White Heart 投稿者:

 うーーーー・・・・さみぃーーーーー。歩きながら手をこすりあわせる。
 頬を触ると指先に冷たさが伝わってきた。隣を見てみると、
「寒いね、浩之ちゃん」
 俺と同じように手を頬に当てているあかり。
「寒いなんてもんじゃねーよ。ったく、こんな日に学校なんてよ。寒冷警報とかで休みにはならねーのかよ?」
 俺が愚痴るとあかりはクスクス笑って、
「だったら北海道の人たちは冬はずっと休みになっちゃうよ」
 なんにしても今日の寒さは尋常ではなかった。元々寒いのが苦手な俺は二階の俺の部屋から
リビングまでの階段で思わず身震いしてしまった。
 うーん、それにしても今日のみそ汁はうまかったな。身支度をして外に出た瞬間、
あまりの寒さにまた家に入って親に笑われた。
 今日は12月の10日。確かに師走も半ばに入り、冬の顔は覗かせてはいたが、
昨日と今日の温度差はかなりのものだった。雪が降ってもおかしくないくらいだ。
「今日は特に寒いぜ」
 歩きながら言うと、
「そうだね。寒いのは私も好きじゃないけど・・・・。あ、でも冬になったらコンビニの肉まんとかが美味しいよ」
「・・・・おまえの冬の価値は肉まん程度かよ・・・」
「あ・・・いや、そうじゃないけど・・・」
「まあ、冬だからこそ旨く思えるもんがあるけどな」
「うん。私、シチューが好き」
「シチューか。うんうん、寒い日はやっぱりあったかくなるもんが食いたいよな」
 あったかい物を想像するとこんな寒空なんか・・・・・
びゅうううううううーーーー。・・・・・・・・・寒いもんは寒いんだよ・・・。
「よし、今日の帰りは肉まんでも食って帰るか」
 俺の言葉にあかりは嬉しそうに頷いた。あかりの小さな口から白い息が漏れる。
 それはすぐに空気に溶け込んでしまった。その情景を眺めていると、
「?・・・何、浩之ちゃん」
不意に目が合った。
「い・・・いや・・・その髪型、似合ってると思って」
咄嗟に出た言葉。あかりは少し恥ずかしそうに、「そう?」と言って自分の髪を指でいじっている。
 寒さか、照れかは知らないが、あかりの頬は赤く染まっていた。

 休み時間・・・。
 俺は教室で自分の机に注がれる太陽の光を浴びていた。
 ・・・・あーーー・・・・あったけーーーー。天然のヒーターを全身に受けてまさに天国だった。
 ・・・・だが、それを破る奴が現れた。ドタドタドタ・・・。
 教室に騒がしい音が入ってきたかと思うと、
「ねえ!ヒロ、ちょっと聞いてよ・・・・ってコラー!私の顔見てから寝るなあーーーーー!」
 ・・・・・うるせえ・・・。こいつのテンションの高さは季節感がなく一定している。
 年がら年中やかましい奴だ。俺が無視して狸寝入りをしていると、
「ちょっと、ヒロ!聞きなさいよ!ねえったらねえ!・・・ったく、「長岡志保との甘い生活。しかし、浩之にとっては遊びだった。
最初のうちは優しくしてくれたが、志保に飽きたのか段々と冷たくあしらいだす浩之。やがて今までの事が遊びだと分かった志保は身も心もボロボロに・・・。
そしてヒロは志保を捨てて・・・」なんて火曜サ○ペン○劇場ばりのネタを学校中に流すわよ!」
 ・・・・とんでもねー事を言う。でも、こいつはやりかねんからな・・・・。
「なんだよ、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもうるせーな」
「「いつも」の数が多いわよ!」
「これでも少ないくらいだぜ。ったく、寒いんだから動きたくねーんだよ」
「なによ、オヤジくさいわね。現役の高校生ならこれくらいの寒さ、どーってことないでしょ」
 ・・・・それはおまえくらいだ・・・・。寒さにルーキーもベテランもねーんだよ。
「冬ぐらい大人しく冬眠でもしてろ。こっちは日光浴をしてるんだよ」
「なによ、光合成の間違いじゃない?」
と、志保がからかってきた。いつもなら喰ってかかるがこの貴重な温かさを失いたくなかったので、
今日のところは俺が先に折れた。・・・・と言ってもいつも俺が折れるのだが・・。
「今日は何しに来たんだよ」
 顔を起こして志保を見る。志保はコホンと咳払い一つして、
「もうすぐ一年で一番楽しい行事があるじゃない」
「おまえの場合は一年中行事があるじゃねーか」
「黙って聞きなさい!・・・えー・・・どこまで言ったかな・・・」
「一年で一番嫌な日は志保の誕生日だって」
「そうそう、私の・・・・ってちがーーーう!何言わすのよ!・・・えーっと・・・そうそう楽しいものが、そうね、後・・・・二週間くらいかしら」
「クリスマスのことか?」
 俺が答えると、志保は指を鳴らして、
「そう、クリスマス!ああ・・・なんて良い響きなの・・・。年に一度離ればなれになったおりひめとひこぼしが天の川で巡り会う・・・・。
隣には白鳥座が優雅に煌めいているのよ。・・・ドラマチックね・・・」
「それは七夕だ!冬には天の川なんて見えねーんだよ!それに白鳥座は夏の星座だろーが!」
「そうなの?まあいいじゃない、めでたいことには変わりはないんだから」
 志保が楽しそうに笑った。とりあえずこいつは世の中が騒ぐのが好きなようだ。
 一年が一日の女、おそるべし!長岡志保!
「と・こ・ろ・で、藤田浩之君」
 突然志保の口調が穏やかになり、流し目で俺を見てきた。。
「な・・・なんだよ、気持ち悪い声出しやがって・・・」
 フルネームを言われたので少し戸惑った。こういうときは必ず「何か」があるのだ。
 志保は「ふっふっふっ」と笑って、
「第一回、長岡志保主催、クリスマスツアー!ピー!ドンドン!パフパフー!!」
「・・・は?」
 いきなりのテンションの高さに俺は「素」で聞き返した。
「だ・か・ら、クリスマスはみんなでどっかに行こうって言ってるのよ」
「何言ってるんだよ、いきなりそんなこと言って。それに誰が行くんだよ?」
「そ・・・・それはおいおい参加を募集するってことで・・・」
 ・・・・こいつ、またその場限りの思いつきを言葉に出しやがったな。
「だって年に一度しかないのよ?それだったらパーっと盛り上がろうよ」
「だったら今日も年に一度しかねーだろーが」
「うるさいわね!屁理屈はいいの!」
「何でクリスマスなんだよ?」
「クリスマスだからでしょ!?」
 志保は相変わらずのハイテンション。
「要はおまえ・・・クリスマスは暇なのか?」
 俺のセリフに志保は「うっ」という顔をした。・・・・・図星のようだ。
「な・・・何言ってんのよ。わ・・・私が暇なわけ・・・・」
「だったら何でそんな企画立てるんだよ?」
 俺が詰め寄ると、
「・・・そうだ!クリスマスは彼氏と過ごすんだった。いけない、忘れてたわ」
 そう言って笑った。・・・・が、顔は引きつっていて笑い声も乾いていた。
「ご・・・ごめんね、ヒロ。そう言うことだから・・・・・・じゃ!」
 志保は俺からゆっくりと後ずさりをして、一目散に教室を出ていった。
 ま、一年中めでたい奴だからクリスマスくらい大人しくしておけ。
 俺が尻目に志保を見ていると、
「浩之ちゃん」
「ん?どうした、あかり」
「教室、温かいね」
 ・・・・こいつは一日が一年だな。

