来栖川製HMX−12改3 投稿者:トリプティコン


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すいませんパソコン通信と同じ切り分けしたら非常に読みにくいですね(^^;



もうしわけありませんが1から順番に読んでくださいm( )m



第4章  手紙



 次に俺が目覚めたのは病院のベットの中だった。日は……そろそろ暮れかかって
いる……今度は意識を取り戻すのに半日以上かかったらしい。足元に重さを感じて
見下ろした。あかりだ、あかりが足元で眠っていた。泣きはらしたのか瞼が腫れて
いるのが見える。俺は上半身を起こすとあかりの肩を軽く叩いた。一瞬びくりとし
たあとあかりが目を覚まし俺の方を見る。
「ごめん……起きるのここで待ってようと思ってたのに……」
「あかり……おまえが……」
「うん……浩之ちゃんのことだから絶対寝坊しているかと思って……朝迎えにいっ
たら……」
「そうか……ありがとな……」
「でも………無事でよかった……」
あかりの両目から涙がぼろぼろと流れ落ちる。
そんなあかりの様子を見て俺の胸の中に沸々と怒りがわいてきた。
「くそ〜みんな志保のせいだ!!!」
「志保の?なんで?」
「あいつらはな〜志保が車に忘れていった手帳とかを取り戻しにきたんだよ!」
その言葉を皮切りに俺は矢継ぎ早にあかりに昨晩の出来事を話し始めた。
「そ、それじゃ……もしかして志保もかなり危ない目に遭ってるんじゃ……」
「そうかもしれないけどよ〜日本で平和に暮らしている俺達にとばっちりってのは
ひどすぎるぜ!」
「でも……」
「志保ならだいじょうぶだよ。うまく立ち回ってちゃんと逃げおおせるさ。それよ
りもな……あいつらにあかりや雅史がねらわれ……そうだ!雅史の奴いくつかもっ
て帰ったんだよな!すぐに捨てさせないと!あかり!携帯は?」
「だめだよ、浩之ちゃん病院の中じゃ携帯はつかえないんだから。」
「今は非常時だろうが!!!」
「だ〜め。どっちにしたって雅史ちゃんもうそろそろ様子見に来るはずだからそれ
まで待とう。」
「くっそ〜こうしてる間にも雅史が暴漢に襲われてるかもしれないってのに……」


「僕がどうしたって?」
実にタイミング良く雅史が病室に入ってくる。
「おい!無事だったか?」
「おい〜それは僕の台詞だろ、どうだい調子は。」
「なんともねぇよ二三回殴られた位でどうにかなっちゃう様なやわなからだしてね
ぇぜ。それよりな……」
「ちょっと待って、僕も話したいことがあるんだ」
そう言って雅史は鞄の中から紙を何枚かとりだした。
「なんだそりゃ?」

雅史が黙ってそれを俺にわたす。
「なんだよ……これ……」
どうもプリントアウトされたもののようだ。俺は黙ってその機械の文字に目を通し
た。

「…………」



『は〜いひろ元気?
ひろにはこの手紙みつけらんないかな〜
ま、雅史がこういうの好きそうだから大丈夫だよね。
暇みて打ち込んだんだけどさ〜プリントアウトしてるだけの時間がなかったんだわ〜
ごめんごめん。
そうそうどうせあの手帳みんなでまわしよみしたんでしょ。
べつにいいよ〜プライベートなことはな〜んにもかいてないし、
もうニュース的価値もないネタだしね。ま、カモフラージュみたいなもんだね。
でねでねでね〜いいねた仕入れたんだよ〜
ひろにも関係あることだからよく聞いてね。
最近科学者とかの行方不明が相次いでるのは知ってるよね。もしも知らないようだ
ったらもう少し新聞くらい読みなさいよ。
でね、その黒幕ってのが国際的犯罪シンジケートでさ〜
ちょっとこの志保様にも手がでないんだな〜これが。
でもね、その手段については割といい情報がはいっててだいたいその手口はわかっ
てるわけよ。その手口ってのはね〜メイドロボをつかってるの。それもマルチタイ
プ。

おどろいた?

