坂下好恵 3年目の春(1) 投稿者:助造 投稿日:1月12日(金)23時44分
また春がやってきた。
ここでの三度目の入学式。
新しい制服を着て、少し緊張も見える新入生。
休み明けで、まだだるそうな顔をしている在校生。
二年前には新しかったはずのこの光景も、今ではすっかり見慣れた光景になってしまっていた。
変わらない春の光景に、私は退屈を覚える。

校舎の中に入る前に、私は桜の木の下に立っていた。
薄い桃色の花弁が、風に流され舞い散っていく…

初めて見たときには感嘆の息がもれたこの桜も、今では見慣れた光景。
こうやって色々なものに感動しなくなっていく。

なぜ?
自分自身に問う。
前の自分はもっといろいろなことに感動していたはずなのに。
新鮮さが感じられないから?
どうして新鮮さが感じられないの?
それは私が新しい物に巡り会えてないからよ。

「はぁ………」

こんなことを考えている自分がバカらしい。
何よ? 出会い? 巡り会い?



「おい、どうしたんだ?」
「え……?」

いきなり声を掛けられた。
相手は……見た事のある男子生徒。

「どうしたの、って…?」
「ああ、あんた、なんか暗い顔してるぜ?」
「暗い顔? 私がか…?」
「今、溜め息ついてたじゃねぇか」
「溜め息…………」

私はハッとする。
いつの間にか溜め息をついていたんだ。

「こんな日にそんな顔するもんじゃねーぜ? 一応、今日はめでたい日らしいからな。」
男子生徒は私の横に並んで桜を見上げる。

「こんな日によ、こんなきれいな桜眺めて溜め息ついてるヤツ、いないぜ?」

そう言ってニヤニヤする。
その態度が少し癇に障った。

「フン…言いたい事はそれだけか?」
私はそいつに背を向け、校舎へと足を運んだ。

軽そうな感じの男だった。
正直言って、私はああいう感じの人間が好きではない。



生徒玄関に貼り付けられているクラス分けの表から、自分の名前を探し出す。
周りには何人かの生徒がまるでお祭りのように騒いでいる。

「3年……C組。」
私の名前はそこにあった。
他の生徒の間をくぐり抜け、私は教室へと向かう。

学年が変わったからと言っても、変わるのは周りの環境と勉強の内容くらいか…
それ以外はさして変わりやしない。

そう思ってた。


教室に入ると、既に何人かの生徒が教室にいた。
私は適当な机を見つけると、そこの席につく。


「あれ? あんたも同じクラスだったの?」

突然話し掛けられ、頭を上げると目の前にさっきの男子生徒がいた。

「あんたはさっきの……」
「さすがに覚えててくれたな。あん時は逃げられちまったけど。」
そう言って苦笑する。

「で、何の用なの?」
「用? いや、別に用って程のもんじゃないんだけどな…」

何だかわからない男だ。
用件も無いのに話し掛けてくるなんて……

「用が無いんなら―――――」

そう言おうとした私の目の前に、男の手が出されていた。

「まー、あれだ。同じクラスになった、って事で握手でもしねぇか?」
「はい?」

本当に何を考えているのかわからないヤツだ。
いきなり握手をしよう、なんて言いだす。

「……………………」
「どした? 握手は嫌いか?」

私はそいつの手を取り、握手をした。
自分でもどうしてだかよくわからなかった。
面倒くさかっただけかもしれない。
でも
なぜか、私はそいつとの握手を嫌に思ったりはしてなかった。

「俺は藤田浩之。あんたは?」
「坂下……坂下好恵だ。」