キン肉マン・マルチ 第二章(7) 投稿者:助造 投稿日:2月18日(日)13時23分
前回までのあらすじ

東鳩超人選手権。
各地から集まった超人から、最強の超人を決定するこの闘いも
遂に準決勝Bブロックの部の試合を迎える。
あかりとセリオの試合は、試合開始からあかりがセリオを圧倒する。
“一度見た技は通用しない”というあかりを前に、セリオは捨て身の行動に出るのだが…

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キン肉マン・マルチ 第二章 東鳩超人選手権編 第七話


「神岸あかりさんを……道連れにしてやります…!!」

 セリオは不敵に笑い、あかりの方を睨みつける。

「む、無理です! 腕の一本を折られてしまった状態であかりさんと闘うなんて…!!」
「マルチさん…私は不可能を可能にしてきた闘いを見たことがあるのです…」
「えっ……?」
「それはあなたのファイトですよ、マルチさん。」
「…………!」
「確かに私は神岸さんに勝つことは不可能でしょう。ですが、あなたのために、少しでも
 神岸さんへの対策方法を見つけて欲しいのです。」
「セリオさん…あなたはまさか!!?」

「例え再起不能になろうとも……神岸さんに一矢報いてやるつもりです…」


「試合中に余所見をするのは禁物だよっ!」
 あかりのベアークローが風を裂きながらセリオに向かってくる。
直線的な攻撃だが、それでもこれを避けることは容易ではない。
しかし、それでもセリオは驚異的な反射神経によって何とか避けることができた! 

 ガスッ!!

「しまった!!」
 ベアークローはそのままリング端のコーナーポストに突き刺さった。
あかりはそれを引き抜こうとするが、その隙をセリオが逃すはずはない。

「これがきっと最後のチャンス……この一撃に全てを賭けます!!」
 セリオは大きく跳躍し、そこからあかりに向かって蹴りの体勢で突っ込む!
その姿は矢を思わせた。

「角度、速さ、そしてあの高さから落ちることで加わる重さ! これを
 まともに受ければ、いくら神岸君といえど無事ではすまないはずだ!」


「ベアークローが突き刺さって動けない状態の時に、全力を賭した攻撃を加える……。
 普通なら避けられてもおかしくない重い一撃でも、この状態からじゃ避けられないしね。」

 あかりはまるで他人事のように悠長に話す。セリオの攻撃を絶対に避ける自信があるかのように……

「でも……生憎だけど、私のベアークローは取り外しが可能なの!!」

 あかりは突き刺さったままのベアークローを外し、自らも跳躍した!
 二人の身体が空中で交錯する!

「はあっ!!」
「なっ!!?」

 だが、あかりはセリオの蹴りの軌道から、少しずれたところに跳んでいた。
セリオの身体が自らの真横に来ると、あかりはセリオの胴に掴みかかる。
何とかあかりの腕を振り解こうとするが、腕が一本使えない状態のセリオにそれは不可能なことであった。
 あかりはセリオの胴を掴んだまま、身体を捻りその勢いでセリオを投げ飛ばす!
完全に力任せの投げだが足が地面についておらず、踏ん張れないこの状態では、簡単に投げることができた。

 セリオは真っ直ぐに金網に突っ込んでいき、そして、そのまま金網を突き破った。
 リングの場外で倒れているセリオを見下ろしながら、あかりがゆっくりと落下してくる。


「セ、セリオさぁん!!」
「残念ながら…一矢報いることすら…無理のようですね…」
「も、もう充分ですぅ!! これ以上は……!」

 マルチはセリオに手を差しのべる、だがマルチの手をセリオが制した。

「マルチさん…ここであなたが私に手を貸しては…私は反則負けになってしまいますよ…」
 苦笑しながら、セリオはそう言う。

「そんな!? まだ闘うんですか!!?」 
「この試合は棺桶デスマッチ…私の身体が棺桶に放り込まれるまで試合は続きます…」
 傷ついた身体に無理をし、セリオはリングに上がろうとする。
 普通の超人ならとうに倒れているか、下手をすると死んでしまっているはずだ。

