来栖川製HMX−12改2 投稿者:トリプティコン


第2章  路地裏



「あのーすいません。ここにいきたいんですけど、路に迷っちゃって……」
歳の頃は十四五の少女が初老の男に話しかけた。
「?」
一瞬男は怪訝そうな顔をしたがすぐに笑顔になってその少女の話を聞き始めた。
その娘ははきはきした声で地図とともに自分の行きたいところを示す。
男はその場所が裏小路の奥、こんな女の子が一人で歩くには少々危険な所であるこ
とに気が付くとこう提案した。
「ふむ、……ちょっとわかりにくいし……女の子一人じゃちょっと危ないな。よけ
れば近くまで付いていってあげるけどどうする?」
「え〜いいんですか〜」
少女は無邪気に声をあげた。
男はニコニコしながらその声を聞いていた。彼にも年頃の娘がいる、あの子もこの
ころはこうだったかなと思いを馳せながら少女とともに歩き始めた。



中小路を歩き始めてしばらくたったころその少女がこう話しかけた。
「ねえ、おじさんメイドロボってしってます?」
「あぁもちろんだよ。それがどうかしたのかい?」
「おじさん……セリオとマルチどっちが好きですか?」
「はぁ?!いきなりなんだい?」
「ねぇ、おしえてください〜」
「そうだな〜やっぱりセリオのほうだよ、高級機種だけのことはあるな、どうもあ
のマルチの大味さはちょっとね……でもどうして……」
「やっぱり…………」
 しょぼんとしてうつむいたそのこをじっと見ているうちに男は妙なことに気が付
いた。この子は……似てる……確かににてる……そう、髪も目もあのロボットのよ
うに不自然な緑色をしてこそいないが……今話題になったマルチというロボットに
うり二つ……だが……この子はどう見てもロボットなんかじゃない、そのとき男は
はっと気が付いてうつむいてる少女に話しかけた。
「もしかして君のお父さんか誰かにメイドロボット研究所に勤めている人はいない
かい?」
少女はちょっと驚いたような顔をしながら男の目を見つめた。
「いやね、もしかしたらあのマルチのモデルって君なんじゃないかって思ってね…
…」
「えっ……あの〜」
「だから私がセリオの方がすきだっていったらがっくりきたとか……」
「あ……!」
少女はしばらくびっくりした顔を続けていたが、すぐにえへっという顔をしながら
後ろ向きにとんとんと飛び跳ねて男の数歩前に出た。
「ちがうんです、おじさん。わたし……妹たちが人気者だったらいいな、っていつ
も思っていたんです。でもやっぱりむりですね。あの子達には心がないから……」
「な、……妹?」
「ええ、妹です。話しかけても答えてはくれないけれど……やっぱりかわいい妹た
ちです。」
男は混乱しながら立ち止まる。
「何をいってるんだい、君は……あんなロボットを妹扱いだなんて、いくら似てい
るからって……」
「えへへへ、もういいんです(^^;  そうだ、もうそろそろいいかな……」
「なにがだい?」
「えっとですね、ご主人様にいわれてるんです、人影のないところに来たらあなた
を殺せって。」
「!??」
「ごめんなさい、あなたに恨みはないんですけどご主人様の命令ですから……」
少女はその天使のようなほほえみを絶やさないまま手をふりあげた。

びしゃ……
まるで水道が壊れたかのような音がその裏小路に響いた。
二筋の赤い濁流が空を飛び、それはやがて深紅の池をつくる。
それと同時に男は絶叫をあげて前のめりに倒れ込んだ。
両腕が根本から切断されている。
びくんびくんと痙攣するその男に対し少女は無邪気な声でこう続けた……
「もうちょっとがまんしてくださいね、すぐに楽にしてあげますから(^^)」
少女は両腕の先から出ている高分子結合糸を器用にあつかうと男の首に巻き付けそ
して軽く引っ張った……


