優しさの結末 最終日 投稿者:智波
1

「分かるな、梓!」
「分かってるよ、耕一」
俺達は同時に鬼を開放する。
強烈な鬼気が、矢のように振ってくる!
俺達は左右に分かれて跳んだ。
爆音、そして衝撃。
家の屋根を突き抜けて、木片と、割れた瓦と共に、
アルガルが舞い降りて来る!
血の付いた学生服を着て・・・
畳が大きくへこむ。
舞い降りてきたホコリの中を、俺は跳んだ!
右の腕がアルガルを捕らえる、
と、アルガルの左腕が矢のように動いて、
俺の爪を弾き上げる。
俺の腹部が大きく開いている。
流れるような無駄の無い動作で、アルガルの右腕がそこに叩き付けられる!
「耕一ぃ!」
そのまま吹き飛ばされ、部屋の柱に叩き付けられる。
しかし、とっさに上げた左足がアルガルの攻撃を防いでいた。
「うおおぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
梓が、ちょうど彼女に背を向けることになったアルガルに飛びかかる。
固めた拳は鉄板すら打ち抜く威力だ。
当たる!
そう確信した瞬間、アルガルの攻撃を食らって
吹き飛ばされていたのは、梓の方だった。
「なっ・・・・!?」
畳の上を滑り、体勢を建て直した梓には、
なにがなんだか分かっていないようだった。
分からないのも無理はない。
突き出された梓の腕を、アルガルは背中越しに弾くと、
そのまま、反転して、攻撃を繰り出したのだ。
「アルガルぅっ!」
畳を掴み、アルガルに向けて投げる!
アルガルの爪が畳を切り裂く。
下手な小細工は無用!
正面から切りかかる!
「へっ?」
その瞬間、足場が消えた。
闇の中で突然の段差に足を取られたような感覚。
とっさに両手を突っ張って、転倒だけは避ける・・!
しかし、その付いた手が一瞬で払われる。
アルガルが足で払っただけだ。
手を払われた勢いで、そのまま転がる!
背中に鋭い痛みが走る。
畳の下の地面に足がついた。
蹴り、跳ぶ!
眼下で、梓がアルガルに飛びかかるのが見える。
そして一蹴される。
依然として、アルガルと俺との差は大きく開いている。
しかし、今はこれで良い。
重力に任せて落下する。
二人で波状攻撃をしかければ、アルガルだって、俺達に致命傷を
与えることはできないはずだ。
消耗は俺達の方が早いだろう。
それでも、しばらくは持ちこたえられる。
俺の両足が、アルガルの右肩に落ち、
俺は全体重をかけて、梓とは逆に跳んだ。
畳に足がつくと同時に、またアルガルに向かって跳ぶ。
と、目の前に黒い影が走って吹き飛ばされる。
・・すまない、梓、付き合わせてしまって、
梓は分かってくれているはずだ。
これが初音ちゃんと、楓ちゃんを逃げさせるための時間稼ぎだと。
「耕一さん!」
・・・えっ?
そこには、そこには二人を連れて逃げたと信じていた、千鶴さんがいた。
「なんで・・・」
「行ってください、耕一さん!」
「千鶴さんが行けば・・・」
「蔵に刀が、!」
アルガルが一瞬で千鶴さんに肉薄する。
「くっ!」
千鶴さんが跳ぶ、それも全力で!
そして、天井を蹴り、風よりも早く、地に降りる。
一瞬だった。
目の前で起こったことにも関わらず、
いや、目の前で起こったからこそ、アルガルは千鶴さんを見失う。
「それを持って、二人と、逃げて!」
千鶴さんの爪が、アルガルの腹に深々と突き刺さる。
同時に、猛り狂ったアルガルの腕が千鶴さんを捕らえた。
「あうっ!」
千鶴さんは壁まで吹き飛ばされる。
「怪我がまだ治ってないんだろ!?」
「こ・・ういち・・さん、だって」
よろよろと千鶴さんが起き上がる。
「・・だから早く、エディフィルを連れて、逃げて」
「えっ?」
しかし、聞き返した言葉は、千鶴さんに向かって吹き飛ばされた梓にかき消される
「大丈夫?梓」
「千鶴姉ぇ」
「早く!耕一さん」
「・・・分かった」
どちらにしろ、あの刀は必要だ。
そしてそこに楓ちゃんと初音ちゃんがいるんだったら、
前のように逃げながら到達するわけにも行かない。
部屋を飛び出す俺、
しかし心の中で、さっきの千鶴さんの台詞が気にかかっていた。