 帰り道、俺とあかりは約束通り、肉まんを買って食べた。食べながら商店街を歩いていると、
赤と白のクリスマスカラーにペイントしている店が多く、すでにクリスマスの準備は始まっていた。あかりがそれらを見て、
「もうすぐだね、クリスマス」
 ぱくり。あかりが肉まんに口をつけた。もくもく・・・。
「そうだな。寒い寒いって言ってたら、もうそんな季節だな」
 肉まんを三口で平らげた俺は、
「なあ、去年のクリスマス覚えてるか?」
 去年の12月24日のクリスマスイブ。俺の家で俺、雅史、あかりと志保の四人でパーティーを開いた。
「うん、覚えてるよ。楽しかったね」
 あかりが遠い目をして思い出している。
「あの時、志保が酒を持ってきてたよな」
「そうそう。それで浩之ちゃんと志保が飲み比べをやったんだよね」
 志保が持ってきた梅酒を二人で「勝負だ!」とか言いながらストレートで飲みあったのを記憶していた。
 軍配は俺に上がったのだが二人とも酔いつぶれて勝負どころではなかった。そして次の朝、地獄の二日酔いが待っていた。
 頭ガンガン、体の節々がきしむ感じがして何度もトイレに駆け込んだのを覚えている。人生最悪のクリスマスだった。
 あの時に覚えているのは胃液が酸っぱかったことだけ・・・・。今思い出しただけでも・・・・・うぷっ・・・。
「もうあんな事はしたくねーよ」
「浩之ちゃんが勝負するからだよ」
「志保が言ってきたんだ。あいつには負けたくなかったんだよ」
 ぱくり、もくもくもく・・・・。あかりは大切に肉まんを両手で包んで食べていた。
 歩いているとショーウィンドーにクリスマスの色に染まった様々な物が陳列してあった。
 そしてそれを見ている一組のカップル。クリスマスプレゼントだろうか・・・・。
「・・・・・なあ、あかり」
 あかりを呼ぶとあかりはこちらを見た。「?」と首をかしげている。
 あかりの口には肉まんが入っているらしく、もくもくもく・・・・。あかりは必死に口を動かして口の中のものを飲み込もうとしていた。
「おい・・・そんなに急がなくていいから」
 俺が言うと、
「・・・・ほ・・・ほょっほはっへへ」
 もくもくもく・・・・。一生懸命口の中の物を噛んでいる。・・・その間、ずっとあかりと目が合っていた。
 ・・・・こくん。目を閉じ、飲み込んで一息ついて、
「・・・・何?浩之ちゃん」
「今年は・・・どうする?」
「え?・・・何を?」
「クリスマスだよ」
「うーん、そうだね。去年みたいにみんなを呼んで・・・・」
 あかりの言葉を遮って、
「今年は・・・・二人でやらねーか?」
 あかりはあっさり、
「うん、いいよ」
が、
「・・・・・・え?・・・・・二人で・・・・・・・・えっ?えっ?」
 後になって明らかに動揺しているあかり。
「だめか?他に予定があるのか?」
「・・・・ううん、そうじゃないよ。そうじゃないけど・・・・」
「二人だけでクリスマスを過ごそーぜ」
 俺のセリフにあかりは俯いて、
「う・・・うん」
「・・・・嬉しくねーか?」
「え?」
 ハッとした顔をするあかり。少し時間をかけて、そして俯いていた顔を上げた。心なしか目が潤んでいた。
「・・・・ううん、違うよ。・・・・・・・嬉しい。・・・嬉しくて・・・・なんだか緊張しちゃって・・・」
「そ・・・・そうか。じゃ、決まりだな」
「うん。クリスマスが楽しみだね」
 あかりが肉まんを食べ終わった頃、
「あかり、今欲しい物あるか?」
 俺が聞くと、
「えっ?・・・うーん・・・あっ、いいよ、プレゼントなんか」
「まあ、いいじゃねーか。なあ、何が欲しいんだよ?」
「だめだよ。そんな物にお金かけちゃ」
「俺はあかりにプレゼントしたんだよ。高い物は買えねーけどな」
「だから・・・いいよ。・・・・じゃあ、浩之ちゃんは何が欲しいの?」
「俺?いいよ。別に欲しい物は今のところねーからな」
「そんなのずるいよ。私が貰って浩之ちゃんが何もないなんて・・・」
「俺はいいの。もうガキじゃねーんだから」
「私も子供じゃないよ」
 ・・・・じーーーーー。
「うっ・・・・ち・・・・ちょっとはまだ・・・子供・・・だけど・・・」
 結局家に帰るまで教えてくれなかった。・・・・いいじゃねーか。クリスマスだぜ。
 年に一度しかねーんだから・・・・・・ってこれは志保のセリフか。
 俺が適当に買ってもいいんだけどやっぱりあかりが一番欲しい物を買った方がいいよな。


 12月11日の休み時間・・・。自分の椅子に座っていると、
「やあ、浩之」
「おう、雅史」
 ・・・そうだ。
「なあ、雅史。ちょっと頼まれてくれねーか?」
「え?別にいいけど」
「あかりにだな、今一番欲しい物は何かって聞いてきて欲しいんだ」
「だったら直接言った方がいいんじゃない?」
「いや、直接聞けない事情があるんだ。・・・・頼む!」
 雅史の前でパンと手をあわせる。雅史はクスッと笑って、
「いいよ。何が欲しいかを聞いてきたらいいんだね」
「ありがてえ。サンキュ、雅史。それとなくだぞ。何気なく聞くんだぞ」
「うん。じゃあ昼休みに聞いておくね」
 さすが幼なじみ。深く追求しないのは助かる。
 そして昼休み。中庭で雅史を待っていると、
「浩之」
「おう、ほれカツサンドとウインナーロール。カフェオレで良かったよな」
「うん、ありがとう」
 雅史に売店で買った昼飯を渡した。
「で、どうだった?」
「うん、今は特にないって言ってた」
「あ?・・・なんだよ。そうなのかよ・・・」
「でも、クリスマスに女の子に送る物だったらやっぱり貴金属がいいんじゃないかな?」
「え?・・・俺、おまえにクリスマスなんて一言も言ってねーぜ」
 雅史はカフェオレを飲みながら微笑んで、
「この時期にそんな事を聞いてきたら誰でもそれくらいの予想は出来るよ」
「・・・・そうか・・」
 今日は朝の内は寒空だったが昼にもなると日が昇って温かい陽気になる。少し肌寒い風が吹いたりはするが。
「やっぱ、指輪とかが無難だな」
 焼きそばパンを頬張りながら言うと、
「うん、そうだね。でも、あんまり高い物はかえって逆効果だよ。あかりちゃんはそういう人だから・・・」
「分かってるよ。何年、幼なじみやってるって思ってんだよ」
「そうだね。でも、あかりちゃんとそういう関係になったのは最近だろう?」
「えっ?・・・・・雅史・・・おまえ」
 雅史はウインナーロールを食べて、
「僕も幼なじみの一人だよ。前から二人のことは分かってた。応援するよ、浩之とあかりちゃん。すごく似合ってると思う」
「雅史・・・・」
「でも浩之とあかりちゃんがそういう関係でも僕は浩之の友達だからね」
 そう言って微笑んだ。
「すまねえ、雅史。それから・・・ありがとな、雅史」
 二人で昼御飯を終わらせ、教室に戻るとき、
「雅史は何が欲しいんだ?」
「ん?・・・・どうしたの?」
「いや、前にバトルッチを貰ったからな。何かやろうと思って」
「いいよ。そんな気を遣わなくても。じゃあ、浩之は何が欲しいの?」
「俺?・・・うーん、特には・・・・おっ、そう言えば最近ラジカセの調子が悪いんだよな。今はそれくらいかな」
「ふーん、そう」
「ま、来年のお年玉で買おうと思ってるけどよ」
 そんな会話をしながら二人で教室に入っていった。


 そしてその週の12月13日の日曜日。俺は一つの指輪を買った。でも、かなり恥ずかしかったな。
 いきなり店員さんが「恋人にですか?」なんてストレートな事を言ってくるもんだから思いっきり動揺してしまった。
 クリスマスらしく包装も綺麗にしてくれた。よーし、あかりの奴、喜んでくれるかな・・・・。


 12月14日・・・。
「おはよ、あかり」
「あ・おはよう、浩之ちゃん」
 登校の中、
「はあぁ」
「どうした?あかり、寝不足か?」
 大きなあくびを見られたあかりは慌てて口を押さえた。目元を擦って、
「うん・・・ちょっと」
 あかりははにかんで俺を見てきた。歩いているとまた、
「はあぁぁ・・・」
 横であかりの手が口元に伸びる。俺はすーっと息を吸って、
「わっ!!」
「きゃっ・・・・」
「目が覚めたか?」
「・・・う・・・うん。・・・びっくりした・・」


 12月15日・・・。一緒に登校しているとあかりの手にある何かを見つけた。
「あかり、その手・・・」
 あかりの指に巻かれたばんそうこうが目に入った。しかも両指合わせて5つも。指摘されてあかりはぎこちない笑みを見せて、
「・・・ちょっと・・・料理で失敗しちゃって・・・」
「へえ、おまえが料理で失敗するなんて珍しいな」
「う・・・うん、そうだね」
 人ごとのように言うあかり。

