また春がやってきた。 ここでの三度目の入学式。 新しい制服を着て、少し緊張も見える新入生。 休み明けで、まだだるそうな顔をしている在校生。 二年前には新しかったはずのこの光景も、今ではすっかり見慣れた光景になってしまっていた。 変わらない春の光景に、私は退屈を覚える。 校舎の中に入る前に、私は桜の木の下に立っていた。 薄い桃色の花弁が、風に流され舞い散っていく… 初めて見たときには感嘆の息がもれたこの桜も、今では見慣れた光景。 こうやって色々なものに感動しなくなっていく。 なぜ? 自分自身に問う。 前の自分はもっといろいろなことに感動していたはずなのに。 新鮮さが感じられないから? どうして新鮮さが感じられないの? それは私が新しい物に巡り会えてないからよ。 「はぁ………」 こんなことを考えている自分がバカらしい。 何よ? 出会い? 巡り会い? 「おい、どうしたんだ?」 「え……?」 いきなり声を掛けられた。 相手は……見た事のある男子生徒。 「どうしたの、って…?」 「ああ、あんた、なんか暗い顔してるぜ?」 「暗い顔? 私がか…?」 「今、溜め息ついてたじゃねぇか」 「溜め息…………」 私はハッとする。 いつの間にか溜め息をついていたんだ。 「こんな日にそんな顔するもんじゃねーぜ? 一応、今日はめでたい日らしいからな。」 男子生徒は私の横に並んで桜を見上げる。 「こんな日によ、こんなきれいな桜眺めて溜め息ついてるヤツ、いないぜ?」 そう言ってニヤニヤする。 その態度が少し癇に障った。 「フン…言いたい事はそれだけか?」 私はそいつに背を向け、校舎へと足を運んだ。 軽そうな感じの男だった。 正直言って、私はああいう感じの人間が好きではない。 生徒玄関に貼り付けられているクラス分けの表から、自分の名前を探し出す。 周りには何人かの生徒がまるでお祭りのように騒いでいる。 「3年……C組。」 私の名前はそこにあった。 他の生徒の間をくぐり抜け、私は教室へと向かう。 学年が変わったからと言っても、変わるのは周りの環境と勉強の内容くらいか… それ以外はさして変わりやしない。 そう思ってた。 教室に入ると、既に何人かの生徒が教室にいた。 私は適当な机を見つけると、そこの席につく。 「あれ? あんたも同じクラスだったの?」 突然話し掛けられ、頭を上げると目の前にさっきの男子生徒がいた。 「あんたはさっきの……」 「さすがに覚えててくれたな。あん時は逃げられちまったけど。」 そう言って苦笑する。 「で、何の用なの?」 「用? いや、別に用って程のもんじゃないんだけどな…」 何だかわからない男だ。 用件も無いのに話し掛けてくるなんて…… 「用が無いんなら―――――」 そう言おうとした私の目の前に、男の手が出されていた。 「まー、あれだ。同じクラスになった、って事で握手でもしねぇか?」 「はい?」 本当に何を考えているのかわからないヤツだ。 いきなり握手をしよう、なんて言いだす。 「……………………」 「どした? 握手は嫌いか?」 私はそいつの手を取り、握手をした。 自分でもどうしてだかよくわからなかった。 面倒くさかっただけかもしれない。 でも なぜか、私はそいつとの握手を嫌に思ったりはしてなかった。 「俺は藤田浩之。あんたは?」 「坂下……坂下好恵だ。」