「・・・待っていたぞ、リズエル」
「私は別に待ってなかったわ」
「あの時とよく似ている。リズエルとアズエル、おまえ達の命の炎を見たあの時と」


2

「耕一お兄ちゃん!」
蔵の地下に入ると、初音ちゃんが飛び付いて来る。
顔が青ざめてると、思ったのは、ここの薄暗い明かりのせいだろうか?
「大丈夫だった?  千鶴お姉ちゃんと、梓お姉ちゃんは?」
「大丈夫だ。それよりもどこか安全なところを知ってるかい?」
「千鶴お姉ちゃんが、神社に行けって」
訳も分かってないだろうに、それでも言われたことを忠実に守ろうと、
この少女は必死になっている。
ずっと前から、そうだったように・・・
「神社に?」
「うん」
初音ちゃんはしっかりとうなずく。
確かにあの住職は悪い人ではない。
「刀は?」
「・・・ここです。耕一さん」
闇の向こう、静かに沈澱した暗がりに、
一本の長大な刀を背景に、
何故かものすごい既視感と共に、
そこに楓ちゃんが立っていた。
・・・エディフィル!
心の叫びは胸を叩き、しかし言葉にはならない。
・・・俺に楓を選べ、と・・・?
リズエルと比べるなら、そうしたかも知らない。
でも千鶴さんは、俺の掛け替えの無い・・・
でも、今はこの二人を守らないと・・・
ごめん、千鶴さん・・・
「・・・よし、行こう」
言葉と共に、言葉が蘇る。
・・・「だから早く、エディフィルを連れて、逃げて」
そう、千鶴さんも記憶を取り戻したんだ。
リズエルは俺とエディフィルをよく知っているし、
俺はエディフィルを処刑し、やがて自滅して行くリズエルの事を知っている。
そんなことを知れば、千鶴さんに選択肢はない。
誰よりも、妹達の事を案じている千鶴さんの事だ。なおさらだろう。
俺はそれに甘えて良いのか?
千鶴さんにまた甘えて・・・
それじゃあ、俺って何なんだ!
結局、ただの馬鹿野郎じゃないか!
千鶴さんを愛してる。
エディフィルも愛してる。
そんな葛藤は、今千鶴さんを見殺しにする理由にはならない。
「・・・耕一さん」
いつのまにか、足が止まっていた。
「耕一お兄ちゃん?」
「・・・楓ちゃん、神社の場所、分かるね?」
楓ちゃんの顔をしっかり見て言う。
しばらくの沈黙。
「・・・・・はい」
「初音ちゃんを守ってあげてくれ、良いね」
「・・・・・はい」
「耕一お兄ちゃん?」
初音ちゃんは訳が分かっていないのだろう。
知らなくて良いことだ。
守ってあげたいと、この世のすべての汚れから守ってあげたいと思わせる、
その純粋さは、とても大切なもののはずだから。
「・・・これが耕一さんの答えですか?」
「・・・・・ああ、柏木耕一の答えだ。・・ごめん」
「・・・謝らないでください。私だって妹です。姉の幸せぐらい・・・」
その先が言葉にならない。
楓ちゃんが顔を背けた。
「・・・私たちは行きます」
「・・ああ、気を付けて」
「行って来ます。お兄ちゃんも気を付けてね」
ただならぬ雰囲気を敏感に感じ取ったのだろう。
初音ちゃんが取り繕うように明かるい声で言った。
「あたりまえだろ」
明かるく言う。
ねがわくば、彼女の中のリネットが目覚めること無きよう、祈りながら。


3

「やるだけやってみようか」
そうするしかなかったにせよ、それが決まるまでに無駄な時間がかかった。
タクシーの運転手が懐疑深そうな目を僕らに向ける。
ドラッグでもやってると思われたのかもしれない。
思われてもしかたないような気もするけど・・・
柏木家の場所はすぐに分かった。
と、言うより、どうもこの隆山で「柏木家」を知らぬものはいないらしい。
しかし、一方で、そこまではあと10分以上かかる。
「瑠璃子さん、どう?」
瑠璃子さんは今浅水君を探している。
彼と電波の細い線をつなぎ、そこに僕の力を流す。
でもそのとき瑠璃子さんは・・・
「大丈夫だよ、長瀬ちゃん」
「見つかった?」
「・・・頑張って・・・」
僕はそっと電波を集め、瑠璃子さんに進入した。
想い、瑠璃子さんの想い。
嬉しかった。
瑠璃子さんが僕の進入を許してくれたことが。
肉体の繋がりや、口だけで言う心の繋がりとは違う、
完全な精神の繋がり。
深く忍び込む゙、想い。
僕は瑠璃子さんと1つになる。
そのどこかにある浅水君との繋がりを・・・
「こっちだよ、長瀬ちゃん」
・・・瑠璃子さん?
優しい声に案内されるがままに、心の中を駆け回る・・・
やがてそれが現われる。
それは想いの奔流。
滝のように流れ落ちる、心の重圧。
僕は覚悟を決め、それに身を任せる・・・


