キン肉マン・マルチ 第二章(6) 投稿者:助造 投稿日:1月9日(火)21時03分
前回までのあらすじ

東鳩超人選手権。
各地から集まった東鳩超人たちの中で
最強の超人を決定するこの大会も準決勝を迎える。
準決勝一回戦、コンクリート製のリングで行われた
マルチと琴音の試合は、琴音が終始リードを保っていたが、
最後の最後でマルチの火事場が爆発。
琴音に逆転勝ちをし、マルチは決勝戦へと進む。
そして、注目のセリオとあかりの決勝進出を賭けた試合が始まった。

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キン肉マン・マルチ 第二章 東鳩超人選手権編 第六話



ガキィン!!!

あかりのベアークローを、セリオの腕が弾いた。
「っ!!?」
あかりは戸惑いを感じながらも、セリオから距離をとるが、セリオもあえてそれを追おうとはしなかった。

「……………………」
あかりがセリオの腕を見つめる。原因を探っているのだ。
あれはどう考えても普通のメイドロボの腕ではない。
何か特殊な……金属か何かの素材で出来ている盾のような感じだった。


「はわわわ〜!! セリオさんの腕が、セリオさんの腕があかりさんのベアークローを
 弾き返してしまいました〜!」
マルチは自分の目を疑って、目を擦ったりしている。
「落ち着けマルチ。」
「でででも、でもセリオさんの腕が凄くなってます〜!!!」
「う〜ん………実はな、セリオの要望もあって昨日のうちにセリオの腕を改造したんだよ。」
「改造!!?」
「ああ、彼女の腕を鋼鉄の硬さを誇る特殊な金属で加工したんだ。名づけて、アイアンアーム!」
「でも…私がセリオさんと握手した時はいつもの柔らかいセリオさんの手だったですぅ…」
「改造したのは腕だ。手の部分は改造していない。ちなみに傍からではどう変わったのか
 分からないように改造したんだ。見た目は普通の腕のままだ。」

「……私も気付かなかったよ。」
「そのつもりで作ったのです。相手に気付かれないように…」
「つまり……不意打ちをしたわけだね?」
「……そういう事になりますが、東鳩超人選手権では武器の使用は可能。
 反則ではありませんし相手を油断させて攻めるというのも一つの手ですので……」
「うん、私も油断してたよ。少し驚かされたかな…?」
あかりがニコニコして言う。対するセリオはあくまで無表情だ。

「私のベアークローへの対策と考えていいのかな?」
「そういう事になりますね。」
「…………ふふっ」
あかりが嬉しそうに微笑んだ。それを見てセリオの表情が僅かに変わる。
「でもね、一つだけ、弱点を見つけたよ。」
「……………弱点?」
「それはね―――――」

あかりが前に出る!
セリオは咄嗟に身構え、ベアークローを防御しようとする。

ガスッ!!!

「クッ…!?」
だが、今度はあかりのベアークローがセリオの左腕に突き刺さっていた。
真っ赤な潤滑液が噴き出し、激痛が走る!
「確かにさっきは腕でさばいて私のベアークローを弾いたけど、残念だけど受け止める事は
 出来なかったみたいだね……」
「まさか……どうして受け止める事が……!!」
「私のベアークローはね……水晶製なんだよっ!!」
あかりの左拳がセリオの頬をとらえる。


「はわわああ!! セリオさんの左腕が…!!」
マルチは思わず目をそらす。

「まさか……彼女のベアークローが水晶製だったなんて……!」
信じられないといった表情をしている長瀬をみて、マルチは尋ねた。
「主任、水晶製ならどうしてセリオさんのアイアンアームも貫く事ができるんですか?」
「マルチ、お前は超人硬度というものを知っているか?」
「超人硬度……?」

「超人界には、物の硬さを表す超人硬度という単位があるんだ。
 硬度10であるダイヤモンドを最高とし、硬度9がサファイヤ、硬度8が水晶、硬度7がエメラルド、
 硬度6をオパール、硬度5を鉄としている…。
 その下にも、もちろん単位があり、この超人硬度という単位が、その物質の絶対的な硬さを表す物となる。」
「絶対的な…硬さ?」
「超人硬度が低ければ、どんなにその物質自体を鍛え上げても硬度が上のものには硬さで
 負けてしまう。硬度の低い槍をどんなに鍛えても、硬度の高い盾を貫く事は出来ないんだ。」
「えぇっと……セリオさんのアイアンアームは硬度5、鉄の硬さですから……。
 だから硬度8の水晶で出来ているあかりさんのベアークローで貫かれてしまったんですね!?」
「そういう事になる……。私も、そしてセリオもあのベアークローの色から、てっきり
 強化ガラス製の武器だと思い込んでしまっていたんだ…!」
「そ、それじゃあ……セリオさんでは、あかりさんのベアークローに太刀打ちできないんですかぁ!?」
「……いや、全く方法がないわけではない。セリオがそれに気付いてくれればよいが…」


