優しさの結末 三日目 午前 投稿者:智波
「ジャンル」雫・痕もの・シリアス

「あらすじ」
耕一と祐介は鬼を止めるために動き出すが、
瑠璃子さんをかばって、祐介は怪我を追ってしまう。


1

ボクはいつもの窓際の席に座っている。
窓の外を眺めてる。
窓に映った教室を眺めてる。
カッ、カッ、と一秒毎に刻まれて行く時間。
教師の垂れ流す、無意味なお喋り、
生徒達の、無闇な喧騒。
どんよりと濁り、色の無い世界。

・・・ジローエモン!

ボクの中に捕われたもう一人のぼく。
熱く、強い魂を持ちながら、ボクの前では無力。

黙れよ・・

心の中でつぶやくと、途端に消える声、
恐怖の証し。

ククク、命を握るというのは気持ちの良いものだ。
教師も、生徒も、皆、ボクの手のひらにいる。
ボクが軽く手を握れば、簡単に壊せてしまえる。

・・・恨めしや、ジローエモン!
・・・憎しや、ジローエモン!

じろうえもん?

・・・恨めしや、ジローエモン!

もう一人のぼくの声、
何か、知らぬ光景が、脳裏に散る。
いつのまにか窓に映る光景は教室では無くなっている。

・・・その身を剥いで、木に吊そうぞ。

戦場、それはずっと昔の戦場だ。

・・・その血を浴びて、我等が渇きを癒そうぞ。

血、血、血、血、
肉、肉、肉、肉

それは宴だった。
血と肉の、この世で最も美しい宴であった。
男は殺し、女は犯し、子供は食らう。
これほど単純で、満ち満ちた宴があるだろうか?
しかしそれは唐突に終わりを告げる。

侍達の強襲、我等の物であるはずの武器を使い、
彼らであるべき死体を、我々で埋めて行く。
敵だ。

そのうちに一人の侍が見える。
一本の刀を手にしてはいたが、その身のこなし、その胆力、
それは間違いようの無い、我等の物であった。

理解する。
この者がジローエモンだと!
この者がにっくき裏切りの元凶であると!
ジローエモン!ジローエモン!ジローエモン!ジローエモン!
ジローエモン!ジローエモン!ジローエモン!ジローエモン!
ジローエモン!ジローエモン!ジローエモン!ジローエモン!
ジローエモン!ジローエモン!ジローエモン!ジローエモン!
ジローエモン!

突然その姿が、昨日の化け物に重なった!
「うわぁあああぁぁぁぁぁ!」
身もすくむ程の恐怖!
肌を焼く怒り!

バリィン!

気がつくと、右手がガラスのあったはずの空間を貫いていた。
クラス中の視線が集まっているのが分かる。
ザワザワと、意味の無い音を立てながら、ボクを見ている。
ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ・・・
うるさい蝿どもだ・・・
電気の力で静かにしてやるのも良いが、
それをするには、まだ早い。
今は、黙って立ち上がる。
それまで、よそよそしく、遠慮がちに
向けられていた視線が、一気に集中する。
彼らの瞳は輝いている。
突然起こった、非日常的なシチュエイション。
それに期待しているのだ。
そうだ、誰もが日常に飽き飽きし、
誰もがそれを打ち破りたいと心のどこかで願っている。
だが、ボクは彼らの期待に、今、答える気はない。
ただ立ち上がり、教室を出る。
それだけだ。
「おっ、おい!」
まだ若い、新任の先生が慌てた声をあげて追ってくる。
立ち止まり、振り返る。
「おい・・・・・・・」
       「戻って、授業を続けてください」
電気を使って、命令を先生に焼き付ける。
新任教師は、一瞬惚けた表情をしていたが、すぐに
ボクのことなど忘れたように、教室に戻った。
今は、まだおとなしくする。
まだ、この学校で、したいことがある。
いずれは、皆殺しにしてやるのだ。
順番に一人ずつ殺して、命乞いさせる。
仮面を剥いでやる。
生きる価値がないことを証明してやる。

