メタルギア・アヤカ 第二十三章 投稿者:助造 投稿日:12月23日(土)17時24分
前回までのあらすじ

通信塔を抜け、遂に核兵器保存棟まで
辿り付いた綾香の前に、レミィが再び
立ちはだかった。
天候、地形を利用し、経験も上回る
レミィは、狙撃戦で綾香を圧倒する。
だが、とどめをさそうとするレミィの前に、長瀬が現れる。
綾香は戸惑うレミィの隙をつき、レミィとの
再戦を制したのだが……

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「レミィっ!!」
長瀬がレミィの元に駆け寄っていく。

レミィが倒れているところは、既にレミィの血で染まっていた。
白い雪に真っ赤な血が映える。

「……長瀬さん…」
綾香も長瀬の後を追う。



「レミィ……」
長瀬はレミィの側に寄るとレミィの顔を覗き込んだ。
まだ息はある。

「アハハ…油断…大敵ネ…」
レミィは笑っていた。
あの明るい陽気な表情で。

「レミィ……」
だが、長瀬にはそれがレミィの強がりである事がわかった。
顔こそ笑っているが、顔色も悪く、その笑みも引き攣っていた。

レミィはもうすぐ死ぬ。

それは長瀬にもわかった。

長瀬はレミィを抱きかかえた。
それに対してレミィは何の反発もしなかった。
長瀬には……それが嬉しかった。



メタルギア・アヤカ 第二十三章 『私には何が出来た?』



「どうして…あそこでワタシは撃てなかったのカナ…?」
レミィが自嘲気味に言う。
「アヤカを追い詰めてた…でも、撃てなかった…」

「そう…あなたはどうして私を撃たなかったの…?」
綾香が長瀬たちの後ろに立っていた。
抱きかかえられているレミィの顔を覗けるように綾香はしゃがみ込む。

「あの時…長瀬さんを撃ち殺していれば…私にもとどめがさせたのに…」
「でも…出来なかった…ワタシには…」



ワタシはあの時ヒロユキを撃った…

それがワタシの任務だったから…

「通信塔の前でアヤカを殺す。」
「利用できるものは全て利用してでもアヤカを殺す。」
セリカはワタシにこう言ったワ…。

「それが…利用するのが例え浩之さんであっても…」

セリカはそう付け加えた。

ワタシはそれに従った。
それがワタシに与えられた任務だったから…

そして、アヤカが来た。
ワタシは心の奥でヒロユキが来ない事を祈ってた。
アヤカを倒すためにはヒロユキでも撃たなきゃならない。
ヒロユキは……アヤカの弱点だから…

もちろん、ヒロユキを撃ちたくなかった。
だからワタシはヒロユキが来ない事を祈ったノ…


結局、ワタシの祈りは通じなかった。
ヒロユキはアヤカと一緒に来た…
撃ちたくなかった…ヒロユキだけは…
でも…


何を利用してでもアヤカを殺す。

これが与えられた任務。

利用しなきゃいけないのは…ヒロユキ

自分の好きな人。

自分の大切な人。



「ワタシは…スゴク悩んだ…」
「それでも…あなたは任務の方をとった、そういう事なの?」

綾香の問にレミィは小さく頷いた。

「どうして……!?」
綾香がわからないと言った感じに呟いた。

「知りたい…?」
レミィが綾香に訊く。
綾香は無言だ…。

「いいわ…話してアゲル…それはワタシがこの闘いに参加するのを
 決めた理由でもあるワ…」
「闘いに…参加した理由?」

レミィは目を瞑ると話を始めた。	



ワタシは…この闘いへの参加の話を聞いた時、
すぐに受けたワ。

ワタシはニッポンジンじゃない。
どんなに髪を黒く染めようとも…
どんなに日本語が話せるようになっても…

小さい頃のワタシは髪を黒く染めていたの…
初めは今と同じ色だった。

ある時、同じ年齢の幼稚園の子供と遊んでた時だった。
その頃のワタシは負けず嫌いだったワ…
コドモだから些細な事で喧嘩もしてた。
その時もほんの小さな事で言い争っていたのヨ。

その時、ワタシと言い争っている子たちがこう言ったの。

『なんだよ! ガイジンのクセに…!!』

周りの子とは違う目、髪の毛の色…
それだけでニッポンジンはワタシを特別視、ウウン、差別の目で見た。
いくらコミュニケーションを取ろうとしても
それだけで違った目で見られ、「ナカマ」に入れてもらえない。
幼稚園でもそれは変わらない。
小さな子ども達の中にも差別意識があった。
初めはまるで珍しい物でも見るかのように…
でも、それが友情、信頼の関係までなる事はないの。

それは子どもの間だけじゃなかった。
大人にもそれがあった。
いや、むしろ大人がこうだからなのかもしれない。



「ワタシが…この闘いに参加したのは…こんな間違った事が続く
 ニッポンを…叩き潰したかったから…」

「………」
綾香はレミィの話を無言で聞いていた。

「ワタシは…ワタシはいつも一人だった。子どものワタシにとって
 それは絶望に値するものだったノ…」

綾香の近くにもそれに似た人物がいた事を思い出した。

来栖川芹香。

綾香の姉である芹香は幼い時を独りで過ごした。
それは厳格な祖父の溺愛ぶりでもあったのだが、
それは結局、芹香を他人とのコミュニケーションの
取れない人間にしてしまう事になる。
初めて綾香が芹香を見たときは、まるで人形のような姿だった。
一言もものを言わず、無表情な人形。
元気で活発な綾香とは正反対の人間にしてしまったのだ。

