来栖川製HMX−12改5 投稿者:トリプティコン
第11章  侵入



「ということなんだよ」
俺はかなり長い時間をかけてこれまでの経緯をレミィに説明した。もちろんある程
度のことはぼかしたがそれはまあ仕方のないことだろう
「なるほどネそれでヒロユキはグレーミスに向かってるわけネ。」
「ああ。」
「先輩、その情報ってどれくらい正確なんです?」
「まあ志保の奴のいうことだから……といいたいところだけど結構頼りになりそう
だぜ。あいつも結構……」
俺は途中で言葉をやめた。
列車は山岳地帯を抜け平野部へと入っていく
一時期姿を消しサボテンにその座を譲り渡した木々達も湖が近づくに従いまた数を
増やしていく。いくつかの町を抜け、いくつかの平野を抜ける……俺達はそんな変
わらない景色に意識を向けるのをやめいつしか高校時代の思い出話に花が咲いた。
それはこれから始まる戦いから目を背けようとしていただけかもしれない……
だけどそれは俺達にとって束の間の楽しい一時だった……

そして……日が暮れる頃にソルトン湖が見え始めた。

 乗換駅のナイランドで俺たちは降りた。そこはかなり寂れた駅で俺達の他に降
りたのは出稼ぎに来ているのだろうか何人かのメキシコ人だけだった。ここでまた
列車は分線に入る。目的地はここ以上にさびしい所なのだろうか。俺達が列車を待
つ間にレミィがグレーミスへホテルの予約の電話をかけてくれた。おそらくグレー
ミスにつくのは真夜中になるだろう。そんな時間に研究所に向かうのは危険だった
し何より俺達の体力が保たなかった。


 そして俺達は目的地に着いた。すでに夜中であり、駅から出るとホテルからの迎
えの車が止まっていた。俺達はそのままホテルに向かった……すべては明日、明日
の朝からだ……



 そして朝、俺達は起きだし顔を洗う。もちろん昨夜色っぽいことなど何もなかっ
た。それぞれが個室に泊まりそして眠った。朝食の席で俺達は集まり地図を前にし
て今日の計画を話し合う。

 志保の地図は正確だった、その研究所の場所だけではなく潜入方法とその経路ま
で詳しく書き込んである。これを手にしていけばほんの少しの幸運が味方に付いて
くれるだけで俺達は敵に会うこともなくマルチのもとまでたどり着けるだろう。

 俺達は出発し昼前には潜入を開始した。レミィは地元の警察から車を借りると地
図の場所へと向かう。その建物は半ばさばくの砂に埋もれていた。もとはここは市
街地の一部だったのかもしれない、少しずつ砂が侵攻しやがて見すれられた……そ
んな町の一角にそれはあった。周りにある家々もすでに人は住んでおらず住民達は
もっと環境のよい場所へと移り住んだのだろう。



 俺達は研究所から100メートルほど離れた民家に入り込み地下室のドアを開け
た。そこには志保の地図の通りダクトの出口があった。その金網を開けるとちょう
ど人一人が通り抜けられる程度のトンネルが続く……俺達は四つん這いになって入
っていった。最初は俺が最初に行くことを主張したのだがレミィに却下された。一
般人に先頭を行かせることは警官として許せることではないということだった。結
局この三人の中で特殊技能を持っていないのは俺だけである以上多少屈辱的な感じ
がしないでもなかったのだが俺は前後を女性に守られた形でそのダクトの中を進む
ことになった……

 暗いトンネルを延々と抜ける……その人の手で作られた迷路は時に俺達の行く手
を阻み時に混乱に陥れた。俺達は志保の見取り図を頼りにひたすら進んだ。時々外
から人の声が聞こえたが……俺達は黙って通り過ぎた。そうして一時間ほども進ん
だろうか、俺達はほとんど怪我をすることもなくダクトの出口から外に出た。そこ
は空調関係の一室、ここまで来ればマルチのいる部屋までほんの数十メートルだ。
俺達は体中の埃を静かにほろいドアから外を確認する。そして……目当ての部屋に
潜入した。




第13章  脱出




 そこは研究所、ちょうど日本で入った来栖川研究所とほとんど構造は同じだった。
整備用マニュピュレーター、端末……そして……ガラスで仕切られた部屋の中に二
台のマルチが眠っているのがみえる。俺達は警報装置がないかを確認しながら静か
にそのドアを開けた。



