キン肉マン・マルチ 第二章(5) 投稿者:助造 投稿日:1月8日(月)22時41分
前回までのあらすじ

東鳩超人選手権。
各地から集まった東鳩超人の中で、最強の超人を決めるこの大会に、
マルチとセリオは参加する事になる。
一回戦Aブロックは、琴音が雅史を破って二回戦へと進出。
そしてマルチも橋本を破り、無事、二回戦進出を果たした。
そしてセリオのいるBブロックは、初めは押されていたセリオが
智子の体力を減らして倒すという作戦勝ちをし、二回戦進出。
そして注目のBブロック第二試合、矢島とあかりの試合は、
あかりがその圧倒的な強さを見せ、あかりの勝利で終わる。
そして遂に始まる二回戦。
マルチは琴音と、セリオはあかりとの試合が始まる!!

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キン肉マン・マルチ 第二章 東鳩超人選手権編 第五話



一回戦が終わり、各選手は自分の控え室に戻っていく。
その中にマルチとセリオの姿があった。

「姫川さん、と呼んでいいんでしょうか?」
「別にかまいませんが……。」
「姫川さん、次の試合はお互いフェアに闘いましょう!!」
そう言ってマルチが手を出す。
「…………………」
琴音は無言でマルチの手を取り、握手を交わした。

一方、別の場所ではセリオとあかりの周りにスポーツ雑誌かなにかの記者達が人垣をつくっていた。
しきりに二人に質問を浴びせる声が聞こえる。
それも無理はなかった。あかりは以前、テレビのインタビューでセリオと試合をしたいと、話した事がある。
そして、次のBブロック決勝ではその対決がはやくも実現するのだ。
観客達も、そして雑誌の記者達もそれに注目を集めていた。

「今回、神岸さんの言っていた試合が実現する事になったのですが、今の心境はどうです?」
「え? 心境、ですか? いつもと変わりませんよ。勿論、楽しみではありますけど…」
「では、セリオさんの方はどうですか?」
「前回のチャンピオンの方と闘える事は、光栄に思います。」
二人と記者の淡々としたやり取りがテレビでは放映されている。

「はわわぁ……セリオさんすごいですぅ〜!」
「まあ、次は神岸君との試合だからな……」
その光景を見ながら、マルチと長瀬は控え室に戻った。



バタン!

あかりは控え室に戻ると、ドアの鍵を閉めた。
そして、タオルを取り出し、身体中に浴びた返り血を拭く。
もう何度もやっている事なのか、その手付きは手慣れたものだ。




前年度の大会。
あかりは東鳩超人の期待の新人として大会に参加した。
だが…東鳩超人選手権のレベルはそんなに低い物ではなかった。
一回戦で、いきなり優勝候補と言われていた人物と対決。
あかりは試合開始から10分も経たないうちに完膚なきまで叩きのめされた。
それは妥協無い残虐ファイト。新人のあかりにとって初めての体験であった。

その時だった。

キャンバスに叩き伏せられたあかりの前に、相手が使用していた凶器があった。
手甲の先に鋭利な爪が付いている武器。今あかりが使用しているベアークローに似た物だ。
きっと相手が調子に乗って、素手でもあかりを倒せると踏んだのだろう。
相手が捨てた物だった。

これを使えば………勝てる?

あかりの脳裏をそんな思いがかすめる。
もちろん、あかりは凶器を使った闘いはやった事が無い。
そもそも、今まであかりが闘ってきたルールでは、凶器の使用は認められていなかったからだ。
だが、今までは禁止とされていたこともあり、あかりの中では凶器は邪道、という信念ができていた。

でも………このままじゃ負けちゃう。

自分の信念と勝利への渇望。
二つの思いがあかりの中で対峙した。
だが…

次の瞬間、あかりの手は凶器に向かって伸びていた。
あかりは……勝利する事を選んだ。
自分の信念を曲げても、あかりは勝利しなければいけなかった。

それは浩之の言葉。
会場に来る前に、自分に言ってくれた浩之の言葉。

頑張れよ。

一言だが、嬉しかった言葉。力になった言葉。

あかりは浩之の応援に報いたかった。

悲鳴に似た叫び声を上げながら、凶器を相手に向かって突き出す。
恐怖と困惑、そして凶器が身体を貫く瞬間の信じられないといった表情を浮かべる相手。
あかりはそんな相手に何度も爪を突き刺した。
相手の肉を貫く感触がわかる。筋肉の壁を裂く感触が分かる。
身体から血が噴き出し、それが自分の顔を染め上げているのが分かる……

その時……あかりの顔は微笑んでいたのだ…。

それは浩之の応援に報える事が出来たからなのか。

それとも……あかりの中の狂気だったのかは分からない。


試合結果は、相手の戦闘不能により、あかりの勝利。
あかりの……ベアークローと、そして残虐ファイトとの出会いであった。
その試合以後、あかりは冷酷な残虐ファイトで優勝への道を突き進んだ。


『微笑みながら相手を血祭りに上げる……。まるで彼女は、血塗られた天使のようだ。』
天使を思い浮かばせる暖かい微笑みと、それとは対照的な残虐ファイトを見て、
ある記者が言ったこの言葉は、一躍超人格闘界で有名な言葉になった。




前の年はこれで勝った。これで頂点に登りつめた。
その事実があかりが残虐ファイトをやめない理由である。
勝利の後に身体に血の匂いが残っても、相手がどんなに苦しそうな表情で戦闘不能になろうとも…

「マルチちゃん……勝ち上がってきてね。あなたは…私が倒すんだから。」

マルチへの勝利。
それが今のあかりにとって何よりも優先される事だった。
だから残虐ファイトはやめない。前に優勝したこのスタイルでマルチにも勝利してみせる。

ガシャァンッ!!

