうか……?」
 おそるおそるといったふうに由綺が尋ね、女が意外そうな顔をした。
「あら、光栄ね。一国の王女様に顔を知られてるなんて」
 おどけたように女が言い、由綺は顔を輝かせた。
「ウ、ウソ? ホ、ホントですか? あ、あの私、ぜひおふたりの舞台を一度拝見したかったんです。か、感激
です! あの、公演日には私必ず行きますから、あの……」
「「「「しーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」
 理緒と初音と男と女が唇に人差し指をたてて、いっせいに由綺を黙らせる。
「…あ、ゴ、ゴメンなさい」
「まったく、もう……」
 女──理奈があきれたように言った。
「で、でもそれじゃ、どうしてこんな所に……? も、もしかしてあなた方も奴隷商人に捕まっちゃったんです
か……?」
 英二は一瞬硬直し、理奈はガックリと肩を落とした。
「なるほど。弥生さんが心配するわけだ」
「彼女も大変ねえ……」
「弥生さんをご存知なんですか?」
 由綺が目を丸くする。
「くわしい話はあとだ。理奈」
「ええ」
 英二に促された理奈は鍵束を取り出して、とっかえひっかえ牢の鍵穴に合うかを試しはじめた。
「ひょっとして、救けに来てくれたんですか?」
「ひょっとしなくてもそうだってば。まさか、今気が付いたのかい? 普通はピンとくると思うんだけどなあ…
…。おまけに由綺ちゃん、顔を輝かせたのも違う意味だったし」
 英二としては苦笑するしかない。
「で、でも、だって、あの緒方兄妹さんが……それに一体どうやってここを…あ、弥生さん……ですか?」
「うーん、半分あってるけど、半分違うな」
 カチャリ。
 英二と由綺がやりとりしてる間に、理奈が問題の鍵を首尾よく見つけ出したらしい。錠のはずれる軽快な金属
音が、あたりに響きわたる。
「あいたわ」
 理奈が退き、そして囚われの3人が牢の外へと出てきた。
「うーーーーーん」
 理緒が思い切りよく伸びをした。牢の中も十分な広さがあるのだが、気分の問題なのだろう。
「あ、あの、どうもありがとう。なんてお礼を言っていいか……」
 初音がペコリとお辞儀する。
「礼を言うにはまだ早いぜ。今度はこの建物から脱出しないとな」
「あの、ここってどこなんですか?」
 理緒が英二を見上げた。
「うーん、俺たちも今朝蛍崎に着いたばかりでね、だから、ちょっと……」
「とにかく、すべては脱出してからよ。急ぎましょう」
 理奈の呼びかけに由綺、理緒、初音はコクンとうなずく。
「さてさて、無事脱出できるかな?」
「兄さん、不吉なこと言わないの」
 そして彼らは地上へと出る扉に向かって、静かに駆け出した。




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彼女の名前は『鶴来初音』。
じゃあ、彼女の長姉の名前は・・・?
答え、『鶴来千鶴』。
はっはっは。
もう笑うしかない。


今回はなんていうか、失敗作って感じだ。
話し言葉は変だし、会話内容も変だし。
あのがんばり屋の由綺が、うんざりすることって無いような気がするな・・・。
とにかく、今回はいろいろおかしいところがあるぞ。
でも、書き換えることが出来ない・・・はあ・・・。




久々野 彰様
  おー♪
  ほかにも読んでくれてる人がいたー。
  どうも、ありがとうございますー。
  下手なことって・・・どんなこと・・・?
  うーん、このお話、最後まで読んだところで見えてくるものなんて何もないですよ(笑)。
  テーマなんてないし・・・。こういうのってあんまり良くないんだろうなあ・・・。
  ギャグとか、パロディってわけでもないし・・・。
  剣と魔法の世界が好きだからって理由で、はじめてしまったんだもんなあ・・・。
  まあ、きっかけは別にあるんだけど・・・。
  それにしても、なんかぜんぜんファンタジーしてないなあ。
  速攻で芹香登場させて、魔法バシバシ使わせたらよかったか・・・。


まほさろDX様
  あううーーーーーすいませーーーーーーん。
  以前感想書いたとき、あなたのPN間違えていましたーーーーー。
  (まさほろDX様と書いていました)
  まことに申しわけありません。
  どうか、平にご容赦を(涙)。