【こみパSS】『大庭家の食卓』 夏 投稿者:初心者A
        【注意】この作品はネタばれがあります。

○この二次創作小説は『こみっくパーティー』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しています。
○この二次創作小説は『痕』(Leaf製品)の脚本の一部を使用しています。
○この作品はフィクションです。劇中に登場する団体及び個人は実在する団体、個人とはなんら関係ありません。また、演出上の要請により、一部登場人物が危険な行為、または道義的に反する行為等を行っておりますが、二次創作小説ですので寛大な心で接して下さい。
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        こみぱSS『大庭家の食卓』夏の巻

「おらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ〜〜!!!」
 ガシャーン!
 突然テーブルと食器が舞った。今まさに腹ごしらえが唇に触れんとしている体勢で俺は停止した。
「てめぇ〜ナニ食わせやがったぁ! ぜってーおかしーぞ、この食いもんはよぉ〜っ!!」
「え? え? ええ〜っ?」
 正対している詠美がきょとんと目を丸くしている。こんな台詞を自称ちょお天才に吐くのは由宇しか……いや由宇は詠美の後ろの机だ。大志は同じく離れていてテーブルをひっくり返すことなど出来ない。とすると……。
「あ、彩ちゃん〜っ!?」
 そこには目が逆三角につり上がり、しかも縁が黒ずんで思いっきりあくどい形相をした彩ちゃんが立っていた。元来の端整で儚げな面もちに凶悪な目つきが加わると、もうイっちゃっているシリアルキラーとしか思えない。
「ちょっと彩〜! このあたしに向かってその態度は何よぉ!?」
「うるせー! エセ天才がこの長谷部様にタメ口訊くんじゃねーっ!!」
 どげげぇっ! 俺は心の中で思わずそんな擬音を発してしまった。電○文庫のライトノベルならその音だけで3行くらい使ってしまっていたところであろう。あまりの非現実的シチュエーションに、俺の腰は抜けたままで立ち上がろうにも力が入らない。
「む、むっかぁ〜! あんたっ、自分でナニ言ってんのかわかってるでしょーねぇ!?」
「ああ〜ん? 赤点なのにノートを見せてくれる奴もいなくてぴーぴー泣いてるクズがどうしようってんだよボケぇ〜!」
「う、う、ううっ……な、泣かすぅっ! 絶対あんた泣かすぅ〜っ!」
 お前が涙滲ませてどうすんだよ詠美。とにかく彩ちゃんの態度がおかしいぞ。一体どうしたんだ? 俺は言うことを訊かない腰に鞭打って急いで立ち上がった。
「ちょっ、ちょっと彩ちゃん大丈夫か?」
「あん? 和樹、なんか用か?」
 はうっ。か細く甘い声で「和樹さん……」としか言われたことがなかった俺としては、今の吐き捨てるような口調で名を呼ばれるのは結構クるものがあったぞ。
「あ、あのさぁ……どこか調子悪いの?」
「そんなことよりてめぇっ!」
「うわっ!」
 急に俺の胸ぐらを掴んだ彩ちゃんは、そのまま片手で俺を引きずって壁へと打ち付けた。この腕力はとても女の子とは思えない。まるで鬼の力が宿ってでもいるようだ。
「いいかぁ、よく聞けぇ!」
「は、はいぃ」
 彩ちゃんはそこで俺をギロっと睨むと……
「今度はあたいがイジめてやるからよ」
 と、瞳をちょっと潤ませてバチッとウインクした。
「いやだぁぁぁ! こんな彩ちゃんはいやだぁぁぁ!!」
「なんだと、てめー!? おらあぁぁぁっ!!!」
 ドグッ!