あんたマルチと仲がよかったよね。
なんでも普通の女の子と区別がつかないようなメイドロボが次々と殺人をしている
みたいなんだ。もちろん市販されているのにそんなことできるわけないっしょ。そ
う思ってたら高校時代に会ったマルチのこと思い出してさ〜あの子なら耳の飾りを
はずせば普通の人と区別つかないでしょ。

 それでさ〜一応確認取ってみたわけよ来栖川エレクトロニクス開発にね。もうあ
の長瀬ってオヤジふらふらしててなかなかしっぽをつかませなかったんだけどやっ
とつかまえて白状させたのよ。ハッキングのことをね。設計図のデーターもあの高
校のテストのデーターもしっかりやられたそうよそれももう一年も前に。まあ相手
は国際シンジケートなんで、それを完璧に復元するのなんて簡単でさ〜ボディの方
はさっさとつくっちゃったらしいのよね。でもね、性格データーの方が難かしくっ
てむやみに変更できなかったらしいの。もし変更しちゃうとボディーそのものがま
ともに動かなくなっちゃうんだって。しかも最初から開発し直そうとしてもどうし
てもオリジナルの半分の性能にも満たないって……あの試作品、マルチの高校での
ことはロボット工学上の奇跡だとかなんだとかいってたな〜あの博士。それでほと
んどそのまんま使ってるわけよ。SFみたくロボット3原則とか作れれば問題ない
んだろうけどまだそんな技術はありっこないしマルチは知識吸収型でしょ、教えれ
ば教えるだけ学習しちゃうのよね〜たとえそれが人殺しの方法でも。

 何でこんなに細かいことまでわかってるかというと一台回収したらしいのよね、
来栖川コンチェルンで。まあほとんど残骸みたいだったんだけど。それでね、コン
チェルンの総裁の来栖川芹香さんに頼まれちゃったのよ〜(相変わらずあの先輩っ
てわかりにくいよね〜)もしもそのマルチに対抗できるのっていったらあんただけ
だってさ。(理由はわかるよね。ぜ〜んぶ長瀬博士に聞いちゃったよ)それで協力
してくれるようにコンタクトとってくれってさ。何でも盗聴器やらハッキングやら
で外部への連絡は全然信用できないらしいよ。それにあんたこの件にかんしては結
構重要人物らしいからあからさまに来栖川が接触しない方がいいだろうって判断し
たんだって。そこであたしに頼むってのはやっぱりあたしの人徳よね。

 わたしもさ〜すぐに話そうって思ってたんだけどどうも命をねらわれてるみたい
でさ〜これから次の仕事のフランスに向かうんだ。時間ないからこんなことやって
みたけど今読んでるってことは大丈夫だったってことだよね。そんなわけだからこ
の手紙読んだらさっさと来栖川エレクトロニクス開発にいってね。私のことは気に
しないでいいから
ちゃんと逃げ延びる自信はあるからね。
ひろもマルチに人殺しなんてさせていたくないでしょ!

じゃ、がんばってね〜


志保
                                     』


俺は読むに従いだんだん頭に血が上り最後の頃には手がぶるぶると震えてはじめて
いた。
「志保〜あのばかやろう!!! なにかんがえてやがる!!!国際シンジケート
ぉ?そんなん相手にしてどうしろっていうんだぁ?!!第一こうやって読めたのも
ただの偶然だぞ!!!雅史が興味持たなかったらどうするつもりだったんだ〜〜」
「でも……行くんだろ……」
雅史が言う
「ああ、マルチのことだけじゃない。おまえとあかり、二人の身の安全もお願いし
に行かなくちゃならないからな。来栖川財閥ならきっとなんとかしてくれるだ
ろ。」
「浩之ちゃん……」
俺は黙ってその手紙をあかりに手渡すとそのまま立ち上がり寝間着から服に着替え
はじめた。そしてあかりが志保の手紙を読み終わる前に病室を出た……



第5章  訪問



「さてと……いったいどこから行きゃいいんだ?来栖川先輩の家……はセバスチャ
ンがいるだろ〜いきなり会社……ってあの高層ビルにいくのか?俺みたいな大学生
がアポなしではいれるわけないよな……いくら先輩後輩の間柄っていったってよ。
そうなるとやっぱりあの長瀬のおっさんのとこかぁ?ふぅ」

俺は重い足を研究所の方へ向けた。

研究所では俺を待ちかまえていたのかほとんど挨拶もなしに奥の部屋まで連れ込ま
れた。


 メイドロボのメイン研究室。最初いろんな試作品が雑多に並んでいるマッドサイ
エンティストの研究室のような物を想像していたが実際はそうではなかった。広い
部屋の中央にマニュピュレーター付きのベットが一つ、周りには計測器と巨大な顕
微鏡あとは5.6台の端末があるだけ……予想以上にシンプルな部屋だった。俺は
その研究室の一角で一時間ほど待たされた……




