魔法使い 投稿者: 貸借天
ハア・・・
ため息。
「なんか、こう・・・最近・・・」
綾香は呟いた。
そしてまた、ため息ひとつ。
「ま・・・仕方ないか・・・」
ウーンと伸びをしてイスから立ち上がり、道着を手にしてそのままドアへと向かう。
自分の部屋を出た綾香はトレーニングルームへと向かった。
そこは、幼い頃から格闘技を続ける彼女のためにしつらえられた大きな部屋で、鍛錬のために必要なあらゆるものがそろっている。
ハア・・・
我知らず、またため息をつく。
その時、後ろから誰かに肩をつつかれた。
ビクッとして振り返ると、そこには彼女に少し似た面差しの少女が立っていた。
「あ、あら、姉さん」
綾香は内心、冷や汗をかいていた。何しろ、全く気配を感じなかったのだ。エクストリームチャンピオンである、この自分がだ。
我が姉ながら恐るべし、などと考えていると、
「・・・・・・・」
「え?ええ、まあそんなところね・・・・」
とんがり帽子に漆黒のローブという魔女の出で立ちをした姉に尋ねられ、綾香は曖昧な答えを返した。
「悩み事って言うか・・・ううん、そうね。やっぱりそうなるのかな」
「・・・・・・・」
「え?んー、わざわざ相談に乗ってもらうようなことじゃないんだけどね」
そう前置きして、綾香は続ける。
「・・・なんて言うか、こう・・・わくわくするような対戦相手がいないのよ」
先に述べたとおり、綾香はエクストリームチャンピオンであり、その実力は相当のものである。
基本的には執事の長瀬ことセバスチャンを練習相手としているが、彼の技は9割方見切っているし、自分の技も見切られている。はっきり言って彼との勝負には飽きていた。
「だからといって、葵を相手にはしたくないし。あの子とは大会の、出来れば決勝で戦いたいしね」
空手、柔道、テコンドー、ムエタイ等々いろいろ相手にしてきたが、エクストリームルールでは相手は実力を出しきれないし、相手方のルールに合わせると何かしっくりこない。
空手はともかく柔道はなおさらである。
エクストリームルールでのスパーリングパートナーとなると数が限られてくる。その点、あらゆる格闘技に精通したセバスチャンはいい練習相手なのだが、飽きたものは飽きたのだ。何しろほとんど毎日、相手になってもらっていたのだから。
「ま、そういうわけなのよ」
「・・・・・・・」
「え?姉さんが?え?対戦相手を異世界から召喚するですって?そ、そんなこと出来るの?」
こくり。
「・・・・・・・」
「あ、ええ、わかったわ」
姉に促されて、綾香は彼女の後ろについて歩く。
気がつくと、道着を握る手に力が込められていた。
(異世界から召喚?いったい誰を呼び出すのかしら?も、もしかして白ハチマキに、白い道着のあの人とか?それとも、女子高生忍者?伝説の餓狼なんてのもありよね。無敵の龍とか、最強の虎ってのも捨てがたいけど。それから、それから・・・)
沸き立つ心に任せて、綾香は考えを巡らせる。
姉のゆっくりとしたペースがもどかしい。背中を押して歩きたいぐらいである。
ほんの数分前からは考えられないほど、綾香の表情は生き生きしていた。
先に着替えた方がいいか、と思いつき、綾香はそのことを告げて二人はいったん別れた。