「ぐはぁっ!」
 俺の下腹部に激痛が走った。そしてじんわりと鈍痛に変わっていく。男に生まれてきて最も不幸と思える局所的な悲愴に、俺はその場に崩れ落ち悶絶していた。
「ケッ!」
 彩ちゃんは床に這いずっている俺を見下すとペッと唾を吐いて詠美の部屋を出ていった。彼女が居なくなると、それまで半ベソかいていた詠美もやっと正気を取り戻して俺の側に寄ってくる。
「ねぇ大丈夫?」
「ううっ、大丈夫なわけねぇだろ。しばらく動けそうもないぜ」
 悪いが詠美にはこの辛さは一生かかっても理解は出来ない。痛みが退いたとしても足腰が脱力して歩けないのだ。
「それにしても、どうしちゃったんだ、彩ちゃん」
「ソレが判ったら苦労してないわよっ」
 お前は苦労の前に分析もしてないだろうが。とりあえず原因と考えられるのは……。
「詠美、あの雑炊の袋を見せてくれ」
「ん? これ?」
 彼女は床に落ちていた雑炊の空き袋を取って渡してくれた。俺は裏面にひっくり返すと何か書いていないか丹念に調べる。
「『注意事項』? 何々……『これを食して如何なる症状が出ても、当方ではいっさい関知しません 会長以外の従業員一同』……」
 それは虫眼鏡でも使わなければ見えないほど小さな文字で隅っこにちんまりと書かれていた。多分発売者の鶴来屋会長も見逃してしまうだろう。
「って、何じゃこりゃあぁぁっ!?」
「マ、MJ12の陰謀ねっ!」
「な、わけねーだろっ!」
 ついでに“古いぞ”とツッコミを入れたがったが、それどころではない。どうやら何かの毒物による中毒反応が精神に作用しているようだ。とにかく彩ちゃんをあのままにしておくのは危険極まりない。普段我慢が多そうな彼女のことだ、反動で抑圧されている影の部分が一気に解放されてしまったらどんなことをやらかすか……想像しただけでも恐ろしい。
「急いで連れ戻してくる!」
 俺は未だ疼いている股間を我慢して立ち上がった。暴走している彩ちゃんを止めなければ大変なことになる。
「あ、あたしも行く!」
 部屋を出ようとする俺の後ろを詠美が追いかけてきた。へぇ……と俺は呟いた。他人を自分の道具くらいにしか考えていないと思っていたが、こいつも普通の女の子だったのか。彩ちゃんも詠美も友達少なそうだもんな。趣味も同じだし技術的にも学び合うところも多いから、お互い大事に思っているのかもしれない。特に詠美は彩ちゃんとつきあうことによって人間的成長もしているのであろう。
「詠美、お前も彩ちゃんのこと……」
「ふっ……彩……泣かすぅっ。とにかく泣かすぅっ。ぜぇーったい泣かすぅっ。死んでも泣かすぅっ」
 ……こいつを一瞬でも見直した俺が馬鹿だった。もう詠美は居ないものとして彩ちゃんを捜そう。彼女は玄関の方に向かったしドアの開閉する音も聞こえたから、多分この家を出たのだろう。俺も追いかけるため部屋を出て廊下を玄関の方に曲がった。
 ドシン
「うわっ」
「きゃっ……」
 早朝で薄暗い廊下の曲がり角で誰かにぶつかってしまった。俺より背が低いし当たった感触が柔らかい。どうやら女の子のようだ。すると消去法で彼女しかいない。
「由宇か。悪りぃ、大丈夫か?」
 俺はそう謝罪しつつも防御の態勢で身構えた。寛恕の狭いこいつでは謝ろうが何しようが報復のハリセンが飛んでくることは間違いないからだ。ハリセンならまだいいが、丁度手にトーンナイフかカッターナイフを持っていたとかだったらシャレにならない。
「……」
 俺に突き飛ばされる格好になって廊下に横転した眼鏡の少女は、起きあがる気配どころか動こうともせずそのまま俯せになっている。
「すまん。どこか打ち所が悪かったか?」
 俺は心配になって肩に触れた。しかし由宇はそれにも反応せず、少し後になってはじめて身を起こした。その動作は緩慢で、力がまるで入っていない。
「ゆ、由宇……?」
「ほっといてくれんか。ウチはもうダメや」
 語りかける俺に対して彼女はそう呟くと、廊下の隅の最も暗い部分に行き、壁に向かって膝を抱えて座り込んだ。
「あ、あのさぁ」
「ふっ、今までろくでもない人生やったなぁ。考えると、いいことなんぞ一つもあらへんかったわ」
「え、ええとぉ」
「ウチなんてどうせ居ても居んでも一緒や。いいや、居るだけ人様に迷惑かけとる。これから先も、なーんもいいことあらへん真っ暗な人生に決まっとるわ」
 ど、どうしたんだ由宇は? いつもエナジーが溢れまくっている元気娘がまるで半死人だ。もしかして雑炊食べたからか?
