LF98(5) 投稿者: 貸借天
第5話


 普段目にする物から異国の珍しい物まで様々な物が立ち並ぶ大通りを歩き回り、適当に空腹を満たした冬弥は、
予定通り教会へ足をのばすことにした。
 祭り特有の激しい感情の高ぶりで充満する通りを、人の流れに逆らいながら、ゆっくりと歩みを進めていく。
 教会へ向かうということは徐々に町の中心から離れていくということなので、だんだんとそのにぎわいが衰え
ていく様がはっきり伝わってくる。
「それにしたって普段の比じゃないよな、これは」
 若いアベック、元気に走り回る子供たち、旅の剣士、中年の夫婦、美しく着飾った娘たち、そしてスリなど様
様な人間とすれ違いながら(もちろんサイフはガードした。スリは失敗を悟ると、あっという間に行方をくらま
せた)、冬弥は変わらないペースで歩き続けていく。
 目的地が見えてくると、彼は歩みを早めた。
 石の階段を上り、美しく彩られた花壇を越えていくと、そこには人だかりができていた。
「美咲さん、相変わらずだな」
 冬弥は苦笑しながら、おそらくここのどこかにいる2人の友人を探し求める。
「冬弥」
 探しはじめて3秒もたたないうちに、名前を呼ばれふり返った冬弥のもとに、旅の仲間であり長い友人でもあ
る2人が歩み寄ってきた。
「ちゃんと食べてきた?」
 と、女性的な顔立ちの青年に尋ねられる。
「ああ。って、なんで彰がそれを……。はるか、まさかさっきの話……」
「うん。彰に教えた」
「…………」
 冬弥はがっくりと首をうなだれた。
「そんなに喜ばなくても」
「喜んでない!」
 恨めしげにはるかをにらむ冬弥。
「ごめんね」
「謝るんだったらはじめからするなよ……」
 疲れたような声をあげて、再び冬弥は沈みこんだ。
「安心していいよ、冬弥」
 と、今度は彰。
「美咲さんには、僕から伝えておくから」
「伝えんでいい!」
「あはははは……」
「ハアア……」
 冬弥はのんきに笑う彰をにらみ、それからうつむいてため息をついた。
「私に知られたのが運のツキだね」
「……そうだな。もうはるかには何も教えないようにしよう」
「…………」
 すると、はるかは目もとに手をやって泣くマネをしながら、
「そんなさびしいこと言わないで」
「白々しいマネをすな!」
「あはははは……」
 冬弥とはるかの掛け合いを見て、さらに笑う彰。
「……ったく、こいつらは……」
(絶対いつか仕返ししてやる)
 そう心に誓いながら、冬弥は人だかりに目を向けた。
「今日も美咲さん信者でいっぱいだな」
「今日はいつも以上だよ」
「そうだな」
 冬弥、はるか、彰の3人はよそから旅をしてきて、1年前この蛍崎に住み着いた。もともと2週間ほどの逗留
予定だったのだが、この町の教会のシスターである美咲と知り合い、彼女に低価格で質のいい宿を紹介してもら
っていつの間にか1週間が過ぎ、なりゆきで彼女にバイトを斡旋してもらって、3者3様にその日その日を暮ら
すうちに1年が経ってしまっていた。
 シスター美咲は蛍崎の住民の一部から絶大な人気を集めていて、3人がこの町にやって来るずっと以前からこ
のような光景が見られていた。
 ここの教会はリーフ神を信仰しているのだが、礼拝にやってくる人間は祈りを終えるとかならず彼女のもとへ
と集まっていくので、冬弥たちは彼らを『美咲さん信者』と呼んでいた。もちろん冬弥たちが宿泊している宿屋
の親父や、バイト先の店主が美咲さん信者であることは言うまでもあるまい。
「これは話せそうにないな」
 和気あいあいと談笑している人だかりを眺めて、冬弥はつぶやいた。
「冬弥。がんばって」
「やかましい」
「ひどい……」
「あのなあ、はるか……」
 そんなこんなしていると、
「う゛ぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜ん。シスタ〜〜〜〜〜」
「シスター!」
「シスターッ」
