優しさの結末 四日目 午前 投稿者:智波
うーい、だいぶ時間が開いちゃいました。
というのも、学校が、学校が・・・
退学になるかもしれない・・・
自分が悪いんですけどね。
で、もうすぐ、インターネット、家でできるようになる!と思います。
それまで、また開くかも知れませんが、
お付き合いくださいませ。
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1

明け方、
日が昇ぼって、まだそれほど経ってない。
雪の残る朝は、肌が切り裂かれるのではないかというほど寒く。
千鶴は一人、路地に立っていた。
「耕一さん・・・・・・・」
かの人は、この門をくぐればすぐそこにいる。
手の届く距離、そうだ、少し歩けば触れられる距離。
越えられない壁、
耕一さんの思いやりを棒には振れない。
できれば頼って欲しかった。
一緒に戦おう、と、言って欲しかった。
そして、今の自分があしでまといであることにも気づいていた。
一度は耕一さんを殺しかけたこの腕が、
耕一さんを助けるための役に立たない。
千鶴はいつもと変わらぬ表情で振り返る。
そこには一台の黒いセダンが止まっている。
「御用があったのでは?」
「良いわ。出して・・・」
スーツの男がサイドブレーキを戻し、アクセルを踏むと、
車は順調に滑りだした。

・・・見つけた。

がばっ!
目が覚めると、体中、寝汗でびっしょりだった。
今の・・・
今の夢は・・・
何で千鶴さんがここに・・・
なんで俺は何処かの屋根の上からそれを眺めて・・・
寝起きのせいだろう。
現状を理解するのに、馬鹿みたいに時間がかかった。
そんな、そんな!
この隆山には鬼気が溢れている。
柏木の血を弱く、薄く受け継ぐものは無数にいる。
もし奴が鬼を完全に開放しないまま、千鶴さんを追えば・・・
まず、気づかれない。
時計を見る。
7時34分。
千鶴さんが今何処にいるのか、見当もつかない。
いや、少なくとも、ここと、鶴来屋を結ぶ、何処かにいるはずだ。
こんちくしょう!
普段着のまま寝ていた俺は、
そばにあったコートをひったくる様にして、家を飛び出した。
同時に強い鬼気を放つ。
気づくんだ、千鶴さん!