「藤田君……大変な目にあったね。」
開口一番長瀬所長はそういった。なんだか全然心配していないように聞こえるのは
彼の体からわきだすその雰囲気からに違いない。昨日の今日でこのことを知ってい
るってことは俺に興信所でもつけてたんだろうか?全く金持ちのする事は……

「俺のことなんてどうでもいいんです。まずは来栖川財閥に頼んであかりと雅史の…
…神岸家と佐藤家の保護をお願いします。あの二人はもうこのことに関わっちまっ
たから……」
「ああ、その件はまかせたまえ。もう手は打ってある。」
「もう?それなら事前に手を打ってくれたって……」
「いや手は打ってたんだがね、きみが会った二人組に殺されたよ。君が助かったの
はものすごい幸運、ということになるね。」
殺された……そんな話題を平然とした顔で語る。俺はこの男に得たいの知れない物
を感じ始めていた。俺も危うく殺されるところだったという話を聞いて背中を冷た
い物が流れたがそれを振り払うように俺はたずねた。
「で、俺に何をしろっていうんですか?」
「それについては……総裁から話してもらおうかな……」
「総裁って……来栖川先輩が来てるんですか?」
思わず聞き返す。
 来栖川先輩は数年前総裁の地位についた。史上最年少の女性総裁に産業界は一時
震撼したが先輩は不可思議な力で幾多の危機を乗り越え今では不動の地位を確保し
ている。俺ももう何年も会っていない……たまに雑誌の写真で顔を見るくらいだ。

俺はそんなことをおもいながら視線を長瀬所長の方へと向け……

「………………」

びくぅぅぅ!!

「わ!!!!先輩!!!!!」
気がつけば来栖川先輩が彼の後ろに立っていた。数年ぶりに会った先輩はさらに妖
麗さが増したような気がする……とはいえいつもながら行動の読めない人だ……
「………………」
「えっお怪我は大丈夫ですかって?ええ、まあ何とか……」
俺たちの会話は高校時代と変わらない。これで会社の人は困っていないのかな……
などと思ったりしたがそのときは黙っていた。
「………………」
「はいそれは長瀬さんから聞きました。二人のことよろしくお願いいたします。」
「………………」
「ええ、まあこれだけ関わっちゃったんなら仕方ないですよ……志保も悪いんです
最初っからちゃんと言えばあんなことになる前にこっちに来たのに……」
「…………」
「はい…………」

「ああ!もう!まどろっこしいわね!!!姉さんはだまっててよ!私が説明するか
ら!!!」
「あれっえっと……綾香さんでしたっけ……」
勢いよくドアを開けてもう一人女性が入ってきた。来栖川先輩と同じくらいの美人
だがどちらかというと華麗という言葉が似合う。
「お久しぶり浩之君だったわよね。」
彼女は無造作にあいている席に腰掛けた。それにつられて芹香さんもその向かい…
…俺の隣の席に腰掛けた。
「実際ゆゆしき問題なのよ……研究所のメインコンピューターにハッキングされた
だけでも十分スキャンダラスだっていうのに……うちでつくったロボットと同型機
が連続殺人!これが知れ渡ったら来栖川財閥は破滅よ……今は情報操作と圧力をか
けてるけど……これ以上被害が広がらないうちに何とか対策を練らないと……」
「で、俺はなにをすれば……」
「大体のことは長岡さんから聞いてると思うけどそのシンジケートの本拠地はね、
どうもカリフォルニアらしいのよ、それで、あなたに飛んでもらって手を打っても
らいたいわけ。」
「そ、そんな……俺になにができるっていうんです!」
「そのマルチ……いえ、マルチなんて呼んじゃいけないわね。HMX−12型がね、
ちょっと妙なのよ。」
「妙?」
「ええ、まず起動期間が極端に短いこと……ほとんどのマシンは1ヶ月も保たない
らしいわ。」
「一ヶ月?」
「ええ。常識的に考えてもメイドロボの起動期間にしては短すぎるわ。それも精神
的な面でだめになるのよね……」
「精神って……HMX−12型はロボットでしょ?」
「あら〜あなたがそんなこというわけ〜」
「い、いや〜(^^;」
「忍び込ませた密偵の報告によるとねHMX−12型がクラッシュする直前の台詞
はいつもこう『浩之さん……寂しいよ……会いたいよ……』だそうよ、それも英語
用にチューンしていても中国語用にチューンしていても必ず日本語でね……」
「…………」