ふぅ

 俺は手前の方のマルチの横に立つとそうため息をついた。やった、という達成感
が俺を包む。いやいや大変なのはこれからだ。これからマルチを連れ出してロスに
戻らないといけないんだから……レミィ達が見つめる中俺はそっとマルチに手を触
れた。彼女の体がぴくんと揺れる。そして彼女は静かに目を開けた。


マルチは目を覚ましたあともしばらくぼーっとして焦点の合わないような顔をして
いた。が、次第にその焦点が合いはじめる。
「…………?」
何となく今の状況に混乱しているかのようにみえた。
「…………」
しばらく見つめているうちにその顔が驚きの顔に変わりそして最後に俺の知ってる
マルチの顔になった。
「ヒロユキ……さん?」
「ああ。マルチ、迎えに来たよ。日本に帰ろう」
「ニホン……?」
マルチの顔はまだ混乱した様子をみせていた。が、すぐにいつもの笑顔を取り戻す
と
「はい!」
と元気よく答える。
「よっしゃ(^^)」
俺はマルチに手を貸して起きるのを手伝ったあと今度はもう一台のマルチに近寄っ
た。そんな俺に後ろからマルチの声がかかる。
「浩之さん、その子は目を覚ますことはありません。起動出来なくって、そのまま
……時々パーツを回収するのに使われてるんです……」
「起動、出来ないのか?」
そう思ってよく見ればもう一体のマルチには何となく感じられた生気のようなもの
がこの子にはまったく感じられなかった。等身大の人形、そんな印象を受けた。
「そうか……」
俺はその個体から目をそらす。

「ヒロユキ、急がないと危険ネ」
レミィが俺に警告した。
俺達4人はあわててその部屋を出る。廊下に出る前にレミィがマルチにこう訊ねた。
「起動させたり整備したりするためのメインコンピューターはどれ?」
マルチは黙って部屋の隅にあるタンスほどの箱を指さした。
「これネ」
レミィは拳銃を取り出すとサイレンサーを取り付けこれに銃口をむける。
「レミィ?」
「これも仕事ネ!みんな伏せて」
そして俺達が伏せるのと同時に静かな銃声、レミィは完全に機械が停止したことを
確認するとマガジンを入れ替え俺達に指示した。
「ジャ脱出するネ、みんなワタシの指示に従って。」
すでに婦人警官の顔である。俺達は素直に従うことにした。
そして廊下へのドアを開ける……



***********************************



私は顔を触られた感じがして……目を覚ました……
「ご主人様?」
違う……ご主人様よりずっと若い男の人……
私……しってる……?
頭の中でパズルが組み合わさっていく。
『ヒ、ロ、ユ、キ』そんな言葉が頭に浮かぶ
とたんに……思い出した……そうか……みんなこのことを思い出してたんだ……
幸せな記憶……優しい記憶……
そして悲しい記憶……
そして私は声を出した。
「ヒロユキ……さん?」



そこには浩之さんの他に二人の女の人がいた。この人達も知ってる……そう……あ
れは……高校での……

そうなんだ。ここは私のいるところじゃない。
私……みんなと一緒に……戻りたい……



************************************



俺達は駆けた。先頭を走るレミィが言う、
「ヒロユキ、出口は?」
「出口?さっきのダクトか?」
「ワタシそれダメだと思うネ」
「何でだ?」
「さっき、ワタシ警報を聞いた気がしたネ、きっとダクトだと挟み撃ちにあって全
滅ネ」
「な、どうするんだよ!」
「先輩、前!」
前に現れたのは白衣の男、男は俺達を見、マルチを確認するとあわててポケットに
あったコントローラーだか連絡機だかに手を伸ばした。葵ちゃんは素早くジャンプ
し俺達より一歩先んじるとその男の鳩尾に一撃、俺達はそのままスピードを落とさ
ずにその角を曲がる。
「とりあえず……正面突破ネ」
「おい〜!」
「ワタシと葵、そしてマルチがいれば大丈夫ッ」
「俺は数に入っていないのかよ〜(^^;」
「ヒロユキ、出口!」
ああ、俺は走りながら志保のくれた見取り図を確認する。
「ここが……さっきのマルチの部屋なんだから……二つ先の曲がり角を右に曲がっ
て突き当たりを左でエレベーターがある!」
「エレベーター?階段は?」
「階段は反対側だ!こっからじゃ遠いぜ!」
「しかたないネ、チョット危険だけどエレベーター使うヨ」
俺達は途中で研究員を何人か眠らせるとそのままエレベーターに駆け乗った
エレベーターが静かな音を立てのぼりはじめる。
「ドアが開いたときが勝負ネ、みんな出来るだけ隅によって!」
エレベータが止まりドアが開くのと同時に弾が撃ち込まれる。