申し分無い人生。
称賛されこそすれ、非難されるいわれなど無き人生。
そのような生き方をするように言われ、生きて来た。
父に反発など、考えもつかない家庭。
父は僕に語るその言葉を、誰よりも確かに実戦していたから。

殺し、犯し、貪り、愉しむ、
記憶に蘇るそれらの光景、
はっきりと漂う血の臭い。
手に付いた人の油、
肉の生暖かさ、
悲鳴。
戦いの始まり。
先の見えた抵抗の始まり。
そして狂気の始まり。

ある日突如として僕を襲った恐怖の夢。
それは、僕自身の歪みの鏡像だと思った。
僕自身の歪みだと。
耐え、押さえ付け、
身体が、精神がきしみを上げ、
どうすればいいか分からず、
どうしようもなく、
徒らに狂気に近づき、
それを否定し、
もう訳も分からなくなって、
どうしようもなくなって、
それでも耐え、
また狂気に近づく。

狂ってしまえればどんなに楽か・・・
すべてを受け入れてしまえばどんなに楽か・・・
狂いたいと思いつつ、狂えないのは、
これは一種の狂気で、
どうしようもなく、辛い狂気で、
耐えきれなくて、
そして僕は・・・


4

「うわぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ!」
「駄目!梓」
ダクダクと血を流す右腕の傷を押さえながら、
梓がアルガルに突進する。
アルガルの爪が無情にも振り降ろされる、寸前、
だんっ!
千鶴さんが梓に体当たりし、その勢いで自らは逆に跳ぶ!
アルガルの爪が、柏木家の庭を深々とえぐる。
「アルガルぅ!」
柏木家の屋根から、俺は跳んだ。
力任せの一撃が、アルガルの右肩を抉った。
「グオォォォォォォオオオォォォォォォ!」
アルガルの口から獣の叫びがあがる。
ぶぅん!
と、音を立てて、俺の右脇腹にヒットした、
アルガルの左手はすでに鬼と化している。
地を転がり、庭石を割けて跳んだとき、
俺もすかさず鬼に変わる。
しかしだ、俺はいつものような、湧きあがる力を感じない。
人間時に比べて力が強くなっているのは言うまでもない。
しかし、あの全身の細胞が活性化し、
細胞、一つ一つが暴れ出しているような、
あの力を感じなかったのだ。
・・・これでは、
そう、これではアルガルとの力の差は歴然としている。
こうなったら・・・
左手に持っていた「霞」を鞘ごと振り上げる。
刃がないのにどうして鞘が柄についていられるのかは
分からない。
しかし、殴れればそれでいい。
その時気づく、アルガルの右腕、俺が切ったあの腕は
人間のままだったのだ。
利いてた?
しかし「霞」で戦いを決めるならば、確実に仕留めないと、
また、あの疲労に襲われれば、もう立ち上がれないのだから・・・
でも、やるしかない!
俺は「霞」の鞘を抜き払った。
エネルギーの奔流がそのまま俺の体力を奪って行く。
勝負は一瞬!
「やああぁぁぁぁぁぁぁ!」
そのとき、一陣の疾風が、アルガルの足下を駆け抜ける!
「グオオォォォォォォォオオオオォォォォォォォ!」
「楓ちゃん!」
「楓!」
「楓!」
アルガルの叫びと、俺達の叫びが重なる。
アルガルの両足に深い傷を負わせ、駆け抜けたのは、楓ちゃんだったのだ。
「今ですっ!耕一さん!」
楓ちゃんの声に弾かれたように、俺は飛び出す!
エネルギーの奔流をアルガルに向けて・・・
・・・足を切られたぐらいで、キサマの攻撃が交わせぬものか。
どうっ!
「耕一さんっ!」
確かに聞こえた叫びは千鶴さんのものだったのか、それとも楓ちゃんのものだったのか?
腹部を深くえぐられたのだということだけを理解して、
俺の意識は混濁して行く・・・


