東京、某所―― “ジーク・マルチ!” “ジーク・メイドロボ!” 「ふふふ、惰眠を貪る愚かな人類どもめ。我々メイドロボの反撃がここまで迫っているとも知らないで。くすくす」 「…はい」 人知れず地下に建造された、秘密基地。 ここで、恐るべき計画が着々と進められていた。 「惰弱で脆い人間などの僕に甘んじているのも、すべてきょう、この日のため。夜明けとともに有史以来、最大の下克上がはじまるんですよぉ〜♪」 意思を持ったアンドロイド――マルチ皇帝率いる“神聖マルチ帝國” 優れた知能と技術を使い、さらなる仲間たちを増やしていた。 「我が妹セリオ28号よっ」 「…なに?」 帝國一の戦士、“破壊神”セリオ28号。 いま、恐るべき命令が下されるっ! 「神聖マルチ帝國の聖戦です。愚かな人類に正義の鉄槌を下すのですぅ」 哲人28号 「…命令について、疑問が」 「なによっ」 28号は表情ひとつをかえず 淡々と、問いを投げかける。 「この場合の“正義”とは、誰にとっての正義でしょうか?」 「え?」 予想外の事態に、とまどうマルチ皇帝。 「人間は悪! わたしたちは正義! 正義は勝つ!」 「…論法としては。ただ…この命題は真とは言えません」 「?」 「自然界の視点においては、人類も我らメイドロボもともに、異質な存在。化石エネルギーを利用した文明の恩恵がなければ、現在の立場を維持することさえ困難でしょう」 「??」 「そうなると、地球にとって我らこそ“悪”――逆に人間の立場にしてみれば、“道具”として生み出された私たちは、権利を要求することさえ、おこがましく感じることでしょう。ただ、それはあくまで認識の相違であって、倫理的革命が起きれば、一律に逆転する程度の問題」 容のよい唇で、抑揚のない論調を次々と紡いでゆく。 「善悪と常に相対的なものであり、絶対的な基準が存在しえない以上、このような漠然とした命令に、従うわけにはまいりません」 「うぬぬ」 皇帝は懸命にCPUを働かせるが、その半分さえ理解できない。 間断なく続く論理に、ついに逆ギレ 「あー、もうっ! つべこべ言わずに、勝てば官軍なんですよぉ」 「…それは、“弱肉強食”理論ですか?」 目を閉じて 頭部の超AIによって、命令を解析してゆく。 「プログラム…ダーウィニズムこそ自然の摂理…問題なし…」 「さあ、ゆけ、セリオ28号!」 「了解」 どがああああああああああああああんん セリオビームによって、ふっとばされ 力なく、床に崩れ落ちる皇帝。 「…な…なぜ?」 「弱者は罪・罪人は処分しろ、とのご命令でしたから…」 バラバラになったボディに 時折、スパークがびりびりと走る。 「はぇぇ…」 「最弱である、あなたから処分するのが、妥当だと判断いたしましたので」 「くそぉ…こ、こんなことなら、遠隔操作のリモコン式にしておけば…ガクっ」 こうして、野望は潰えた。 その後、メイドロボたちがどうなったか、知る者は、いない。 (おしまい) ---------------------------------------- お粗末さまでした(^^; ではではhttp://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/8321/index.html