それから姉の待つ庭へと行くと、彼女は分厚い本と杖を持ってたたずんでいた。
「お待たせ。じゃあ、姉さん。召喚の方お願いね」
「・・・・・・・」
「え?”私は姉さんじゃありません。魔法使いセリーです”って・・・ちょ、ちょっと、姉さん大丈夫?」
綾香は姉の額に手を当てる。
「熱はないみたいだけど・・・ええ!?ダ、ダメよ、そんなこと出来ないわよ」
「・・・・・・・」
「・・・・そう呼ばないと召喚してくれないの?うー、わかったわ。呼ぶわよ、呼べばいいんでしょ?」
言って、綾香は咳払いひとつ。
「・・・・・えーと。お、お願い。”魔法使いセリーちゃん”」
額に数本の縦じまを走らせて、綾香は芹香、もとい魔法使いセリーちゃんにお願いした。
こくりと頷くセリーちゃん。
「・・・・・・・」
そして、有名なあの呪文がセリーちゃんの小さな口から滑り出る。
その顔は相変わらずの無表情だったが、つきあいが長いだけあって、姉の無表情の微妙な差が綾香にはわかる。
(ね、姉さん喜んでる・・・)
そのことに気づいた綾香は、ますますげんなりした。
と、その時、空間がきしんだような音を立てる。
「?」
地面には大きな魔法陣が描かれている。
セリーちゃんは魔法陣の一歩手前で呪文を唱えている。その数歩後ろに綾香。
そしてまた、空間がきしむ音。
同時に、魔法陣から圧倒的な気配が吐き出される。
「!?何!?この気配!?」
とてつもなくまがまがしい何かが、魔法陣からでてこようとしている。
「ね、姉さん・・・!」
声をかけようとしたとき、そのまがまがしい何かが出現した。
デカい顔である。
「!?なっ!?」
その顔はどう見ても悪魔のそれであった。
その顔は前後左右に頭を振ってもがいていた。どうやら肩から下が、魔法陣が小さいために出てこないようだ。
小さい、と言ってもそれは悪魔にとってである。魔法陣は半径10メートルはある。
「姉さん!いったい何を召喚したの!?」
「・・・・・・・」
「サッ、サタン!?あ、あんなかわいらしい呪文でなんちゅうものを呼び出すのよ!」
フと見れば、サタンは左肩と左腕を出すことに成功していた。だが、それが限界のようである。左腕で地面を踏ん張り、なんとか身体の残りを引きずり出そうと頑張っているが、それ以上はどうやっても無理だろう。
「・・・・・・・」
「ア、アレが私の対戦相手!?ジョ、ジョーダンじゃないわよ!あんなの相手にしてたら命がいくつあっても足り・・・」
その時、凄まじいうなりをあげてサタンの左拳が飛んできた。
「わわっ!?」
間一髪で、それをかわす綾香。
「ね、姉さーん。なんとかしてー」
見ると、セリーちゃんはホウキにまたがって宙に浮いていた。
「・・・・・・・」
「え!?頑張って下さいって・・・ね、姉さん!?ちょっとお!?」
そのままセリーちゃんは夜空へ駆けていった。
「姉さーん。私、何か怒らせることした!?きゃああっ!こっ、このお!!」
そして、綾香対サタンの壮絶な死闘が始まった・・・



セリィーー   セリィーー
まほーーーつかい   セリィーー

超有名な歌をBGMに、セリーちゃんは今日もゆく。
頑張れ、セリー!  負けるな、セリー!
どんなにでっかい悩みでも
君の魔法で一発さ!

「やっぱりダメェー!姉さーん!カムバーック!」


次回、魔法使いセリーちゃん
セリーちゃんの友達の好恵ちゃんついに登場!?
今度は、彼女が大暴れか!?
乞うご期待。


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インターネット初心者、書き込みもこれが初めてという新入りです。
とりあえず、夏休み中に家のパソコンをインターネットにつなぐことを目標としております。

さて、中身の方ですが、芹香ファンの方、綾香ファンの方、ごめんなさい。
即興と思いつきで作りましたので、設定はいい加減です。
本物は確か、魔法のコンパクトか何かを使うんだったっけ?
それから、誰と誰が友達とかも気にしないで下さい。
これとは違うネタをいくつか考えてありますので、機会があればまた書こうと思ってます。
使用禁止文字を知らない間に使ってないか、心配だ・・・・