あかりのベアークローが控え室のロッカーを貫いた。





『準決勝の試合を始めたいと思います。選手の方々はリング前にお集まりください。』
準決勝開始のアナウンスが入る。マルチが、そして他の選手達が続々とリング前に集まってくる。
そして、マルチの入場が始まった。

『赤コーナー、超人強度56万パワー、HMX−12 マルチ。』
『青コーナー、超人強度75万パワー、姫川琴音。』


「な、何ですか〜!? このリングはぁ〜!!??」
リングを見たマルチは思わず叫び声を上げてしまった。
次にマルチ達の試合が行われるであろうリングは、キャンバスがコンクリートで固められていたのだ。

「今から行うHMX−12マルチと姫川琴音との試合はこのコンクリートリングでの
 試合になる。ルールは今までと同じだ。」
レフェリーがマルチと琴音に説明を始めている。

「コンクリートマッチは数年前から使用は取り止めになったはずだが…。  
 この試合、今までよりさらに壮絶な試合展開になる…!」

「それでは……両者構えて!」
レフェリーが叫ぶ。
琴音はいつもと変わらないが、マルチの表情には若干困惑の色が見られる。

「ファイトッ!!」

カァーン!

琴音が前に出る!
マルチはリングに気を取られていて、反応が一瞬遅れた。
琴音の腕がマルチの身体に回り、両腕でマルチの身体を抱えあげようとする。
マルチは抵抗をしたが、突然、自分の体重が軽くなったような感覚に襲われ、
次の瞬間には琴音に軽々と持ち上げられていた。

「これが私の念動力です。」
「はわわわあああああ!!!??」
マルチが感じた体重が軽くなったような感覚は、琴音の念動力により、
マルチの身体が浮かんだからであった。
そのまま、マルチを肩に担ぐようにし、片腕でのボディスラム!
マルチはダメージを減らすため、頭から落ちぬように背中から落ちて受身をとるが
「きゃああああああ!!!!!」
それは普通のキャンバスでのこと、コンクリートキャンバスでは、背中から
落ちようとも、ダメージは普通のキャンバスとは比べ物にならない。
マルチが悶え苦しみ、リング上を転げまわる。

「コンクリートキャンバスは技によって受ける衝撃が普通のキャンバスの3〜4倍
 以上にもなる。普通は大したダメージを受けない技も、この試合方法では
 驚異的な威力を持つ技となってしまう。それに加えてあの念動力の力がプラス
 されているから……。マルチが受けたダメージは相当の物だろう。」

「うぅ……」
転げ回るマルチに、琴音はさらに攻撃を加える。
「この試合ではキャンバスを使った攻撃が有効のようですね…ならば!」
倒れているマルチを念動力で起き上がらせ、念動力で自分のもとまで近寄らせる。
空中でマルチの身体を逆さまにし、両腕両脚でマルチの身体をしっかりと固定し、念動力を止める。
念動力によって支えられていた力を失った二人の身体は、そのままの体勢で落ちる。

グシャアッ!!!

琴音のパイルドライバー。マルチの頭部が切れ、鮮血が飛び散る!
「くぅ………!」
だが、マルチは倒れない。また立ち上がってくる。

「まだ立つのですか?……いいでしょう、それなら私の技をフルコースで味あわせてあげます!」
琴音の身体が消える。
「き、消えた!?」
辺りを見回すマルチ。だが、何処にも琴音の姿は見えない。
「フフフ……私はここですよ。」
「えっ?」
マルチが声の聞こえた上のほうを向くと、琴音の蹴りが待っていた。

バキッ!

「あうっ!!」
体重は軽いが、念動力によってスピードを増した琴音のドロップキックは、
マルチの身体を吹き飛ばすだけの威力は充分にあった。

「さあ……行きますよ! ドルフィンキーック!!」
琴音が身体を浮かばせ、まるで海を泳ぐイルカのようにマルチにドロップキックの体勢で突っ込む。

バキッ! ドカッ! ガスッ!

空中を飛び交う琴音の流麗な動きに翻弄され、マルチはドルフィンキックを受け続ける。
蹴りを受ける度に、マルチの身体は跳ね飛ばされ、コンクリートのキャンバスに叩きつけられる。

ドゴッ!!