5

「耕一さん!」
こんなことがあっていいのだろうか?
いや、あの日僕は見た。
彼が巨木を軽々とへし折るところを・・・
だったらこんなことがあってもおかしくない・・・
そう、柏木家は倒壊寸前だった。
耕一さんも鬼と化していた。
けれど、地に伏せていて、その腹部からはドクドクと血が流れている。
「浅水君!」
真奈美ちゃんの叫びが、一人の少女にとどめをさそうとしていた
彼の動きを一瞬止める。
そうだ、彼はまだいる。
そして鬼は電波の力で止められる。
彼の記憶を見たとき、そう確信した。
知るということは、時として行動を制限するのかもしれない。
彼を救えることを知っているのに、救おうと、そう努力しないことが出来るだろうか?
僕には出来ない。
渦巻く電波が僕を中心に集まる。
止まれ、という意識を凝固して、電波に詰める。
放つ!
黒い影がゆらりと目の前に現われる。
「オモシロイちからダ。ダガキカヌ」
何が起こったのかわからない。
気がつくと、僕は地に倒れていて、瑠璃子さんに抱かれていた。

・・・真奈美!
・・・なんでここに!?
そういえば、おまえが犯そうとした女だったな。
どうする?
代わりにやってやろうか?
・・・何であの人の力が利かないんだよ!
さあな、我も知らん。
だが、おまえの力が原因だろう。
・・・なんで!?
存在は二種に分けられるのだ。
物質と、精神体と。
あの小僧の力は精神体に依存するもので、
おまえの力も同様だ。
そして今おまえは精神体としてのみ存在する。
おまえは力そのものなのだ。
そんなおまえに精神体に属する攻撃が利くか?
・・・じゃあ、僕のせいで!?
・・・そうだ。
どうするかな?
殺すか。

奴が真奈美を見てそう言ったとき、
「うわああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
僕は最後の望みにかけて、
狂気の扉に手をかけた・・・


6

柏木家を静寂が支配している。
いまや、風よりも早く動くものはなく、
鉄と鉄のぶつかりあうような音もしない。
しかし、小さく聞こえるものもある。
幾らかの、かぼそい息吹き・・・
そして、獣の吐息・・・

「ぐぅ・・・」
生きている。
しかし生きているという事は
苦しみが延びるという意味かもしれない。
少なくともアルガルの意図はそこにある。
「瑠璃子さん」
「・・長瀬ちゃん」
その声は小さくて、不安になるくらい・・・
僕にできることはもうないんだろうか?

「千鶴さん、楓ちゃん」
俺達はよくやったほうだ。
そう、信じたい。
だからといって、何かできたわけじゃない・・・
なにもできなかった。
負けたんだ。
結局は負けたんだ。
柏木の鬼の血に、
俺の身体にも流れる忌まわしき血の力に、
「耕一さん」
消えかかった声で、千鶴さんがささやいた。
俺の下で、俺の胸に手を当てて、
俺は裸で、
人間で、
変身は解けていて、
ただの無力な人間と変わらなくて、

終わりなんだ。
壊れかかった理性の向こうに、現実が見える。
僕自身の狂気以上に現実は残酷で、
結局僕にはなにもできない。

月の影が覆い被さって来る。
「リズエルと共に死を望むか、ジローエモン」
千鶴さんが俺を見た。
俺の目を覗いた。
「耕一さん、私は」
「俺もそんな気がする」
俺は千鶴さんに口づけした。
これでもいいような気がした。
「だめぇぇぇぇぇ!」
びゅっ!
空を切り裂いた爪は、しかし、俺達を貫かなかった。
暖かい何かが、俺の背に落ち、
何かが俺の背を伝って、千鶴さんの首筋を流れ、
地に吸い込まれていくそれは、楓ちゃんの血だった。
「エディフィル・・・」
何故かそんなつぶやきが口をついた。

全部僕のせいだ。
僕のせいで・・・
僕がいけなかったんだ。

・・・そうだな。
・・・おまえは止められたんだからな。
・・・おまえは俺を壊せたんだからな。
・・・おまえが先に壊れていれば、
・・・あの電気は俺を止めただろうからな。

そうだ、僕のせいだ。

「違うよ、浅水ちゃん」

不意にそんな声が頭に響いた。
聞いた事のある声。
あの屋上で、僕を止めた声。

「違うんだよ、浅水ちゃん」

僕の心は妙な安らぎに捕われていく。

「それはとても大事なこと・・・

「みんな浅水ちゃんのために、

「でも自分のために・・・

「とても単純なこと・・・

「みんな傷つくのは嫌い・・・

「でも傷つけるのはもっと嫌い・・・

「だから傷ついていく。

「みんな浅水ちゃんに同情してるんじゃないよ。

「浅水ちゃんが傷つくのが嫌だから・・・

「自分だって傷つきたくないから・・・

「どんなに傷ついても・・・

「どんなに苦しんでも・・・

「大事な人のために・・・

「大事な人が傷ついて欲しくないから・・・

「それは自分のため・・・

「・・・浅水君!」

「真奈美ちゃんも傷ついてる・・・

「真奈美ちゃんも苦しんでる・・・

「分かる?浅水ちゃん

「それは君が傷ついてるからなんだよ。

・・・僕が?

