来栖川製HMX−12改1 投稿者:トリプティコン


LEAF SS作家のみなさま初めまして。
トリプティコンともうします。よろしくお願いいたします。

この作品はNIFTYSERVEというパソコン通信のLEAF SSパティオに
一度投稿したものをインターネット用に半角カタカナなどを取り除いたものです。

多少変わった切り口かもしれませんが TO HEARTでアクションをさせてもい
いのじゃないかなという感じで書いております。
マルチファンの方々には喧嘩を売ってるのかと思われるような描写も確かにあ
りますがマルチに関して愛がない訳ではけっしてありません。
(もっとも一番気に入ったのは委員長*今回でてないけど*だったのです
が。)

読んでてどのラストシーンの延長なんだ?とお思いになる方もおられるとは思
いますが一応「すべてのエンディングを経験している」という解釈をしてくだ
さい。


2000行クラスで読むのが大変だとは思いますが感想などいただけ
ましたら幸いです。


参考文献
WORLD ATLAS
地球の歩き方 アメリカ西海岸

なおいろいろなネタバレにかかっているかもしれませんが少なくとも志保ラストには
直接関わっております。TO HEARTをコンプしていないかたはご注意ください。



プロローグ

『昨日未明新宿歌舞伎町にて男性の遺体が発見されました。
遺体は原型をとどめぬほど焼け焦げており、何物かがガソリンをかけて火をつけたも
のと思われます。警察の発表によると残った歯などから男性は先日ノーベル賞候補に
あがった久保義則博士(46)。博士の突然の死は開発中のニューロン式思考回路プ
ロジェクトに重大な影響をあたえると予想され、関係者を大変落胆させております。
このニューロン式思考回路は実用化のあかつきにはいまの機械式電子頭脳の数分の一
のコストでより人間に近いロボットを製造することが可能であったと期待されていた
ことからも、この分野は博士の死によって10年は逆行するのではないかという懸念
の声も……』

「ほぉらぁ〜浩之ちゃんごはん出来たからテレビ消して〜」

「あぁ、」
俺はぼーっとしながらながめていたテレビをぷちんと切った。

そう、それは俺がまだのどかな毎日をおくっていたときのこと、
あの、悲しいマルチ達との再会の数週間前のこと……



第一章  発端



「じゃあね……」
そういって去っていった志保を見送って数日後……その車は本当にやってきた。
「………………」アゼン……
俺は正直驚いていた。冗談半分本気半分……全く志保のやつくだらない冗談を……
などとおもっていたのだからしかたない。
「はぁ〜まったく……わかんねぇや、あいつは……親父用の使ってないガレージが
あるからよかったものの貧乏学生に月何万の駐車場代やら維持費やら払えるとおも
ってんのかよ〜車検だって税金だってあるのにさ〜」
などとぶつくさ言いつつもニコニコしながら座席に座りハンドルを握る。
「しばらく乗ってないからな、大丈夫か?」
ブルルルルル……
重厚なエンジン音
「志保のやつもいい趣味してるよ……」
そういいながら俺はサイドボックスをあけ、ちょっと目を点にする。
「なんじゃこりゃ〜」
その中はぐっちゃぐちゃ、紙の束やら手帳やらCDやらとにかくごちゃごちゃにし
てつめこんである。
「まったくよ〜人に車あずけるんならちょっとは片付けろよな〜」
といいながら手帳を取り出すとなかをパラパラと見始めた。
「…………いいのか?これ?」
中にはこの数ヶ月間の志保の取材内容が事細かに書き込んであった。
ぱっと見ただけでそれがどれだけ重要かがわかる。
「なになに……イギリス……フランス……イスラエル?あいつもまあ……」
そのメモは地名や人名などの固有名詞を原語で書いてあるせいか日本語と横文字が
交差し、ほとんど解読不可能な代物だった。これをちゃんと役にたてられるのは書
いた本人だけだろう。
「なるほどね、あいつもがんばってるんだな……」
俺はそうため息を付くとぱたんとその手帳を閉じた。
シートに思い切り寄りかかり、上を向いて目をつぶる……
俺の頭の中にいろいろな想いが交錯した。が、やがてぱちりと目を開けるとその書
類類をかき集めた。
「ま、とっておいてやるか、今度あいつが来たときに渡してやるさ。」
その後トランクの方も調べたがこちらは空っぽ、とりあえず先ほどの書類をまとめ
て紙袋につっこむと俺は車をガレージに入れて自分の部屋へと戻った。



ピンポン


呼び鈴の音


あかりだ

 俺が玄関まで出迎えるとあかりはすでに合い鍵で入り込んでいた。
外は雨、真っ赤な傘に真っ赤なコート、あかりの髪の色とあいなって実によく似合
う……似合うのだが……
「あかり〜それはちょっとやりすぎなんじゃないか?」
「え?どうして?へん?」
「へんじゃないけどよ〜目に悪いぞ〜」
「そっかな〜」
あかりはそういってくるんと回る
ちょっと水が飛び散ったが俺は気にせず彼女を招き入れた。
「ああ、わかったわかった。にあうにあう……とにかくそんなところにいつまでも
突っ立ってちゃ風邪ひくぞ。さ、あがったあがった。」
俺の言葉に満足したのかあいつはにこにこしながらコートを脱ぎはじめた。
傘はここ、コートはここ。すでにすっかり何をどうすればいいかわかっているのか、
きびきびとそれを済ませるとあかりはすぐに居間でくつろぎはじめる。

そしてしばらく時が過ぎた。

「浩之ちゃん、おなかすかない?」
いきなりあかりがそんなことを言い始める。考えてみればもう6時、とっくに夕食
の時間だった。
「そうだな……どっか食べに行くか?」
「そんな〜もったいないよ〜ちょっとまってて、」
あかりはすっと立ち上がると台所へ駆けていき冷蔵庫の中を見つくろう。
「和風?洋風?」
「和風かな」
「は〜い」
すぐに台所でとんとんとんと包丁の音、そして20分後、テーブルの上には一汁三
菜、ちょっとした夕食ができあがっていた。
「はいっどうぞ。」
「あいっかわらず手早いな〜それじゃいただきます。」
「はい」ニコニコ



「なぁ最近おもしろいことなんかあったか?」
食後の一服、あかりが食器を洗っている音を聞きながら俺はそう訊ねた。
「そうね〜浩之ちゃんが車買った事かな〜」
ずるっ
俺ソファーでずっこけながら
「何でしってる?」
「だってぇあれおじさんの車じゃないでしょ。」
あっガレージみたのか……
「あのな〜あれは志保が海外に行ってる間使わないから使ってくれって貸してくれ
ただけだぜ、別に俺の物じゃ……」
「そうなの?」
「いや……正確にいうとなんというか……」
「まあいいや、こんどドライブにつれてってね(^^)」
わかってんだかどうなんだかあかりは皿洗いを終わらせると俺の隣にちょこんと腰
掛けた。

穏やかな空気……

テレビをつけて関西系の芸人が司会をやってる番組をぼ〜と見て……

そしてはや10時すぎ、俺はそっと彼女の手を握る……
最近はすでに公認あつかいなのか、時々泊まるくらいならあかりの両親もとりたて
て何もいわなくなっていた。

やさしいくちづけ……そして……



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 その日、浩之は大学構内をなんの気なく歩いていた。しかし、そこに誰かの視線
を感じ立ち止まる。彼は周りをみわたし……そしてまた歩き出した……

それは志保が浩之に車を送った日から2週間後、彼の日常は平穏な日々を繰り返す
のをやめて動き出した……



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