廊下の窓ガラスでも割ろうかと思って、右手を振り上げたとき、
その手が血だらけであることにようやく気づく。
ポタポタと、血が廊下を汚している。汚している。
ポタポタと、ポタポタと・・・
「くっくっくっ、あっはっはっはっはっ!」
訳も分からず可笑しくなり、込み上げられた笑いをこらえもせずに吐きだす。
「浅水くん・・・」
振り返ると、幼馴染が立っていた。
名前は、なんと言ったか?
「なに?どうしたの?」
「浅水くん、最近変だよ。ずっと落ち込んでたり、
いきなりあんなことしたり・・・、今も」
「変だったかな?」
「うん、あの、保健室、行くんでしょ?私、保険委員だから」
思い出したように、腕の傷を掲げて見せる。
「保健室?・・・ああそうか、保健室か」
保健室か・・・
「ああ、連れて行ってくれるかな?」
「うん!」


2

「いやぁ・・・・・うぅぅ・・・・」
叫び声は、一瞬でかき消される。
ボクが彼女の口にシーツの端を詰め込んだからだ。
血に塗れたままの右手で、彼女の首を締め付ける。
左手が上着の裾から、その中に進入した。

3時限目の保健室、保険医はおらず、彼女は慣れない手付きで
薬を探していた。
薬品棚に手を延ばし、消毒液を取ろうとしているようだ。
とりあえずは、この女を犯そう。
なんとなく、そう思った。
すぅっ、と、女の後ろに忍び寄り、
いきなり両手で抱きしめる。
「えっ、・・浅水くん?」
そして、すぐにベッドにつき倒し、唇を塞いだのだ。

ベッドの上に押し倒した彼女の上にまたがるようにして、
抵抗を押さえ付ける。
彼女の両手は律義に、それぞれボクの右手と左手に添えられており、
見ようによっては、ボクの手を催促しているようにもみえる。
それがおもしろかった。
「ククク」
「・・て、あ・・・く・・」
声が聞けないのはつまらない。
だけど、叫ばれたら困る。
そのまま、柔らかな膨らみに到達した手を、ゆっくりと動かす。
その間にも、右手はギリギリと、力を加えている。
このまま・・・
そう思った瞬間、
・・・桐山真奈美。
・・・まなみ・・・
それが彼女の名であることに気づいた瞬間、
「グゥッ!」
また、あの頭痛が、
あの化け物を見たときと同じ頭痛が、
黙れ!黙れ黙れ黙れ!
うるさい!
ちりちりと、頭の中を電流が走っている。
チリチリチリチリチリチリチリチリチリ
ガツッ!
突然ベッドの足が折れる。
ボクが力を開放したからだ。
右腕が異様な進化を果たし、ガラスで切ったはずの怪我ももう無い。
すでに足下の物体には興味がなかった。
呼びかけられるもの、
答えねばなるまい。


3

屋上。
そういや、屋上には来たことがなかった。
階段を上がったところにある分厚い扉がボクを迎えている。
扉は僅かに開いていた。
そこに誰かいる。
さっき、楽しみを邪魔した奴が・・
扉を押して、屋上に出る。
今日は良い天気だ。
「・・・こんな日はね、よく届くの」
「ナニガ?」
「・・・電波」
そこには、見たことあるような女生徒が立っていた。
目は虚ろで焦点があっていない。
明らかに、異常だ。
「・・・さっきのも届いてたよ」
「ヤッパリ、オマエガ邪魔シタンダナ」
「・・・たすけてって。こんなことしたくないんだって」
「ダマレ、オンナ」
「さっき、泣いてた・・・」
「ダマレェェェェェェェ!」
一瞬で、間合いを詰める。
次の瞬間には、少女を金網に叩きつけ、
その細い首筋に、骨張った右手をかける。
「泣いてるよ。今も」
チリチリチリチリ・・・
少女の言う電波が、ボクの脳に進入してくる。
防げない。
どうすればいいかわからない。
助けて!
助けて・・・・・

