優しさの結末 二日目 午前 投稿者:智波
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                                                                                             深夜

もう駄目だ。
絶望に打ちひしがられながらも、
僕は最後の抵抗を続ける。
最後の、そう最後の、
自分が一番よくわかっている。
「奴」の言ったとおり、僕の精神はすでに
ズタボロに引き裂かれており、
それは、この状態でありながらも、
僕が学校に行くことを止めなかった時点で、
決定的となった。

僕は負ける。

・・・ククク、やっと分かって来たじゃないか。
・・・自分の行ないの無意味、
・・・むしろ生物としての後退に
・・・気づき始めたということだ。

けど、まだ負けちゃいない。

押さえ様の無いような衝動を
両手でパイプベッドに叩きつける。
「ぐうっ!」
両手を縛り付ける針金が、
腕に食い込み、真っ赤な血が流れる。
言い様の無い美しさ・・・・・

違う!

・・・違わんさ。

まだ負けるわけにはいかない!
家を出なくちゃならない!
遠くへ行くんだ!
誰も犠牲にしてたまるもんか!
もう一晩!もう一晩だけ、持ってくれ!

ベッドに入る前に縛った、腕の針金が、
ギチギチと音を立てる。
痛みが、痛みだけが、僕の正気を保ってくれる。
・・・痛みが、正気を?
・・・ククク、傑作だ。
・・・くっくっくっ、あーはっはっはっはっ!
・・・痛みに頼らねばならん正常が正常だと?
・・・戯言もここまで来ると傑作だな。
・・・おまえはもう狂い始めてるんだよ。
・・・俺には分かる。
・・・あらゆる衝動、欲求がおまえを苛み、
・・・また悦ばせていることが、
・・・なぜだか分かるか?
・・・分かっているはずだ。
・・・俺達は同じなんだから・・・


2

何処だ!
一体何処なんだ!
頭をかきむしったところで答えが出るはずもない。
しかし、このまま見過ごすわけにもいかないんだ。
俺は当てもなく、深夜の町を徘徊していた。
鬼の精神感応は、
かなりの近距離でないと起こらないはずだ。
この区から外に出るはずがないんだ。

くそっ、
実際のところ、何か事件が起きてくれないと、
何の手掛かりもないという状態だった。
しかし、それは犠牲者が出ることを示し、
従姉妹達も事件を知ることになる。
ひとつだけ、案がないわけではなかった。
俺自信が鬼に変身し、街中に殺意の波動を広げるのだ。
相手が鬼であれば、これに反応しないはずはない。
しかし、彼はまだ耐えている。
鬼に支配されることを必死で拒み、
犠牲を減らそうとしている。
その努力を無駄にはできない。
鬼の波動を広げたら、彼の中の鬼が、
活性化するのは間違いないのだから。
彼が自殺してくれたら一番楽なんだが。
そんな思いが一瞬浮かんで、あわてて降り払う。
親父も、叔父も、そうやって死んでいったんだ。
同じ死を増やしちゃいけない。
だからといって、俺は、彼と接触を取って
どうするつもりだったんだ?
鬼を制御できるかどうかは、技量の問題ではなく、
単なる個人差、血液型みたいなものに過ぎない。
もし、彼が制御できないのだとしたら、
俺がどうこうしたところで、何にもならないのだ。
けれど、俺がなにもしなかったら?
犠牲者が増えるだけだ。
それだけは避けたい。
いや、なにより従姉妹達にこれ以上の心配を
させたくないのだ。

白みだした空が、俺の無駄な努力を笑っていた。
それでも何かをしないわけにはいかない。


3

「もしもし、長瀬ですけど」
「祐介君かい?」
「耕一さん、どうしたんですか?朝ですよ」
「ちょっと頼みたいことがあってね。
今すぐ来てくれないか?」
「・・・いい、ですよ」
俺の口調から、何かを感じ取ってくれたらしい。
これで少しはましになる。