 普段躁状態の由宇なら性格が反転すると安易に鬱状態に陥っても不思議ではない。この前大学の一般教養心理学講座でも言ってたけど(実は寝ていて瑞希に後から聞いたのだが)、鬱と躁は表裏一体を為していてよほどの重症以外は片方だけはありえないそうだ。
「彩ちゃんも心配だけど、由宇もこのままじゃあ放っておけないなぁ」
「別にいいじゃん。なんだか知らないけどあたしは今のパンダの方がいいなぁ。野生に戻りそうもないし」
 詠美はやっぱり冷たい。というより自分の用意した雑炊が原因だなんて考えてもいないようだ。
「あ、そうそう、この際だからぁ」
 詠美の目が悪賢そうにきらーんと光った。またろくでもないことを考えついたのだろう。
「やーい、ぱーんだパンダ! 温泉パンダ、眼鏡パンダ! パンダはおとなしくパンダの里にでも帰ってればぁ!?」
 ……相変わらずボキャブラリーの少ない奴。パンダ以外の罵りを知らんのだろうか。言われた由宇も怒るどころか呆れるか憐れんでしまうだけであろう。またTKO負けの黒星を増やすだけだ。しかしそれは普段の由宇相手の場合であって、今の彼女は……。
「ぐすっ」
「パーンダぱん……え?」
「ぐすん……ぐすん……」
 壁を向いてこちらには背をさらしている由宇からそんな嗚咽が漏れている。肩を振るわせ、押し寄せてくる重圧に必至に耐えているかのようだ。
「や、やったぁ! やーいやーい泣いた泣いたぁ! あたしの勝ちねーっ!」
「しくしく……しくしく……」
 由宇の泣き声はどんどん力無くしかも悲嘆さが増していく。最初は初の勝利に有頂天だった詠美も、そのうちばつが悪くなっていく。
「いつまで泣いてるのよぉ。もういいじゃない」
「ぐす……ぐす……」
「な、な、何よぉ〜。あたしの所為だってのぉ?」
 誰も言ってないがその通りだ。
「これじゃあたしが悪いみたいじゃない〜」
 悪いんだよ馬鹿。俺は見かねて詠美に注意をする。
「もういいだろ。由宇に謝れよ」
「だってぇ……」
 詠美も今の由宇が相手では面白みがない、いや卑怯で罪悪感があるだけだと判ったようだ。反省しているかどうかは怪しいが、居心地が悪そうにしているところを見ると少しは学習したようだ。だが謝罪となるとそれまでの交流関係上多大な抵抗があるようで、なかなか頭を下げようとはしない。
「うにゅうぅぅ……」
 単に謝るだけなんだがなぁ。そんなに努力とか忍耐とが必要なのだろうか。まぁ自称ちょお天才で媚びぬ退かぬ省みぬな性格の詠美にとっては困難なことなのかもしれないけど。
「ほら、早く!」
「わかったわよ! ちょっと温泉パンダ! このあたしが下手に出てるなんて珍しいことなんだから、ちっとは根性出して頑張ってみなさいよね!」
「全然へりくだってねぇだろがぁ!」
 謙譲語と丁寧語と尊敬語の違いも判りそうもないからなぁ。詠美にとってはこれでも謝っているつもりか、単なる照れ隠しなのかのどちらかだろう。
「うう……ひっく……ひっく……」
 未だ泣きやまない由宇が隅でごそごそし始めた。新刊を束ねて持っていくため用意した荷造り用のロープで直径50cm程の輪を作り、結び目をきつく結ぶ。それを天井の梁に通してつり下げる。その下に椅子を置いて乗り、用意したロープの輪に自分の首を通して……。
「って由宇、何やってんだぁっ!」
「ほっといてんか。ウチはもう詠美のいぢめには耐えられへんのや。しくしく……」
「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉっ! どうしてあたしの所為になるのよぉ〜っ!?」