2

「耕一さんっ!?」
鬼気、それも覚えのある、強く、熱い鬼気。
「止めて!」
運転手は、主人の命を忠実に守り、すぐに車を止める。
場所は・・・
場所は公園の脇だった。
運転手に、会社に行って、自分が今日は休むことを告げるように言う。
そう、千鶴はここで、耕一を殺すことを誓った。
しかし決着はつけられぬまま、そのとき鬼の胸に残した痕が、
千鶴に耕一が鬼だと思わせる決定的な証拠となったのである。
明け方の公園。
人通りは少ない。
そう、あの事件以来、この公園に好んで立ち寄るものは少なくなった。
いくら犯人が捕まったとはいえ、
−もちろん、それは本当の犯人ではないのだが−
多くの殺人があった公園だ。
暖かくなった陽光に誘われて、足を向ける場所ではない。
誰もいない公園の真ん中で、千鶴は静かに力を開放した。
全身が重くなる感覚、これは幻ではない。
また同時にそれを自由にできる力を全身に感じる。
耕一さんがここにたどり着くまで、早くて10分。
その間を切り抜ければ良い。
向こうから、一人の青年がやって来る。
学生服だ。
登校の時間・・・
いや?カバンは?
そう思った瞬間、彼の全身から、力が吹き出した。
鬼気!
それもとてつもなく強く、そして、痛い。
青年の双鉾が黄金に染まり、足下の地面が音を発てて、陥没する。
「リズエルか・・・、おまえとも久しいな」
「なに?」
「再びおまえの命の炎が見れるとは、ジローエモンに感謝せなばな!」
その言葉と同時に、青年の姿が消える。
・・・跳んだ!
合わせて千鶴も横に跳ぶ!
視界より僅かに高く跳んだ青年の爪が、
今の今まで千鶴の立っていた地面を深くえぐる。
地に転がって、うまく木の根元に移動した千鶴は、その木を蹴って、
青年に飛びかかる。
しかし、また青年の姿がかき消えたかと思うと、
上から重い衝撃が走った。
靴で踏み付けられた・・・なら爪が来る!
とっさに横に転がって、青年の足を弾く。
地を滑るように立ち上がると、青年は宙で一回りして、
地に降り立つところだった。
強い!
耕一の言葉が千鶴の脳裏によみがえって来る。
耕一さんでも敵うか分からない鬼、
やっぱり私じゃ・・・
「リズエルよ。エディフィルも転生しているのか?」
「エディ・・フィル?」
「おまえが殺した、おまえの妹だ」
「エディフィル・・・」
「何か記憶にひっかかるものはないか?
おまえのエルクゥはリズエルのもの、ならばその記憶も持ちうるはずだ」
「リズエル・・・・・・私?」
トクン・・・
千鶴の心の奥を、何か違う心音が叩いた。
トクン・・・
「思い出せ、リズエル。おまえはエルクゥ皇家の第一王女にして、
我等の指令者だ!」
トクン・・・
「私・・・」
ドクン!
ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!
ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!
ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!
「いやあぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
突然、千鶴が体を抱えるようにして、その場にうずくまってしまう。
「許して!許して、楓!私は、私は!」
「カエデ、それがエディフィルの今の名か?」
「楓、ごめんなさい。私は、私は!」
「ククッ、それだけ分かれば上出来だ。
またジローエモンが、案内してくれる」
「次郎衛門・・・、耕一さん?」
ドクン!
「耕一さん」
ドクン!
「もう、もう悲しい思いはしたくない・・・」
一度は力を失った千鶴の肉体に再び鬼気が舞い戻る。
そう、さきほどよりも、ずっと強い力、リズエルの力が!
「だから私が耕一さんを守って見せる!」


3

ここだ!
そう思って、公園に入ろうとした瞬間に、
全身に、ゾクリとした感覚がはい回った。
千鶴さんの鬼気が消えて・・・そして、知らない鬼気。
強く、気高く、孤独な感じがする。
ここだ!
しかし、俺は戦場の手前で立ち止まらなければならなかった。
千鶴さん?
そう、それは、新たに現われた鬼気の持ち主は千鶴さんだった。
どうして?
千鶴さんの力はずっと弱いはず・・・
それが今は、鬼と化していない俺と同格。
しかも、千鶴さんは奴と互角に渡り合っていた。
しかしそれも奴が人の姿だからだ。
鬼の姿になればその力はずっと強くなる。
つまり、奴は遊んでいる。
しかし、それでも、俺はその戦いに割り込むことができない。
一瞬に次ぐ、一瞬の攻防。
間違いなく、一瞬でも気を逸らしたほうが負ける。
しかし、だからこそ、この戦い、千鶴さんに不利だった。
どうにかしなけりゃいけない。
でもどうやって・・・
それに、どう戦えばいいのだ。
ざしゅっ!!
派手な血しぶきが舞った。
奴の爪が千鶴さんの肩口から、わき腹までを大きく切り裂いたのだ。
その瞬間、言葉が口をついていた・・・
「次郎衛門はここだ!アルガル!」
千鶴さんにとどめの一撃を降り降ろそうとしていた奴の腕が止まる。
「次郎衛門はここだ!」
次郎衛門はここだ。
次郎衛門はここだ。
そうだ、俺はここだ。
そうだ、俺はここにいる。
次郎衛門、俺の名だ。
出世を目当てに鬼退治に参加し、無残に致命傷を負った愚かな男。
鬼の娘に命を救われた哀れな男。
そして、その鬼の娘を愛してしまった滑稽な男。
そして、すべての鬼に復讐を誓い、自らを鬼と化した。
エディフィル・・・
おまえにどれだけ会いたかったか。
おまえを失った俺が、一体どうすればよかったというのか。
・・・楓ちゃん?