どきっ

俺は顔を上げられなかった。知らず知らずのうちに眼から数滴涙がこぼれるのを感
じる。うれしいことに周りのみんなは見て見ぬ振りをしてくれていたが……そして
数分が過ぎ、また綾香さんが話し出す。
「あのマシンは試作機仕様、つくるだけでも市販品の10倍どころの経費ではすま
ないわ。いくらあいつらでもそんなにつくるわけにはいかないはずよ……実際報告
によるとつくられたのはたったの10台、そのうち7台はすでにおしゃかになって
るわ。そのうちの一台は何とか回収してこの研究所にあるからもし見たいならあと
で見せてあげる。で、残りは三台。彼らはその三台を骨までむしゃぶりつくすまで
使うに決まってるわ。」
「でも……それなら待っていれば消滅するんじゃ……」
「問題はその消滅の前に何人の人々が殺されるかよ。それにこのやり方が効率がい
いってわかったらあいつらはまた作り始めるでしょうね。心を作り替えるのは難し
いけど顔の造形を変える位は簡単だから……」
「…………」
「まあ、それについては一ついい情報も入ってるの……工作員が何とかウィルスを
混入させて精神データーの一部……そう起動用プログラム付近のデーターの破壊に
成功したの。ワクチンなんてないからあそこのメインコンピューターとネットして
いるコンピューターを使ってる限り新しいHMX−12型の起動はできないわ。で
も……残念なことにその工作員は戻って来なかったけど……」
「…………」
「ここのメインコンピューターのセキュリティーも強化して今ではハッキングは不
可能のはず。だから彼らはもう新しい物をつくっても起動させられないはずなの…
…ある手段を使うことをのぞいては……」
「ある手段?」
「ええ。私たちの工作員が潜入するまえに一人のジャーナリストが潜入に成功して
るのよね、そしてその起動用プログラムのコピーを持ち去ったと……」
「それってもしかして……」
「長岡さんじゃないわ。でもその同僚。だから彼女がそのプログラムを持っている
ことは十分考えられるの。彼らは感染前のプログラムをのどから手がでるほどほし
がってるわ。彼女からわたされたもののなかになにかそんな物は入っていなかっ
た?MOとかCD−ROMとか……」
「あっ…………」
「やっぱり……おそらく先日の侵入者もそれをねらってたと思うのよね。起動プロ
グラムくらいならCD−Rに焼き付けるだけで十分入りきる大きさだから……」

綾香さんは勢いよく机をたたくと俺のすぐそばまで顔を近づけた。
「そのCD−ROMはどうなったの?!もしかしてもう……」
「いやアレはその前に雅史が貸してほしいって……」
「じゃあ無事なのね!」
「はい。」
「すぐに廃棄しないと……」
「それって次は雅史がねらわれるってことですか?」
「可能性はあります……」
「で、電話を貸して下さい!!」
「電話は危険です。すぐにセバスチャンを向かわせますから……」

ピポパ

「電話は危険だって……」
「これは専用回線です、盗聴の危険はありません。あ、セバスチャン、大至急えっ
と……」
「佐藤雅史です。住所は○○町○○番地○の○○」
「そう、そこにいって雅史さんから志保さんの荷物にあったCD−ROMを回収し
てその場で破壊しなさい。雅史さんには来栖川と浩之さんから指示されたと伝えれ
ばわかるとおもいます。」

ガチャン

「ふぅ……」
「なんとかなりそうですか?」
「ええ、セバスチャンなら何とかしてくれるでしょう。」
「ふぅ……で、話は戻りますが俺はなにをすれば……?」
綾香はしっかりと俺を見つめやがて話し出す。
「遠慮のない言葉で申し訳ありません……はっきり言ってしまえば……盾……です
……」
「やっぱり……」
「まず間違いなくHMX−12型はあなたを殺せません。ですからあなたがHMX
−12型をとめている間にこの長瀬がそれを破壊します。ほかの者ではきっと……
はがたたないでしょう……今までに殺された人々すべてが丸腰ではなかったという
のにこんな結果なんですから……」
「…………」
「浩之さん……勝手なお願いとはわかってます……でも……」
俺はうつむいていた顔をばっとあげた
「綾香さん。さっきいってましたよね、回収したマルチがあるって、それ……俺に
見せてもらえませんか……」



