キン肉マン・マルチ 第一章(2) 投稿者:助造 投稿日:11月7日(火)17時55分
決勝戦前夜。

マルチがマルチバスターを習得していた頃、セリオは最後のメンテナンスを行っていた。
第八研究チームの開発チーフである真部敏郎(まなべとしろう)はセリオに言う。

「お前は究極のメイドロボだ・・・私たちの宝だ。そんなお前があの長瀬の
 作ったポンコツロボットであるマルチごときに負ける事は決してあっては
 ならないことだ・・・」

真部と長瀬は仲が悪かった。
メイドロボを一つの商品として扱う真部。
メイドロボを一人の人間として扱う長瀬。
今までにその事で何度も議論してきたのだが、決着が着く事はなかった。

長瀬の意見に同意し、共に研究を行ってきたのが第七研究チーム。
真部の意見に同意したのが第八研究チームの技術者達だ。
この二つのチームが、来栖川エレクトロニクスのメイドロボ産業の
中心であり、彼らは長い間対立してきた。
(長瀬のほうには和解しようとする動きもあったが、真部達、第八研究チームが
全く和解に同意しなかったため、現在でもこの二つのチームの対立は続いている。)

真部は徹底的に性能の高さだけを目指し、セリオのサテライトサービスを完成させた。
長瀬は人間と共存するメイドロボを目指し、マルチの情動機能システムを完成させた。
会社側はどちらが正しいかを決めようとはしない。

その時、今回の大会の話が出てきた。
これに勝てば自分と長瀬のどちらの考えが正しいのかがわかる。

「フフフ・・・長瀬、今度こそ私が正しいという事を証明してやる。
 そして、貴様の考えが所詮くだらない妄想に過ぎないということを証明してやる!」

真部は高笑いをした。

高笑いを聞くセリオの目に輝きはなかった。


キン肉マン・マルチ 第一章 研究所内最強メイドロボ決定トーナメント編 第二話


「マルチ・・・準備は良いな!」
「はい!」
マルチと長瀬は一足早く決勝戦の行われる研究所地下闘技場に来ていた。
長瀬は腕に包帯を巻いている。
「主任・・・本当に大丈夫ですかぁ・・・?」
「ははは・・・お前のために怪我をしたんだ。別に気にすることはないよ。」
「・・・・はい。」
「それよりもマルチ、早くアップをしておけ。きっとセリオが来れば
 試合はすぐに始まる。」
「はい!」
マルチは柔軟体操など、メイドロボに必要なのかわからない事をしている。

「・・・セリオ、か・・・・」

セリオ。
長瀬たちの第七研究チームと対立する第八研究チームが開発した
現行最新型のメイドロボ。
限界まで高性能を追求し、ついに衛星を介してのサービス、
サテライトサービスを完成させた。
あらゆる情報を理解、分析するためにスーパーコンピューター
並みの計算能力を持ち、命令を忠実かつ迅速に遂行できる運動能力を持つ。

「はっきり言ってマルチがセリオに勝つ事はかなり困難だ・・・
 それはマルチバスターを習得した今でもあまり変わっていない。」
長瀬の顔が険しくなる。



「さあ、セリオ・・・お前の力を見せつけてやるんだ!」
「はい・・・」
真部とセリオが会場に入場してくる。
長瀬と真部の目が合う。

「フフ・・・長瀬、この闘いで全てがわかるな・・・」
長瀬の隣りに座った真部が長瀬に言う。
「・・・何の事だ?」
「とぼけるな!・・・これでどちらが正しいのかがわかる・・・
 いや、私が正しいという事がこの闘いで証明されるのだ!」
「・・・この闘いはそんな事抜きで闘いたかったものだが・・・」
長瀬は下を向いた。

「セリオさ〜ん!お久しぶりですぅ!」
マルチはニコニコしながらセリオに駆け寄る。
「・・・・お久しぶりです、マルチさん」
対するセリオは素っ気無く答える。

「フェアプレーで頑張りましょう!」
マルチが握手を求める。
「・・・・・・」
セリオはそれを無視して通り過ぎて行く。
「あれぇ・・・どうしたのかなぁ?セリオさん・・・」
通り過ぎるセリオを見ながらマルチは思った。



「只今から最強メイドロボ決定トーナメント決勝戦を行いたいと思います!」
メイドロボ産業関係者達が拍手喝采を送る。
この闘いの結果を見ようと、ライバル会社や他のチームの研究者達が
会場には集まっていた。

「赤コーナー・・・第七研究チーム出場者、HMX−12型通称マルチ!」
「よろしくお願いしま〜すぅ!!」
マルチが観客にペコペコと頭を下げる。

「・・・あの性格もお前が設定したのか?」
真部が長瀬に問う。
「・・・・・・」
長瀬は何も答えなかった。

「青コーナー・・・第八研究チーム出場者、HM−13型通称セリオ!」
「・・・・・・」
セリオは無言で頭を下げた。

「試合は相手がギブアップするか相手を戦闘不能に陥れるかまで続く、
 時間無制限サドンデスマッチ。
 基本的に禁止技はない。蹴り、パンチの使用も認める。
 決勝戦になって変わったルールは、蹴り、パンチの使用を認める事。」
レフェリーが二人にルール説明をする。


「それでは・・・・両者構えて!」
マルチとセリオが同時に構えをとる。

「レディ―――――ファイトッ!!」

カァーン!!

戦いの始まりのゴングが打ち鳴らされる!