「浩之・・・ちょっと」
 休み時間、俺は雅史に呼び出された。雅史は廊下で手招きをしている。
「なんだよ。別に教室でもいいだろ?」
「ううん、ちょっと」
「なんだよ。その、ちょっと・・・ってのは」
「・・・・・浩之」
 雅史はどことなく暗い声で、
「昨日からあかりちゃん、変じゃない?」
「あかり?・・・おう、そう言えば手にばんそうこう貼ってたり。・・・でも別にそんなに気になることはなかったけど・・・何か・・・」
「浩之、ごめん」
 突然雅史が頭を下げた。
「お・・おい、どうしたんだよ。別におまえが謝ることなんか・・・」
「違うんだ、浩之。あかりちゃんのばんそうこう・・・・あれ・・・僕のせいなんだ」
「えっ?」
 いまいち事態がうまく飲み込めなかった。
「あの日・・・浩之があかりちゃんに欲しい物を聞きに行ったとき・・・実はあかりちゃんからも依頼を頼まれてたんだ。
・・・浩之の欲しい物を聞いてきてくれって・・・」
 雅史の声が段々小さくなる。それを聞いて正直驚いた。まさかあかりも雅史に聞いているなんて・・・・・。
「だから・・・浩之はラジカセが欲しいって・・・あかりちゃんに言ったんだ」
「で、その話とあかりのばんそうこうはどう繋がってるんだ?」
 俺が雅史に言い寄ると、雅史は俯いて、
「あかりちゃん・・・・近くのスーパーでバイトしてるんだ」
 雅史の言葉にもう一度驚いた。
「あかりが・・・・バイト?」
「僕もたまたまそこに通りかかったらあかりちゃんがいて・・・目が合って・・・・ラジカセのお金を稼いでいるって言ってた。
・・・・・浩之には絶対言わないでって言われてたけど・・・・・あの傷見てたら・・・・・僕のせいなんだ。
・・・・僕があかりちゃんに言わなければ・・・」
「いや、それは俺のせいだ。俺があんなに気軽にラジカセなんて言わなかったらよかったんだ。雅史のせいじゃねーよ。俺はおまえを責める理由なんてねーよ」
「・・・ごめんね、浩之」
「だからいいって」
「でも・・・あかりちゃんはバイトを続けるみたいだし・・・・」
「そうか・・・・。ま、それは俺の方から言っておくよ。雅史の名前は伏せておくから」
「うん・・・・」

 夕方・・・。俺は雅史に教えてもらった道を歩く。あかりのやつ、別にそこまでしなくてもいいのによ。嬉しいことは嬉しいけど、そんな事に時間使うなよ。
 進んでいくと、そこにはスーパーがあった。外から見ていると・・・・・・・いた。あかりは制服に着替えて商品を棚に並べていた。
 危なっかしい手つきで商品を並べていく。 髪もおさげにして動きやすくしていた。あかりはそれが終わると奥に引っ込み、
そして籠いっぱいに入ったキャベツを持ってきて・・・・・足下がおぼつかない。
 そりゃあんな重い物を持ってたら・・・・と次の瞬間。
「ドサドサドサ・・・」
 重さに耐えきれなくなったあかりの手から籠が滑り落ちた。あかりは慌てて籠にキャベツを入れ直している。
 と、奥から店長らしき人が来て、あかりのもとへやってきて何かを言っていた。
 あかりは頭を下げて謝っていた。・・・・おい、なにすんだよ。
 あかりは一生懸命やってるじゃねーか。それにそんな重い物を女の子に持たすなよ。
 どう見てもあかりに向いていない、いや、女の子には向いていないバイトだった。
 俺はあかりの姿を見て少し罪悪感を覚えた。・・・あかり・・・・・。
 一言言おうと思って中に入ろうとした時、あかりの横顔が目に入った。真剣な、凛とした今まで見たことのないあかりの目。
 健気なあかりの姿を見ていると、胸の奥が切なくなった。
 ・・・・・・・・・・あかり・・・・・。
 俺は言いようのない気持ちが駆け抜け、声をかけることなくその場を後にした。
 歩きながら、あかりの顔と手のばんそうこうを思い出していた。
 もし、あの時あかりに会っていたら・・・・もし、あの時止めさせるような事を言っていたら。
 ・・・・・・・それ自体があかりを傷つけることになるのではないか・・・。
 あかりの気持ちを踏みにじってしまうことになるのではないか。あかりも俺に見られたら気まずいだろう。
 もし俺が逆の立場だったら見られたくないし、それに自分のお金でプレゼントしたいと思う。
 ・・・俺に内緒でバイトをしているあかり。何を思って働いているのだろう。
 ・・・俺は決心した。・・・何も見なかったことにしよう。そしてイブに思いっきり「頑張ったな」と言ってやりたい。


 16日の夜。コンビニに雑誌を買いに行った時、・・・・ん?あの後ろ姿。・・・・・近付いて、
「あかり?」
 呼ばれた目の前の人はピクッと体を揺らした。こちらを振り返り、
「あ・・・・浩之・・ちゃん」
「・・・・へえ、珍しいな。・・・・おまえが夜出歩くなんて」
 ・・・俺には分かっていた。あかりがここにいる理由が。あかりは少し俯いて、
「う・・・うん、ちょっと用事があったから・・・」
「・・・ふ・・・ふーん・・・。・・・・・送ろうか?」
「ううん、大丈夫だよ。浩之ちゃん、バイバイ」
 俺とあかりは違う道を歩きだした。・・・・・・あかり・・・・。
 それから俺はいつもあのスーパーに行ってあかりの姿を見ていた。あかりは休むことなく頑張って働いていた。
 ドジをするのは相変わらすだが。・・・・クリスマスまで、あと7日。・・・・あかり・・・・頑張れ。


 そして12月18日になった日のこと。学校に着いて教室を見渡してみると・・・・。あかりがいなかった。
「なあ雅史、あかりは?」
 席に着いている雅史に聞いてみると、雅史は首を横に振って、
「まだだよ。・・・あかりちゃん、この時間くらいにいつも来るのに・・・・」
 そしてその日、あかりは学校には来なかった。先生の話によると「風邪」だそうだ。
 俺は下校時間になると志保の誘いを振り切ってあかりの家に向かった。あかりの家に着き、インターホンを鳴らす。しばらくして、
「はい・・・・」
 あかりの声だと分かったが明らかに元気はなかった。
「あ・・・俺、浩之」
「あ、浩之ちゃん。・・・ちょっと待ってね」
 玄関で待っていると「ガチャ」と言う音と共にパジャマを着たあかりが立っていた。
「風邪だって?」
「うん・・・ちょっと・・・ひいちゃったみたい・・」
 ピンク色のパジャマを着たあかりはケホケホと咳払いをした。家に上がり、あかりの部屋に入った。
「布団に入ってろよ。病人だろ?」
「うん・・・でも、せっかく浩之ちゃんが来てくれたからお茶でも・・・・」
「何言ってんだよ。おまえは体を治すことだけを考えてたらいいんだよ」
 あかりをベッドに寝かせて布団を掛けた。少し疲労も混じっているようだった。バイトのせいで風邪をひいたのか?
 ・・・・・だったら俺の責任だよな・・・。
「なあ、あかり・・・・」
 ベッドで横になっているあかりの顔を見た。ぽーっとした表情で頬が赤くなり、目も潤んでいた。
「何?浩之ちゃん」
 いつも通りの声でないあかりの弱々しい声。その原因が俺だと思うとやり切れなさが胸を打った。
「あのさ・・・・」
 それで止まった。もうバイトは止めろ・・・・。でも、言っていいのだろうか・・・・。 あかりは納得してくれるのだろうか・・・・・。
 それは本当の優しさなのだろうか・・・・・・。正直に言っていいのだろうか・・・・。 本当に・・・・・・・。
「浩之ちゃん・・・・・。顔が怖いよ・・・・」
「・・・・・えっ?・・・・ああ」
 思い詰めていたのか、顔がこわばっていたようだ。
「浩之ちゃん、どうしたの?体の具合、良くないの?」
 ・・・・・あかり。自分よりも俺の心配をしてくれるあかり。
「いや、大丈夫だ」
 右手であかりの頬に触れた。あかりは「んっ」と敏感に反応した。柔らかさが手の平を伝って感じた。
 あかりはじっと俺の顔を見つめている。顔にかかっているあかりの髪を手で整えて、
「あかり・・・・・・頑張れよ」
「えっ?・・・・」
「じゃあ、俺帰る」
「あ・・・うん。それじゃあ」
 俺が部屋を出るとき、
「浩之ちゃん」
 振り返ると、
「私・・・・頑張るね」
 俺は大きく頷いた。
 帰り道。・・・・・・やっぱり俺は・・・・・嫌な奴なのかな・・・・・・・・・。


