終わらない時、制止した時(2・ある日の公園) 投稿者: 智波
===終わらない時、制止した時===

・ ある日の公園・

さてと、掃除も終わったし、飯でも食うか。
ピンポーン、ピンポーン……
そう思った時チャイムが鳴った。
二回鳴って、そして沈黙する。
キッチンから玄関へ、そしてドアを開けるとそこには彼女が立っていた。
「へへっ、餓えてるんじゃないかと思ってきちゃった」
そう言って彼女は包みを掲げる。
「おっ、ちょうど良いタイミングじゃねーか。今、どうしようかと思ってたんだ」
「ちょーっと、待っててね。今から作るから」
「げっ、手料理かよ」
「なによ、それどういう意味?」
含み笑いをしながら彼女はキッチンに上がる。
「食事って食うもんだぜ。知ってたか?」
「そうね、少なくともお湯を注げば良いのって食事とは言い難いわよね」
「ぐっ」

「美大!?」
「うん、一応受けようと思って」
「なんで!?」
「だって……」
同じ大学に行こうねって、最初に言ったのは……
「だって、浩之ちゃん。絵ってね、面白いんだよ」
困った顔。でも、どこかに絵を語る喜びが見えて……
「絵なんて何処でも描けるじゃねーか!」
また困った顔。でも違う、見たくない。その顔が見たくて困らせてるわけじゃない。
「そうだけど、浩之ちゃん。やっぱりちゃんとした先生に習ったほうが上手くなると思うの」
「冗談だよな、あかり」
あかりは横に首を振る。
「あたし本気だよ。浩之ちゃん」
俺はそのあかりの目を直視できない。
分からない。
何でなんだよ。
「勝手にしろ!」
俺にはそう言い捨てて、喫茶店を出る事しかできなかった。
あかりは追ってこなかった。

「ねぇ、この絵」
「なんだ?」
彼女が指差していたのは居間にある絵。
近所の公園を描いたものだ。
「ここにいるのって浩之じゃない?」
「ん? ああ、そうらしいな」
俺は見ていたTVに視線を戻す。
下らない映画だ。何度も見た。何度も。
「へぇ、これ描いたのって、例の娘?」
「ああ」
絵、そこには俺とあかりがいる。
あの日のままで、変わらないまま。

「ねぇ、浩之ちゃんはどうしても反対なの?」
「俺はどうでもいいって言ってるだろ!」
大きな包みを持ったあかり。その中身は容易に想像できる。
「じゃぁ、これだけ受け取って」
あかりの声は別れを連想させる。
別れる? あかりと? ずっと一緒だったのに……
俺のわがまま、なのか?
気がつくと、俺はあかりから、その包みを受け取っている。
「それを見て、考えて……」
あかり……
泣いてたのか?
駆け去ったあかりの小さな背中をぼんやりを眺めながら、俺は怪しい雲行きの空の下に立ち尽くしてた。

家に帰って、包みを開けると、そこから、あの日の公園が飛び出してきた。
あかりとの思い出の多くが刻まれている公園。
俺とあかりがいる。
公園で遊ぶ子供たちに紛れて、本当に小さく、描かれている。
ぱっと見では分からないくらい小さく、でも確かにそこにいる。
俺達、何処が変わったってんだ?
何にも変わっちゃいない。
あの日々と、変わらず……
やっぱり俺のわがままだ。
あかりが何処かに行っても、変わるはずが無いんだ。

「で、結局落ちたのかよ」
「えへへ。心配した?」
「誰がするか!」
「じゃあ、安心した?」
俺は答えに詰まる。
確かに、俺は安心したから。
でも、あかりを許せてよかった。
でないと、俺は俺を許せなかっただろう。
「ああ、これでまた一緒だな」
「うん」
あかりが肯く。
そうだ、俺達は一緒だ。
これまでも、これからも。

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