「………わかりました。もう止めません…」
「ありがとうございます。」
「ですが…!」
「?」
「絶対にここに戻ってきてくださいよ!!」
「……わかっています。」

 

「すごいね……流石はセリオさんだよ。あれだけの攻撃を受けて立ち上がってくるなんて…」
 そう言うあかりは、金網の上に上っていた。スクリュードライバーを狙っているのだ。

「私の身体が棺桶に放り込まれない間は、……私は何があろうと立ち上がります!!」

 そう言ってあかりに向かって走るセリオ。
 すぐ近くにいるはずなのに、マルチにはその背中がどんどん遠くに行っているように思えた。
 

「―――――レフェリーッ!!!」
 下を向いて震えていた長瀬が、必死の形相で叫ぶ。

「私は…止めないつもりでいた! ……だがセリオはもう闘えない!! 腕が一本が折られている!!」

「もうギブアップしても、誰も文句は言わないはずだーーーーー!!」

 そう言ってタオルを投げ込もうとする長瀬。叫ぶ声が僅かだが震えていた。
セコンドとしてセリオの気持ちを受け止めるより、彼女の身を案じたのだ。

 だが………

「しゅにぃぃぃんん!!! セリオさんは、セリオさんはまだ闘っているんですー!!!」

 半泣きしながら、マルチがその腕をとった。

「あれだけ…私のために必死に闘ってくださっているんですぅ…!!!」
「だが、あのままではセリオは――――!!!」
 マルチを見る長瀬の目にも僅かだが涙があった。

「セリオさんは…絶対にギブアップはしないつもりです。……ですが、ここでタオルを
 投げ込むことは、それだけは絶対にセリオさんが許さないはずなんです!!」
「…………………!!」
「セリオさんを……信じましょうよ主任!!」
「それが今、私たちがセリオさんにできる一番のことなんですー!!!」


「ふふ……だったら私が二度と立ち上がれないように…ねじ伏せてあげるよっ!!!」
 既に装備しなおしたベアークローをセリオに向け、あかりは跳躍する!

「スクリュードライバーーーーーー!!!!!!」

 身体に回転を加え、スピードを増しながらセリオに突っ込む!
 セリオはそれを避ける様子もなく、そのままあかりに向かって突き進む!

「死ぬ気かセリオーーー!!??」
「い、いえ違いますー!! あれは――――!!」


ガキイィィィィィィィィン!!!!!!


 耳を貫かれるような鋭い金属音。
 大観衆の声援が飛び交う会場の中でもはっきり聞こえるほどの音が響いた。


「!!?」
「ふふふ……これで…ベアークローを受け止めることが出来ました!!」

 リング上ではあかりが宙に浮いていた。体勢はスクリュードライバーの体勢のままで…
そしてその先にあるベアークローはクロスさせたセリオの両腕を貫いてセリオの顔面の前で止まっていた。

「セリオの奴、両腕を犠牲にして神岸君のベアークローを受け止めたのか!!?」
「ですが…あれではあそこから反撃することは……!!」


「ふふふ…両腕を犠牲にして私のベアークローを受け止めたつもりみたいだけど…
 それじゃあここから攻撃に移ることは出来ないね…」
「くっ……!!?」
「セリオさんらしくないミスだね。後先考えずに行動をするなんて…」

 そう言うと、徐々にあかりの身体が回転を始める。
 回転がセリオの腕の筋肉組織を捩り、千切りとっていく!!
 
「くあああっ!!!」
「それに……私がここから攻撃できる、ってことを考えなかったの!?」

「あかりさんは一体何を!?」
「彼女は……彼女はあそこからスクリュードライバーを狙っているんだーーーー!!!!」

 回転を加えたあかりの身体がそのスピードを増していく。
ベアークローが徐々にセリオの顔に近づく。

「くっ!!?」
「スクリュードライバーーーーー!!!!!!!」


 ベアークローがセリオの側頭部に突き刺さる!!!