 数分後少女はそのぴくりともしない遺体と血の付いた自分の衣服を一つにまとめ、
それをカバンから取り出したシートで包むと中に二つ三つカプセルを入れ、10メ
ートルほど離れてポケベルのような機械のボタンを押した。ぼしゅという音ととも
に遺体は消滅する。すぐに少女は炭で少し汚れたそのシートを回収するとにこにこ
した顔で表通りに戻っていった。すこし薄着でうれしそうに歩いていく少女に注意
を払う者はだれもいない……



この数ヶ月、世界各地で高名な科学者を中心に重要人物が何人も行方不明になる事
件が続いていた……

一つ一つの事件は目立つことはなく、それでもなおそれは確実に目的を進行してい
った……



第3章  夜



「なんか最近誰かに付けられるような気がしてよ〜」
大学からの帰り道、俺は雅史と歩きながらこんなことをつぶやいていた。
「なんか心当たりでも?」
「ば〜かそんなことあるわけないだろうが!!!」
「じゃあきっと気のせいだよ、あんまりそんなことばっかり言ってるといつかノイ
ローゼ扱いされちゃうぜ。」
「へいへい……!???」
俺の意識は今すれ違った少女にすいよせられた。
突然会話をやめると勢いよく後ろを振り向く!
「!???」
「どうしたんだよ?」
「マルチ……」
「マルチ……?」
「今そこをマルチが歩いてた……」
「ふ〜ん、それが?」
「マルチなんだよ!マルチ、」
「だからそれがどうしたんだい?あのタイプのメイドロボならそこら中にごろごろ
と……」
「そうじゃない!あんなまがい物じゃなくって……俺のマルチが……」
「俺の……?」
「あ……(^^;いや……あの……俺達が高校時代に実習にきてたマルチがいただ
ろ。」
「あぁ、あのかわいい……なんでああいう仕様にしなかったんだろうね……」
俺の頭の中ではそんな雅史の話を無視したままこんな考えが渦を巻いていた……
「マルチ……本当にマルチか?めざめたんなら何で俺のところに……」



「ただいま〜ってな、だ〜れもいないんだけどよ。」
「へぇ〜入ったらあかりちゃんが三つ指ついて待ってたりして……」
「ばか言うなよ!」
ちょっと赤くなりつつも俺は家のドアを開けた。

そして一瞬思考が止まる…………

俺たちはあかりがエプロンをしながらほうきをかけているところに鉢合わせたから
……

「あ、浩之ちゃんお帰り〜」
「わ!!あかり!!どうして!!!」
「今日午後の講義休講だったから、お掃除しようと思って……浩之ちゃんったらほ
っとくと汚しっぱなしなんだから……」
「な、な、な、な、」
「あっ雅史ちゃんも来たんだ〜あがってあがって……」
「…………」
「どうしたの……?」
「ナンカシンコンカテイニオジャマスルミタイダナ……」
「どうしたの?」
「おい!雅史!」
「何だよ……」
俺は雅史の肩を押さえつけてこう続けた。
「たのむから大学のみんなへは内緒だぞ!」
「内緒ってね〜イマサラ……」
「いいからないしょだないしょ!!!」
「はいはいはい。」
「さあさ、あがんなよ。」
「「はいはい」」



