優しさの結末 初日 投稿者:智波
1

はあはあはあ、
呼吸が荒い。
腕に食い込んだ爪は赤い色に染まっている。
それを否定するように腕は蒼い。
・・・何を我慢している。
耐えなくては。
何に耐えれば良いのかも分からず、
また、腕に食い込んだ爪がきしみの音を立てた。
・・・俺を開放しろ。
・・・そうすれば楽になれる。
楽に?
甘く響く言葉、
吸い込まれそうな魅力。
日々繰り返される、自らとの死闘。
欲望と、妄想が生み出した化け物。
・・・ククク、本当にそうだと思っているのか?
僕の、僕自身の業。
・・・ククッ、ある意味は正しいな。
・・・だが俺は、おまえの生み出した、
・・・ただの妄想ではない!
・・・現実だ。
嘘だ!
嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!
・・・おまえ、耐えられると思っているのか?
・・・日々精神をすり減らし、
・・・日々腕に残る痕は深くなる。
・・・やがて精神は抵抗力を失い。
・・・おまえは容易に屈伏するだろう。
・・・これ以上耐えることに何の意味がある?
うるさい!
キサマなんかの言うことに負けてたまるか!
・・・でも、負ける。
うるさい!うるさい!
早く朝になれ、早く朝になれ、
早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く!

・・・好きにしろ。
・・・弱く、擦り切れた魂が、
・・・悲鳴をあげるさまも、また美しいものだ。


2

「うわっ!」
目が覚めると、途端に俺はブルーになった。
今の夢は?
思い出すまでもない。
去年の夏の終わり、
思い出すのも嫌になる。
「なんで、今更こんな夢を」
事件の真犯人は死に(死んだはずだ)、
俺も鬼の制御に成功した。
もう、心配すべきことは何もない。
卒業したら、隆山にいくことをみんなに約束して、
別れて、半年。
東京での生活は、平穏そのものだった。
じゃあ、今の夢は?
鬼、エルクゥには強力な精神感応の力がある。
事実、半年前の事件でも、
真犯人の鬼と、俺は、
精神感応の結果、お互いの行動が筒抜けになっていた。
だが、お互いに制御法を
知らぬのであれば、
こういうことは、めったに起こらない。
いや、起こらないはずだ。
それでも、わずかな、悪寒が、俺に受話器を取らせる。
もし、また新たな鬼が目覚めたのだとしたら?
呼び出し音が俺をいらいらさせる。
プルルルル、カチャ。
「はい、柏木です」
「あっ、初音ちゃん?俺、耕一だけど、千鶴さん、いる?」
「あっ、お兄ちゃん。うん、ちょっと待っててね」
「・・・・・」
「・・・・・」
初音ちゃんの声色から推測するに、
どうやら隆山で事件が起こっている様子はない。
俺の見た夢も、まだ、自らの鬼と戦うものだった。
まだ、鬼は完全には覚醒してないらしい。
「もしもし、耕一さん?」
「あっ、千鶴さん」
「どうなさったんですか?こんな朝早くから?」
心配そうな声。
たいした当てもなく電話してしまったことが、
わずかに後悔される。
「いや、ふと気になったから、・・・千鶴さん?」
「はい、何ですか?」
「奴の死体は?」
「・・・・・」
「やっぱり、見つかってないんだね」
「ええ、でも、あの傷では再生までに相当な時間が
かかるはずですから」
「いいんだよ、千鶴さん。ただ・・」
「ただ?」
「もし、鬼のものだと思われる事件が起きたら
真っ先に俺に連絡すること。
絶対にひとりで解決しようとしないこと。
いいね?」
「はい」
気のせいか、千鶴さんの声が涙ぐんでるようにも、
思えた。
「じゃあ、それだけだから」
「はい、・・・あの、耕一さん」
「なに?」
「事件が起きなくては、帰って来てはくれないんですか?」
寂びしそうな声が、俺の心を、きゅっ、と
捕まえた、気がした。
「また、夏休みに遊びにいくよ。約束する」
「本当ですか?妹達も喜びます」
ホントは自分が嬉しいくせに。
けれど、そんな言葉は胸の内に取っておいた。
とりあえず、学校に行くか。
久しぶりに従姉妹達の声を聞いて、
気分が良くなった俺は、
夢のことは楽観的に見ることにし、
家を出た。

                                                                             二日目に続く

_________________________________?

どーも、即興小説、初登場の智波です。
稚拙な文章はともかく、
学校からなんで、直接打ってます。
しかし、続く、のか?
しんどいので、飛び飛びになるかも知れませんが、
お暇があれば、読んでください。