Our time〜いたちごっこ〜 投稿者:助造 投稿日:1月23日(火)20時32分
前回までのあらすじ

 綾香の提案で、俺と綾香、そして先輩の三人は最近オープンした
リゾート地「クルス・パーク」に旅行をする事となった。
 一泊目の場所、ジャングルで迷ってしまった俺と綾香。
俺は綾香の女の子らしいところを見つつ、帰る道を探して二人でジャングルを歩くハメに……

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             Our time 〜いたちごっこ〜




 夜にあれだけ降っていた大雨はぴたりと止み、そらにはカラリとした
太陽の姿があった。
 熱帯雨林の木々の露に陽光が反射し、ジャングルは朝を迎える。
あちこちで動物たちが目を覚まし、鳴き声が風とともに流れてくる。
街の喧騒とは全く別の、それであってどこか似た騒がしさがジャングルを包んでいく…


「………………………」

 芹香は鳥の囀りで目を覚ました。
囀りと言っても、聞こえてくるのはスズメなどといった可愛い鳥たちの鳴き声ではない。
世界の珍獣展なんかで出てきそうな、奇声とも言える囀りだ。
 綾香と浩之の帰りを待っていたようだが、いつの間にかベッドに入り込んで
眠ってしまっていたらしい。

……というか、ベッドに入り込んでいた時点で、綾香達を待つつもりはあまりなかったようだ。


ん………
浩之さんと綾香の姿がありませんね。
あの二人、まだジャングルから帰ってこないのでしょうか……
よっぽどジャングルでの生活がお気に召されたのでしょう。
しかし…いくらなんでも私を朝まで待たせるなんて……少しひどいです。
私内部での、浩之さんへのポイントは、1ダウンです。
綾香は3ポイントダウン。
妹は厳しくしつけをしておかないと……


 布団から身体を起こし、ベッドから出る。
ベッドと言っても、普段芹香が寝ているベッドよりかなりワイルドなつくりだ。
だが、芹香にとって寝心地はよかったらしい。

 張ってあった蚊帳を取り除くと、窓を開け、芹香はそこから外を覗いた。
寝起きでボーっとしている頭に、朝の陽射しが心地良かった。

「……………………」

それにしても……綾香と浩之さんは遅いですね。
先に私だけ朝食を食べてしまいますよ?


芹香は綾香たちが帰ってこなくても、気付かなかった。

綾香と浩之が遭難同然の状況に陥ってしまっていた事を…




「つ、着いたぞ綾香………」
「や、やった……やっと、帰ってこられたのね…」

 昨日泊まる予定だったテントに、俺と綾香はようやくたどり着いていた。
あれから俺たちの必死の脱出敢行作戦が功を成したのだ。

「思えば長かったぜ……」
「まったくだわ……」
「誰のせいで長くなったんだ、誰の! 元々お前のせいだろうが!」

 あれから俺たちは、なんとかスコールで視界の悪い中を、綾香のへし折った
木を道しるべとして、辿っていった。
 だが、そこでもハプニング発生。
このバカが蛇とかを見る度にでかい叫び声をあげ、それこそエルクゥのごとき
速さで逃げ回り、その度に俺は綾香の姿を探さねばならない事となった。

 結局、ここにたどり着くまでに綾香が行方不明になった回数は13回。
何度置いて行こうかと思った事か………!
そのくせ、コイツは『だって、怖いんだもん』と、一言の詫びもいれない。
昨日の夜に綾香も女の子らしいなんて思ったが、あれはナシだ。
ただワガママなだけ。所詮はコイツも貴族階級なのだ!
平民である俺の気持ちなぞ、少しもわかっちゃいないんだっ!!

「お前を13回も探してたせいでこんなに遅くなったんだぞ!?」
「浩之がもっと早く私を探せばよかったのよ!!」
「なっ! テメェ、逆ギレかよ!! クッソ〜……今日という今日は…!!」

背後から飛び掛る俺。



30秒後、俺は綾香にボコボコにされて横たわっていた。
実はこの展開は昨日から10回ほど続いている。


「さ、中に入りましょうよ……」
「お、オノレ……!」

綾香は恨めしそうな俺の視線を無視してテントの中に入っていく。
俺は起き上がると、綾香の後を追った。



「ゲッ……!!!?」
綾香がへんな声をあげて、入り口の前で止まっていた。

「何だ? どうしたどうし――――」

不思議に思い、綾香の視線の先を見た俺も凍りついた。



なんとそこは俺たちのテントではなかったのだ。
……いや、それだけならまだしも

………それが、そこで泊まってた人たちは俺たちが入ってはイケナイ
禁断の大人タ〜イムの真っ最中だったのだ。(爆)


一部つながった格好のまま、俺たちのほうを向いている
げ、目が合った。
こっちも固まっているが、あっちも固まってるよ、オイ。

「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」

長かった。
こんなに長く、痛い沈黙は初めてだった。
第三者としてこういうところに出くわしてしまったら、不幸としか言い様がない。
なんかこの旅行、不幸な事ばっかりだ。
トラウマか何かにならなければいいが……俺も綾香も。