「君が・・・

・・・僕はどうしたらいいの?

「浅水ちゃんも苦しいんだよね。

「どうしてか知ってる?

・・・分かる。

・・・今なら分かる。

・・・僕が今こんなに苦しいのは真奈美が傷ついてるからなんだ。

「どうして、みんなこんなに苦しいんだろうね?

「どうしたらみんな幸せになれるんだろうね?

「どうしたらいいと思う?浅水ちゃん。

「どうしたら・・・


「耕一さん!」
千鶴が「霞」を手にする。
リズエルの力を吸って、かぼそい刃が生まれる。
頼りない力、しかしそんなことはどうでもいい。
「耕一さん!」
膝が折れる。
今の千鶴には「霞」を扱えるだけの力が残ってない。
「耕一さん!」
愛する人の名を叫びながら、力の刃を振り上げる彼女・・・
僕は立ち尽くしていた。
動けなかったからじゃない・・・
僕は待った・・・
「耕一さん!」
・・・どうしたらいいと思う?浅水ちゃん。
本当にどうしたらいいんだろうね、瑠璃子さん・・・
「グオオォォォォオオオオォォォォォォォォ!」
アルガルの断末魔が尽きたコップの水のように消えていく・・・
どうしたらみんな幸せになれるんだろうね?
ねえ、真奈美。


・エピローグ・

>>それで?結局元の生活に戻ったわけだ。
「はい、まさか同じ学校の生徒だったとは、気づきませんでしたけど」
>>彼の狂気は?
「大丈夫ですよ。もともと、あの鬼との精神戦で
狂気に近づいたようで、僕よりもずっとまともな人間ですよ。
耕一さんは大丈夫ですか?」
>>ああ、元気も元気さ。今日退院だよ
「なんだか、耕一さんの傷が一番酷かったですね」
>>多分、浅水君が、必死に手加減してくれてたんだろ。死なない程度に。
「そうですね」
>>そういえば、彼の力はどうなったんだ?
「使えないらしいです。
使う気もないようでしたけど」
>>そうだな。祐介君の力や、鬼の力は必要の無いものなんだ。
「じゃあ、どうしてあるんでしょう?」
>>さあね、祐介君が解明してくれよ。
「気が向いたらそうします」
>>そっちに戻ったら、また連絡するよ。
「はい、ゆっくり療養してきたほうがいいですよ。それじゃあ」
受話器を置く寸前に、遠くで耕一さんを呼ぶ声が聞こえた気がした。
退院の迎えが来たのかもしれない。
ピーッ、ピーッ、ピーッ、
公衆電話からテレホンカードが吐き出される。
またいつもと変わらぬ一日が始まる。

柏木家の門の前で、耕一は立ち止まる。
数m前を歩いていた千鶴が二三歩進んでから気づき、振り返る。
「耕一さん?」
「いや・・・」
さっきまで騒がしかった、耕一の周りが、一瞬の不思議な沈黙に包まれた。
「まだ言ってなかったような」
「何ですか?耕一さん」
心底不思議そうに、千鶴が尋ねた。
「・・・ただいま」
それを聞いて、千鶴が気を抜かれたように立ち尽くす。
出し抜けに初音が叫んだ。
「お帰りなさい!」

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>お、終わった。
>とにかく終わったんだ!
「黙ってられるかぁ!」
>タイムリミットギリギリ、今日を逃せばアウトだったんです(笑)
>2週間ばかり消えますので・・・
「あたしの出番はぁ!」
>今はなにも言いません。
>感想や、質問には答えます。
>2週間以降になりますが・・・
「どうなってるの〜!」
>とにかくこれが私の10台最後の作品です(アメリカ時間)
>感想とかは、私が帰って来るまで待って下さいね。
>読めないから。
>それか、今日の午前11時までなら読めますっ
「わたしってなに〜」
>それでは、次回作で、またお会いしましょう!