「―――――セリオさぁぁぁぁん!!!!!???」

 マルチの悲鳴にも似た叫び声。
 会場中の歓声が一気に高まる中で、セリオはゆっくりと崩れた……


「そう言えばこの勝負は棺桶デスマッチだったね……」
 そう言って二度と動く事はないセリオを抱えあげる。
見せしめにするかのように、あかりはその身体を高く掲げるとそのまま棺桶の中に放り込んだ。
そして棺桶の蓋が閉じられる…


「勝者、神岸あかり!!!」

 レフェリーの声と共に、激しくゴングが打ち鳴らされる。
会場はあかりに対する声援一色に染まった。



「セリオさんっ!! セリオさぁぁぁぁん!!!!」
押し寄せる係員達を押しのけ、マルチと長瀬はセリオの元に向かう。

「セリオッ!! ……ああ、何てことだ…!」
「し、主任…セリオさんは!? セリオさんは…!!?」
 長瀬が無言で首を横に振る。

「そんな……セリオさん…私のために……っ!!」

 マルチの目に涙が溢れる。
 だが、マルチはそれを流さずに腕で拭い取った。

「――――――あかりさんっ!!!」

 リング上にいるあかりを睨みつけるマルチ。
 マルチに気付いたあかりは不敵に笑みを浮かべた。


「決勝戦では……この私が絶対にあなたを倒しますーーーー!!!!!」


 会場中の視線がマルチの方を向く。
だが、マルチはそれでもあかりを睨みつけたままだ。

「ふふふ……いいね。その勢いだよマルチちゃん……」

 あかりは最後まで微笑みながら、会場を後にしていった……

「マルチ……」
「主任、早くセリオさんを……」
「ああ、そうだな…」
 
 二人はセリオを抱きかかえ、会場を後にした。





「主任、セリオさんは……」
「傷自体は深い…だが幸いにも再起不能とまではいかなかったようだ。ただ、側頭部に受けた傷が
 セリオの電子頭脳部分を僅かだが抉ってしまっている…。おそらくセリオの復活にはかなりの時間が
 掛かるだろう…」
「そうですか……」

 準決勝が終わった翌日。マルチと長瀬は三日後の決勝戦まであかりに対する
研究と対策、そしてセリオの回復を試みていた。
だが、セリオの状態は思ったより悪く、特に試合終了間際に側頭部に受けた傷は、セリオの
電子頭脳を僅かだが破壊してしまっていた。


「主任…セリオさんは…こんなになるまで私のために…」
 
 マルチは拳を固く握りしめる。

「マルチ……」
「主任……私は絶対にあかりさんを…!!」

「あんたらしゅうないな…」

「えっ!?」
 長瀬とマルチは突然の声に振り返る。
 そこには琴音と智子の姿があった。

「保科さんに…姫川さん!? どうしてここに…?」
「ちょっと近くを通りかかったんです。で、保科さんがここに寄りたい、と言われたものですから…」
「ま、あんたがどうやっとるかを見にきたんや。あと…そこにおるセリオの様子をな。」
「セリオさんを…ですか?」
「ああ…コイツ、神岸さんに手酷くやられたみたいやったしな…」
「…………………」
「ところでマルチ。今日はあんたに用があってきたんや。」
「私に用、ですか? なんでしょう?」

「三日後の神岸さんとの決勝戦のことです…」
「…あかりさんとの…決勝戦……」


「一つだけ言わせてもらいに来た…。今のあんたじゃ神岸さんに勝つことはできん。」


「!!?」
「……それは…どういう意味だね?」



 緊迫した空気が…部屋に流れる。
マルチはその言葉に、ただ戸惑いを隠せずにいた。


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今のマルチがあかりに勝てない理由。
智子の言葉に戸惑うマルチ、だが更に衝撃的な
出来事がマルチを襲う!