跳弾が何発か俺の脇をかすっていくのがわかった。銃弾がいったんとぎれるとレミ
ィの反撃、彼女が弾を撃ち尽くすとまた陰に隠れて相手の出方を待つ。映画でよく
見る風景だったが自分が当事者ともなると話が違う。相手は四人、異様に長く感じ
る数分が経過したあとエレベーターの外からうめくような声が一つ、いったんドア
が閉まり直後にまた開く、それと同時にマルチが外に出た。巧みに弾をよけ一番近
くにいる男のもとへ走り寄る。他の二人の注意がそれたのを感じるとレミィはドア
から体を出し二度引き金を引いた。男二人が倒れ、最後の一人もマルチの腕から出
た糸に絡み取られていた。
俺の頭にあのロスの出来事がよみがえり思わず彼女に向かって叫んでいた。
「マルチ!殺すな!」
マルチはきょとんとした顔をしていたがその虚をついて葵ちゃんがその男の首筋に
一発入れて気絶させた。
「先輩!早く!」
俺達は廊下を走り抜け後ろから迫ってくる銃弾がかすっていくのを感じながら外に
出る。そのまま隠してあった車に乗ると大急ぎでスタートさせた。一拍遅れて研究
所から車が出るのがみえた。その車は俺達を追撃し、今度はハンドマシンガンで俺
達をねらいはじめる。
「ヒロユキ!お願い!」
ハンドルを握りながらレミィが俺に銃を放り投げた。
「こんなもん撃ったことね〜ぞ!!」
思わずあたふたした俺に向かってレミィは怒鳴った。
「ダイジョウブ!とにかく撃って!!」
俺は無我夢中で窓から身を乗り出すととにかく引き金を引いた。
「私は何を!」
「座席の下にマシンガンが置いてるネ!」
「はい!」
葵ちゃんは銃を取り出したがどうしていいかわからず手をこまねいている。
「私に貸してください!」
マルチが手を伸ばしそのマシンガンを受け取る。小さいからだに不釣り合いな姿で
銃をかまえると右へ左へと激しく揺れるレミィの運転に動じることもなく正確に後
ろの車の運転席をねらっている。俺はあわてて声をあげた。
「マルチ、タイヤを!」
「はい!」
マルチの一撃は正確に右のタイヤを打ち抜きその車はしばらく蛇行運転を続けたあ
とガードレールに激突しそのまま止まる。
俺達を追撃していたのはその一台だけだったようだ。俺達は脱力し、だらしない格
好でシートに沈み込んだ。
「ふぅ〜は、はははは」
思わず笑いがこみ上げてくる。俺は助手席から後部座席に身を乗り出すとマルチの
頭をなぜた
「よくやったなマルチ!」
マルチはうれしそうに俺の動作を受け入れている。
「葵ちゃん、怪我は?」
「はい!大丈夫です。」
「よかった〜ありがとう、」
「いえ、私もマルチちゃん助けられてうれしいです。(^^)」
レミィが運転席から声をかける。
「ヒロユキ、とにかくソルトン シーまでこのままいくネ、そこで仲間と合流すれ
ばあとは安全ネ」
「サンキューレミィ、これでやっと落ち着けるぜ、あとは博士にマルチの調整をし
てもらえれば万事解決だ……」
「そうネ……」
だがそのレミィの返事はちょっと沈んでいるように感じた……



