LF98(4) 投稿者: 貸借天
第4話


「くぁ〜〜〜〜っ。すげえ人数だな」
 見知らぬ者たちの間でもみくちゃにされながら、浩之が怒鳴った。
「まるで、世界中から人が集まったみたいだね」
 あかりも大声で話しながら、大きな瞳をますます大きくする。
「でもあかりちゃん。今日は初日だから、この国の人がほとんどだよ。明日からが本番だって」
「うへえ〜〜〜っ、まだ増えるのか?冗談じゃねえよな」
 と、雅史の言葉に心底うんざりしたように言う。
「でも浩之ちゃん。来てよかったでしょ?」
「ああ、まあな」
 見上げてくるあかりに、浩之は軽くうなずき返した。
「雅史ちゃんに感謝しないとね」
「ただ僕は誘っただけだよ?みんなで一緒にリーフ祭行こうって」
 雅史が苦笑した。
「でも雅史ちゃんが誘ってくれなかったら、お祭り見物に行く事なんて全然考えなかったよ」
「ああ。たまにはみんなでこういう・・・って、そういえば志保はどこだ?」
「あれ?もしかして志保、はぐれちゃったのかな?」
 浩之の指摘に、あかりがきょろきょろする。
「迷子になっちゃったとか?」
 雅史もあたりを見回した。
「うーん、いないね・・・。志保、どこかで泣いてたりして」
「ばーか、あいつがンなことで泣くかよ。どっちかっつーと、迷子になって泣くのはあかり、お前だ」
「えー。私、泣かないよー」
 あかりがほほをふくらませる。
「ほほ〜。じゃあ、試してみるか?この人混みだぞ、あかり。この中でたった一人だぞ。ホントに泣かないんだ
な?」
「う・・・」
 あかりは言葉に詰まり、大きくまわりを見回した。
 あふれんばかりの人、人、人。
 客を呼びこむ売り子の声。それに負けじと声をはりあげる、隣の店の売り子。近くの広場からは、時折大きな
歓声と拍手が聞こえてくる。おそらく大道芸人がなにかをやっているのだろう。
 人と、人との話し声。それを少し上回る音量で、別の人が別の誰かに話しかける。さらにそれを少し上回る音
量で・・・。多くの人間が集まれば必ずこうなる。そして今、莫大な人数が集まっている蛍崎はこれ以上ないく
らいの喧噪でつつまれていた。
「・・・・・・」
 声もなく、ただあかりはまわりを見渡し続けた。まだわずかに幼さの残るその顔が、心なしか青ざめて見える。
 ざわめき。騒動。人いきれ。興奮。熱狂。
 くらくらするほどのなにかが、あかりの身体を駆け抜けてゆく。
「う・・・」
 あかりは額をおさえて、顔をうつむかせた。
「どした?あかり」
「う、うーん。・・・貧血・・・かな?」
「大丈夫?あかりちゃん」
「・・・うん、もう平気」
 心配そうな雅史に、あかりは顔をあげてそっと微笑む。
「ダメだな。あかりがここで一人になると、泣く前に倒れるんじゃないか?」
「あはは・・・。そうかも」
 あきれたような浩之に、あかりは弱々しい笑みを見せる。
「・・・しょうがねえな」
 ボソッと呟いて、浩之があかりの手を握った。
「えっ?ひ、浩之ちゃん?」
「はぐれないよう捕まえててやる。・・・余計なお世話か?」
 照れをかくすように、浩之がぶっきらぼうに言った。いや、もともと彼はそんな物言いをするのだが。
「う、ううん!・・・ありがとう、浩之ちゃん」
 周囲の熱気でほてったほほをますます赤くさせながら、あかりは浩之の手を『きゅっ』と握り返した。
 そんな二人の様子を見て、雅史は気づかれないよう小さく笑う。
(うーん、僕おジャマ虫かな?どこかで『はぐれた』方がいいかな?)
 あかりが浩之のことを好きなのは知っている。だが、浩之の気持ちはわからない。以前、それらしい話をした
とき、あかりのことを『妹みたいに思っている』と言っていた。そして、雅史のことは『弟』だと・・・。
 今、浩之は『妹みたいな』あかりを心配して『捕まえててやってる』のだろうか、それとも・・・。
(祭りは人を素直にさせるって、どこかで・・・あれ?大胆にさせるだったかな?じゃあ、この場合にはあては
まらないか・・・)