「浩之、志保のこと知ってるか?」
俺たちが帰ってから数時間後、あかりのつくった夕食を食べて3人で談笑をしてい
るときにこんな話題がでた。
「志保〜そういや高校卒業といっしょにいえ飛び出して……どうしてんの?今」
「実はな……新聞記者やってるよ。国際ジャーナリストだってよ。」
「うん。私のところにはときどき手紙くれるし。」
「「ほんとか?」」
「うん。がんばってるみたいだよ〜もう英語とドイツ語はぺらぺらだって。」
「…………」
「…………」
「?」
「…………あの志保がね〜」
「まあ昔から自分の興味のあることには一直線な奴だったけど……二十歳そこそこ
で現役記者なんだから……よっぽど努力してるよ〜」
「はぁ〜そうだよな……そうそう、志保が俺に車くれたときにな、」
「もらったの……?」
「あぁ……もらったって言うか永遠に貸してくれたって言うか……」
「つまりはもらったんだね。」
「…………(^^;」
「浩之ちゃん続きは?」
「それでなそのサイドボックスの中に忘れ物があってな。」
「ふんふん」
「どうも仕事上のメモとからしいんだがな、連絡つかないから今俺の部屋にあるん
だ。」
「へ〜」
「どうだ、この際だからみんなで見てみないか?」
俺はふと思いついてこんな提案をしてみた。
するとあかりがすぐに優等生な返事を返してくる。
「浩之ちゃんだめじゃない、いくら志保のだっていったって人の物勝手に見ちゃ…
…」
「そんなこと言ったってよ〜俺にくれた車の中に忘れていった志保の方がわるい
ぜ。」
「そんなもんかな〜」
「ちょっと見てみたけど別にプライバシーに関係することは書いてないみたいだぜ。
仕事のことばっか。」
「ふ〜ん。それじゃ僕もちょっと興味あるな〜」
「よっしゃ〜それじゃ話は決まりだ!持ってくるぜ〜」
「浩之ちゃん!!」
「なんだ〜あかりは見たくないのか〜」
「え……あの……その……(^^;」
「よ〜しそれじゃもってくるぜ!」
「う〜ん……」



数分後俺は二階から志保の忘れ物をまとめてつっこんだ紙袋を持ってきて居間の床
に中身をざっとぶちまけた。

「浩之ちゃ〜んもうちょっと丁寧に……」
「いいだろ別に……」


床に散らばった紙の束にメモ帳、訳の分からないCD類……

俺たちは勝手に好きなものを拾い上げ読み始める。
「う〜んやっぱりわかんないな〜」
まっさきに根を上げたのは俺だった。
「でもすごいね〜これって金融関係の記事でしょ、そしてこれがきっとゴシップ記
事、これがドイツの政権のことみたいだもんね〜」
「あかり……わかるのか?」
「もう!!浩之ちゃんも第二外国語ドイツ語でしょ!」
「いや〜俺は……あの……その……そうそう雅史〜どうだそっち……」
雅史はどちらかというとCDやらフロッピーの方に興味があるようだ。ついにはこ
んなことも言い始める。
「あのさ、ちゃんとバックアップとっておくしさ、壊したりしないからしばらくこ
れ、貸してくれない?」
「いいけどよ〜志保が帰ってきたときには返せよ……」
「もっちろん!」
「そうそう、あかり〜ときどき志保から手紙もらうんだろ〜それならあいつの住所
わかんね〜か?」
「ざ〜んねん。志保の手紙っていっつもホテルからなんだ。何日までここにいるか
ら手紙出すならすぐに〜とか書いちゃって〜前の手紙からそろそろ2ヶ月くらいた
つから今どこにいるかなんてわかんないよ〜」
「そっか〜住所がわかればやっかい払いができるのによ〜」
「やっぱ気長に待った方がいいよ……」
「そんなもんだな、あいつめ、いないときにまで迷惑かけやがって……」



「あっそろそろ12時まわるね。もう帰らないと……」
あかりが突然こんなことを言い始めた。
思わず夢中になっちまったがそうかもうそんな時間か……
「あかりちゃんは帰るの?」
「どうして?」
「だって……もう半同棲なのかと……」
ばこん
俺の鉄拳が雅史の頭に一発はいる
「勝手なこといってんじゃね〜よ」
「いたいな〜もう……そんなに間違っちゃいないんだろう?」
「間違っていなかろうが言っていいことと悪いことが……」
「やっぱり間違っていないんじゃ……」
ばこん
「いいからだまってろ!あかり〜おくるぞ〜」
「は〜い」
あかりが床に散らばった志保の書類をかたずけながらそう答えた。



「は〜あ明日は2限からだから9時までは寝れるな」
 あかりを送ったあと俺は家のドアに手をかけながらこうつぶやいた。
あれから部屋を少し片づけて……3人で話しながら帰った結果今はもう1時をまわ
っている。
 まあ人生の夏休みとまで言われてしまう大学生活、夜の1時なんてまだ宵の口み
たいなものではあるが明日の2限は必修である。来年また履修するようなばかばか
しいことはしたくないんで俺はそうそうに寝る心づもりをはじめていた。