「残念だったね……、じゃあいくよっ!」
あかりがベアークローを駆使しての突きを放つが、セリオはそれを何とか避ける。
「ほらほら! 逃げてばっかりじゃダメだよっ!?」
セリオの脳裏には、先程の矢島の姿が映し出されていた。
矢島もあかりのベアークローから逃げ続け、しかし最後には追い詰められて仕留められている。
このままではその二の舞だ……。何とかしなければ…!
セリオはあかりの攻撃を避けつつ、頭の中で計算を始めていた。
どうすればこの状況を打破できるか。あかりのベアークローにどう対処するか…。
ベアークローが少しずつセリオの身体を裂き、体力を減らしていく。
「はあっ!」
「!!!?」
あかりの攻撃がセリオの思考を止める。
思考がまとまらない! 攻撃が止まってさえくれれば……!
「攻撃を……止める…!?」
セリオの呟いた言葉を無視して、ベアークローがセリオに迫る!
「止める………そうだっ!!」

キィン!!

だが、セリオはそれを腕でさばき、攻撃を逸らした。
セリオにさばかれたベアークローはあかりの手から外れ、リングの端に飛んでいく。

「私はベアークローを止めることばかりを考えていました…。確かにあなたの
 ベアークローを真正面から受け止めて攻撃をガードする事は不可能。
 ですが、横からの力を加えて攻撃の軌道を逸らすことはできる……!」


「どうやらセリオも気付いたようだな。」
「どういう事ですか…?」
「硬さでは負けていても、物質にかける力が異なっていれば、結果は変わることもある。」
「あう〜………」
「つまりだ。何らかの力を加えてやれば、充分に硬さを補う事が出来る、という事さ。
 それはスピードであり、重さであり、または他のものかもしれない。」


「ふふ…また考えたね、セリオさん。」
「これであなたのベアークローはなくなりました。」
「でもね…私だってベアークローなしじゃ闘えないわけじゃないんだよ?」

あかりがセリオに向かって大振りのパンチを放つ。
セリオはそれを避けると同時に、あかりの伸びきった腕を脇に挟むと腕を固め、勢いに乗せて
キャンバスに倒れこみ、アームブリーカーをかける。
あかりは腕を引き脱出する。そしてセリオの背中に覆い被さるようのしかかり、セリオの首に腕を伸ばすが、
それをセリオは、柔らかい身体と背筋力を活かして頭を後ろに振り、あかりの顔面に耳飾りをぶつけて回避した。
怯むあかりから離れ、背後に回ってあかりの腰に腕を回し、そのままバックドロップの体勢に入る。
しかし、セリオがバックドロップに入ると、あかりはセリオの内股に脚を引っ掛け、崩す。
「クッ……」
技を仕掛けるのはセリオなのだが、あかりはそれをことごとく破っていく…
観客から見れば、一進一退の試合のように見えるが、実際はそうではなかった。
セリオは全力で技を仕掛けているのだが、あかりはそれを全て返しつつも、
セリオの目には、あかりはまだ余裕があるように見えた。
それが事実なのかはわからない。だが笑っている。強がりなのかもしれない。だが笑っている。
あかりの微笑みはセリオの無表情なポーカーフェイス以上に、心が読めないものだった。

「!!!?」
一瞬、思考が別のところに移ってしまった。
まずい!、と思ってセリオが前を見ると、あかりの姿は既に無かった。
次の瞬間、頭に衝撃を受け、セリオは金網に叩きつけられるほど吹っ飛んだ。
空中からのあかりの蹴り。
金網に叩きつけられたセリオの顔には、切れた額から出る赤の潤滑液と、
網の目がしっかりと刻み込まれていた。

「まだまだ続くよ!!」
金網に身体が埋まってしまい、ダウンしているセリオを引っ張り出し、立たせる。
「あかりんの赤い雨ー!!!」
あかりの手刀がセリオの首に直撃する!
「ごほっ!!!」
「ふふふ…これがベアークローが使えないときのために作った私の技だよ。」
そう言ってあかりはセリオの身体に手刀を連続して叩き込む。
見る見るうちにセリオが血塗れにになっていく……


「セリオさん! がんばってくださ〜い!! まだ、まだセリオさんは闘えますぅ!!」
「そうだセリオ!! 立て、立ち上がるんだー!!」
長瀬とマルチが自分を応援している。

「……そうです……私はまだ闘える!!」
セリオはあかりの懐に飛び込み、あかりの腕が伸びきる前にあかりんの赤い雨にあたる。
腕が伸びきる前に自らが飛び込んだことで、あかりんの赤い雨の威力は半減した。
「神岸あかりさん、これが私のスペシャルホールドです!!」
あかりの身体を自分の両肩で担ぎ、後頭部をあかりの背を当て、あかりの頭部と足に力を加える。
「ああ! あの技は〜!!」
「セリオ最高のスペシャルホールド、セリオブリッジ!!」
「セリオさんのセリオブリッジは脱出不可能ホールドとして有名です!」
「これで決まるか……!!?」
セリオの出したセリオブリッジに、観客が沸く。