「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「………………………し」

綾香が震えながらも言葉を発し始めた。
どうやら、言おうとしている事は俺と同じらしい。

「「し、失礼しましたっっっっっっ!!!!!!!!(滝汗)」」

俺たちはエ○トマン顔負けのスピードでその場から走り去った……




「…………最低…」
 綾香が泣きそうな顔で呟く。
俺としては最低かは微妙なところだが、綾香にとっては最低なのだろう。
 この女、帰国子女のクセに意外とそれ関係に弱い。(偏見です)
今も顔を真っ赤にして俯いている。

「………ま、しょうがないじゃないか。いい事あるさ。」
俺は綾香の肩に手を乗せてなぐさめようとする。

「ひっ!!?」
「!?」

 だが、俺の手が綾香の肩に触れると同時に、綾香は跳ね上がり、
ものすごい速さで俺の側から離れていった。
数メートル程離れて、木の陰から俺のほうを覗いている。

「………何だそのリアクションは…」
「え、あ……ご、ごめん…」

 綾香は顔を赤めつつ、謝るのだが、まだ隠れている。
やはりトラウマとなって、男という生き物が信じられなくなってしまったらしい。
全く、迷惑なヤツだ。

「おい、さっさと帰んねーと先輩が心配するだろうが!」
「ひっ!!?」

 俺が近寄るとその距離の二倍は離れていく…
もう既に陽は昇りきっており、正午近くか、それ以上の時間になっている。
きっと先輩も心配しているだろう。
だが、コイツのせいで話が全然進まないではないか…

「おい!」
「ひっ!!?」

綾香が逃げる。
俺が追う。

「おいっ!」
「ひぃぃっ!!?」

綾香が逃げる。
俺が追う。

・

・

・


 そんなことを繰り返しているうちに、既に日は傾いているような時刻となった。
綾香は相変わらず俺の前方3メートルほどの場所にいる。
自分達がどこまで走ってきたのかまったくわからない。
テントに向かっているのかもわからない。

………泣きたくなった。


「て、てめぇ、いい加減にしろぉ!!!」
「し、し、し、しょうがないじゃない…!! 身体が勝手に浩之を拒絶すんだもん!!」
「誰もお前なんか襲わねーよ!! だからさっさと……」
「ひぃぃ!!!?」

逃げる綾香。

「くっそ……こうなったら浩之ターボだっ!!」

 カッコイイ名前がついてはいるが、ただ全力で走るだけの浩之ターボを使い、俺は綾香を追いかける。
だが、綾香も負けてはいない。
持ち前の運動神経のおかげで、俺の全力ダッシュに勝るとも劣らないダッシュだ。

「やるな………だが、負けん!!」

 俺はそう言って本気ダッシュ100パーセント中の100パーセント(120パーセント)
の状態で走り続ける。俺も必死だが、綾香だって全力なはずだ。
漢藤田浩之、女にかけっこで負けたとあっちゃあ一生の恥なのだ。

「おおおう!」

 徐々に綾香の身体が近づいてくる。
綾香のスピードが落ちてきているのが目に見えてわかった。
射程距離まで……あと50センチ……!

「おらあああああああ!!!!!!」
「きゃああっ!!!!」

 綾香の身体が俺の射程距離の中に入った瞬間、俺は綾香の背中に飛び掛った。
俺の腕がしっかりと綾香の身体をとらえ、一瞬だけ綾香の背中におぶさるようにな体勢になる。
そして、そのまま勢い余って前に突っ込んでいくのだが……

バシャアッ!!

「…………………」
「…………………」

 まるでドリフか何かのコントのような展開。
俺たちの倒れこんだ場所には、水溜りがあったのだ……
うつ伏せになった綾香は、顔が水溜りに浸かったままピクリとも動かない。

 ……いや、わずかだが身体が震えているのがわかった。
だが、僅かな震えは綾香の背中に馬乗りになっている俺の体を震わせるくらいの
大きな震えとなっていく。

「お〜い……綾香さん?」
「ひ…」
「え?」
「浩之ィィィィ!!!!!」

 綾香がガバッってな感じで起き上がる。
顔は泥まみれで、鼻も打ったのか少し赤くなっていた。
で、その顔が目には少し涙を浮かべて俺を鬼の形相で睨んでいるのだ。
睨まれた途端、俺の体は動かなくなってしまった。
正に蛇と蛙の構図である。

「……………………」
「あっ!? コラッ!! 無言で逃げるなあああ!!!」

今度は俺が綾香から逃げるハメとなった。




「……………………」
もう晩御飯の時間になってしまいました。

 その頃、芹香は一人で夕飯の準備をしていた。
だが、大財閥のお嬢様が自分で夕飯など作ったはずがなく、出来た物は
料理というものからはかけ離れた物質が生まれていた。
はっきり言って、食えば呪われる事間違いなしである。

「……………………」
浩之さんと綾香にはいっぱい食べていただきましょう…

普段、無表情な芹香が顔に表情をだした。
その表情は


ニヤリ。