カチャ……

「あれ?なんだ……?」
きちんとかけたはずの鍵が開いている
「もしかして……ど……」
俺はそっとドアを閉め庭から棒きれを持ち出ししっかりとそれをかまえた。
実に頼りないが素手で入るよりはいいと思ってのことである。
もしもこの1時間の間に母さん達が帰ってきたというのならあとで笑い事になるだ
ろうが、少なくとも事前に連絡なんて聞いてない。静かにドアを開け中に入った。
すぐに電気のスイッチに手を伸ばす。

カチリ

スイッチの切り替わる音がむなしく響いた。

電気を切られているのか何の反応も起こさない蛍光灯の下をおれは一歩踏み出した。

ぬる、

 泥を踏みつけたような感触がある。侵入者は土足で上がり込んでいるらしい。俺
はそ〜っと漆黒の廊下を抜けるとなるべく音を立てないように居間の中をのぞき込
んだ。いくら夜で電気が切られているとは言っても隣の家の明かりや街頭はある。
窓のない廊下ならいざ知らず居間の方は何とか人を判別できるくらいには明るかっ
た。じっと目をこらすが動いている物はなにもいない。静かに入り次から次へと部
屋の確認をおこなった。途中で受話器をはずしてみたが帰ってくる音はなにもない。
おそらく電話線も切られているのだろう。一階のすべての部屋を探したが結局だれ
も見付からなかった。

今度は二階に向かった。
『そのまま交番に駆け込めばいい』
そう心のどこかが叫んでいたが俺はそのまま階段をのぼった。

どっくんどっくん

早鐘の様に心臓が鳴る。

『やめろやめろ』

そう言う心の声を無視して足は自分の部屋へと向かっていく。

ごそごそごそ

いた!

奇妙な眼鏡をかけた男が部屋の中をかき回していた。物取りと言うよりは何かを探
しているような感じだった。俺は静かに忍び寄るとその男の頭上へ……

がしっ


突然首に圧力を感じ次の瞬間締め上げられていた。
無意識のうちに棒きれを手から落とし首を絞めている腕をはずそうと力を込める。
しかしそれはまるで万力で押さえられたかのようにびくりともしなかった。
その腕は容赦なく絞め続けやがて目の前が白くなった……



 何時間かたったのか俺が意識を取り戻したときにはまだ夜は明けていなかった。
もぞもぞと体を動かしたが腕も足も自由にはならない。どうも縛られている感じだ。
大声を上げようと口を開いた瞬間……大きな手で口をふさがれていた。


「ブツハドコニアル」
「?」
聞き取りにくかった。外国語なまり……それもどちらかというとヨーロッパ風のな
まりで男は話しかけてくる。
「ブツハドコダ!」
いらいらした声で男は続けた。
「ブツってなんだ?」
何とか声を絞り出しそう聞いた

バキッ

男は容赦なく俺を殴りつけた。

血の味がする……
歯こそ折れなかったようだが口の中はかなり出血していた。

「マテ、」

彼を殴った男の後ろにいたもう一人の男が声を出した。どうも態度から見て上官ら
しい。
「チャントセツメイシテヤレ」
「……リョウカイ……」
男は再び俺に向かい合った
「ナガオカシホガオマエニワタシタモノハドコダ」
「ナガオカシ……志保!?」
「ソウダ」
「車なら外だ!」
「クルマハシラベタ、アソコジャナイ」
「じゃあ居間だ!ゴミ箱の隣の紙袋の中だ!」
くっそ〜志保の奴……とんでもない物忘れていきやがって……
「ウソヲイッタラショウチシナイゾ」
「嘘なんか言うわけないだろ!あんなわけのわからん物で死んでたまるか!!」
「Master!」
マスターと呼ばれた男が話を聞き一階へとおりていく
やがて

ピー

耳に聞こえるか聞こえないかほどの小さな笛の音が下から聞こえてきた。
「テッシュウカ……コゾウイノチビロイシタナ……」
男は最後に俺を力一杯蹴り飛ばすとそのまま一階におりていった。俺はそのまま壁
に激突し再度意識を失った……