EBC(1) 投稿者:助蔵間栖久(元助造) 投稿日:11月18日(日)04時34分
「な〜んか違うのよねぇ…」

 来栖川綾香はそう呟いた。
 エクストリーム大会、学生部門からの成績も合わせれば六連覇という偉業を、全試合
1ラウンドKO勝利と言う恐ろしい内容で達成したリング上での事だった。
 
 エクストリーム。
 1993年、米国でヴァーリトゥード形式と呼ばれる極力制限を少なくしたルールで
行われたアルティメット大会から始まった、格闘技のジャンルの垣根を越えたリアル・
ファイトブームを受けて、日本で始まった格闘技の大会である。
 試合形式は1ラウンド5分、一分のインターバルを挟んでの3ラウンド。
 勝敗の決着はKO(ノックアウト)かギブアップ、TKO(テクニカルノックアウト)
で決着する。
 3ラウンド以内にそれらで決着が着かない場合、2ラウンドの延長となる。
 それでも勝敗が着かない場合は判定となる。
 極力危険を避け、それでいて制限を少なくした通称・エクストリーム・ルールが大会
の特徴だ。
 優勝者はトーナメント形式で16人の選手の中から選ぶ。

 開催当初は興行として成り立っていくかさえわからないような大会であったが、かの
大財閥来栖川グループがスポンサーに付いたことと、ある一人のスターが誕生したこと
から、エクストリームは一気にメジャーへの階段を上り始める。
 スターの名は来栖川綾香。
 16歳のときに、エクストリーム女子学生(高校生〜大学生)部門に初出場し、他を
寄せ付けない圧倒的とも言える力を見せつけて優勝した少女である。
 彼女の地位とその名声は、二連覇を達成した時には確固たる物となっていた。
 その後、彼女の後輩の松原葵という少女との激闘をも全て制し、エクストリーム最強
の女の称号を欲しいがままにしてきた。
 そしてそれは22歳となった今、社会人(20歳以上)部門でも変わっていない。
 強いだけではない。
 ヘタなモデルは顔負けのスタイル。
 記者受けするしゃべりの上手さ。
 世界で5本の指に入るほどの企業、来栖川グループの令嬢だということ。
 それでいて嫌味を感じさせない性格。
 ある意味、全ての面で完璧な少女であった。
 
 来栖川グループの資金力と、来栖川綾香というスター、目標の存在。
 エクストリームは現在ではPPV(ペーパービュー)でTV放送もされている。
 今や、時のPRIDEやK−1に並ぶほどのメジャー興行となっていた。 
 それに伴って出場選手たちのレベルも、初期に比べて格段に上がってきた。

 しかし…それでも、綾香を超える者、綾香を超えそうな者は出てきていない…。




「―――ぶっちゃけて言うとね、今回はいつにも増して楽しくなくなってたの」
 大会会場からの帰宅途中のリムジンの中で、綾香は執事の―――綾香の格闘技の
指導者でもある―――セバスチャン長瀬にそう言った。
「これはまた手厳しい事でございますな」
 セバスはそう言って苦笑した。
 バックミラーに映る老人の顔には、その年齢に似合わぬ風格と鋭さが漂っていた。
「しかしながら、真の闘争とは、楽しさなど伴わないものでございます」
「だからぁ…もう! セバスにだってわかってるでしょう?」
「ははは…まぁ、その御気持ちは私にもわかりますが」 

 闘うことは楽しい。
 綾香はそう感じている。
 いや、正確には“闘って勝つこと”が楽しいのだ。
 勝つから楽しいのだ。
 勝つために、綾香も他の格闘技者も自らを鍛錬をする。
 疲弊しきって動けなくなることもある。
 限界まで、自らの身体を嬲るように鍛え続ける。
 時にはそれを見極めきれず、身体が壊れてしまう者もいる。
 しかし、彼らは鍛える事を止めない。
 勝つために。
 鍛錬という鞭で打たれ続けてきた身体は、勝利によって報われる。
 耐えてきた者は、勝利によって報われる。
 報われるのである。
 そして、それが強い奴と闘っての勝利ならば、その喜びは純度が高い。
 勝つことが難しいほど、その純度は高いのだ。

