LF98(6) 投稿者: 貸借天
第6話


「ったく、理奈のやつ全部俺一人に押しつけるんだからな……ってまあ、普段は俺がそうしてるんだからあまり
偉そうなことは言えないか……」
 英二が呟きながら、通りを一人歩いていた。
 太陽はすでに大きく傾き、今はもう夕方といえる時刻である。まだ勢いの衰えを見せないそれは、西の空だけ
では飽き足らずに彼を含めた何もかもを朱く染め上げていた。
 そして、祭りで浮かれる人々の勢いもまたとどまるところを知らず、いや、それどころか昼間以上の賑やかぶ
りでそこら中が埋め尽くされていた。もっとも、それには理由がある。日が沈み、やがて夜が訪れると国王から
大量の食料と酒が振る舞われるのだ。つまり、リーフ祭の間は夕飯は飲み放題、食べ放題なのである。それゆえ、
夜が待ち遠しいこの時間帯が1日の中でもっとも騒がしいのである。
 そんな通りをのんびりと歩きながら、彼は物思いにふける。
「俺もヤキが回ったかな……いつもならあっさり逃げおおせるのに先回りされるとは……」
 普段ならそれらしい気配を察知して英二はすぐに行方をくらませるので、いつも理奈が仕事の許可をとりに行
くのだが、今日に限っては見事に先回りされて捕まってしまい、『たまには兄さんが行って』という彼女の強い
要望(強迫)によって出かけていた英二が今、帰路についているというわけである。
「昼、宿を出たのに今までかかるとは、やってられんな、まったく……」
 まず、この人混みでなかなか先に進めない。そして、市長の家にはほかの芸能人が大勢いて長時間の順番待ち。
さらには、彼があの緒方英二と知った市長がなんだかんだと話しかけてくるから、報酬やら街の規律やらの話が
進まず、契約書の作成にやたらと時間がかかってしまった。
「すべては、理奈に捕まったのがいけないんだよな……英二、一生の不覚ってやつだ。やれやれ、となりに若く
て奇麗な女性でもはべらせたら少しは気が晴れるんだが……」
 ちょっとナンパでもしてやろうか、いや、理奈に見つかるとまたうるさいしな、などと考えていると、
「!」
 彼はハッと目を見張った。
 今、確かに若い娘の悲鳴が聞こえたのだ。夜が近付いてますます活気づく通りは、まさしく喧騒を極めている。
そんな中で普通は絶対に聞こえないその声を、しかし英二の耳ははっきりと捉えていた。
「裏通り……か……?」
 数歩先に裏通りへと続く細い路地がある。彼は人混みをかきわけて、どうにかそちらへと近付いていく。そして薄暗くじめじめしたそこへ
とたどり着くと、彼は一気に加速しながら自分の足音と気配を消した。
(途中で悲鳴が途切れたということは、その声を出していた者に何かが起こったということだ。裏通りというこ
とを考えると、おそらくは人さらいだな。悲鳴をあげている最中に手で口をふさがれた、といったところだろう)
 走りながら、英二は推測を立てる。
(ふん。しかし、声をあげさせずに捕らえられないようでは、まだまだ3流だな。祭りの騒ぎで常人にはまず聞
こえはしないだろうが、俺がそこにいたのが運のツキってわけだ)
 英二は歌と曲、そして舞踊において大陸一といわれている芸能人である。今は一線を退いて妹の理奈一人にま
かせ、彼はもっぱら楽器を奏でる役にまわっていた。英二は昔から、いかにすれば聞く者全ての心を引きつける
歌や曲を奏でられるか、いかにすれば見る者全ての心を捕らえて離さない魅了のステップを踏めるか、そういっ
た見せること、聞かせることにおける究極の形とでもいうべきものを研究し続けてきた。その影響で彼の目と耳
はいろんな意味で常人の何倍も優れている。そして彼の技術を舞台上で実践できる、大陸一の歌姫であり舞姫で
もある理奈もまた同様である。
 やがて人の気配にとぼしい裏通りへと出た英二は、視界の片すみに何かが動いたのを見た。しかし、そちらに
視線を送ってみるが、コケむした壁が続くだけで特に何もない。
 彼は急ぎ足でそこへとやって来ると、全神経を集中させて聴覚を限界まで鋭くし、同時に気配も探る。すると、
遠ざかる3人分の気配、2人分の足音、2人分の話し声が彼の意識に引っかかった。
「……のはちょっと危なかったぞ」
「ああ、わかってる。あそこから抵抗するとは思わなくてな、ちとしくじっちまった。まさか、表通りまで悲鳴
が届いているとは思えんが……」
「まあ、そのことに関しては問題無いだろう。だが、今度からは気を付けろよ」
「おう」
(今度からでは、ちょっと遅かったな)
 英二は唇の片端をあげ、なおも耳に意識を集中する。
「今日の収穫はまあ、そこそこといったところだな」
「これで3人目か」
「ああ。連れて行くのはこの3人でいいだろう」
「引き渡しは明日だったよな」
「そうだ。まったく、男爵も急に話を持って来るんだからな。『前の奴隷には飽きて、もう処分した。早急に新
しいのを連れてこい』だなんて……」
「まあ、いいじゃないか。あの人はウチのお得意様なんだからな、よそよりも高く買ってくれるし」
「まあ、な。それにしてもリーフ祭さまさまだな。後6日間、ここでしっかり稼いでおかないとな」
「おうよ。最近は北方から南国まで、どこからでもやって来るからな。明日以降が楽しみだぜ」
「北方といえば知ってるか? 最近……地方……起こっ……らし……」
「それは…耳だぞ……そん……を……」
 どうやら、彼の聴力をもってしても聞き取れない程、遠く離れてしまったようだ。 
(ふ……ん。まあ、こんなもんでいいだろう。必要な話は聞けたしな……)
 彼は集中をといた。
(引き渡しは明日……と言ってたな。では、とりあえず今日1日は無事ということだ)
 英二は今のこの場所を鮮明に記憶に刻み込んで、そして来た道を引き返しはじめた。
(さて……どうする……?)
 今捕まったのが由綺だったのなら、あるいはすでに捕まっているうちの1人が由綺ならば迷わず救いに行く。
しかし、そうでないならあまり気乗りがしない。無論、このまま放っておくつもりもないが。
(……ふむ)
 貴族階級の人間を得意先にしているぐらいだから、それなりの組織だろう。そんなところと事をかまえれば、
厄介なことになる可能性が高い。
(ま、とりあえず理奈に話してみるか……)
 英二はそう結論づけ、再び異様な賑わいを見せる表通りへと戻っていった。