第14章  別れ



そのあとは特にマフィアの追撃もなく俺達は無事にソルトン湖の沿岸に到着した。
そこで俺達を待っていたのは……



「シンディさん……」
そこで俺達を出迎えたのはシンディさんだった……
「浩之さん……無事でなによりです……」
俺はマルチを自分の後ろにかくまった。
マルチも必死に俺にしがみついている。
「マルチを……どうする気ですか」
「命をかけて連れ出したあなたにはかわいそうだけど私たちに引き渡してもらう
わ。」
「そのあとどうするつもりです!」
「残念だけど……」
「解体……するんですね……」
俺の言葉にシンディさんは目をそらす。
「この子はマルチなんだ!ただ別のことを教え込まれただけで!だから博士に調整
してもらえば……」
「その子の手は血にまみれているわ。」
「でも……」
そんな会話の中マルチは俺から離れ決意したような顔をしながらシンディさんの方
へ一歩踏み出した。マルチは俺の方を振り向き悲しそうに顔を上げる
「いいんです。浩之さん。わたし、この人と一緒にいきます……」
「マルチ……そんなことしたら……」
「いいんです……私の姉妹達も……死んでいきました……私は……浩之さんに会え
ただけ幸せでした……さようなら……」
「マルチ……!!」
そこまで言ったときマルチの体がビクンと震えた。

「あ……あ……あ”……」

マルチがその場所へうずくまる。
「ど、どうしたんだ?」
「こ、こないでください!」
「!?」
シンディさんが何かを感じ取ったのか近くにいたボディーガードに何かを指示する
と彼らは俺を羽交い締めにし後ろへと引きずりさげた。
「な、何をする!!!」
「…………」
マルチが無言で立ち上がり俺達の方に丁寧にお辞儀をした。
その目には真珠のような涙が光っていた。


俺がそのマルチの姿を見たのはそれが最後だった。
マルチはそのまま湖の方へ駆け出すとそのまま進み……数分後……すさまじい爆音とと
もに巨大な水柱がたった……



俺達は呆然とそれを眺め……その悲しき少女の最期に涙した……


第15章  そして……



俺達のここでの役目は終了し、帰国の準備が進められた。
 シンディさん達はせっかく来たのだから少しは観光くらいしていったらと誘った
が俺達は断った。俺は一刻も早くこの国を出たかった。俺に何が出来たのだろう…
…俺が出来たのはマルチを殺す手伝いだけ……俺は無力感、絶望感に押しつぶされ
そうになっていた。俺はなぜだか無性にあかりに会いたかった……


 空港でのレミィとの別れ、また来るよという約束のあと俺と葵ちゃんは飛行機に
 乗った。葵ちゃんは帰国後すぐにエクストリームの大会の準備に入るらしい。俺
 につきあわせてこんな危ない目にあわせてしまって……俺がその事を謝ると葵ち
 ゃんはわらってこう答えた。
 「みんな無事でよかったです……マルチちゃんは残念だったけど……私もいい体
 験をさせてもらいました(^^)」
「葵ちゃん……」
「だから先輩も謝ったりしないでください。私は自分で好きでこの計画に参加した
んですから(^^)」
「ありがとう……葵ちゃん……今回のことは一生忘れないよ。」
「私もです(^^)」
「…………」
そうして俺達は何日かぶりの本当に安心した……深い眠りについた……



 空港で俺達を迎えたのはあかり、雅史、そして来栖川姉妹だった。もちろんその
後ろにはセバスチャンも控えている。
あかりは俺の顔を見た瞬間うれしそうに笑い手を振った。
俺は力無くあかりに微笑み返すとゲートを越え軽く彼女を抱きしめた。
「……!?」
あかりはびっくりした顔を俺に向けた。俺の行動がかなり意外だったのかもしれな
い俺はあかりから離れると来栖川姉妹と向き合った。
「…………」
「ご苦労様……」
二人が俺に言葉をかける。
俺はさっきと同じように力無く笑うとすぐに後ろを向きあかり達と一緒に家に戻ろ
うとした。そんな俺に綾香さんが後ろから声をかけた。
「浩之さん……マルチの試作品のデーターの破棄が決まったわ……」
「!?」
びくりと震えた俺にむかって綾香さんは言葉を続ける。
「今回の事件であの試作品のとんでもない優秀さが証明されたわ……今の世の中に
は優秀すぎることも……」
「…………」
「その優秀さは危険な領域にまで入っているわ。必要な教育さえしてやれば過去類
を見なかったほどの殺人兵器にまで成長させられるということも……その危険性は
重役達にデーターの破棄を決定させるのに十分だった……私たちも感情的な理由で
それに反対することは出来なかったわ……」
「そうですか……」
 口からでた言葉は不思議と落ち着いていたがその事実は俺にはこの事件で最後の、
最大の衝撃だった。これでマルチは本当に殺される……俺の目に湖でのあのマルチの
最後の涙がよみがえった……俺は勢いよく後ろを振り向き、そして信じられないもの
を見た。