「………………」

それ、いや彼女はガラスケースの中で眠っていた。
右足は膝からもげ、何本ものコードがそこから生えている
肌は焼け焦げ体をおおっていたあの柔らかいラテックス部分も半分近くが消失し虫
喰いの様に中の機械が露出していた。片方のまなこは完全に潰され眼窩は不気味な
金属光を放ち、もう片方はうつろな視線をあらぬ方向へと向け鈍い光を放っている。
あのころころと表情のよく変わる顔はガラスのように凍り付き、出来の悪い人形以
下のモノへと変化していた。

 俺は泣いていた……他の人が見ている前で嗚咽を漏らしながら大声で泣くなんて
小学校卒業以降初めてだった。だが、その時の俺にできることはこのかわいそうな
マルチのコピーに向かってただ泣いてやることだけだった……



「やりますよ!俺は!たとえ複製品でも……マルチの心を持っている子たちに人殺
しなんて……むざむざあんな目にあわせるなんて……」
最後は怒鳴り声になっていた。
俺たちは早々にマルチの眠る部屋から退場し、元の部屋へと戻っている。
その時俺はそんな言葉をはきながら無意識のうちに両手を握りしめて力一杯テーブ
ルの天板を殴っていた。
「俺が、俺がマルチを解放してやります!!!」

そんな俺の言葉に綾香さんが悔しそうにこう答えた。
「残念ですが今回の目的はこれらの複製品の破壊です……彼女たちは人殺しを教育
された殺人機械……おそらく彼女たちにもう救いは……」

「そんなことやってみないとわかりません!!」
そんな俺の言葉に綾香さんは深いため息をつきながらこう答えた。
「……そうですね……こちらでも出来るだけのことはしてみましょう……あと向こ
うでもフォローはつきますがここからも一人ボディーガードを付けます。よく知っ
てる娘ですよ。」
綾香さんは今までとはうって変わった顔で俺にほほえんだ。
「娘?女性ですか?」
彼女は後ろを向くとドアに向かって声を掛けた。
「葵、そろそろいいわよ!」
「葵ちゃん?」
ドアをそ〜とあけて青い髪の女の子いや女性が顔を出した。少し髪を伸ばし、体も
ずっと柔らかみを増しているようにみえる。彼女はちょっとはにかみながらテーブ
ルに近づきぺこんとお辞儀をした。
「先輩お久しぶりです。(^^)」
「お久しぶり……葵ちゃん、あんまり美人になったんでおどろいたよ」
「そ、そんな〜」ポッ
「彼女の強さは知ってるわよね。」
「ああ、こりゃ頼もしい相棒だ。そっか葵ちゃんここで働いてたのか……」
「そうじゃないんですけど……今回は綾香さんが教えてくれまして……私も是非…
…って」
「でも命が危ないかもしれないんだよ、それでもいいのかい?」
「大丈夫です!先輩といっしょですし……」
「う”〜ん。まあ頼りにならないかもしれないけれどがんばろうか。」
「はいっ」
「………………」
その時ずっと黙っていた芹香が顔をあげた。手にはカードを持っている。
「え?うらなってくれるって?私のはあたるから……?」
「聞いておいた方がいいわよ。姉さんのは占いじゃなくってほとんど予言だか
ら。」
「ああ。」
「……………………」
「えっみんなが無事に日本に戻ってくるのを保証しますって?そりゃ頼もしいや。
え?でも最後まで気を抜くなって?もちろんもちろん。ありがと、先輩、愛してる
ぜ!」
「…………」
「そんな……エヘヘヘ  で、綾香さんいつ出発するんだ?」
「軽口がいえるようなら大丈夫ね、一応明日の夕方の予定です。必要なものは全部こちらで用意しますからできれば
家には戻らないでもらえますか?」
「えっ?でも……あかりたちに事情を……」
「それはあかりさんたちをこちらにお呼びしますから。」
「そうですか……でも家の中がぐちゃぐちゃなんですが……」
「それもお任せ下さい。ちゃんと手配しますから……いまは浩之さんの命の方が大
切です。まだあなたがキーパーソンであることは知られていないようですが、用心
するに越したことはありません。」
「はいはい、了解了解。それじゃ長瀬さん葵ちゃん詳しい手順おしえてよ。」
「わかりました……」
「はい、先輩」



第6章  旅立ち



 俺はすでに飛行機に乗っていた。来栖川財閥の専用機、俺が今までに乗ったこと
のある数少ない飛行機の体験と比べても信じられないほど快適な空の旅だった。

 ただ精神的に快適だったのかというとそうでもない。あれから一昼夜、長瀬所長の
わかりにくい説明やら顔を真っ青にして俺の渡米を反対するあかりの説得やら雅史と
セバスチャンの一悶着の話やら……とりあえずはそれらを終わらせて飛行機に乗った
ときにはほっと一息ついたくらい疲れる一日だったのだ。