「行きましょう、今すぐ」
 話を聞いた理奈の発した第一声がそれだった。
「そうか、うん、がんばってな」
「兄さんも当然行くのよ!」
 椅子から立ち上がりながら、両手で バン! とテーブルを叩き付ける。
「俺もがんばるのか……?」
「そうよ! 大事な妹をたった1人で行かせて、キズモノにされてしまってもいいの!?」
「あ。自分で『大事な妹』なんて言ってる」
「兄さん!!」
 へらっと笑った英二に、理奈は怒鳴りつけた。
「わかったわかった、そう怒るな。すぐにしわくちゃのおババになってしまうぜ」
「そうさせてるのは兄さんでしょう!」
「そうにらむなよ、寿命が縮まるじゃないか。……うん、そうだな。では、ここからは真面目な話」
 いったん言葉を切った英二は、不意に真剣な顔つきになる。
「で?  いつ行くって?」
「え?  だ、だから今からよ」
「ふん、冷静になれよ、理奈。俺たちには舞台が控えていること、わかってるのか?」
「……ええ、わかってるわよ、もちろん」
「なら、なぜ今なんだ?  舞台が終わってからでもいいだろう」
 英二の言葉に、理奈は視線をそらす。
「それもわかってるわ……。でも、その子たちの命に別状はないとはいえ、今どんな目にあわされているかわか
らないでしょう。何もされてなかったとしても、心細くて不安できっと泣いてるんじゃないかしら……」
 そして視線を戻し、英二の目をじっと見つめる。
「私は今からでも助けに行きたいの」
「……下手にケガしたら、仕事に関わるんだぜ。緒方兄妹にハンパは許されない。客が許さないんじゃなく、俺
自身がだ。そして理奈、お前自身もだろ?」
「ええ。十分、いえ、十二分に気をつけるわ」
「十二分じゃ足りないな。十五分ぐらいにしておけ」
「兄さん……!」
 やれやれといった風に英二はイスから立ち上がり、理奈は顔を輝かせる。
「仕方がないな……。まったく、世話の焼ける妹をもつと大変だ」
「それは私のセリフよ。以前なんてテラージョ公国のデレンガイヤ王に謁見するとき、『ジャージ着て行こう』
なんてワケのわからないこと言い出すし」
「アレは冗談だっていっただろ〜」
「兄さんの場合、本気と冗談の区別がつきにくいのよね」
「いや、しかしだな、あの時はちゃんとした服装で行っただろう?」
「そうね。そして、そのちゃんとした服装にコーディネートしたのは私なのよね」
「うぐぐ……」
 ささやかな兄弟喧嘩を繰り広げながら、2人は準備を進めていった。
「理奈、いいか?」
 そして最後に、腰の後ろに2本の短剣をさした英二が確認を取る。
「ええ、大丈夫」
 同じく、腰の後ろの2本の短剣の具合を確かめながら理奈が答えた。
「行くぞ」
「はい」
 見た目はあまり変わりがないが、その実、身体のあちこちに武器を仕込んだ2人は、部屋を出てフロントに一
言声をかけて宿を後にした。                 	          



