Two Hearts 投稿者:東海林ハリセン 投稿日:5月15日(月)12時13分
Two Hearts
馬車道通



 二人の子どもがいる。背格好は同じ、ただ違うのは男と女の差だけ。

 少年と、少女と呼ぶには若すぎる二人は、公演の木漏れ日の中で楽しげに遊

んでいる。しかし、少女の顔は少しぎこちない。

 そこにもう一人の少年が現れる。顔は、女の子のように優しそうな顔をして

いる。

 少女に安堵の笑みがもれる。女の子のような男の子は楽しそうに笑う。

 一人の少女と、二人の少年はしばらくすると、ちりじりに散らばっていった。


「止めようよ、浩之。」

「なんで?」

「あかりちゃんが可哀相だよ」

 雅史のその発言は、完全に黙殺されてしまった。その無言の圧力は、有無も

言わさず計画の実行を意味している。

「……………」

「帰ろう」

 浩之はそっけなくそんなことを言う。雅史は、時々浩之が見せる冷たさが恐

くなり、そして、もう彼には近づかないようにしようと、思った。

 あかりちゃんとも、もう会わないほうがいいだろう。彼女には今日で完全に

嫌われる。彼女とはもう口を利いてもらえそうにもない。雅史は、浩之によっ

て完全に粉砕されるあかりへの初恋に諦めをつけていた。




「どうしたの浩之? なんか食欲がなさそうね」

「……………」

 母親の優しげな声。その質問に浩之は耳を貸さない。

 何かが違う、いつものいたずらならそんな罪悪感は湧かないはずなのに、何

故か、あかりのことが気になる。

 晩御飯にも、手が付かない。手をつけられない。

「ごちそうさま」

 いつもは快活な浩之も、今日は挨拶も沈んでいる。

「あらもうおしまい?」

 母親もいつもとは違う息子が気になって仕方がないようだ。

 やっぱり行ってみよう。

 浩之はそう決心すると、リビングを抜け出した。

 玄関を出る。

 戸が閉まる音を聞いて、母親が慌てて玄関へと走る。

 浩之は母親の足音を聞いて、公園へと猛然と駆け出す。




 公園では、明かりの下で小さな肩を震わせて泣いている少女がいる。

 かくれんぼをしていて、誰も見つけることが出来ないのだ。

 人を疑うことを知らない純粋な少女は、まだ公園に少年たちがいると思って

いる。しかし見つからない。何度も、お家へ帰りたいと思っていたが、まだ公

園で隠れている少年たちを思うと、帰れない。

 もう何時間も鬼をやっているあかりは、疲労と、不安で動くことが出来ない。

 そうこうしているうちに、暗くなってしまった。もう夜だ。

 お母さんが心配しているなぁ、と思いつつ、彼女は、この公園内にいるはず

の少年たちが出てくることを期待している。

 暗闇に包まれた公園はかなり恐い。何本も木が植えられたところは、漆黒の

闇に染まり、何かが出てきそうだ。

 彼女は重い体を動かして、明かりの下のベンチに座る。




「おい、あかり……」

 そう呼ばれて、あかりははっと声のする方を見る。

 そこには浩之が立っている。

「浩之ちゃん……」

 あかりはそう呟くと、浩之に向って駆け出した。まだ自分にそんな体力が残

っていたのかと、あかりは少し驚く。

 あかりは、浩之に抱き着く。浩之は、あかりのそうした行動を少し意外に思

いながら。あかりの、肌の感じに、ドキドキさせられていた。

「馬鹿だな、今までここにいたのか?」

 浩之はあかりにそう言う。その言葉はあかりの心を暖める。

「ずっと公園にいたの?」

「ごめん」

 あかりは浩之が素直に謝ったことに驚いた。意地っ張りの浩之が、何をして

も非を認めない浩之が謝った。

『じゃあ、心配して迎えに来てくれたの?』

 あかりはそう聞こうとして、言葉を飲み込んだ。浩之はその質問にはけして

答えないだろう。

「シャツ、濡らしちゃった」

 その代わりに、あかりがそう呟く。そして初めて浩之はあかりが泣いていた

ことに気付く。




 浩之は、あかりの家の前まで、送って行ってくれた。

 二人は言葉少なげに道程をたどって行った。

 それほど遠くないあかりの家までは、子どもの足でも五分とかからない。

 途中浩之の家の前を通る。浩之は、母親に見つからないか一瞬心配したが、

うまいこと見つからなかった。

 あかりの家の前。

 浩之は、あかりを家に届けると、自分の家に戻ろうとした。それをあかりが

止める。

「……何?」

 浩之がそっけなく聞く。

 振り返った浩之の唇にあかりの唇が重なる。二人は、軽くキスをした。少し

しょっぱい、あかりの涙の味。でも、その味も、ひどく丸い、優しい味だった。