 12月19日の帰り道。今日もあかりは学校を休んだ。二日学校で会っていないだけなのに長い時間見ていないような、そんな不安感が出来た。
 俺が今出来ることはあかりの家に行って励ますことぐらいだ。今日もあかりの見舞いに行くか。俺は家の前に立ってインターホンを押す。
 ・・・・・しばらくしても何の返事もなかった。・・・・・もう一回押してみた。
 ・・・・・・・・もう一回・・・・・・。
 結果は同じで、あかりもおばさんも出てこなかった。・・・・おかしいな。あかりは家にいるはずだけど・・・・・・・・。
 そのとき俺の心のほんの小さな隙間に、「もしや」と言う言葉が生まれた。・・・・・考えすぎだよな。・・・・考えすぎ。・・・・考え・・・・・。
 確証はないことは俺が分かっていた。・・・・・・あかり、おまえ・・・・。俺は元来た道を全力で走った。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
 スーパーに着く頃には息が上がっていた。軽く深呼吸する。
 ・・・・・・もし・・・・・・・いたら・・・・もし・・・・もし・・・・・・。
 一呼吸おいて、
「・・・・・・・・・・・」
 ・・・・・・・・・あかり。
 ・・・・・あかりの姿はいつも通りの格好で、そこにいるのが自然であるかのように仕事をしていた。
 ・・・・あかり・・・なんでこんな所にいるんだよ・・・。風邪は・・・・。
 あかりを見ていると時折口に手を当てて咳き込んでいた。
 ・・・・・・なんでだよ・・・・・。今日は学校休んだんだろ?風邪・・・・ひいてんだろ?
 ・・・だったら・・・だったら休めよ。・・・・・休んで・・・体・・・大事にしろよ・・・・。
 なんで・・・・・・・・なんで・・・・。俺のせいなのか?・・・・・たかが・・・ラジカセ一つで・・・・・なんでここまで・・・・。
 あかりを見ていると胸の底からこみ上げてくるものがあり、ぐっと手に力が入った。
 それと同時に俺に対する情けなさが顔を見せた。あかりは・・・・あかりは頑張ってんだ。
 ・・・けど・・・・けど・・・・俺は・・・・何もしてやれないのか・・・・・。
 あかりのひたむき想い。あかりの一生懸命な想い。
 ・・・あかり・・・。あかり・・・。あかり・・・。
 俺の答えは・・・・背を向けて歩き出した。・・・・言えない。・・・言えるはず・・・ねーだろ。
 やめろなんて・・・・・。そんな軽々しいものだったら・・・・こんな日に来てまでやらねーよ。
 真剣なんだ。一生懸命なんだ。頑張ってるんだ。俺に・・・・ラジカセを・・・・あかりの気持ちの現れを、物にして・・・・俺に渡そうとしてるんだ。
 ・・・俺なんかに・・・・。俺なんかのために・・・・体、張って・・・・。
 ほんと・・・・バカだよな・・・・。あかりも・・・・俺も・・・。鼻をすすり、柄にもなく・・・・けっ、目が・・・どうにかしちまった・・・。
 帰り道は視界がぼやけてよく見えなかった。