しゅう!
空を切って、奴の爪が目前に迫っていた。
「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
右足が飛び出して、奴の、アルガルの腹を捕らえる。
「アぁルガルぅ!」
そして、鬼に支配された哀れな少年。
「キサマにもう一度、死をくれてやる!」
次郎衛門の記憶が、俺に「霞」の使い方を教える。
俺はかつて、あの刀で、アルガルをほふったのだ。
同じように殺してやる!
俺は跳んだ。
アルガルも俺を追う。
もはや、俺以外は見えてないようだ。
これでいい。
千鶴さんも無事のはずだ。
しかし、俺はまだ、
千鶴さんが自分と同じように記憶を取り戻しているとは知らなかった。
そして、それがどんな記憶かも・・・


4

目指す神社のわずか手前でアルガルに追い付かれる。
完全に記憶が戻らなかったせいだろう。
次郎衛門の記憶のおかげで以前よりも鬼を
うまく使いこなせるようになったとはいえ、
依然アルガルとの差はある、ということだ。
背中から襲いかかる爪を交わし、振り返りざまに、爪で薙ぐ。
アルガルはそれを交わしたものの、また俺との間に距離が開く。
俺は境内に駆け込み、蔵の扉を蹴破って、中に入った。
そして、その奥の「霞」に手をかける。
2m。
鬼に変わればともかく、今の俺よりも長い刀。
しかし、鬼の力を開放している今では軽いものだ。
次郎衛門とて、仲間の前では鬼には変化しなかった。
それ故に、このような刀を持ったのだ。
俺はその場で、鞘から、束を引き抜いた。
今の俺でも少々堅い。
キィン!
やがて、軽い金属音を立て、「霞」がその姿を表わした。
それは神主の言ったように錆び付いてはいなかった。
いや、錆び付きようがなかった。
「霞」に刃はないからだ。
グゥン!
全身から力が抜ける感覚。
そして「霞」が重くなる。
鬼気を感じ取れるものなら分かるはずだ。
束から伸びた、強力なエネルギーの刃を。
ゴォン!
その瞬間、蔵の壁を突き破って、アルガルが踊りかかって来る。
伸びて来た爪を、俺は横薙に払った。
「ぐあぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アルガルが声を上げつつ、後ろに跳び退く。
手ごたえがあった。
右腕を深く切り裂いたはずだ。
後を追って、飛び出すと、アルガルは鬼に変じていた。
しかし、その右腕だけが、人のもののままだ。
やはり!
次郎衛門の記憶にあった。
「霞」に切られた鬼が、ただの人間に変わって行く映像が。
「霞」は鬼だけを切る刀なのだ。
とどめを!
そう思って、「霞」を降り被った耕一の膝が地についた。
「あれっ」
力が入らない。
まるで全身の力を使いきってしまったようだ。
「お互いに致命傷だな、ジローエモン」
ゼエゼエと息をつきながら、アルガルが言う。
「致命傷だと」
それだけを言うのに、えらく力が必要だった。
「我は一度去るとしよう。このような状態では、相打ちすらありうるのでな。
次にまみえる時まで、エディフィルが無事であることを祈っていろ。ジローエモン」
意識が遠のいて行く。
暗く沈んで行く。
その奥で俺は、なぜか、楓ちゃんを見つけた。


続く。
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「あれぇ?」
>どうした?
「あたしの出番がない」
>うん。
「どうしてよ。この陰険智波!」
>ホレ、あれを見ろ。
「時計?」
>そうだ。もうすぐラボが閉まるから、これ以上は書けないのだ。
「あんたねぇ、もっと計画的に書いたらどうなの?」
>計画的だぞ。どこで、どういうふうに終わるかまで、決まっておる!
「どれくらいかかるかはわかんないけどね」
>うむむ、それをいわれたら・・・
>で、でも、もうすぐ家にインターネットの環境がそろうんだい!
「そういうことは、まず電話線を引いてから言おうね」
>最近突っ込み厳しくありません?
「次回はあたしも出るんでしょうね?」
>ホントは今回出るはずでした(笑)。
>では、次回、四日目、午後、
「電波コンビも復活する!」
>戻る記憶に翻弄される耕一と千鶴の運命は?
「おたのしみに!」