「また明日ね」

 恥ずかしがる暇も無く、明かりは扉の中に消えていく。

 浩之は、あかりが家の中に入るのを見届けると、頬を朱に染めたまま家路に

就く。夜風が頬にあたると、気持ちいい。その、風が浩之の頬から熱を奪い去っ

ていく。風は、あかりのキスの名残を奪い去ってくような気がしたが、心の底

から、沸沸と熱が発せられる。

 浩之は恋に落ちた。




 ガチャ……

 家の扉が、重々しく開く。少年に家の扉は酷く重い。

 公園に行く時、軽々と扉が開いたことを不思議に思う。

 扉の前に母親が立っていた。

 何分も、何分も母親は浩之をしかる。

「どこに行ってたの?」

 その質問に、浩之は答えない。公園にあかりを置き去りにして、更にあかり

を迎えに行ったなんてとても言えない。言ったらお説教の時間が更に長くなっ

てしまう。

 だから浩之は答えない。

「……………」

 母親は、何も答えようとしない浩之を見て、ため息をつく。この子も秘密を

持つ年になったのかと思うと、少し悲しくなった。

 ピンポーン

 そんな親子の重い雰囲気に反して、インターフォンは軽々しい音を立てる。

 母親は、陰鬱な思いでドアに向う。今顔を出したら決して愛想笑いは出来な

いだろう。そう思うと、自然とドアも重く感じる。

「あら、神岸さん」

 ギク、浩之はドキっとする。

 ……………

 浩之は、母親達の会話を聞いていて、心が軽くなった。母親の声が軽くなっ

ている。

 お説教の時間はもう打ちきりだろうと、浩之は考える。




 昨日は眠れなかった。

 リビングに降りると、姉の姿が見える。

「雅史どうしたの、目の周りが真っ赤よ……」

「うん……」

 そう雅史は呟く。

 姉はそれ以上追求しない。

「いってきまーす」

 姉は学校へ、父親は会社へ行ってしまった。母親は家事をしている。

 普段なら、もう公園へ行って遊んでいるのだが、公園へは行けない。

 ピンポーン

 雅史の心とは正反対な、軽薄な音をインターフォンは出す。何気なく聞き流

しているインターフォンが、今日は何故か憎く感じる。

 今は何時になったのだろうかと、雅史は時計を見る。時間はいつも公園へ行

く時間から三十分とたっていない。

「雅史ー、あかりちゃんよー」

 え? 雅史は耳を疑う。あんな酷いことをしたのに、あかりは迎えに来てく

れた。

 しかし、心の中であかりは自分を許してくれてはいないんじゃないかという、

不安がよぎる。

 雅史はおそるおそる玄関に向う。そこに行くとあかりと顔を合わせなくては

いけなくなると分かっているから、雅史の歩みは、自然と静かに、緊張したも

のになる。

 恐る恐る、玄関に向い。恐る恐る、あかりの顔を見るために、自分の顔を上

げる。

 よかった、怒ってはいない。

「公園に行こう?」

 あかりは快活にそう言う。

「うん?」

 雅史は曖昧にうなずく、いつもは少しボーっとした感じのあかり。いつも元

気のいい雅史。今日は、イメージが逆転してしまった。

 公園への道のりの、半分くらいが過ぎたところで、あかりが雅史の方をむい

て言う。あかりは、満面の笑みを浮かべて、

「あのね、私、浩之ちゃんのお嫁さんになるの。もう決めたの」

 雅史はショックを受けた。




 公園に着くと、恋敵浩之がいた。



あとがき

 To Heartの人気はすごいですね。

 何といっても、パソコンを持っていない人も知っているって言うのがすごい。

 一体何に、引き付けられているのでしょうか?

 パソコンを持っていてよかった。


 さて、次回作ですが。

 『痕』、『To Heart』のショート・シナリオときたので次は。

 『White Album』でしょう。

 僕は今、ビートルズにはまっているんですけど、ビートルズにもWhite Albumっ

て言うのがあるんですよ。ですから、Leafに対抗して、ABBEY ROADという題名

で行きたいと思います。

 ABBEY ROADは、ビートルズ最後のアルバムで、ビートルズ最高のアルバムと

言われているものです。(ほかにも"Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band"

という長い名前のアルバムも、かなり高い評価を受けています。これは、グラ

ミーで数々の賞を授賞したレコードで、これを最高のアルバムという人もいま

す。まあ、ビートルズの曲ははずれはほとんどないですから、何を最高とする

かは人それぞれなんですけどね)

 果たしてどのようなものになるのやら……(^_^;