長瀬祐介。
俺が鬼なら、彼は超能力者、と言うべきか。
大気中に満ちている電波を操り、
精神を自由に操る。
この鬼と電波、まったく関わりあいがなさそうな
二者が始めて顔をあわせたのは、
ほんの2ヵ月ほど前、
とあるアパートで起きた猟奇殺人の現場の前であった。
異様な気配、鬼が発するものとは違う、
人間独特のどすぐろい殺意。
俺はその臭いに引かれ、
彼は殺意の電波を感じ取ったのだという。
まだ発見さえされていない現場の前で、
俺は始めて彼を見た。
優男、と形容するのが一番ふさわしい、
何処にでもいるような高校生が、
走って来た男の手を突然掴み、こう言ったのだ、
「今、人を殺して来ましたね?」
男に返事をすることは許されなかった。
怒りという感情が、彼を中心に渦を巻いたかと
思うと、それが男の中に流れ込み、
男は体を痙攣させて、その場に崩れ落ちた。
「そこに隠れている人、人間じゃないでしょう?」
彼はその場に立ったまま、問うた。
感情の抜け落ちた声。
俺は恐怖した。
正直言って、こんな恐怖は初めてだった。
「別に怖がらないでください。
ぼくらは殺意を止めに来た。止められなかった。
そうでしょう?」
それが出会いで、最後だった。
しかしお互いに普通の人間ではないという、
その親近感が、お互いの手の中に、
お互いの連絡先を残したのだろう。
今はそれを感謝していた。


4

「こんにちは」
そう言う祐介君の隣には、
見知らぬ女生徒が立っていた。
「あっ、えーと、この娘は月島瑠璃子さん。
僕と同じなんです。
瑠璃子さん、この人が耕一さん」
瑠璃子と呼ばれた少女は、祐介君の言葉には
反応を示さず、俺の目を、じっと見つめている。
何処か濁った、見たことある瞳で。
「知ってるよ、長瀬ちゃん」
「祐介君。女の子は危険だから帰したほうが良い」
「ええ、でもとりあえず話ぐらいはいいでしょう?
それに僕の方が力はあるんですけど、
瑠璃子さんの方がコントロールはいいんです」
「・・・分かった。とりあえず話から始めよう」
「いいの?放っておいて」
唐突に瑠璃子さんが言った。
さん付けで考えたのは、自然にそうなったのだ。
この娘の何か圧倒的な存在感が
そうさせるのかもしれない。
「放っておくって?」
祐介君が聞いた。彼にも分からないらしい。
「だって、泣いてるよ。助けてって泣いてる」
それを聞いて、祐介君が目を閉じる。
精神を落ち着けているらしい。
「・・・・・ほんとだ。耕一さん。話って」
「分からない。でも、もしかしたら」
「行ってみよう、瑠璃子さん。耕一さんも」
「ああ」
言い知れぬ不安があった。
しかし、彼を呼んだのはこのためだったのだ。
行くしかない。
俺はあわてて靴をはいて、二人の後を追った。


                                                                    二日目、午後に続く
_________________________________?

>うう〜、しんど〜い!
「だまれ〜!」
すぱーーん!!
>いった〜、って、おまえはダリア?!何でこんなとこに?
「あんたがおりじなるかかずにこんなことやってるから
とめにきたのよ!」
>うるさい、ロリキャラが!
>台詞が平仮名ばっかで、読み辛いだろうが!
「あっ、あんたがきめたせっていでしょうが〜〜!」
>ほれ、頭を押さえられて、手出しができるか?
ダリア、ブンブンと両手を振り回す。
が、当たらない。
「きぃ〜〜〜〜!!くやしぃ〜〜〜!!」
>ふっ、勝ったな。
「つぎのあとがきをみてなさいよ〜〜〜!」
>あったらな。
をい!
「ところで、いいんですか?後書き、書かなくて」
>あれ?フィーナ、いたの?
「はい、騒ぎが収まるまで、あっちに」
>あっ、そう(相変わらず、作者を無視してマイペースね)
「あの、後書き」
>あっ、はいはい。
>二日目の午前が終わりました。
「それだけ?」
>まさか、
>佑君と瑠璃子さんですけど、いちよー
>トゥルーハッピーエンドの延長で、
>LF97とかは関係ないです。
>あくまで、それぞれの事件の後に、
>偶然出会っていたということにします。
「それで、言い訳は終わりですか?」
>終わりです。
「では、二日目午後を気長にお待ちください」
>(暗い娘やな〜)