まあ、レミィは芹香のようにはならなかったようだが…


「でもね…そんなワタシの前に彼が現れたノ…」
「彼?」
「ワタシを絶望から救ってくれた人…」
「……それが…浩之だったのね?」



ワタシを絶望から救ってくれた人。
それがヒロユキだった…

友達のいなかったワタシにヒロユキの存在は何よりも支えになってくれた。
ヒロユキのおかげで…ワタシはニッポンを少しだけ好きになれた。



「それから少しして、ワタシはまたStatesに帰ることになった。
 ヒロユキとの約束を残して…」
「約束…?」



ヒロユキとの約束。
それがあるからワタシはニッポンに帰ってくるのが怖くなかった。
ニッポンにはヒロユキがいる。

でも…



「ヒロユキは…ワタシとの約束を覚えてはいなかった!!
 ワタシには…それが…悲しくて…覚えていなかったヒロユキの
 事が…憎くて…でも…それでもヒロユキの事が好きで……」
「…………」

憎いのに…どうしようもなく憎いのに…
それでも…レミィは浩之の事が好きで……

こんなの…悲しすぎるじゃない…!!



「あの時、ヒロユキを撃ったのはきっとヒロユキへの憎しみが
 ワタシの心を支配していたから…」

「それでも……あなたは浩之の事を…忘れる事は出来なかったのよ…」
綾香がレミィに言う。

「?」
「あなたは…浩之を殺さなかったじゃない…」

「フフ…ワタシはダメネ…浩之を憎みきる事も…
 そして好きでい続けることも出来なかった。」

レミィが力なく笑った。


「ゲホゲホッ!!」
「レミィ!?」
レミィが咳き込むと同時に吐血をした。

「ハア、ハア…肺を…やられた…モウ、助からない…」
「そんな…!!」
長瀬が叫ぶ。

「アヤカ…あなたならわかるでしょう? トドメを…さして…」
「とどめを…?」

「ワタシには…浩之を愛する資格も…そしてこの闘いを続ける
 力もない…だから…楽にして…くれない?」
レミィが綾香に頼む…


「……わかった。」
綾香がPSG1を向けた。




「どうして…どうしてなんだ…」
長瀬はレミィを抱きかかえたまま、泣いていた。

「……銃を…」
レミィが力なく囁く。

「銃を…ワタシの銃を近くに…」
レミィが自分のPSG1に手を伸ばす。
「これだね?」
長瀬はレミィPSG1を取ると、レミィに手渡した。

「ありがとう…ナガセ…」
レミィは銃を胸に抱く。

「さあ、アヤカ…!! ワタシを解放して…!」
レミィがアヤカに叫ぶ。



「綾香お嬢さん!!」
綾香が撃とうとした瞬間、長瀬がそれを制した。

「お願いします…少し、あと少しだけ時間を…」
「………」
綾香は長瀬の申し出を断る事が出来ず、銃を下ろした。


「レミィ…」
「…?」

長瀬がレミィの顔を正面から見据えて話す。


「こんな時にしか…言えなくなったけど…でも…どうしても
 言っておきたい事があるんだ…」

「………」

「レミィ………」

「………」



 「好きだ」



長瀬は短く、だがはっきりとそう言った。


「君の事が…好きだ…」

それを聞いたレミィは一瞬驚いた表情になったが、
すぐに柔らかな表情に戻ると、長瀬の顔に自分の顔を近づけた。
そして……


キス―――――


長瀬にとって最初で、そして最後のキスは
冷たく、そして血の味がした。

レミィの唇に触れていた時間は短かった。
だが、長瀬にはそれがかなりの長い時間に感じられた。

「綾香にも、そしてあなたにも…悲しい恋はして欲しくないカラ……」
レミィは優しい表情でそう言った。




「長瀬さん…離れて…」
綾香が長瀬に言う。
銃をレミィに向け、銃口に指を掛ける。
そして…


「さようなら……レミィ……!!」
長瀬が目を瞑る――――


――――パァン!!


綾香の銃弾が、レミィの身体を撃ち抜いた……




「綾香お嬢さん……」
レミィの前に立った長瀬は綾香に訊く。

「戦場でも…愛は享受できる、って言いましたよね…?」

「私には…何が出来たのでしょうか…?」


そう呟く長瀬の横で、綾香は一つのハンカチを取り出す。

「…それは?」
綾香が取り出したのは、レミィのハンカチだった。

「持ち主に返すわ……私にハンカチは必要ない。」

「どうして……?」


「私はもう…泣かないから……」

そう言ってからハンカチをレミィの顔に置いた…




「…核兵器保存棟に潜入するわ!」
綾香が言う。

「もう時間がないわ、きっとこれから最後の闘いに入るはず!」
「………」
「核発射を防げなかったら…きっとここは軍からの攻撃を受けるでしょうね。」
「わかっています…」

「いつでも逃げていい。残りの人生、後悔しないように好きにしなさい!!」
「でも、私は無線機を手放しませんよ、最後まで追跡してます!」

そう言って綾香と長瀬は別れた。



「……綾香お嬢さん!!」

途中で長瀬が綾香の方を振り向き、叫ぶ。

「彼女は…レミィは言いました!『あなたには悲しい恋をしてほしくない』と、」

「これは…悲しい結末ではなかったのでしょうか!!?」

「……私は彼女を救ってあげることができたんでしょうか!!?」

綾香は振り向かない。

「私は…この闘いの中でその答えを見つけ出してみせますよ!!」

長瀬はそう言って走り去った。


長瀬が二度と綾香の方を振り返る事はなかった。


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遂に綾香は核兵器保存棟に
潜入を始める!
核兵器保存棟ではあの人物が
綾香を待ち受けていた!!


次回 メタルギア・アヤカ

第二十四章 『異世界から来た者』


うひ〜、助造です。
とりあえず、レミィファンのお方に激しく謝罪!(爆)
ほぼオリジナルと相成りました。

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