「はわぁっ!!!」
琴音の蹴りが、マルチの腹を蹴りぬく。
よほど効いたのか、マルチはなかなか立ち上がれない。

「これで……終わりにします……!」
琴音は倒れているマルチの身体に脚を引っ掛け、締め上げる。
腹部に強烈な圧迫感を感じたマルチは、目を覚ました。
「は…うく……!?」
「これが私のスペシャルホールド、かにばさみスリーパーです!」
マルチは必死に琴音の脚に拳を叩きつけるが、既に琴音はマルチの背後に回っており、
完璧にいわゆる「かにばさみ」(胴締めとも言う)がきまっていた。締め上げてくる力は緩まない。

「あれほど胴締めには注意しろといったのに……!」
長瀬がその様子を見て、項垂れる。

「う…くぅ! か!!」
先程の雅史と同じように、首に手が伸ばされる。そしてそこからのスリーパーホールド……
琴音は雅史を潰したのと同じ方法でマルチを倒すつもりなのだ。
「このままで行けば……あなたはあと30秒持ちませんよ?」
「ぅぅあ……!!」
じたばたするマルチの表情を楽しむように笑い、さらに力を篭めていく……
「……ぅ…く…あぁ……」
だが、そのマルチの動きも次第に少なくなっていく…

「そろそろ………お終いのようですね……。」
琴音がゆっくりと呟く。時間は琴音の宣言通りにスリーパーを極めてからきっちり30秒。
「…………………」
マルチは無言だ。

「………えっ!?」
だが、スリーパーを解こうとした琴音に信じられない事が起こった。
自分の身体が少しずつ持ち上げられているのだ。
「な、一体どういう事!!??」
「……………か…」
「!!!?」
さらに驚いたのは、落ちたと思っていたマルチが自分の体を持ち上げているという事だった。
マルチの身体が少しずつ起き上がり、琴音を背負う形で持ち上げている。
琴音は、胴締めとスリーパーホールドによって、マルチにおぶさっているような体勢になっていた。
「な、まさか…!? 私の技は完璧に極まっていたはず!!?」
「か…じ…ば…の………マル力ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
マルチは腰に回っている琴音の脚を掴み、自分の身体から離れられないようにする。
そして琴音を背負ったまま跳躍し、コンクリートキャンバスに向けて琴音のいる
背中から真っ直ぐに落ちる。
「きゃあああああああ!!!!!!!」
自らの体重に、マルチの体重が加わった形でコンクリートに叩きつけられた琴音は、
そのあまりの衝撃に耐え切れず、そのまま立ち上がってこなかった。

「勝者! HMX−12 マルチ!!」
審判が勝ち名乗りを上げると、その逆転勝利への驚きの声と歓声が会場を埋め尽くした!

「主任…私、私勝ちましたぁ!!」
マルチが長瀬に向かって駆け寄る。
「よーしよしよし…よく頑張ったなマルチ、次は遂に決勝戦だぞ!」
「決勝戦ですか……私、頑張りますぅ!!」
「その意気だ! ここまで勝ち進んだのだから決勝戦も勝つしかないな!?」
「はい! 頑張ります!!」



「さて、次はセリオの試合だ。」
「セリオさ〜ん!! 頑張ってくださ〜い!!」
微笑ましいマルチと長瀬の光景をよそに、セリオとあかりの試合の準備が始まっていた。
コンクリートキャンバスが剥がされ、リングの周りには金網が張りめぐらされる。
「主任、今度の試合方法は一体どんな物をなされるんでしょうか……?」
「金網か……。金網をリングの周りに張りめぐらせれば、試合中にリングの外に
 逃げる事が出来ない。まさに完全決着のための試合方法と言える…。」

あかりとセリオがリングに上がり、レフェリーから試合のルールを説明される。
「この試合は金網デスマッチ形式で行われるが、一つだけ特別ルールがある。」
「特別ルール……ですか?」
「特別ルールは、今係りの者が用意している棺桶に相手を閉じ込めるまで
 試合は終わらないという事だ。相手がギブアップしても、棺桶に閉じ込めるまでは
 試合は続く。特別ルールの説明は以上だ。」

「棺桶デスマッチか…」
「主任は知っているんですか?」
「いや…、だが、ある程度の事は名前から分かる。相手を棺桶の中に入れるまで
 試合が続く、という事は相手を殺してでも棺桶に入れない限り試合は終わらない。」
「えぇ!? 相手を殺してまでですか……」


「それでは……両者構えて!」

「レディ………ファイトッ!!」

カァーン!!


先に仕掛けたのはあかりだった。ベアークローでセリオを切り裂こうとする!
何を思ったか、セリオはそれを腕で防御した。
無論、セリオの腕はあかりの鋭利なベアークローに貫かれるはず――――

――――――だった。

ガキィンッ!!

「えっ!!?」

鈍い金属音が響く。
そこにある光景に全ての者が驚かされた。
セリオの腕は……ベアークローに貫かれていなかったのだ。
それどころかセリオはベアークローを弾いていた。

「……………………」

セリオが無言で、だが不敵な表情で笑った。



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ベアークローを弾くセリオの防御に、
あかりはいつもと違った攻撃を展開していく!
あかりの実力に圧倒されるセリオ!
その時、セリオがとった行動は!?