壊れかけのRadio 投稿者:雀バル雀 投稿日:12月16日(土)13時22分
マルチの件で来栖川電工を追われた長瀬主任。
仕事一本で生きてきたせいか、趣味も友もなく…
ただ、惰性で日々を生きていた。

「ほほ…」

やがて、体を患い
海辺の療養所に移ることとなる。

それから、数年――


「長瀬主任ーっ」
「すんません…こんなことになってたなんて…」

およそ2年ぶりの来訪者。
すっかり仲良く暮らしている、浩之とマルチである。

「…ん」

虚ろな瞳でふたりを迎え…

「…マ、マルチじゃないかっ」
「憶えてらっしゃるんですか」

目に光が戻る。
娘を慈しむように抱き寄せ

「忘れるものか、おまえはわしの――」

涙を湛えて、髪を何度も撫でる。

「たった一人の…可愛い娘じゃ」
「うぇぇん」

感極まったマルチ。
もはやその先は、言葉にならない。

「おお、そうじゃ」

なにかを思いだしたのか、ベットの側に無造作においてあるダンボール箱から、
壊れかけたトランジスタラジオを取りだして

「わしの長年の研究の成果だ」
「…え?」
「長瀬…主任?」

すっかり白くなった不精髭を揺らして、自信たっぷりに言い放つ。

「これでマルチは、いまの十倍のパワーがだせるぞ」

無言でそれを受取る浩之。

(壊れたラジオを…じいさん、ボケちまったんだ)

刺激のない生活は――すでに彼から鋭利な頭脳はおろか
現実と妄想の区別がつかないほどにまで、退化させていたのである。

「…主任」

マルチは、袖でごしごし涙をふいて
…笑顔で

「ありがとうございますぅ」


    *


帰宅後、ふたりは無言のまま…

「あのじいさんが、こんなことに…」

家族を忘れても、仕事を忘れる事は無かった――
その執念の果ての、無残な姿だった。

「…はあ…」

大きくため息。
浩之は、人の世の無常さを心底、噛み絞めていた。




さて、そのころ
長瀬主任の愛娘はというと――




「…この部品を組み込めば…わたしはもっと…」

不気味な笑みを浮かべて
腹部をこじ開けて、無理やり部品をつめ込んでいた。

「ふはは、この力で、愚かな人類を支配してやるんですよー」



     (おしまい)


あとがき

ふぇ〜
ガンダムもマルチも、実用化は遠そうですねー(^^;

>白野さん

一発ネタ、楽しいですぅ(^^)

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/8321/