 もそもそと足元の椅子を蹴倒そうとする由宇を、俺は足と椅子を捕まえて必死になって止めた。いつもの由宇なら、足首を掴まれた時点で過剰な反撃に出ていたに違いないのだが、今は力無くもがいているだけだ。隙を見てロープを解き、由宇を抱きかかえて椅子から降ろす。
「くすん……くすん……」
「あんたねぇっ、あたしの好意を素直に受け取りなさいよね! ほら、根性根性根性よ! 頑張れ頑張れ頑張りなさいよっ!」
「ひっく……ひっく……そうやって無理なことばかり強制して……もう意地張って生きていくのに疲れたわ……めそめそ」
 本当に貴重な詠美の励ましコールを歪曲して受け止め、由宇はさらに深く沈み込む。そして次はテーブルの上に手を伸ばし、置いてあったカッターナイフを手首に……。
「はぁ……これで楽になれるんやね。今まで生きててえろうすんませんでした」
「うわぁぁぁ! 止めろって!」
 俺は遠い目をしている由宇の右手に飛びかかった。しかし先程のロープが足に縺れて無様に転んでしまう。
「じゃあウチもう逝くわ。せぇーのぉ……」
「当て身!」
 ドスッ!
「う……」
 俺が床に転倒するのと同時がそれより僅かに早く、誰かが由宇にぶつかって行った。そして由宇の動きが一瞬停止し、ゆっくりと崩れ落ちていく。
「まぁーったく手の掛かるパンダねっ!」
「え、詠美?」
 電光石火の動きで由宇を気絶させたのは意外にも、というより目の錯覚としか思えないがTKO20連敗記録を現在も更新中の玉砕娘である。いくら由宇の調子が変だとはいえ、口でも腕力でも気合いでも負けていた詠美がこんなにもあっさりリベンジを完了するなどにわかに信じがたい。
「今の技は一体……?」
「あ、これ? んふふ〜。聞きたい? 聞きたい? 聞きたい〜!?」
「……やっぱりいい」
「またまたまたぁ〜。あんたは聞きたくてしょおがないのに無理しているだけなの。素直じゃないわねぇ。ここは新キング・オブ・キングスが特別に教えてあげる」
 俺が何も言わなくても詠美の方で勝手に説明、いや自慢してくれるようだ。
「はい、これ」
「『追加事項』?」
 詠美は上機嫌で一枚の上を差し出した。どうやら前のレトルトパックに入っていた注意書きのようである。
「何々? 『この商品とは全く絶対天地神明に誓って紛れもなく関係ないと思われますが、万が一摂食後に異常な徴候が見られた場合はその人に対し以下の動作を行って下さい。 1.相手に素早く接近し 2.右足を引いて右拳を握り 3.相手のみぞおちを見定め 4.全力でぶち抜くように打つべし。えぐり込むように打つべし』……」
 筆者は鶴来屋会長と書かれている。流石一流ホテルだけあってアフターサービス&フォローもばっちりだ……って、そういう問題じゃないぞ。何故か不本意ながら嫌々書かされたような雰囲気が文面から漂うのは気のせいだろうか?
「しかも、しかも、しかも〜、それだけじゃないのよ。じゃじゃーん! 実は初めて会ったときに腰の入れ方とか直接教えて貰ったんだ〜。いーでしょ、いーでしょ、いいでしょお〜っ!?」
 ……いいのか? 確かに寺女とかのお嬢様高校生格闘家とマンツーマンで練習するのは楽しそうだが、その女会長とやらは怪しすぎるぞ。それにしても、詠美にこんな技があったなんて知らなかった。勝てないとはいえあの由宇とずっとやりあって無事でいられる理由がなんとなく判ったような気がする。
 とにかく由宇を一人にしておくのもよくないので、俺は彼女を部屋に戻らせようとした。気絶しているので当然運ばなければならない。由宇は小柄な方なので俺一人でもそれほど苦では無かろう。
「危ない、和樹っ!」
 ドカァ!