「着いたぞ」
「ここなの?」
「ああ、間違いない」
「……なんにも無いじゃない」
 理奈は辺りを見回した。
 裏通り。
 全体的に薄暗く、そして湿っぽい。よどんだ空気が漂い、すえたにおいが鼻腔を刺激する。
 はっきりいって、居心地のいい場所ではない。
 英二の案内で、2人は例の場所へとやって来ていた。
 理奈は顔をしかめながら、なおも辺りを見回す。
「本当にここであってるの?」
「理奈、この壁をよーく観察してみろ」
「え?」
 英二は、コケとカビでおおわれたそれを指した。
「この向こう側から、話し声が聞こえてきたんだよ」
「そうなの?」
「ああ。おそらく何か仕掛けがあるはずだ」
「その仕掛けを動かした瞬間は見てないの?」
「残念ながらな」
 英二は軽く肩をすくめると、壁を観察しはじめた。
 理奈もまた彼にならう。
 同時に2人は辺りの気配も探りはじめた。今、彼等は裏社会側の人間にとって、どう見ても不審人物である。
潜入もしないうちに騒がれるわけにはいかない。
 ほどなく2人は、その壁に違和感を感じる部分を発見した。
「ふん。おそらくはこれだな」
 軽く鼻を鳴らして、英二はその部分に手を伸ばす。
「ええ、多分ね」
「理奈にも『視』えたか」
「それと、『扉らしきもの』もね」
「上出来だ」
 壁全体から見てもなんの変哲も感じられないその部分に、英二は握り拳をあててゆっくりと押し込んでゆく。
すると、約10cm四方の正方形上に切れ目が入り、壁の奥へスライドしていった。
 同時に、2人が『視』た『扉らしきもの』が内側に向かって、ゆっくりと開いてゆく。
 英二と理奈は周囲に視線を走らせ、何者の気配も感じないことを確認すると無言でうなずきあい、壁の内側へ
と滑りこんだ。
 そして石で出来たその扉は、ゆっくりと閉じられていった……



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ふう・・・
なんか、似たような表現ばっかだな・・・
ボキャブラリーに乏しいよな・・・


すいません、まさた様。
以下の分、追加よろしくお願いします。


【魔法使い】:ギャグ/TH/芹香・綾香
       貸借天デビュー作(と書くと聞こえはいいが、ただの処女作)
       綾香は最近、悩んでいた。そして、そのことを芹香にうちあけるが・・・

【涙のワケ】:ギャグ?/WA/冬弥・はるか
       何気ない日常生活。冬弥は、学校へと向かっていた。
       そこで、偶然出会ったはるかが涙をこぼすそのワケは・・・

【競走 そしてミステリー】:ミステリー(言い張る)/WA/WA仲良し5人組
              ミステリー初挑戦。君はこの謎を解くことが出来るか!?(爆)

【ツーリング そしてミステリー】:ミステリー(あくまで言い張る)/WA/WA仲良し5人組
                 懲りずに再挑戦。君はこの謎を解くことが出来るか!?(死)

【CHARACTER’S PROFILE】:?/WA/冬弥・マナ・由綺・弥生
                      なんて書けばいいのだろう・・・
                      とりあえず、読んで(笑)



11万ヒット、おめでとうございますーーーーーー
確か、9月の上旬には「9万ヒットおめでとう」なんてやってたと思いますが、早いっすねえーー。