ざ しーくれっと おぶ しょーびじねす 投稿者: トリプティコン
「今日は終了〜」
「お疲れさまでした〜」

 今日俺はADのバイトそれも理奈ちゃんのトーク番組に参加していた。
すべてが終わったのはもう深夜0時近く
おつかれさまのかけ声とともに一人、又一人とスタジオを去っていく。
俺はしたっぱだからほとんどいちばん最後、すべての後始末が終わってからスタジオをあとにした。

「おつかれさま、」

そんな声が俺を呼び止めた。さっきまでステージの向こう側から聞こえてきた声、そう理奈ちゃんの涼しげな声だ。

「理奈ちゃんこそ……お疲れさま。って、こんな所にいていいの?」
「ちょっと冬弥君にあいたくなっちゃって……」
「?!」
「冗談よ(^^)もう、すぐ本気にするんだから……(^^)」
「あははは(^^;」
「そうそう由綺もまだのこってるはずよ。たまには弥生さんと三人でかえったらどう?今日は由綺も私もレッスンはないし……」
「弥生さんとか……どうしようかな……」

 そんな他愛もない会話をしているなか、突然理奈ちゃんがびくっと震え天井の方をにらみつけた。

「冬弥君!!!ふせて!!!」
そういって俺に飛びかかる。
「!!?」

タッ、タッ、タッ、タッ、

さっき俺達が立っていたところに数本の手裏剣がつきささっていた。

!!!???

「この六方手裏剣は……沖事務所の手のやつらね!!」
理奈ちゃんが天井を見上げこうつぶやいた。

「な、な、な、」

「もしかしたら……由綺があぶないわ!!いくわよ!冬弥君!!」

「へっ??!!」

理奈ちゃんは俺の手をとって走り出した。

 速い、俺だってADで体を使ってる分人並のスピードでは走れると思ってたけどそんな俺が全力疾走してもときどき置いていかれそうになるスピードだった。

がつん!
俺の前で理奈ちゃんが突然足を止めた。
自然俺は理奈ちゃんの背中に顔をぶつけることになってしまう。
だけど彼女はまったく動じることもなく目の前の一点を凝視していた。

そこはC5スタジオ、20cmほど開いたドアの隙間から中の様子が見て取れた。

何かが動いている。
それは中心にいるスーツを着た女性と赤い衣装をつけた女性を取り囲んでいた。

少しずつ目が慣れる。

由綺!!

そして弥生さん!

 黒装束の数人の男に囲まれ由綺と弥生さんがおびえた顔(少なくとも俺にはそう見えた。)で立ちすくんでいた。

男達の手にしたものがギラリとライトに反射した。
ナイフだ!

男達は一斉に二人に飛びかかった!

「由綺!!!」

 おれは無我夢中で二人の方に飛び出そうとして……後ろから理奈ちゃんに首筋を押さえつけられた。

「な!!!なにするんだよ!!」

「だ〜いじょうぶよあんな雑魚相手なら。」

「へっ?」

 俺達の見ている前で弥生さんが冷たくふっと笑うと
体中の血が凍ってしまいそうになりそうな声でこう言った。

「レコード大賞の前日までお互い手を出さないと言う協定があるでしょう?
それを無視してかかってくるなら命の保証は出来ませんよ……」
「弥生さん!」
「由綺さんは下がっていてください。」

そういうと懐から棒のようなものを取り出しおもむろにその鞘を抜いた。
鈍い光がぎらりとひかる。

日本刀?
だけどなんであんなものもってるんだ??
もしかして由綺のマネージャーをする前はヤクザの情婦だったとか……

弥生さんは由綺を後ろにかくまうと慣れたてつきでそれを持ち男達と対峙する。

「あ、あ、あれ、……」
「大丈夫よ、弥生さんの腕はたしかだもん」
「!!、理奈ちゃん、しってたの?」
「もちろん、だっていつものことじゃない。」
「いつものこと???」

そんな俺達のとぼけた会話をよそに戦いは進んでいた。

シャキーン
カン!
カン!

ふつうなら時代劇でしか聞かれないような音がスタジオに響く

数分後男達は腕をおさえ、うずくまりながら弥生さんをにらみつけていた。

「社長につたえておきなさい。これ以上狼藉を働くようならこちらもだまってはいませんよと。」

 そういうとまるで何事もなかったかのように由綺の方にふりむき由綺にしか向けないあのほほえみを浮かべると
「さあ、もう遅いですから帰りましょう」
と由綺の手をとった。

二人は呆然と立ち尽くす俺のいる入り口に向かいそしてすれ違い……。
「由綺……」
由綺は俺の声ではじめて気がついたかのようにこちらをむくといつもの穏やかな口調で話しかけてきた。
「あ、冬弥君。きてたんだ。」
「由綺……い、今の……」
「えっ?あ、いつものことよいつもの……」
そういって寂しそうに目を伏せる。