 さ〜てこれから落ち着いて……などと思ってもいろんなことが頭の中でごちゃごち
ゃになっていてねむれやしない。だがその中で一番深刻だったのはなぜ俺はこんな危
ないところにみずから進んで行くのだろうかということだった。なぜあかりを悲しま
せてまで……

 そんなことを考えている俺の頭に浮かぶのは……それはマルチの笑顔……

マルチ、彼女は機械……そう機械のはずなのに、ある意味誰よりも人間らしかった。

あの別れの時、俺達はもうあえないことを知っていた。それでも彼女はけなげに笑っ
てた……

俺はそんな記憶しか残っていない。

昨日長瀬さんから話を聞いた……

シンジケートが廃棄したマルチの残骸も見た……

正直ショックだった。

 それにマルチが人殺し……俺にはどうしても信じられなかった。
それは信じたくない事実、もしかして数あるメイドロボの中でマルチがターゲットに
されたは彼女の人間性が他のメイドロボと比較してたぐいまれなレベルにまで到達し
ていたからだとしたら……だとしたら今の事態の原因の一つは俺に責任があるのかも
しれない。

 でもたぶん俺が今ここにいるのは責任感なんかじゃない。認めたくはない、認めた
くはないが俺は……たとえ複製であってももう一度マルチに会いたい……あの笑顔を
もう一度見たい……そんな風に願ってる。もしももう一度マルチとの時間を過ごせる
のならば多少自分の身が危険になってもかまわない……

今、俺達はマルチを破壊するためにここにいる。

でもきっと救ってやる。救ってやるよマルチ……



「先輩……なにぼーっとしてるんです?」
「葵ちゃんか……いや向こうについてからのことをいろいろとね……」
葵ちゃんが心配そうな顔で俺の顔をのぞき込んだ。
「先輩……一つだけ教えてください。そりゃ来栖川財閥のエキスパートが全力で先
輩の身を守るとはいえ盾にさせられるってことがわかってて……イヤじゃないんで
すか?」
「いやっていうのとはちょっと違うな……なんていうか……俺にしかできないこと
があるってのがうれしいのかもしれないな……」
「そんな……私の時も先輩は……先輩にしかできないことをしてくれたじゃないで
すか!先輩は……先輩です。先輩は今までにいくつも先輩にしかできないことをし
てきました。なにもこんな、命に関わることに……」
「……でも俺のすることで死ぬはずだった人々が死なないですむんならうれしいさ
……」
「…………一つ約束してください……」
「なんだい?」
「絶対みんなで生きて帰りましょうね。私も……全力を挙げて先輩を守りますから。
私……あれから少しは強くなったんですよ……」
彼女は絶対に自分の力のことをひけらかしたりしない。その彼女がここまでいうっ
ていうのは俺を安心させるためなんだろうか……
俺は葵ちゃんの頭に手を乗せ力なくほほえみながらこういった
。
「ああ。ありがとう葵ちゃん。もしかしたら俺、頼り切りになっちゃうかもしれな
いけど……」
そんな俺の弱気なせりふに葵ちゃんはちょっと照れくさそうな顔をしながらこう答
えた。
「大丈夫ですよ。私も先輩にはお世話になりっぱなしで……あのときの恩返しがで
きるだけでもうれしいんです。さ、昨日あんまり寝れなかったんでしょ。だから今
日はちゃんと寝て明日に備えましょう。」そんな葵ちゃんの言葉に俺はふふふと軽
くわらってわかったよと答えた。

 俺は自分の本心を葵ちゃんに話さなかったことをちょっと後悔したが幸いなことに
その会話はそこで終了した。すぐにスチュワーデスが寝る場所を用意してくれて……
俺たち二人はぐっすりと眠った……夢も見ず……



第7章  ロサンジェルス



スチュワーデスが飛行機のドアを開けた。
まぶしい……
日本とは違う空気、におい、音
すべてが新しかった。
もしもこれが観光旅行だったらこの感覚をもっと楽しめただろうか。
だが、俺達に待っているのは戦いだった。それもかなり絶望的な……
タラップをおり、ロビーにはいると一人の女性が待っていた。
どこかで会ったことがあるような気がしたが思い出せない。
満足に英語の話せない俺と葵ちゃんをおいたまま長瀬所長はその女性と熱心に話し
ていた。俺達にできることはその会話が終わるまで待っていることだけ。
結局10分くらい続いただろうか。あとの話はホテルに着いてから……ということ
になったのかその女性は俺達を車に案内した。