「そういう意味で言うとね…ちょっと物足りないって言うか。つまらなかったっていうか」
 綾香は基本的に思ったことはズバズバと言う。
「ほう…」
「今回は葵も出てなかったしね」
 葵がいれば、綾香は一戦くらいは3ラウンドを闘い切れたかもしれない。
 しかし、葵は今大会に出場していなかった。
 何故かは綾香もよく知らない。
「つまらない、ですか…」
 セバスはふと神妙な顔付きになってそう呟いた。
「私が空手から離れてエクストリーム始めたのは、こっちの方が面白そう…勝つのが
 難しそうだ、って感じたからなの」
「相手が強いほど、燃えるタイプだからね私」
「綾香お嬢様はそのようですな」
「だけど…何か最近は“コイツ強い!”って思える選手が出てこなくなってきたの」
「…………」
「いや、だからって手を抜いたりは絶対しないんだけど…何ていうかなぁ。全力で
 やってはいるんだけど、心の、身体の底ではまだ余力が残ってるような…」
 綾香はそう言うと拳をぎゅっと握った。
 そしてそのまま何もない空間にパンチを放つ。
 ビュッ、と拳が風を切る音がした。
「何ていうのかしら? こう、本当に死力を尽くして闘いたいんだけど、それだけ
 の相手は見つけられないの。それがとても歯痒くってしょうがないわ」
「ほう…」
「セバス、私の言ってることわかる?」
「よくわかります。私もそんな時を過ごしたことがありました…」
 セバスが少し遠くを見つめるような表情になる。
「へぇ? セバスもそうなの?」
 綾香は目を輝かせながらセバスに訊く。
「私の場合は時代が時代でしたので、今とは大分違いますが…」
「時代が時代、かぁ…」
「随分無茶をやったものでございます」
「いいわね〜、そういうの」
「今ではそれらの経験も、全く無意味なものでございますよ」
「……残念ね、そういうの」
 
 そんなことを話している内に、リムジンは目的地に着いた。
 広大な土地に、これまた巨大な豪邸が建っている…。
 来栖川家である。

「…よしっ。今日は今から身体動かすわ」
「今から?」
「ええ。まだまだ全然イケるわ」
 そう言って軽くフットワークを踏んでみせる。
 セバスにも、確かに綾香の動きは微塵も鈍ってないように見えた。
「じゃあねセバス!」
 そう言うと、綾香は家へと走っていった。

「…………」
 セバスは一人、車の前で立っていた。
 その表情には何かを迷っている表情が浮かんでいた。
 だが、暫くすると一人リムジンへと乗り込み、発車させた。

 20分ほど車を走らせ、辿り着いた先は巨大なビルだった。
 77階建てのビル。
 来栖川グループの繁栄の象徴とも呼ばれる、通称、セブンズビルである。
 ここに来栖川グループ現会長であり綾香の父である、来栖川浩介(こうすけ)がいる。
 二年前に逝去した会長に代わり、40歳代という若さで会長職に就いた男である。
 会長職でありながら、現在のグループの経営方針を実質一人で決めている男だ。
 それでいて、来栖川グループの現況を至って安定に保っている。
 セバスはフロントで手続きを済ませると、高速エレベータに乗り込んだ。
 最上階の77階まで僅か数十秒でいけるモノだ。
 目指す階にはあっという間に辿り着いた。
 浩介の部屋…会長室は66階にある。
 セバスは部屋の前に立つ黒服の男に了解を得、部屋の扉をノックした。
「は〜〜い…誰かな〜?」
 間延びした声が中から返ってきた。
「長瀬です…」
「うん? 源四郎さんかな? 入ってくれ入ってくれ」
「失礼します」
 来栖川グループ会長の部屋とは思えないがらんとした部屋。
 部屋が広いにも関わらず、物を置いていないのでよりそう感じるのだ。
 やけに大きいが、飾りっ気のないデスクに一人の男が深く腰掛けていた。
 来栖川浩介である。
 実年齢は40代の中年だが、見方によってはには30にも満たない程若くも見える。
「やぁやぁ、源四郎さん。お久しぶりだね」
「はい」
「元気にやってるかい? 娘達の世話は大変だろう?」
「いえ…」
「もう結構な歳なんですから、無理はしないでくださいよ」
「はい…」
 口振りや態度からは、威厳だとか風格だとか言う物は感じられない。
「それで…今日はどんな用件なのかな?」
「はい―――」

