競走 そしてミステリー 投稿者: 貸借天
彰がついに2輪の免許を取得し、そして単車も買ったらしい。
彰が「見せてあげるから」というので、俺達はいつものあの公園に向かった。そこで落ち合うことに
なっていたからだ。
「彰が単車ねえ・・・あいつの場合は後ろに乗っけてもらってる方が似合うと思うけどなあ」
「冬弥君、そんなこと言ってたら彰君に失礼だよー」
そういいながらも、隣でくすくす笑ってるのは由綺だ。
「ま、しょうがない。見せびらかされに行ってやるとするか」
「ふふふ、そうだね」
そして、たどり着いた公園に足を踏み入れる俺達。
その時・・・
「藤井君?それに由綺ちゃん?」
誰かに呼ばれた。この声は・・・
「あ、美咲さん」
振り向いた由綺が、うれしそうな声を上げる。
高校時代からの俺達の先輩がそこに立っていた。
「ひょっとして、美咲さんも彰の件で?」
「うん、電話があって。じゃ、藤井君たちもなんだ」
「そうなの。彰君、とってもうれしそうに言うんだもの」
と、美咲さん信者の由綺が答える。
「しかしこうなると、はるかの奴も呼んでるんだろうな、きっと」
「私がどうかした?」
いつの間にか、はるかが愛用の自転車にまたがってそばにいた。
「はるか・・・いつの間に?」
「ついさっき」
なんて言うか、はるかは相変わらずの雰囲気だ。
「じゃあ、はるかちゃんも七瀬君に呼ばれたんだね」
「彰に?違うよ」
美咲さんの質問に、はるかは首を傾げた。
「違うの?七瀬君、単車を買ったみたいだから、それで、見に来てよって呼ばれたんだけど・・・」
「うん。彰が単車に乗ってるのは知ってる」
「え?はるか、もう知ってたのか?」
あいつが走ってるとこ、どこかで見たのかな。
「うん。昨日競走したから」
競走?
競走って・・・
と、その時、大型バイクのエンジン音があたりの空気をふるわせた。
「彰だ」
はるかの言うとおり、フルヘルメットにライダースーツを身にまとった彰が、こちらへ向かって単車
をまっすぐ走らせてきた。
そして、俺達の前でスッと止まり、エンジンを切って、サッとヘルメットをとる。
おお、さっそうとしていて何かかっこいいぞ。
「やあ。あ、はるかも来てたんだ」
・・・・やっぱり彰だ。
「どうかした?冬弥」
「いや、べつに。ああ、そういえば・・・」
俺は、ちらりとはるかを見た。
「はるかはもう、知ってたらしいけど・・・」
「うん。昨日競走したから」
と、はるかと同じセリフを言う彰。
ちょっと待て・・・
「いったい何の競走だ?」
「なんのって・・・僕は当然、この単車で。そしてはるかは当然、愛用の自転車で。大学からこの公
園まで、どっちが早く着くかって言う競走だけど・・・」
単車対自転車が当然なのか・・・?
「へえー。それで、どっちが勝ったの?」
彰に決まってるだろ。
それよりも単車対自転車の部分をつっこむべきだと思うぞ、由綺。
「うん・・・。公園までの一直線では、激しいデッドヒートを繰り広げたんだけどね。わずかな差で
負けちゃった」
「そうなんだ。はるか、すごい」
「そう?」
「待て待て待て。単車対自転車でデッドヒート!?いったい何キロで走ってたんだ!?」
俺の質問に、はるかと彰は顔を見合わせる。
「時速100キロは超えてたと思うけど・・・」
「国道ではもっと飛ばしたよね」
「待て待て待て!はるか、自転車でどうやってそんなスピードを出したんだよ!?」
「ペダルをこいで」
「・・・・・・・」
「はるか、すごーーい」
「はるかちゃん、運動神経バツグンだもんね」
美咲さん、そういう問題か?
はるかも照れるな。
あああ。
俺は頭をかきむしった。
ダメだ・・・・
ここは、はるかワールドだ。
だから、彰も由綺も美咲さんも誰も疑問に感じないんだ。
そうだ・・・俺達はいつの間にか、はるかワールドに迷い込んでいたんだ。


『はるかワールドは誰にも逆らえない』


そう、いずれは俺も彼らと同じように・・・・


ああ、ミステリー。