 そして12月24日。世間で言う「クリスマス」だ。学校でも今日はその話で持ちきりだった。
 教室中が騒がしかった。仲間内で集まってパーティーでもやろうと企画しているのだろう、どこの家にするとか、帰りに何か買おうとか、
二次会は何をするとか。そんな会話が絶え間なく聞こえてきた。
 今日一日はこんな具合になるだろう。
「浩之。今日はいつもより騒がしいね」
「まあ、お祭りだからな」
 俺の机に雅史が来て教室を見回しながら言っていると、前のドアが「ガラッ」と勢いよく開いた。
 と思ったら、一匹の女子高生が俺の方目がけて走ってきた。
「ちょっと、ヒロ!聞いてよぉぉぉぉ!」
「雅史、今日は何食う?」
「僕はいつものかな」
「うわぁぁぁぁ!!人の話聞けよ、おまえら!!」
 露骨に無視された志保は教室で一番大きな声で叫んだ。
「志保、ちょっとうるさいよ」
 あかりが微笑みながら少し困った顔をした。
「ねえ、今年も去年みたいに集まろうよ」
「ん?おまえ、今年は彼氏と過ごすんじゃなかったのか?」
 俺がからかいながら言うと、
「うっ・・・えっと・・・・その・・・。ほ・・ほら一応あの時は彼氏を立てたけどやっぱりこのメンバーがいいかなって・・・・。
そうそう、その為に彼氏との約束を断ってきたんだから」
 俺と雅史は白い目で志保の言い訳を聞いていた。当の志保も笑みとも泣き顔ともつかないような複雑な顔をしていた。
「ごめん志保。今年は部の方に顔を出そうかと思うんだ」
 雅史は申し訳なさそうに志保に言った。
「そ・・・そう。それなら仕方ないわね。じゃあ、ヒロとあかりは?当然・・・」
「却下」
「な・・・なんでよ?」
 志保は目を丸くして俺に言い寄った。
「悪いな志保」
「だからなんでよ?あかりは?」
「・・・・ごめん、志保。私・・・用事があるから・・・」
 あかりは声が小さくなりながら言った。
「なんで二人とも駄目なの?」
「まあ、そう言うこった。ほら、もういいだろ?帰れよ」
 志保を追い出そうとしたとき、志保は何を思ったのか、にやけた顔を俺に見せた。
「ふーん。・・・あんた・・・・去年の勝負が怖いの?」
 志保は不気味な笑みを見せ、
「そうよねぇ。男の子が女の子にお酒で負けたら情けないわよねぇ。・・・・まあ今年の勝負は不戦勝ということで私の・・・」
「いいぜ。それで」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 俺の即答に志保は固まってしまった。そのふぬけの顔から段々と息を吹き返してその顔は怒りの表情に変わり、
「ふん!酒が飲めて何の得があるってのよ!」
「てめーが言ったんだろーが!」
 志保の逆ギレでその場は盛り上がった。そんなバカな状況の中、あかりの方を見てみると少し疲れた、悲しそうな顔を覗かせていて、
時折吐くため息はどことなく弱々しかった。
 それでも俺の視線に気付くと、
「何?浩之ちゃん」
と笑顔を見せてくれる。そんなあかりの姿を見て嬉しくなり、同時に切なさも感じた。
 下校時、あかりは6時頃行くといって自分の家に帰った。俺も自分の家に戻り、あかりを待つことにした。
 両親は毎年恒例の旅行に行っている。去年もどっかに行っていたよな。
 ったく・・・・。ぶつくさ言いながら玄関と廊下を行ったり来たりしていた。あかりが来るのは6時。
 ・・・・おいおい・・・何、緊張してんだよ、俺は・・・。何、焦ってんだよ・・・俺は・・・・。
 あかりに何て言おうか・・・。「頑張ったな、あかり」・・・。うーん、ありきたり。
「これ欲しかったんだよ。ありがと、あかり」・・・・。芝居入りすぎ。・・・・・何か気のきいた言葉はないのかよ・・・・。俺のボキャブラリーの少なさが悔やまれる。
 その間も行ったり・・・来たり・・・行ったり・・・来たり・・・来たり・・・行ったり・・・行ったり・・・。
 と玄関先の時計を見ると6時を刻んでいた。・・・もうすぐ来る頃だ。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そしてそれから30分経った今もあかりは来ていなかった。
 あいつが時間を破るなんて珍しい。何かあったのか?ちょっと、と外に出ようとしたとき、
「ピーン・・・・・ポーン」
 チャイムのゆっくり鳴る音。俺ははやる気持ちを押さえて玄関を開けた。
「・・・・あか・・・・・り?」
 玄関のライトに照らされて、外にいるのは紛れもないあかりだった。が、どことなく・・・いや・・・
 明らかにいつもの明るいあかりではないことに気付くのに時間はかからなかった。
 鼻をすすりながらその場に立っているあかり。怒られてシュンとなっている子供のように。
「ど・・・どうしたんだよ。・・・・・あかり?」
 俺が不安そうに聞くと、
「・・・・・・・ごめんね・・・・・浩之ちゃん・・・・」
 あかりの第一声。
「何言ってんだよ。さ、入れよ。寒いだろ?」
 俺が促すがあかりはあかりは微動だにしなかった。・・・ったく。俺は半ば強引にあかりの手を引っ張って家に入れた。
 手を掴んで分かったがあかりの体は震えていた。
「寒いんだったら早く入れよ」
 あかりに話しかけるがあかりは俯いたままだった。そして二人とも何も言わない時が流れていった。何分経っただろうか。
 その重圧に耐えれなくなり俺が何か言おうとすると、
「浩之ちゃん・・・・ごめんね・・・・ごめんね・・・・」
 繰り返して謝ってくるあかり。
「だから、何を謝ってんだよ?言わなきゃ分かんねーだろ?別に怒らねーからさ」
 ここまで謝られると俺自身何をしたのか少し怖かった。俺が優しくさとすとあかりは重い口を開いた。
「私・・・・・浩之ちゃんに・・・・嘘言ってた」
 あかりはそんなことを唐突に言った。
「私・・・・・浩之ちゃんに・・・・・・生まれて初めて・・・・・嘘・・・・・言った。・・・・ずっと・・・・隠してたことがあるの・・・・・」
 あかりの今にも泣き出しそうな声。俺の出来ることはただ聞くことしかなかった。
「・・・・・・雅史君に言って・・・・浩之ちゃんの欲しい物を聞いたの。・・・・・そうしたらラジカセって言ったから・・・・
私・・・・お金がなかったから・・・・今まで・・・・アルバイトしてたの・・・・。だから・・・一緒に帰れない日が続いて・・・・
私・・・・辛かった・・・・。でも・・・でも浩之ちゃんが欲しい物だって言ったから・・・・・我慢して・・・・お金貯めて買おうと思ったんだけど・・・・・
思ったんだけど・・・・・・・・・ううっ・・・・うえぇ・・・」
 あかりはとうとう泣き出してしまった。子供のように泣きじゃくるあかり。両手で自分の目を擦りながら目の前で泣いている。
 今気が付いたがあかりは何も手にしていなかった。
「・・・・・・・買えなかったの」
 一言・・・・。重い重い一言が玄関先に響いた。それがあかりの答えだった。それがあかりの泣いていた理由だった。
 それを聞いて俺もゆっくり話した。
「・・・・すまん、あかり。・・・・俺も一つあかりに隠してたことがあるんだ」
「えっ?・・・・」
 あかりの涙顔を見ながら、
「・・・俺・・・知ってたんだ。あかりがバイトしてたのを」
 あかりの体がぴくっと揺れた。・・・一息吐いて、
「スーパーでバイトしてたんだろ?・・・・俺・・・見てたんだよ。あかりがバイトしてたのを」
 全てを知っていた。あかりが慣れない手つきで仕事をしていたのを、そしてそれでも一生懸命働いていたことを。
「今まで黙ってて悪かった。・・・・けどよ、あかりのあんな真剣な顔見たの初めてだったから・・・・・声・・・かけれなかった。
・・・・そりゃ、買えなかったのは悔しいと思う。その気持ち・・・・俺、すっげー分かるぜ。俺だってあんなに頑張って買えなかったら悔しいと思うだろうな。
・・・・でもよ・・・・・あかりは・・・・俺が見たあかりは・・・・すっげー頑張ってたぜ」
 あかりは黙って俺の話を聞いていた。何もお金をかけて、高価なものでその人に対する価値が決まるわけでもないし、ましてプレゼントがなくても・・・・
 結果が出ていなくても・・・・・。
「寒い日・・・あんな時でも・・・・バイトしてたじゃねーか。風邪ひいてた時でも・・・・・・バイト・・・・・
やってたじゃねーか。結果なんていいんだよ。俺は、あかりのあの頑張ってる姿だけで、嬉しかったぜ」
 俺は出来るだけ優しくあかりに話しかけた。
「だからよ、そんなに落ち込むなよ。今日はクリスマスだろ?もっと元気になれよ」
 俺の、励ましになるかどうかは分からないがとにかくあかりを元気付けてやりたかった。
「浩之ちゃん・・・・」
 あかりのまっすぐな視線。俺は微笑んで、
「あかり。・・・・よく頑張ったな」
「・・・浩之ちゃん・・・・・・・うっ・・・・・ううっ・・・・」
 泣き出したあかりを俺は無意識の内に抱き寄せていた。あかりの愛らしい泣き声を聞いていると胸が締め付けられる思いがした。
 本当に、本当にあかりは頑張った。それは俺が一番よく理解していた。あかりは少し落ち着いて、
「私・・・・昔から浩之ちゃんに驚かされることが多かったから・・・・私も浩之ちゃんをびっくりさせようと思ったけど・・・・浩之ちゃんは分かってたんだね。
・・・・・やっぱり私・・・嘘が下手だね」
 悲しそうな目をしながらも笑みを見せるあかり。
「いいじゃねーか。とりあえず今日は明るくやろーぜ」
 俺の言葉にあかりは、多少ぎこちなさを見せつつも、
「うん」
と元気よく頷いてくれた。
 そしてその後、二人で買い物に出かけた。あかりがせめてもの償いと言って料理をすると言ったからだ。
「浩之ちゃんは何が食べたい?」
「うーん、別にこれといってはねーけど・・・ま、あかりに任せる」
「うん」
 スーパーで一通りの買い物をして家に着いた。
 そして小一時間後・・・。
「出来たよ、浩之ちゃん」
 奥から呼ぶあかりの声。
「おう」
 ソファーから立って台所に行くとすでに料理が並んでいて、横にケーキが置いてあり、そしてお箸とお椀が・・・・・・・・・おろ?
 よく見てみるとテーブルに並んでいるおかずは・・・・。
「・・・おい、あかり」
「何?浩之ちゃん」
「今日はクリスマスだよな?」
 テーブルにあるのはどこをどう見たところで「クリスマス」ではなく、普通の日の日本の食卓がそこにはあった。
「う・・・うん。私・・・ローストチキンとか出来ないから・・・・それに浩之ちゃんが何でもいいって言ったから・・・」
「・・・そうは言ったけどよ。ま、クリスマスにこういう物も面白くていいかもな」
 それが逆に新鮮だった。俺がフォローを入れると、
「でも、この肉じゃがは牛肉じゃなくて鳥の手羽を使ってるし、それにほら、このあえものは大根と人参でクリスマスカラーだよ」
とあかりは両手で持った小皿を見せた。
「ほお。けっこう考えてんだな」
 椅子に座り、あかりがご飯をよそおった。パチンと手を合わせて、
「いただきまーす」
「はい、どうぞ」
 まずは肉じゃがならぬ「鳥じゃが」に箸を付けた。じゃがいもを割ると「ふわり」と湯気が立ち上がる。
 口に運んで、ふーふー・・・ぱく・・もぐもぐもぐ・・・・・・ごくん。
「どう?浩之ちゃん」
 あかりは心配そうに聞いてきた。舌に残る後味を噛み締めて、
「うん。うまいぜ、あかり」
 その一言であかりはパッと明るい顔をした。
「うまい。マジでうまいよ。さすがはあかりだな」
 あかりは照れ笑いを隠せないでいた。手羽も柔かいし、味もしっかり染みてるし、何よりもあかりの性格が料理に現れていて、
小細工なしのまっすぐな味がした。鳥じゃがを食べた後、ご飯をかっこんだ。がつがつがつ・・。
 ふと見るとあかりは嬉しそうな顔をしてじっと俺の方を見ていた。箸を止めて、
「何?あかり。俺の顔に何か付いてる?」
 あかりははっとした顔をして、それから、
「浩之ちゃんがあんまり美味しそうに食べるから・・・」
「だってよ、うまいもんはうまいんだよな。・・・あ、もうちょっと味わって食った方がいいか?」
 あかりは首を横に振って、
「ううん。・・・浩之ちゃんの食べる姿・・・すごく好き。一生懸命食べてくれるから私も嬉しい」
 あかりは飽きることなく俺の食べている姿を見ていた。
「あっ・・・忘れてた」
 あかりが冷蔵庫からビンを取り出し、グラスに注いだ。
「はい、シャンパン」
「・・・・・・煮物にシャンパン・・・」
 苦笑しながらグラスを仰いだ。・・・・・うん、けっこうイケるな。あかりも箸を取ってあえものを食べた。
 きょうはクリスマスということであかりもシャンパンを飲み、少し顔が赤らんだ。二人のクリスマスパーティーは楽しく過ぎ、
食後のクリスマスケーキも食べ終わり、
「ん、ごっそさん」
「はい、お粗末さまでした」