「綾香お嬢様が“EBC”に参加する頃合だと思い、それをお伝えにきました」

 浩介の表情が一変した。




「85…86…」
 綾香の上半身が規則正しく上下していた。
 両腕で自分の身体を支え、上下運動をする事で腕に負担を与える。
 腕立て伏せである。
 数分ほど前から続けているが、そのペースは全く変わっていない。
「98…99…100っと…ふぅ…」
 腕立て伏せを負えると、綾香は床に腰を下ろし、大きく足を広げた。
 そしてそのまま前屈したりしてストレッチを始めていた。
 何年もの間、欠かさず続けてきた練習の一環だ。
「よし、と…今日はこれくらいかな?」
 試合後ということもあって、綾香はいつもの半分ほどの量で練習を切り上げた。
 ストレッチを終えると、そのまま着ていたTシャツを脱ぎ捨ててバスルームに入った。
 そして少し温めのシャワーを浴びる。
 火照った身体にシャワーが気持ちよかった。
「…………」
 シャワーを浴びながら、綾香の頭には今日の試合が浮かび上がってきていた。
 序盤から、まるで自分の思い通りに動いてしまっている相手。
 そしてその流れを変えることが出来ずに倒れてしまう相手。
 そんな試合ばかりだった。
 ―――あっけない…。
 そう思った。
 相手は全力だ。
 自分も全力だ。
 相手は必死だ。
 自分は…。
「…な〜んか、違うのよねぇ……」
 綾香はまた同じことを呟いていた。
 綾香が空手から離れたのは、エクストリームの方が面白そうだと思ったからだ。
 そして、実際それは面白かった。
 空手では少なくとも自分の周りに強敵はいなかった。
 エクストリームにはいた。
 そいつらに勝ちたくて、綾香は闘ってきた。
 努力をしてきた。
 全力を出し続けてきた。
 そして綾香は勝ってきた。
 だけどまた……。
「…………」
 コックを捻り、シャワーを止めた。
 艶やかな長髪から、ぽたぽたと雫が落ちる。
 それを見つめながら、綾香は何とも言えない虚脱感に似た感情に捕らわれていた。
 つまらなくなったら、もっと面白い場所(リング)に行けばいい。
 しかし、あそこより面白い場所って…。
 らしくなく、綾香は考え込んでしまっていた…。




 そんな綾香の元に、数日後一通の手紙が届く。
 封筒にはこう書かれていた。



 EXTREME“BATTELE”CLUBより 来栖川綾香様へ

 この度、EXTREMEにおいてBATTELE部門の立ち上げが
 決定いたしました。
 真の強者を決める部門であり、性別以外の区分けは存在しません。
 つきましては、エクストリームチャンピオンである貴方の御参加を
 御待ち申し上げております。
 XX月○○日開催予定。 
 
                                             EBC



 ―――綾香の新しい闘いが始まろうとしていた。


-------------------------------------------------------------------------------

 こんばんわ、そして初めまして〜!
 この度SS初挑戦の謎のマスクマン、助蔵間栖久(すけぞうますく)って言います!
 以後、よろしくお願いしま〜す!!

 え? 助造?
 ああ、あの何か情緒不安定そうな人ですか。
 あんなヘタレとは全く関係ないですよぉ!!
 嫌ですよねぇ、あのひとのHNボクと似てるから困っちゃう!!(苦笑)
 
 ともかく、今後ともよろしくおねがいしま〜す!












 ……って、こんな真夜中にバカやってる俺って一体…。
 
 こんばんわ。
 あまりにお久しぶりでフェイドアウトされてしまったかもしれない助造です。
 ちなみに、上のは半分冗談です(半分?)

 さて、暫く死んでおりました。
 いえ、別にこのSSを書いてたわけじゃありません(汗)
 無意味に悶々と過ごしておりました。
 んで、このSS。
 またも連載SSな訳ですが、暫くはこれ一本を書いて行こうかと思ってます。
 他のを放り出してしまったのは、申し訳ありません。
 その分、こっちを死ねる気で書いていきたいっス(覚悟はあるか?)

 上のは半分冗談だと書きましたが、まー、何と言うか…最初からやり直してぇ
みたいな気持ちが正直あるんで。
 やり直せるわけはないのかもしれませんが…精一杯の足掻きでHN弄ってみたり。
 マスクマンになってみたり(謎)
 ……ひどく虚しい気もしますが。
 
 取りあえず、“新生”助造として頑張って逝きたい…逝けたらいいなと思ってます。
 うん、頑張る!(あかりん風味)