おれはおもわず由綺の方を握って怒鳴りかえした。
「いつものってなんだよ!!!いつもこんなことが……!!なんなんだよ!あいつらは!!!」

由綺はうつむいたままこたえない。

そんな俺の怒りの問いに答えたのは後ろにいた理奈ちゃんだった。
「前哨戦よ、レコード大賞の……」
「前哨戦?」
おれは振り向いて理奈ちゃんの目を見つめた。
「しらないの?テレビで流れるレコード大賞はかたちだけ、
本当は前日フ○テレビの地下にある秘密リングで行われるバトルロイヤルですべてが決まるってこと……」
「…………」
思わず俺は絶句した。
そんな俺をおいたまま理奈ちゃんは話を続けていく。
「政治家とか財界のいい賭博材料にされてるから……どのプロダクションも必死なのよ……」
「な……」
背中に悪寒が走った。
俺は由綺の方にむきなおりまた大声をあげた。
「由綺!!こんな危ないこと……やまちまえ!!!」

だが由綺はいちどだけ寂しそうに俺の方に目を向けただけでまたすぐに目を伏せた。
「むりだよ、だってじぶんで選んだ道だし……ファンのみんなもまってるから……」
「そんなことのために命を危険にさらすのか?!!!」

そんな俺達の間に弥生さんがすっと入り込み
「冬弥さん。まえに話したことがあったかと思いますが……?
由綺さんのゆく末をじゃまするものは容赦しませんよ。あなたも……」
そういって静かに懐に手をやった。
「だけど!!!」

そんな俺の言葉は途中で何者かに遮られた。



「ふふふ、やはり新米たちでは歯が立ちそうもなかったようだね。」
廊下の向こうで声がする。

 そこにはスタイルのいい男どもが三人。見たことがある顔……
そうだ、沖事務所のトップアイドルY−USのメンバーだ。
まさか彼らも……

そして俺の予想ははずれなかった。

一人が手裏剣をかまえると正確に俺達をねらう。

一人は横に跳躍し鎖鎌で弥生さんの脳天をねらった。

 弥生さんは無表情でさっきの刀を振りかざすと鞘で鎖を巻きとり相手に切りかかる!
そいつ(たしかYUTAKAとかいったが……)は後ろに飛んで刀を器用に避けると数回爆転し今度は理奈ちゃんをねらった。
「はぁ〜」
理奈ちゃんの気合い
「は?」
思わず間抜けな声をあげた俺を無視して理奈ちゃんはあいてに飛び膝げりをかましていた。
はらをおさえうずくまったYUTAKAに手刀でとどめをさすと周りに目を向ける。

髪をピンピンにたてた男が男が由綺にむかっている!

間に合わない!

俺はおもわずその男の前にたちふさがった。!

だが男は慣れた動きでおれの胃袋に一発いれるとスピードも落とさず由綺へ襲いかかった。

由綺!!

「いや〜〜」

空気が震える

次の瞬間男は壁に激突していた。

何がおこったんだ?

俺は呆然と由綺を見た。

由綺はおびえた顔で激突し気絶した男を見つめている。

「いいわよ!由綺!」
理奈ちゃんがうれしそうに声をあげた。



「ふふふ、さすがあの英二のプロデュースをうけることはある。伝説のミラクルボイスを身につけているとはな……それならば私自らが相手にならなければならぬな」


どっかで聞いたようなことばをはくと最後に残った一人Y−USのリーダーKUROUは巨大な武器をてにおそいかかってきた!

立ちすくむ由綺、だが、理奈ちゃんの次の一言が由綺を決心させた。

「由綺!あの特訓をわすれたの!レコード大賞で私とたたかうんでしょ!」
「はい!!理奈ちゃん!!!」

 由綺の口が開く。それはどんどん音域をあげていき頭の割れるような音が響いたとおもったら……いきなり静寂が訪れた
どうも可聴領域を越えたらしい、それと入れ替わるようにまわりが震えだし……そして衝撃波がKUROUをおそった!

吹っ飛ばされるKUROU!それと同時に周りの壁も崩れていく……



気がつくと由綺が理奈ちゃんと握手をかわしていた。

「がんばったわね、それでこそ私のライバルよ」
「ありがとう理奈ちゃん、わたしもっともっとがんばっていい試合になるようにするね。」
「がんばりましょう!」
「はい!!!」



そうして由綺は弥生さんと帰っていった。

おれは呆然とそこに一人のこり……

小一時間も立ち尽くしただろうか
すごすごと家に戻った。

「芸能界って……なんなんだ……」


 翌朝おとずれたバイトの時にあの壊れた廊下がまるで何事もなかったかのように修復されていたことはいうまでもない。




そして一か月
おれは複雑な顔でレコード大賞の中継をながめていた。

理奈ちゃんが一位……由綺が二位……
きのうどんな戦いがあったのだろう……と思いを巡らせながら……




END