「げほっ!」
 由宇に触れようとしていた俺の横からいきなりタックルが来た。暗くてよく見えない廊下から、また一つの物体が飛び出してきたのだ。誰かと確認しなくても、残っているのはあいつしかいない。
「い、痛てぇな大志!」
 俺はそいつに押し倒されるような格好で壁に押しつけられ床に転がった。体当たりの威力が無くなったにもかかわらず、大志はまだ手を離そうとせず俺の腰を抱きかかえるように密着してきた。
「間一髪だったね。もう少しで和樹が汚れてしまうところだったよ」
「こ、こら、俺は由宇を部屋で寝かせて、早く彩ちゃんを追いかけなきゃいけないんだ。離せ」
「和樹……」
 大志は妙に艶めかしい声で俺の名を呼んだ。そういえばいつもは“まいはに〜”だの“同志”だのと言っているのに。
「和樹……僕たちずっと友達だよね?」
「こらぁ! 下半身をすり寄せるなぁ!」
「ふふふ、I have controlって感じだね」
 うるうるしている瞳で見つめてくる大志に、俺は背筋が寒くなって強引に引き離した。
「あ、あんたたち、もしかしてホモぴー? やおい? お耽美ぃ?」
「違うっつーの!」
 こちらは妙な期待を込めてきらきら目で詰問してくる詠美を一喝すると、俺は後ずさって大志と距離を取った。足は肩幅に開き前後に半歩ほどずらす。いつでも身をかわして逃げられる体勢である。
「あっはっはっ、冗談だよ。ほらリフティング、リフティング」
 大志はどこから取り出したのか不明なサッカーボールを膝の上で蹴り出した。警戒する俺に対し、まるで邪心の無い笑顔を向けてくる。本来なら安心してしまいがちな健全さだが、元の大志を知っている者としては逆に近付きがたい。
「やぁ和樹、どうしたんだいっ? 困ったことがあったら僕に相談してくれよっ」
 湿り気を一切含まないからっとした風が吹いたような幻覚さえしてきた。俺と詠美は立ち竦んだまま呆然とせざるを得なかった。
「げっ、まるでさわやかサッカー少年……」
「サッカー少年? やっぱあんたたちアレなの? で? で? でぇ? どっちが攻め? 受け? もしかしてあんたが噂に高い『フィールドの荒技師』ぃ?」
 こ、この女はどーしてこーゆー思考だけは素早く出力されるんだろうか。それにしても、いつもの大志もイヤだがこの大志も表現出来ない方面で危険な感じがするぜ。
「あ、そうだ。俺たちは彩ちゃんを探しに行かなきゃならないから、お前は由宇を見ていてくれよ」
 俺は“相談してくれ”との言葉通り、大志に由宇の世話を頼んだ。
「ええ〜、僕が女なんかを〜?」
 なんか思いっきり不満そうな顔をしているぞ。うわっ、こっちに妙な熱い視線を向けるなぁっ!
「大体、酸素濃度18%未満、硫化水素濃度10ppm以上の場所は法律で労働が禁止されてるんだよ。和樹をそんな危険な場所へ旅立たせるなんて僕には出来ないよ」
 いつもはマリアナ海溝の底だろうが即売会があれば行かせようとするくせにぃ〜。
「い、行くぞ詠美! 彩ちゃんが心配だ!」
「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉ〜! 下々の分際で、あたしに許可無く走らないでよぉっ!」
 逃げ出すように、いや実は逃げ出して俺は詠美の家を後にした。今の大志なら女性と二人きりで居ても間違いは犯さないであろう、確実に。

                              続く
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 こんにちは

 全4回の第2回目です。大体一回40文字×300行ほどです。
                             初心者A