マルチ……

マルチが俺達の方へ向けて歩いてきていた。
その姿は自然で……誰一人彼女がロボットだということに気がついていない。

マルチは後ろから来栖川姉妹に近づきそして……


俺は二人をはねとばすとマルチにタックルをかけた……

マルチはびっくりした顔を俺に向けたがやがて幸せそうに目をつぶり……そして昨
日俺が見た痙攣を起こしはじめた。

爆発する……

俺は直感的にそう感じぎゅっと目を閉じその時を待った……


ぷすん……

だがその爆発は起こらなかった……

しばらくの時間が過ぎ俺はゆっくりと目を開ける。

俺の前には長瀬所長がたっていた。


長瀬所長は俺とマルチのそばにかがみ込みマルチの首筋に手を当てる。
そうして悲しそうに首を横に振った

「長瀬さん……」
「この子は自爆タイプだった……おそらく来栖川のトップ二人の暗殺を命令された
んだな……」
「でも残り三体はみんなアメリカで……」
「報告書は読んだが……三体目は起動していなかったんだろう?きっと彼女が最後
の一体だよ……」
「でもどうして……」
「心的葛藤かな……命令と君を守りたい心の間で……耐え切れなかったのかもしれ
ない……」
「…………」
長瀬所長はマルチの遺体を抱えると立ち上がった。その前に綾香さんに見つからな
いように俺に一枚の封筒を手渡しささやいた。
「家に帰ったら読みなさい。すべて書いてあるから……」
そのままいつものそぶりに戻ると俺達の前から立ち去っていく。

そのまま立ち上がらない俺にあかりと雅史、葵ちゃんが駆け寄った。
俺は無言で立ち上がると長瀬所長の後ろを見守った……
俺はあかりたちに顔を向け
「さ、帰ろうか(^^)」
と明るくいった。目まで笑うことはできなかったが……



あかりの家での帰国パーティーも終わり俺は家に戻った。
何かずいぶん離れていたような気がする……
両親は今日もいない……俺がアメリカに行っていた間どうだったのか聞きたいとこ
ろだったのだけれどそれも明日にしようか。


俺は一人ベットに腰掛けると長瀬所長に渡された封筒を開けた。
中には鍵が一つにDVDが一枚それとワープロで打ち出したような手紙が一通入っ
ていた。

『浩之君報告は読んだよ。
残念だったね。
こちらも残念な知らせをしなければならない。
もう知っているかもしれないがマルチの試作品のデーターの廃棄が上層部の間で決
定された、あと数日中には完全に記録は抹消されもう復活させることもできないだ
ろう。それにともないオリジナルのマルチのボディの廃棄も決定された。しかし、
私たちも心血を注いだあの子をスクラップにすることなんてできやしない。そこで
私たち研究員は内密で一つの決定をおこなった。マルチは今下記の倉庫の中で眠っ
ている。君に渡した鍵でその扉は開くだろう……起動用のDVDも同封した。使い
方は君に任せる。よければ……マルチを大切にしてやってほしい……』



 俺は封筒からでてきた物をひとまとめにすると机の上に放り出しベットにはいっ
た。寝苦しい眠りをすごし朝を迎える……


俺は大学を自主休講し、その倉庫へ向かった。
倉庫のドアを開け中に進む

中にはいろいろな機械が並びそしてその中央に……
彼女が眠っていた……

俺はマルチの愛らしい頬をなぜた。次に頭に手をやりなぜてやる。

俺はDVDの機械の前に立ち……封筒に入っていたDVDを……


入れなかった……


今はまだ……目を覚まさせてあげるには早すぎる……
いつか……君のような人間と変わらないロボットが当たり前になったとき……
俺は喜んで君の王子さまになってあげよう。
その時には俺の髪はもう白くなっているかもしれないけれど……



俺は最後に思いきりマルチにキスをするとその倉庫の鍵を閉めた……

そして俺は立ち去りあれ以後あの倉庫には近づいていない。


俺の手元にDVDはある……いつか……安心して君の笑顔をみれるようになるとき
俺はこれを使うだろう。待つのは平気だよ……今はもう……君は俺の手の中にいる
のだから……



FIN