 なんにしろ、二人がくっつきそうなのをジャマする手はない。雅史から見ても浩之とあかりはお似合いである。
適当なところで消えようか、などと思っていると・・・
「あらあら、相変わらず仲の良ろしいことで」
 友達以上恋人未満の二人を茶化すように声をかける者があった。いつの間にか、もう一人の連れが雅史のそば
に立っていた。
「し、志保か!?どこに行ってた?」
 浩之はあわててあかりの手を放そうとしたが、あかりは浩之の手を握りしめたまま、放そうとしなかった。
「・・・・・・」
「え?あ、ゴ、ゴメン」
 浩之に手をじっと見られて、あかりもあわてて放す。
「ふふ〜ん?祭りは人を大胆にさせるとはよく言ったものよねぇ〜」
 どうやら、この場合にもちゃんとあてはまったらしい。
「し、しほ〜〜」
 耳までも真っ赤に染めたあかりが、志保を恨めしそうに見る。
「も、もう!それでどこに行ってたの?」
「ちょっと、そこらへん適当にね。あ、心配させちゃったかな?ゴメン、ゴメン」
「うん。どこかで泣いてるんじゃないかなって・・・」
 志保は目を丸くした。
「この志保ちゃんが?そんなワケないでしょ。どちらかと言えば、あかりの方だと思うけどお?」
 意地悪そうな笑みを浮かべて、あかりをのぞき込む。
「ほれ見ろ。志保もそういってるじゃねえか」
「・・・ぐすん」
 あかりは悲しそうに、鼻をすすった。
「あ〜、ヒロが泣かした〜」
「お前も共犯だ!」
 すかさずなじり合う、志保と浩之。
「雅史ちゃん。雅史ちゃんは私の味方だよね」
「うん。僕はあかりちゃんの味方だよ」
「見ろ、志保。お前がいらんコト言うから、妙なモン始まったじゃねえか」
「う〜ん。熱い友情劇ねー」
 いつの間にかなじり合いをやめてこちらを見ていた二人の言葉に、あかりと雅史は困ったような笑顔を浮かべ
た。
「あれ、今回はずいぶん仲直りが早いんだね」
「いや、そっち見てる方が面白そうだからな」
「あたし達にかまわないで続けて、続けて」
「いや、もういいんだけど。それで、志保。戻ってきたってことは、なにか面白そうなの見つけたんだよね。ど
こにあるの?」
 志保の言葉に苦笑いを浮かべながら、雅史が尋ねる。
「あら、わかってるじゃない。ちょっと先の広場にいる大道芸人がね、これがまた珍しいことやってるのよ。一
見の価値ありね」
「へえ。よし、行こうぜ」
「そうだね」
「あかり、はぐれんなよ」
「うん」
「ヒロに手を握っててもらえば?」
「しほ〜〜」
 とりとめのない会話を続けながら、広場へ向かって4人は人混みの中をゆっくりと進んでいった。



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貸借天:「あ、弥生さん。ちょっと話とか、していいですか?」
弥 生:「別にかまいませんが」
貸借天:「弥生さんって、車の運転うまいですよね?」
弥 生:「・・・自分では何とも。ちゃんと教習所は卒業しましたし、路上運転に必要な知識と技術は習得して
     いるつもりですが」
貸借天:「いや、実は昨日4,5ヶ月ぶりに車運転したんですけど、全然うまくいかなくて」
弥 生:「・・・・・・」
貸借天:「それで、バックで駐車スペースに入れるのも失敗しまくりで、何回もやり直したりして」
弥 生:「・・・・・・(首をかしげる)」
貸借天:「でまあ、その後ふと思ったんですけど、弥生さんが後ろ向きになってハンドル操作とアクセルワーク
     で、バックで駐車スペースに入れるところを助手席で見てみたいなあ、なんて思ったりして」
弥 生:「・・・残念ながらそういう機会は永遠に来ないと思いますが。
     ・・・では、私は仕事がありますので、これで」

        コツ、コツ、コツ、コツ。

貸借天:「・・・・・・・・・・・・・・・
     みなさん、自動車は定期的に運転しましょう」


最後のこれはいったいなんでしょう。俺にもわからん。