 2人の男の子と1人の女の子が、冬弥たちの脇をすり抜けてもたもたと走って行く。
 人だかりが左右に分かれ、修道服を着た美咲のもとへと続く道が開かれると、3人の子供たちは彼女のもとへ
一目散に駆けてゆく。
「どうしたの?」
 春のそよ風を思わせる、暖かく穏やかな声で問いかけながら、子供たちと目線をあわせるために彼女はしゃが
み込んだ。
「ぇぐ……ケガ……したの。ひっく……痛いよう……しすたぁ……」
 泣きじゃくりながら、女の子は右の腕を折り曲げて肘を前方に突き出すようにした。すると、コケて大きくす
りむいたのだろう、肘が広範囲に赤く染まっていた。
「! これは痛かったでしょう、かわいそうに……。こっちへいらっしゃい、まずは水洗いして消毒しないと…
…」
 痛々しさに顔をしかめながら、美咲は立ち上がり、女の子の手を引いた。
 しかし、女の子は涙目で美咲を見上げたまま、首を横に振る。
「もう……洗ったから……」
「僕たちが手伝ったんだ」
「痛がってたけど、ちゃんときれいに洗ったよ」
 隣にいた2人の男の子が、女の子の言葉を補足した。
「そうなの……。うん、それじゃ、ちょっと待ってね」
 美咲は懐から清潔な白いハンカチを取り出して、血で赤く彩られた女の子の肘を優しくぬぐった。
 そして朱に染まったハンカチをしまうと、傷口に左の手のひらをそっと重ねる。
「落ち着いて……。心を静めて……」
 コクンとうなずいた女の子を安心させるようにニッコリとほほえんだ美咲は、目を閉じて呪文を唱えはじめる。
「我らが守護神、全知全能なる神リーフの御名において、傷つきさまよう者たちの身も心もいやす、優しき風を
今ここに……」
 美咲の左手が淡いブルーの光を放ち、そして自然の風とは異なる何らかの空気の流れがその儚い光のもとへと
集まってゆく。
「……!」
 驚いて腕を引っ込めようとする少女の目をじっと見つめて、美咲が優しくうなずきかける。それを見た少女も
小さくうなずき、腕の力を抜いた。
 やがて光が消え、重ねていた左手をそっとどけると、肘の傷はきれいにふさがり痕すら残っていなかった。
「うん。もう大丈夫」
 再びニッコリとした美咲に女の子は飛びついた。
「ありがとう、シスター!」
「はい」
 力いっぱい抱きついてくる女の子の髪を優しくなでながら、ほほえんでいる美咲。
 一緒に来ていた2人の男の子は、『やったな』という笑顔で互いを見交わした。
 そして、ざわめき出す彼女の信者たち。
 彼らにホメちぎられた美咲は、頬を染めて視線をさまよわせ、女の子の頭をなでたり背中をさすったりしなが
ら戸惑っていた。
 子供たちの出現で一時静かになった信者たちが、再び騒がしくなってきた。
「冬弥、今のうちに……」
「ああ、わかってる」
 左右に分かれた人だかりがまだ元に戻っていない今がチャンスとばかりに、冬弥はそちらへと足を踏み出した。
彼の後ろには、彰とはるかが従っている。
 信者たちの間にできた1本道を通って、2人の男の子の背後へとたどり着いた冬弥は、まだしゃがみ込んだま
まの彼女に声をかけた。
「美咲さん」



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あああっ!
何だか背中がムズムズするようなシーンを書いてしまった。
呪文ダサダサ。
誰か、考えて(笑)

美咲さんがシスターになってしまいました。
でも、シスターって白魔法なんて使えたっけ?
ま、いいや。この世界では使えることにしておこう(かなりいい加減)
彼女は神に仕える身。結婚はもちろん恋愛も許されない。
彰君には泣いてもらうことになりそうです。
でも、彼女は冬弥にホレています、原作通り。
原作では描かれなかった冬弥と彰と美咲の三角関係でもやってみようかな。
いやいや、この3人の恋物語を描くなんて俺には無理だな。
濃い物語ならひょっとしたらできるかも知れないけど。
・・・・・・・・・
さむい・・・・・・
さむすぎる・・・・