「今日は素敵なクリスマスになるといいですね」
 テレビから聞こえてくるアナウンサーの声を聞きながらリビングでお茶をすすった。台所からはあかりが洗い物をしている音が聞こえてくる。
 後ろを振り返るとあかりのエプロン姿の背後が見れた。食器を洗うたびにお尻が揺れている。
 蛇口から出る水の音が止まった。手を拭いてあかりはリビングに来てソファーに座った。
「今日はクリスマスだね」
 あかりがテレビを見て言った。
「そうだな」
 俺の気のない返事。食後の心地よさでテレビの音は霞んで聞こえた。
と、なんとなく聞いていたテレビの声からクリスマスプレゼントの特集をしていた。
 それを見てあかりは、少し悲しそうな顔を見せた。一応元気は取り戻してはいるが、やはりあかりにとっては、まだ心残りなのだろう。
と、あかりが
「・・・・・ねえ・・・浩之ちゃん・・・・」
「ん?」
「・・・・浩之ちゃんのラジカセ・・・・見せて・・・」
 唐突に言ってきた。
「ラジカセ?別にかまわねーけど」
 俺とあかりは階段を上り、「ガチャッ」
「これだよ」
と棚の上のラジカセを指した。
「へえ・・・」
「よっと」
 ベッドに腰を下ろして近くのゴムボールを手にして宙に投げた。ボールは上に昇り、俺の手に戻ってきた。
 ふとドアのところにいるあかりを見てみると、入った状態のまま微動だにしていなかった。
「?・・・どうした?あかり」
 あかりは俺に視線を合わせることなくじっと自分の足元を見ていた。
「私・・・・浩之ちゃんに・・・・まだプレゼント・・・・渡してないから・・・・」
 手を胸の辺りに持っていきもじもじしていた。
「だから?」
「・・・・・・だから・・・・・浩之ちゃんの・・・・・浩之ちゃんの・・・・・」
 顔を赤らめ、落ち着きのなさが見て取れた。口を開けたり閉めたり、視線は宙をさまよっていた。
 それをじっと見ていると右手を口に持っていき、
「・・・・・・・・・・・・・・・浩之ちゃんの・・・・・・・・・・・・好きにしていいよ」
 俺はボールを投げる。
 ひゅん・・・・。ぽす・・・・。
 ひゅん・・・・。ぽす・・・・。
 あかりの言葉の意味は、俺の部屋に来た意味はそうだったんだ。あかりを見ずにボールを追いかけていた。
 ひゅん・・・・・。ぽす・・・。
「・・・・・・・あかり」
 ボールに視線を落としてあかりの方は見なかった。数十秒の沈黙。・・・・そして、
「・・・・俺・・・・そういうの・・・嫌いだな」
「えっ?・・・」
 ひゅん・・・・・・。ぽす・・・・・。
「なあ、あかり」
 ひゅん・・・・・。ぽす・・・・・。
「・・・・・そんな・・・・軽々しいもんなのか?・・・・そんな・・・・変わりにとか・・・・・・そういうもんなのか?」
 ひゅん・・・・。ぽす・・・・・。
「・・・そんな・・・・・格好だけの・・・・・・形だけの・・・・関係なのか?・・・・・俺達って・・・」
 ひゅん・・・・・。ぽす・・・・・。ちらりとあかりを見ると今にも泣き出しそうな顔だった。俺は口調をゆっくりにして、
「買えなかった代償とか・・・そういうことで・・・・あかりとなんか・・・やりたくねーよ」
 ないものは仕方ない。だけど・・・だからといってその変わりとかで、そんなことであかりと一つになっても俺自身が納得できない。あかりだって・・・・。
「・・・・好きだから・・・・出来るんだろ?」
 ただあかりの気持ちは正直言って嬉しかった。あかりも考えての行動だろう、今自分に出来ることを考えて、そして俺の部屋に入ってきた。
 その健気さは攻めたくなかった。だが、
 そんなことでやりたくはなかった。・・・・・そんなことであかりを汚したくはなかった。
 ひゅん・・・・。てん・・てん・・てん・・。
 ボールは俺の手からこぼれ、あかりの前に行った。足もとのボールをしばらく見つめ、しゃがんで手にするあかり。
 手にした水色の球体を見つめて、俺を見てきた。両者が見つめ合うこと数十秒・・・・。 涙声で、
「・・・・・好きだから・・・・・・・・だよね」
 あかりは俺の目を見ながら、
 すっ・・・。
 あかりの手からボールが離れた。ゆっくり弧を描いて俺の右手に入った。そしてあかりもゆっくり俺に飛び込んできた。
 お互いが好きだから、お互いがいとおしいから、お互いが信じ合っているから出来る心と心のキャッチボール。
 それがなければ一緒にいても意味がない。あかりは体重を俺に預けてきた。
「俺はラジカセの代償とか・・・そんなんであかりとするわけじゃねーぜ。・・・・・あかりが好きだから・・・・するんだからな」
「・・・・・・・うん・・・・ごめん・・・浩之ちゃん・・・。私・・・・・どうかしてた・・・・。私も・・・・・浩之ちゃんが好きだから・・・・
大好きだから・・・・だから・・・・」
「・・・あかり・・・」
「・・・・・浩之ちゃん・・・・・」
 体を入れ替え、あかりをベッドに寝かせた。
 アルコールでほんのり朱色に染まったあかりの顔はいつにも増して色っぽかった。そのあかりの桃のような頬に触れた。
 温かい柔かな感触が心地よく俺の手に伝わった。頬を伝って首筋を撫でると、
「んっ・・・」
 あかりは首をすぼめて反応した。頚動脈の辺りを中指で円の動きをすると「ピクッ・・・・ピクッ・・」
とあかりの顔が揺れる。右手であかりの左耳に触れてみた。
 親指と人差し指で耳たぶを優しくつまんで軽く擦る。
 あかりは目を閉じて、
「んっ・・・・・やあ・・・・」
 耳に顔を近づけて、「ふっ」と一息。
「んあっ・・・・」
 あかりはひときわ大きい声を出した。
「やっぱ、耳って敏感なんだな」
 耳の外側をなぞる。
「・・・ん・・・・。分かんないけど・・・・でも・・・・首とか、耳とかを触られたら・・・・胸の辺りが・・・・
「きゅう」って・・・・・切なく・・・・・・んっ」
 喋っているあかりの口に自分の唇を重ねた。
「んんっ・・・」
 あかりの唇の柔かさを自分の同じ物で感じてから舌を差し入れた。あかりの口の中に入ったそれはあかり自身の舌先を捕らえた。
 あかりは驚いた顔をして口を閉じようとしたので俺は舌を動かしあかりの口内を味わった。少しアルコールの匂いの残るあかりの口。
 その中は柔かい密室で、唾液は甘く温かく思わず心臓が高鳴るくらい興奮した。その中のあかりの舌を感じると軽く絡めた。
 あかりは逃げようと舌を引っ込ませるがそこに逃げ場はなくゆっくりとあかりの舌に触れていった。
 最初は俺が動くばかりだったがそのうちあかりの方も遠慮がちに俺に触れてきた。
 舌を抜き出すとあかりと俺の舌に一筋の線が伸びて、すっとそれは切れた。
 ゆっくりと目を開けたあかりの顔は今まで以上に薄桃色の色をおびて、目はトロンと座っており、口は軽く開いていた。
 そのぽーっとしたあかりの顔を見ながら服のボタンを外しだした。今のキスのせいか、あかりの体には抵抗の「て」の字もなかった。
 最後のボタンを外して服を脱がすと白い、周りに小さくフリルの付いたブラジャーが目に入った。
 その可愛らしい下着越しに触れ、優しいタッチであかりの胸をやんわりと揉み上げた。
 決して大きいとは言えないあかりの胸だが、そこにあるわずかな柔かさは何とも言えないくらい触っていて心地よかった。
 人差し指で胸をなぞっていくと中心部の辺りが段々と下着を押し上げていった。目で見てもはっきり分かるくらいのあかりの胸の突起。
 人差し指で周りから擦っていき、それはゆっくりと中心部に迫っていく。それが突起に触れると、
「ふあっ・・・・」
 あかりは思わず声を出した。親指と人差し指で軽くつまんで「くりくり」と回したり、振動を送ってみたりすると
「やあっ・・・・・・んっ・・・・・・・やう・・・・・」
 体をふるふると揺らしながらあかりは敏感に感じていた。その内、
「あふっ・・・・・」
とあかりの口から今までにないくらいの悩ましげな声が漏れた。フロントホックを外して下着を取り払うとあかりの幼い乳房と
すでに顔を覗かせているピンク色のあかりの山頂。
 直に触れるとあかりの体温が手を通して伝わり、あかりの「とくん、とくん、とくん」と早い心音も感じ取れた。
 両手であかりの胸を揉んでいくと俺の手の中で自在に形を変えた。
 おもむろに舌で突起に触れる。
「んう・・・・」
 あかりの切なそうな声を聞きながら舌を滑らせた。唇で軽く挟んでから舌先であかりの乳首を舐め回した。
 右の突起を口で、もう片方を指で愛撫した。両方の敏感な部分を吸われ、指でいじられてあかりはピクピクと反応を早めていった。