「行きます!48の殺人技・・・ドロップキーック!!」
マルチは助走してセリオにドロップキックを放つ。
セリオはそれを脇の間に挟み、あっさりと受け止める。

「ドロップキックは重量のある者が使えば威力は十分ですが、
 軽量の者が使うとこのように・・・」
セリオはマルチの脚をつかんだままマルチの身体を回す!
ジャイアントスイングだ!
「簡単に反撃に移る事ができるのです。」

ブォンッ!!

マルチは投げ飛ばされ、コーナーの鉄柱に頭からぶつかる!

「あうう〜・・・」
マルチの白いコスチュームに赤の染みが浮かぶ。
どうやら今ので頭部を少し切ったらしい。

「・・・・・・」
セリオがマルチの背後に回りこむ!
そして、マルチの下半身を両腕で固め、マルチもろとも後ろに跳躍し、
背を曲げ、胸を反らして、ブリッジをするようにマットに叩きつける!

ズドムッ!!

「うあうっ!!」
マルチは見事に頭部から叩きつけられた!
マルチの頭の傷が更に広がったようだ。
流血がマルチの頬を伝う。

「ダブルレッグスープレックス・・・相手の胴ではなく下半身を
 固めて投げる事によって、頭部への衝撃を増大させる。
 人には使えない危険な技だ・・・」
真部が長瀬に言う。
「ククク・・・お前のマルチは何分持つかな?」
「何っ!?」
「知らないのか?セリオは今まで相手を必ず10分以内で
 破壊してきているんだ。」
「10分以内だと!?」
「そう、貴様のマルチも10分以内でかたずけてやる!
 行け!セリオ」

「了解。対戦開始から現在一分十五秒・・・」

「余所見はいけませぇぇぇん!!」
「!」
マルチはセリオに飛び掛り、セリオの即頭部に
蹴りを見舞う!
「レッグラリアートぉ!!」
セリオの身体がぐらつく。
マルチはそのまま体重をかけ、セリオを倒す。
そのまま、マルチは腕をとり、腕拉ぎ十字固めを極める。

ぎり、ぎり、ぎり・・・・

セリオの腕が悲鳴を上げる。

「あれは完全に極まってるぞ・・・このまま行けば・・・!」
「さて・・・どうかな・・・」
真部の顔には余裕の表情があった。



「セリオさん・・・ギブアップなされないんですかぁ!?」
腕拉ぎへの力を緩めず、マルチはセリオの問う。
「・・・・・・」
セリオは以前無言のままだ。
それどころか表情一つ変えずにマルチの方を見ている。

「馬鹿な・・・もうあれから三分は経ったぞ!?あの腕拉ぎは
 完璧に極まっているはず!何故、セリオはギブアップしない!?」
「くくく・・・・」
「ど、どうして・・・!?ギブアップしてくださ〜い!」
「・・・・・・」

「ククク・・・馬鹿め!セリオの痛覚は消去してあるのさ!
 ゆえに、どんなに耐えがたい痛みを伴う関節技もセリオを
 ギブアップに持ち込ませる事は出来ないのだ!
 しかも、貴様が作ったあの性格のおかげでマルチはセリオ
 の腕を折ることを躊躇っている!」
「痛みを感じないだと!?それでは今マルチのやっている事は・・・!」
「全くの無駄だ!」
「まずいな・・・闘いが長引けば長引くほどLeaf強度、つまりマルチの 
 体力は消耗する。
 Leaf強度の少ないマルチは長期戦になればLeaf強度の高い
 セリオより、確実に不利になってしまう!」

「マルチー!!腕拉ぎ十字固めを解くんだ!その技は意味がない!!」
長瀬がマルチに叫ぶ!
「えっ・・・?」
その言葉を聞いたマルチは一瞬、力を緩める。

ガバッ!!

セリオがその隙を逃すはずはない。
セリオはあっという間に腕拉ぎ十字固めから逃げ、
マルチの即頭部をパンチで打ち抜く!
「はわっ!!」
倒れたままでのパンチだったので威力はあまりなかったが、
マルチを倒すには十分の威力だった。
セリオはすぐさま立ち上がり、マルチの腹を思いっきり踏みつける!

ドムッ!

鈍い音がした。
「か・・・う・・・」
マルチに嘔吐感はないが、苦しいのには変わりない。
セリオは容赦なくマルチを何度も何度も踏みつける。
「きゃぁぁあああ!!!」
マルチの悲痛な叫びがこだまする。
セリオはマルチの首を掴むとそのまま頭を鉄柱に叩きつけた!
鮮血が辺りに飛び散る!
「う・・・く・・・」
マルチは力なくマットに倒れた。

「マルチッ!マルチぃー!!!」
「ハハハ!!これで終わったな!」

セリオは後ろを向き、リングから降りようとする・・・が

「・・・まだ・・・まだ終わってませぇん・・・」
「・・・・まさか・・・」
セリオが振り向くと、そこにはマルチが立ち上がっていた。

「・・・何ぃ!?」
さすがに真部も驚きを隠せない。
そして、それはセリオにも言えることだった。

マルチは手を前に出し、体勢を低くする。

「タックルか?・・・セリオには間接技や投げ技は通用しない事を忘れたのか?」
真部が馬鹿にしたように言う。

「いや、マルチもそれくらいの事は知っている。確かにセリオには関節技どころか
 打撃すら通用しない・・・だが、あえてマルチが組み技をするには理由がある!!」
「理由・・・?」

「セリオが痛みを感じないのならギブアップさせる事は不可能・・・
 ならば、セリオを倒すには有無を言わさず相手を戦闘不能に陥れるあの技!」


48の殺人技最強最後の技

マルチバスター!!


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こんばんわ、助造です。

本編では、セリオは長瀬主任の元で作られたのですが、
話の都合上こうなってしまいました。
どうかご了承を。

次回でセリオとの決着は着く予定です。