ホテルでその女性は自己紹介と今回の作戦をより詳しく説明した。
女性の名はシンディ。
何かが頭で引っかかっていたが数分でその絡まった糸はするりとほどけた。
そう、レミィの姉さんだ。高校時代学校に来たとき一度だけ会ったことがある。
レミィは高校卒業と同時にアメリカに帰っていったが彼女もそのままアメリカに戻
ったのだろうか。俺はレミィのそれからのことについてはよく知らなかった。レミ
ィは元気だろうか。
俺は気になってシンディさんに話しかけた。

「もしかしたらレミィのお姉さんですか?一度お会いしたことがありますよね。」
シンディさんはしばらく思い出そうとしていたが思い出せなかったらしく(まあ廊
下で会っただけのなんの変哲もない高校生のことを覚えていなくてもなんの不思議
もないのだけれど。)
「レミィのお友達ですか……奇遇ですね……」
 シンディさんはちょっと驚いた顔で俺の方をふりむいた。
「レミィは元気ですか?」
俺は本題に入った。
あいつのことだからいつもマイペースですごしているんじゃないかなと予想はつく。
だがあいつにはハンティング禁断症というやばい病気があった……まあアメリカな
ら思う存分ストレス解消しているだろうからもう全快しただろう。だが、俺の問い
にシンディさんはちょっと暗い顔をしたかと思うとぽつりとこう言った。
「レミィもね……あんまり危ないことに手をださないといいんだけど……」
「え……?」
俺は一瞬話が飛んだことにおどろいてあわてて聞き返した……
「レミィは元気ですよ。でも元気すぎて……」
「いっいったいなにがあったんです?」
「あの子はシューティングが異様に好きで……それが高じて……今は……。あっで
もこの話は長くなりますから、あとでゆっくり時間をとりますね(^^)」
「えっあの……」

そのままシンディさんは俺の前から立ち去っていった
いったいレミィはなにを……その時俺はただでさえややこしい事態がさらに混乱す
るような予感を感じた……



 今の時点で来栖川財閥がつかんでいるのは次のマフィアのターゲットがカリフォ
ルニアにいる有力者の一人ということだけ、それゆえ今回俺が参加する作戦は予想
されうる候補者をマークしマルチが現れた時点で集結、そして捕獲もしくは破壊と
いうかなり消極的な物だった。俺と共に動く特殊部隊のみんなはどうも破壊のこと
しか考えていないようだった。それは俺にははまだ信じられないことだが今までに
捕獲作業に入ったエキスパート達が何部隊もその一人のメイドロボに虐殺されてい
るという事実からくるものらしい。おそらくこの計画案に捕獲の文字が含まれてい
るのは一般人の俺がHMX−12型に対する特殊な武器の一つとして参加すること
に対する配慮にすぎないのかもしれない。それゆえに今回も彼らはマルチを発見し
次第攻撃に入るだろう……俺はなんとかしてマルチを救いたい、捕獲して長瀬所長
の調整を受ければ本物のマルチと同じ優しい娘に戻してあげられるはずだ。そのた
めには俺の方でも作戦を練らないと……まず葵ちゃんと長瀬所長に協力を仰いで…
…俺はそんな腹積もりを行っていた。



だが事態は俺の甘い予想を軽く越えた。



 それから三日間俺達は暇だった。障害事件は数え切れないほどあった……だがマ
ルチは現れず、かといって俺達がのんきに観光にでられるわけもなく……結局はホ
テルにカンヅメの状態の毎日が続いた。



第8章  再会


そしてその日はやってくる。


 その日俺はホテルの一室で葵ちゃんに護身術の訓練を受けていた。すっかりなま
っていた体も葵ちゃんの適切な指導でそこそこは動くようになり、どちらかとい
うと和気あいあいとした雰囲気の中その日の午後も過ぎ去るように思えた……



それはドアを開ける音から始まった。

 男は早足で隊長の元に歩み寄るとHMX−12型出現の報告をおこなう。すぐに
隊員の間に緊張が走り、瞬く間に出動の準備がおこなわれる。俺はあらかじめ支給
されていた防弾チョッキを着、葵ちゃんはそれに加えて攻防一体化した特殊セラミ
ックの籠手をはめた。報告をいけて5分も立たぬ間に俺達は車に乗り、その後15
分あまりで現場に到着した。