「はあ・・・・はあ・・・・。・・・そんなに・・・・胸ばっかり・・・・いじめちゃ・・・・やだよ・・・」
 あかりが外側からの刺激を受け、詰まりながら口を開いて精一杯の声を振り絞って俺に言ってきた。
 俺の手は胸を降りてへそを通り、そのままスカートを脱がした。
 ブラジャーとお揃いのフリルの付いた真っ白なショーツ。その純白の下着を足のくるぶしまで下ろした。
 当のあかりは両手で顔を隠している。
 俺はその光景を見ながらゆっくりと張りのある足を広げていった。あかりの・・・・・・秘部。
 俺の目の先にあるそれは美麗という言葉が相応しい形でたたずんでいた。
 真っ白な下腹部から続いているあかりの肌。それが足の付け根の部分でふっくらと微妙なラインを描いていた。
 その丘にはまだ生えはじめの陰りがあり、股間の下の方にピンク色の秘部があった。
 まだリンゴの芯のような縦線一本のあかりの割れ目。奇麗な立て割れに覗く柔かで温かそうな濡れた二枚の小さな秘割れ。
 その神聖な部分に指で周りを擦ると、
「ひっ・・・・・やあ・・・・」
 あかりが顔に手を当てながら足を動かした。初々しい割れ目に人差し指と中指をあてがい左右に開いた。
 マシュマロのような柔かな感触。広げてみるとほのかな湿り気を帯びた柔肉が見れた。 俺自身、そしてあかり自身も息が荒くなっていった。
 じっと見つめていると、割れ目から透き通った蜜のような液体がトロトロと溢れてきた。 顔を近づけじっくりと見ていると、指の隙間から覗いているあかりが、
「・・・浩之ちゃん・・・・・・そんなに・・・・・見ちゃ・・・・・・だめ・・・・」
「それじゃ、舐めよっと」
「えっ・・・・そういう意味じゃなくって。・・・・・ああっ・・・・・」
 顔を埋め込み割れ目に口を押し当ててゆっくりと舌を差し入れていった。あかりは顔から手を離し、その目は閉じられていた。
 中のピンクの秘部の柔かさが舌先に伝わり、さらに奥に舌を入れてみると、
「んっ・・・・・はっ・・・・・・」
 あかりが悶えると同時に差し入れている舌が「きゅっ」とあかりの秘部によって締まった。
 くちゅくちゅと舌を抜き差しするとそれに比例して舌を締めてくる。
 ヒダを舐めながら上に昇り、小さなクリトリスを見つけて舌を這わすと、
「ひあっ!・・・・」
 内股に力が入り、あかりの口から悩ましげな声が漏れた。お尻が震え、膝もかたかたと俺の顔に伝わってきていた。
「気持ちいいか?あかり」
「えっ?・・・・・・・・・んっ」
 ぺろぺろぺろぺろ・・・・。
「んっ・・・・・やあ・・・・・」
「気持ちよく・・・ねーか?」
 俺が少し寂しそうに言うとあかりは戸惑いながら恥ずかしそうに、
「んっ・・・・・き・・・・気持ち・・・・いいよ」
「・・・ふーん、あかりって、けっこうエッチなんだな」
 いたずらっぽく言うと、あかりはみるみる顔を赤らめて手を頬に持っていき涙声で、
「・・・・浩之ちゃあん・・・ひ・・・ひどいよお・・・・・」
 恥じらいながら体を震わせた。そんなあかりの透き通るような繊細な体、愛らしい声。目の前のあかりという存在全てに俺の胸は高鳴っていった。
 そして俺の下半身もすでにこれ以上は固くならないというくらい凝固していた。
 俺も服を脱いで全裸になった。
「あかり」
 名前を呼んでそのあかりの視線の先には俺の分身がそそり立っていた。あかりは思わず目を反らした。
「俺が・・・・・あかりを見てるから・・・・あかりが俺を見てるから・・・・こんな風になっちまうんだぜ」
「・・・・・浩之ちゃん・・・・・」
 あかりの股座に腰を下ろし、あかりの秘部に俺の男根に付けた。
「いくぜ、あかり」
 俺の言葉にあかりは瞳を潤ませながら「・・・・うん」と首を縦に振った。ペニスを秘部にあてがい、ゆっくり挿入していった。
 ・・・つぷ・・・つぷり・・・・。
「んっ!・・・・はっ・・・・・・」
 あかりの顔が険しくなり、目を目一杯閉じている。ゆっくり、ゆっくりといとおしむように深くあかりの秘割れに埋没していった。
 そして俺の男根は全てあかりに飲み込まれた。あかりは息を荒くしながら力なく俺を見つめてきた。
 その瞳には涙が浮かび、今にもこぼれそうだった。その表情を間のあたりにし、俺の心は揺れ動いた。
「浩之ちゃん・・・・」
 あかりが確かめるように俺の名前を呼んだ。あかりの中の俺は柔かく温かくぬめぬめしてあかりの息継ぎの度にきゅっ、きゅっと締め付けてくる。
 柔かいような感触が伝わってくるのにきついような狭いような、そんな正反対の感覚がペニスに伝わりそれは全身に飛び交った。俺は動かさずに、じっとしていた。
 あかりの中にいるだけで、それだけで気持ちよかった。あかりは目を閉じたままだったので、
「あかり、苦しくないか?」
 俺の問いに、あかりは閉じていた目を半分くらい開いて、
「・・・・ちょっと・・・・苦しいけど・・・・・・・でも・・・・この苦しいっていうのは・・・・苦しいっていう意味じゃなくて・・・・・・
苦しくない苦しい・・・・って・・・・あれ?・・・・えっと・・・」
 あかりが困惑しながら答えていたので苦笑いしつつ、
「痛かったら言えよ。すぐに止めるから」
 あかりは少し口を緩めて、
「・・・うん・・・大丈夫だよ・・・・」
 俺は膝を立て、
「動かすぞ」
 軽く腰を動かした。ペニスの半分が出てきて、またあかりに入っていった。ゆっくり、優しく、
大切にあかりの顔を見ながらペニスをスライドさせていった。
 ぬぷ・・ぬぷ・・ぬぷ・・ぬぷ・・。
 あかりは、
「んっ・・んっ・・んっ・・んっ・・」
 リズミカルに出し入れしているペニスの動きと、あかりの声がシンクロしていた。
「あかりの中、すっげー気持ちいいぜ」
「やあ・・・・。・・・そんなこと言わないで・・・・・・・恥ずかしい・・・よ・・・・んっ」
「じゃあ、あかりの中気持ちよくない」
 そう言うとあかりは途端に寂しそうな顔をして、あかりの目から・・・ほろり・・・。
「ぐすっ・・・・浩之ちゃん・・・・・・・・そんなこと・・・言わないで・・・・・」
 涙声で囁いてきた。その光景に一層気持ちが高ぶり、段々と速度が上がっていった。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・・。・・あかり・・・あかり・・・・あかり」
「んっ・・んっ・・・んっ・・・・・・浩之ちゃん・・・・浩之ちゃん・・・・・」
 ぬぷ、ぬぷ、ぬぷ、ぬぷ、ぬぷ、ぬぷ・・・・・。
 あかりの左手がシーツを捕らえ、それを「ぎゅうっ」と握っていた。ぽろぽろとあかりが涙を流す中、
「浩之ちゃん・・・・・もう・・・・・」
「俺もだ・・・・・・・うっ!」
「ああっ・・・・・ああっ!」
 その瞬間あかりの体が「びくん・・びくん」とのけぞり、そしてぐったりと横たわった。 俺も限界であかりの割れ目から素早くペニスを引き抜いた。
 腰の奥の辺りからせり出してくる快楽。そして、
「どくん・・・どくん・・・どくん・・」
 白い液体があかりのお腹に注がれた。
「はあ・・・はあ・・はあ・・・」
「ふう・・・ふう・・・ふう・・」
 手をベッドに付き呼吸を整える。息を荒げながらあかりは目を閉じた。近くにあるティッシュペーパーであかりの腹部を拭く。
 あかりはその情景をただじっと見つめていた。全部拭き終わり二人で布団に潜った。心地よい脱力感が俺の体を支配した。
 ぐったりとして二人とも話はしなかった。天井を見上げるとそこは俺の部屋。当たり前かもしれないがそれが少し不思議な感覚だった。
 そして俺の側にはあかりがいる。ちょっと前まではごく自然に話をしていたのに、ここ最近では妙に意識してしまって会話がちぐはぐになるときがある。
 それでもあかりはあかりだ。俺のよく知っている、健気で、一生懸命で、自分を精一杯生きている神岸あかり。
 でも一番近いはずなのにたまに遠くに感じる時がある。たまらなく寂しく思える時がある。
 でもあかりはそんな不安な俺をいつもの調子で、いつものあかりで答えてくれる。
 それが何ともいえないくらい嬉しい。
「あかり・・・」
 横を見ながら呼ぶと、
「スー・・・・スー・・・スー・・・」
 あかりは可愛い寝息を立てて寝入っていた。ったく・・・・こっちが感慨にふけってるってのに・・・・。
 横目であかりを見ていたが、やがて体を起こしてあかりの顔に近づいていった。瞬きせずにじっとあかりの寝顔を見る。
 一つの汚れもない真っ白な寝顔。その表情に思わず吸い込まれそうになった。その柔らかな寝顔を見て、
「天使の休息・・・・・だな」