ぎし、ぎし、ぎし、ぎし……

あかりの背骨が軋む。
「そろそろ……ギブアップなさっては? このまま力を加えればあなたの背骨は確実に折れます。」
「ふふっ…そうだね。」
だが、あかりはまだ笑っている。
その表情は虚勢を張って笑っている顔ではないことがセリオには分かった。
何故? 何故この人は笑っていられるのですか!?
セリオ自身、セリオブリッジには絶対な自信があった。
過去にマルチに破られはしたが、あれはマルチの火事場のマル力が発動しての事。
あれ以来、誰にもこの技を破られた事は無かった。
だが、あかりはそれを受けてもまだ笑っている。恐怖感に似た感情がセリオの中にあった。
「………ひとつだけ言っておくね。」
「!!!?」
「私には……一度見せた技は通用しないよ。」
「そんなバカな!? だったら…この技から抜ける事ができますか!!?」
セリオはさらに力を篭める。あかりの身体が悲鳴を上げる。
「ふふ、脱出不可能って言われているこのセリオブリッジにも…こういう弱点があるんだよ!」
そう言ってあかりはセリオの肩の上で寝返りをするように回転する。
セリオは両脚と頭部を固めているが、あかりにとってそれは容易な事だった。
「そ、そんな……!!」
回転したあかりは、腹部がセリオの後頭部にあたっている体勢になる。
これでは背骨を折るための技であるセリオブリッジは効果を無くす。
「ふふふ、これでセリオブリッジも破ったよ?」
あかりはその体勢のままで身体を前に折り曲げ、膝と肘をくっつけるようにしてセリオの顔面にぶつける。
「くあっ……!!」
その隙に、あかりはセリオブリッジから脱出をした。

「わかったでしょ? 私には一度見た技は通用しないんだよ。」
「………あなたは…一体どこで私の技を見たというんですか…?」
セリオブリッジは東鳩超人選手権では初めて見せる技だった。
今まではセリオは無名だった事もあり、セリオブリッジを知る者はほとんどいないはずだ。
「数ヶ月前、あなたとマルチちゃんが来栖川の研究所主催の試合をやってたよね?」
「………まさか…あの時見たきりの技を今でも覚えていたというのですか!?」
「私は一度見た技は忘れないよ。」

「一度見た技は通用しないだと……!? それではセリオの全ての技が彼女に
 通用しないような物ではないか!?」
「もしそうなると……私の技もあかりさんには知り尽くされていることに…!?」

「さて、セリオさんどうする?」
「………神岸あかりさん。」
「なに?」
「あなたもひとつだけ忘れていますよ……」
「えっ?」
「見た事の技は通用しないのなら……まだ見せた事の無い技ならどうです!!?」
「!!!??」
セリオはあかりを押し倒し、背中に馬乗りになる。
あかり顎に手を当てて、自分の方に向かってあかりの身体を思い切り反らせる!
セリオのキャメルクラッチがあかりにきまっていた。
「どうですか!? キャメルクラッチは私も初めて実戦で使用する技…
 あなたも一度も見たことが無いはず!!」
「セリオめ考えたな! 一度も実戦で披露したことの無いキャメルクラッチなら
 流石の神岸君も………!!」

「くっ……!」
試合中初めてあかりから苦悶の声が漏れた。
「さあ、今度こそ終わりにします!!」
セリオは更にあかりの身体を反らせようとする。

「ふふふぅ…セリオさん……また、あなたは勘違いを……しているね…」
「なっ!?」
「私は『一度見た技は通用しない』とは言ったけど、『一度も見た事の無い技は返せない』
 なんて一言も言ってないんだよ?」
「!!!!」
「こんなキャメルクラッチは……私は返せるんだよ!」
あかりは自分の上にいるセリオの脚の付け根を思い切り指で突く。
「うっ!!?」
セリオはあまりの激痛に、思わず身体を浮かせてしまった。次の瞬間、あかりはキャメルクラッチを外す。
そしてセリオの一本の腕をとり、へし折る!
「きゃあああああああ!!!!!」
普段冷静なセリオが、大声をあげて叫ぶ。
そして、セリオを追い討ちのあかりんの赤い雨が襲う!
「う……く…」
セリオはそのまま、キャンバスに倒れこんだ。


「セ、セリオさぁぁぁぁん!!!!」
マルチが思わず倒れたセリオの元に駆け寄る。

「フフ……マルチさんと決勝で試合をやりたかったのですが……どうやら無理のようです。」
「セ、セリオさん!!? 何を言うんですか!?」
「ですが……私はタダでは負けません……!」


「神岸あかりさんを……道連れにしてやります…!」



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セリオの捨て身の行為も、あかりの前には
全く通用しなかった!
セリオを難なく打ち破ったあかりに
マルチはどう挑むのか!?