 そこはロサンジェルスのスラム街の一つヒドゥンストリートの一角だった。いつ
もたむろしている浮浪者たちは追い払われ、俺達が到着したときにはその現場には
特殊部隊、マルチ、そして路地に見すれられたままの何体もの遺体のほかには誰も
いなかった……。



 すでに先発の部隊が攻撃に入っていた。そこには不安そうな顔をして立ちすくむ
少女が一人、彼女に大柄の屈強の男どもが集団で挑んでいる姿は少々滑稽な様に見
える。だがその印象も数分後には逆転した。


「お願いで〜す。とおしてくださ〜い。」
緊張感をそぐようなマルチの声が響く。懐かしい声。
「急いで帰らないとご主人様におこられちゃうんです〜」
俺はその時マルチから50メートル近く離れていたがその場面は目に焼き付いた。

 おびえるマルチに一人の隊員がマシンガンを乱射した。弾のはねる音が路地に響
いたがそれ以上にマルチの動きは驚異的だった。軽いジャンプとフットワークだけ
でその弾を軽々と避け、ごめんなさ〜いと涙目で謝りながらその隊員の横をすり抜
ける。そして一瞬何かが光ったと思ったら……その隊員の首はぽろりと落ち、支え
を失った体は機関銃を打ち続けながら前のめりにどうっと倒れた。それを合図にす
るかのように10人ほどの男が一度に押さえつけにかかる。マルチはキャーといい
つつ体をかがめたがそれと同時に手が奇妙な曲線を描いて素早くうごいた。隊員た
ちは切り刻まれ、ただの肉片となって路地を埋めていく。返り血でマルチの顔と髪
は赤く染まり壮絶な姿へと変わっていった。それでもなおマルチは愛らしさを失わ
なかった。

俺が絶句し葵ちゃんが青くなる中長瀬所長だけが冷静に
「こりゃ予想以上だな〜」
などと感想を述べている。

 いつしか隊員達はマルチを遠巻きに囲い込むだけの膠着状態に陥りつつあった。
だが一度マルチがその囲いを越えようとしたとき、これを拒めるのはおそらくだれ
もいないだろう。そう、俺以外は……

 俺は袖を握りしめ止めようとする葵ちゃんの手を振り切るように一歩前にでた。
もしも綾香さんの話した通りならマルチは俺を攻撃できない……だがもしも違った
ら……俺はマルチに近づいた瞬間にあそこに散らばる肉片の仲間入りだろう。それ
でも俺は一歩一歩前に進んだ。

少し離れたところでマルチは俺に気がついた。
目を大きく見開きびっくりしたかおをしてこちらを見つめる。
そしてうれしそうに笑うと俺の方に駆け寄ろうとした
「浩之さん!」

パン

乾いた音が路地裏に響く

マルチはびくんと震えたがそれでも歩みを止めない

パンパンパン

何十発もの弾がマルチに命中し、それでもなおマルチはよろよろと俺の方に近づい
た。やがて隊員達の人垣を抜け俺と向かい合う。
「浩之さん、」
そうとだけいうと俺によりかかるようにして倒れ込んだ。
そして……
「よかった……夢じゃないんだ……浩之さんだ……」
そこまでいうと同時にぴたりと停止しそのまま糸の切れたマリオネットのように崩
れ落ち、そしてもう立ち上がらなかった。
長瀬所長は神妙な顔でマルチに近づきしばらく調べた後
「完全に機能停止しました。作戦は終了です。」といった。
とたんに歓声があがる。
浮かれた雰囲気の中俺は気分が悪いと車に戻り、それには葵ちゃんと長瀬所長が付
き添った。

 俺はホテルに戻る車の中で長瀬所長の涙を見たような気がした。ただの見間違い
だったのかもしれないが……



ホテルに戻っても俺達は一言も口をきかなかった。
おそらく葵ちゃんはあの残虐シーンにショックを受けたのだろうが、俺の感じてい
たのは無力感だった。それはもしかしたら長瀬所長も同じだったかもしれない。何
が助けるだ……マルチのために何かできるなんて考え自体が俺のうぬぼれだったん
だろうか。悲しかった。マルチのあんな姿を見たことよりも本来なら喜んで然るべ
きなはずのマルチがあのころのままだったことが、ショックだった……
俺達は無言のままシャワーで体の汚れを落とし、早々にベットに入った。そしてあ
さい、寝苦しい束の間の眠りについた……。