「・・・・ん」
 浅い眠りから覚めたあかりは軽く伸びをした。まだ眠いのか左手で目元を擦った時、
「・・・・痛っ・・・」
 小さく声を上げた。少し驚いたような顔をして自分の左手にある固形物を見つめた。
「・・・えっ?」
 あかりの左手の薬指には小さな光輝くもの、指輪が煌いていた。突然の出来事であかりは動揺していた。もちろんはめたのは俺だ。
 しかし眠っている状態とはいえ、あかりに気付かれずに指輪をはめるのはかなり難しかった。
 あかりは不思議そうに銀色のリングを見つめ、そしてその視線は俺に流れた。
「・・・浩之ちゃん・・・・・これ・・・」
 俺はごまかしぎみに天井を見て、
「さあな。・・・・今日、クリスマスだろ?俺、今ちょっと寝てたから分かんなかったけど・・・・サンタクロースでも来たんじゃねーか?」
 言っていて自分が恥ずかしくなってしまった。この歳になってサンタなんて言葉は使うもんじゃねーな。
 言った側でちらりとあかりの方を見てみると、左薬指を右手で包んで俺を見ていた。
「浩之ちゃん・・・」
「ん?」
「・・・私・・・・この指輪・・・・貰っていいの?」
「何言ってんだよ。いいに決まってんじゃねーか」
 俺の言葉にあかりは指輪に視線を落とし、
「私・・・・浩之ちゃんんに何もプレゼントしてないのに・・・私だけ貰うなんて・・・・」
「そんなことねーよ。あかりはいつも頑張ってんだろ?それで充分だぜ」
「・・・浩之ちゃん・・・・」
 潤んだ目で俺を見てきた。
「そんな目、すんなって。別に高いものじゃ・・・・・あっ!」
 慌てて口を閉じた。・・・・・・って、別に閉じる必要もなかったよな。・・・何やってんだよ、俺は。
「でも、私は浩之ちゃんには何も・・・・」
 今日のあかりはそのことをかなり思い詰めているのか、ずっとプレゼントの話をしてくる。確かに買えなくて悔しい気持ちは分かる。
 けどよ・・・。俺はあかりを見つめて、
「おいおい、それじゃあかりは俺に何もあげてないって言い方だな」
「だって・・・今日も・・・・」
 あかりの話に割って入って、
「俺は、あかりに色んなもの貰ってるぜ」
「えっ?」
 ・・・色んなもん貰ってるよ。神岸あかりという人物から今までどれくらいの元気と勇気と優しさと・・・・
挙げればキリがないくらいのプラスのエネルギーを貰っただろう。
 どれくらい大切な気持ちを教えてもらっただろう。今まで幼なじみという関係から一線を超えた関係だからこそ感じるあかりのひたむきな想い。
 逆に俺の方がプレゼントが足りないくらいだ。
「とにかくあかりにはよ・・・・・その・・・何だ・・・・・・・か・・・・感謝・・・してる・・・・」
 ・・・・・ったく決まんねーな、俺って奴はよ・・・。照れ隠しに頭を掻いて、
「そんなしけた顔すんなって。・・・嬉しくなかったら仕方ねーけど」
 あかりは首を大きく横に振って、
「ううん、嬉しいよ。・・・嬉しい。・・・・・浩之ちゃん」
「ん?」
「・・・・・・・・・ありがとう」
「・・・ん」
 あかりの感謝の言葉を聞いて正直嬉しく思った。布団から出ようとしたとき、布団の中と外とではかなり温度が違っていたのに気付いた。
 ・・・寒くなってきたな・・・。と、あかりが、
「あっ・・・・」
 窓の方を見て驚いたような声を出した。
「どうした?あかり」
 俺もつられて外を見てみると小さな粒が空から降りていた。
「雪だよ、浩之ちゃん」
 あかりはぱっと顔を明るくして喜んでいる。
「ったく、雪ぐらいでそんなにはしゃぐなよ。でもどうりで寒いと思ったぜ。・・・・・あかりは寒くねーか?」
「・・・うん、ちょっと寒い」
「・・・そうか・・・。んじゃ・・・」
 俺は横たわっている小さな体を寝そべった状態で不意打ちぎみに抱き寄せた。あかりは小さく「きゃっ」と言って俺に引き寄せられた。
「これなら寒くはねーだろ」
 あかりはオドオドと視線を中に漂わせていたが、やがて俺の方を見て、
「・・・・うん。・・・・温かい・・・・浩之ちゃんの体・・・・」
「・・・なんか・・・エッチな言い方だな」
 俺がからかうと、
「えっ・・・・あの・・・そういう意味じゃなくって・・・・えっと・・・・」
「じゃあ、どういう意味だよ?」
「だから・・・・・温かいのは・・・・浩之ちゃんの体じゃなくて・・・・その・・・・あっ・・・体は温かいけど・・・・・」
「ふーん、体が温かい人は心は冷たいって言うしな。それじゃあ俺は心は荒んでるんだな」
と、いたずらっぽく言うと、あかりはあたふたして、
「ううん、違うよ。浩之ちゃんは心も温かいよ。・・・・あっ・・・・・でも・・・・体も温かいから・・・・・。えっと・・・・ど・・・・どっちも温かいよ」
「ふーん」
 俺がジト目であかりを見ると、あかりはどう答えていいのか分からないくらい動揺した顔を見せた。
「ま、あかりがエッチになっても俺は別に構わねーけど」
「だから私は・・・・・」
「俺はエッチな方が好きだけどな」
と言ってあかりを見ると、あかりは手を口に持っていき、
「・・・・・浩之ちゃんがそう言うんだったら・・・・私・・・・・・・その・・・え・・・・・えっちに・・・・・」
 顔を赤らめながら言葉を探っていた。
「ばーか。あかりは今のあかりでいいんだよ」
 あっさり言われて、
「も・・・もう、浩之ちゃん・・・」
 あかりは恥ずかしそうに俯いた。その恥じらったあかりの表情にたまらなくなり、俺はさっきよりも強くあかりの体を抱きしめた。
 あかりの口から「あっ」と声が漏れる。後ろに回した右手であかりの頭を優しく撫でた。 俺の右胸にあかりの心音が「とくん・・とくん」と流れてきた。
「浩之ちゃん」
「ん?」
「・・・私ね・・・ぎゅって・・・・ぎゅうって・・・浩之ちゃんに抱きしめられたら・・・・胸がいっぱいになって・・・・・せつなくて・・・・・
嬉しくて・・・・・それだけで幸せだよ」
 あかりの微笑み。すべてを優しく包み込んでくれるような心安らぐ笑顔。その顔を見て俺も思わず胸が高鳴った。
「・・・・・・・ずっと・・・一緒にいような」
 俺の不意の言葉にあかりは恥ずかしそうに俺の胸に顔をうずめて、
「・・・・うん」
と一言。
「近場で初詣だな」
「・・・一緒に行こうね」
「次は節分かな」
「・・・一緒に豆まきしようね」
「春休み」
「・・・一緒に遊ぼうね」
「新学期」
「・・・同じクラスになれたらいいね」
「男子トイレ」
「・・・一緒に・・・・ええっ?」
 俺は含み笑いをした。あかりは恥ずかしそうに、
「・・・でも、入り口までだったら・・・・」
 その言葉に喜びを覚えつつ、あかりの顔に接近した。あかりはそこから逃げることなくじっと俺の目を見てきた。あかりの目に俺が映る。
「あかり・・・」
「・・・浩之・・・ちゃん」
 あかりの吐息が俺の顔にかかるくらい両者の顔が近づいていった。軽くあかりの鼻に俺の鼻を当てて、互いの唇を重ねた。
 軽く触れるくらいのフレンチキス。唇を放して、あかりを見つめる。あかりも俺をじっと見ていた。
「・・・メリークリスマス、あかり」
「・・・・・メリークリスマス、浩之ちゃん」
 目の前のあかりの喜びを隠せないくらいのとびきりの笑顔。それを守ってやるとかそういうかっこいい事は言えない。
 でも、この温かい日だまりのようなまなざしをずっと見続けられる俺でありたいと思う。
 俺の体に感じるあかりの全てを焼き付けたくて、包み込みたくて、感じたくていつまでもあかりから手を放さなかった。
 俺のクリスマスプレゼントは目の前にいる一番大切なかけがえのない人。それだけで他になにもいらない。

 今宵はWhite Chrismas。


 そして俺とあかりの「Brand New Chrismas」。