ここは何処?
・・どうして泣いてるの?
だって、悲しかったから、
・・何が悲しかったの?
分からなくなった。
・・分からなくなった?
みんな良い人だと思ってたのに、きっと、悪い人なんていないって、
だから・・・
・・だから?
だから耐えられたのに、
苦しみ、絶望、そして諦め、
諦めても絶望は終わらないのだと知った!
苦しみが癒えることはないと知った!
だから、せめて人を信じたかった。
・・信じれば良いのに・・
徐々に蝕まれて行く日々、
失われて行く正気、
人を信じてたのに!
人を信じてたのに!
・・逃げ出したの?
ごめん!
辛かったんだ!
苦しかったんだ!
とっくに逃げ出したかったんだよ!
もう・・・あんな苦しみは味わいたくないよ。
・・謝らなくてもいいんだよ。
ありがとう。
でもやっぱり、やだよ。
ごめんなさい。
・・謝らないといけないよ。
えっ?
・・まだ、泣いてる。
まなみちゃん?
・・聞こえるでしょ?
・・助けてあげて・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・浅水ちゃん?
・・・うん、わかったよ。
・・・僕が謝りに行く。


4

目を開けると、僕はフェンスにもたれかかっていて、
彼女はすぐ隣で町を眺めていた。
「ありがとう」
その綺麗な横顔にそう言うと、
彼女は訳が分からない、といったふうで、僕を見た。
「ありがと、バイバイ」
最後の礼と、別れの言葉、
「バイバイ、浅水ちゃん」
彼女は、ちゃんと返事をしてくれた。
そして、振り返ろうとしたとき、

・・・ジローエモン!

あの声が聞こえた。
振り返ろうとしていた動作は止まらずに、
僕は、屋上の扉のところに立った、知らない人を見つけた。
ここのOBだろうか?少なくとも、僕よりも年上だ。
走って来たのだろうか、少し息が切れている。
肩で息をしながら、しかし彼ははっきりと、言った。
「やっと見つけたぞ!」

・・・やっと見つけた。

ドクン!

「瑠璃子さん!危ないから離れてるんだ」

ドクン!

・・・ジローエモン!

「もういいんだよ・・」

ドクン!

・・・主の敵!

息がつまる。
ちゃんと呼吸できない。

「どの血筋かは知らないが」

ドクン!

「鬼を制御できないなら・・」

体中の血が沸騰してるみたいだ。
皮膚が、皮膚が呼吸を始めてる。

・・・待っていたぞ、ジローエモン。
・・・この時を何百年も!

「俺が殺す!」                ・・・俺が殺す!


                                                                               午後へ
______________________________

>あああ〜〜!
「どうしたの?」
>ああ、君は気の狂った浅水くんに暴行を受けていた真奈美さん。
「説明的台詞ですね」
>途端に固くなるなぁ。
「で、どうしたの?」
>あっ、ああ、実は、前回とんでもないミスを(涙)
「えっ!どんな?」
>いや、まだ誰も触れてないみたいだから、ほっとこうかな、と。
「ひどいですね」
>いや、今日は体調が悪いから、こんなこと言ってるんだけどね。
「また徹夜?」
>うっ、やっと、MIDIとPCIが動くようになったんだよ。
「今は声の出るHゲームって多いですからねぇ」
>しくしく・・
「実際は東鳩の目覚ましの音を知らなくて、
感動してたみたいですけど」
>いや、ホント知らなかったんだよ。
>効果音少ないな〜、とは思ってたんだけど。
「CD−DAしか動いてなかったんでしょ。普通気づくと思うけど」
>私が馬鹿でした。
「言い訳は?」
>徹夜で、直打ち、時間制限付き、なので、表現がぁ〜!
>ダーク浅水をもっと活躍させたかった(涙)
「最後に!」
>続きを読みたいとおっしゃってくださる方がいる限り、
>この作品は、美味しいところで一区切り打つ宿命にあるようです。
>大まかな流れは頭ん中にあるので、頑張って書き上げます!

「それではっ!」
>さよ〜なら〜!

なんで、こんな明かるいねん。キャラ違うやんか!