【こみパSS】『大庭家の食卓』 春 投稿者:初心者A
        【注意】この作品はネタばれがあります。

○この二次創作小説は『こみっくパーティー』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しています。
○この二次創作小説は『痕』(Leaf製品)の脚本の一部を使用しています。
○この作品はフィクションです。劇中に登場する団体及び個人は実在する団体、個人とはなんら関係ありません。また、演出上の要請により、一部登場人物が危険な行為、または道義的に反する行為等を行っておりますが、二次創作小説ですので寛大な心で接して下さい。
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        こみぱSS『大庭家の食卓』春の巻

 ……夢。
 夢を見ている。暗い部屋の中で、ひとり体を抱えて震える夢だ。
 誰か助けてくれ。誰か……。
「寝るなぁっ!!」
 その言葉と同じくして俺の頭からペシッとの音が上がった。
「痛てっ」
「サークル入場まであと2時間もないのよ! わかってんのぉ?!」
「そうだぞまいぶらざ〜。この究極修羅場を潜り抜けてこそ我らの悲願達成に一歩、いや二十六歩近付くのだ!」
 顔を上げると正面でプラスチック定規を構えたおサルがいる。もちろん口にしたら無事には済まないので、心の中で思っただけだが。
 そして部屋の奥では腕組みしてじっとこちらを見ている男が居る。こいつには何を言ってもいいはずだ。大体“26”って何の数字だよ?
「相変わらず手伝う気もないようだな、おめーわ」
「何を戯けたことを。吾輩のゴンドワナ大陸のように巨大で大海のごとき深遠な思いやりを感じぬのか? 激しいだけが愛ではないぞ」
「見守るだけなら歯磨き粉にだって出来るわっ!」
 もっともおはようからおやすみまで監視されては堪ったものではないが……。人畜無害がこいつの収まる最良の地位であろう。
「かぁーっ! ネタが浮かばへんっ! あと一発ベタでもいいから落ちをつけたらいいんやけど」
 室内の左隅、みかん箱の机ではネームをひねりだそうと頭を抱えている猫系少女が居る。猫は猫でも大熊猫だが。
「ちょっとパンダ! あんたがさっさとしないとなーんも進まないじゃん!」
「そやかてなぁ……」
「いざとなったらブースの前で釣りタイヤにぶら下がって、おたく共にごめんしてもらうからねっ! あ、我ながらそれいい。パンダのタイヤ芸。きゃーはははっ」
「なんやてぇ。そっちこそ仕上げは出来たんかい!?」
「へへーんだ。ちょお天才のこの詠美さまにかかれば仕上げなんてちょちょいのへのかっぱって感じよねぇ。カメパンダは先祖霊呼んで自動手記でも頼めばぁ?」
 いつもながら詠美はお調子乗りの歯止めがすり切れている。額に青筋マークが3つほど付いた由宇がこっちをちらと見て声を低く出した。
「こうなったら手抜きやな」
「そうだな」
 俺は由宇に合わせて頷いた。声は低いが別に小さくしたわけではないし、位置関係として俺と由宇の間にいるのだからちゃんと詠美には聞こえているはずだ。
「ちょ、ちょっとあんたたち〜!?」
 顔色を僅かに変えた詠美を意識的に無視して、俺と由宇は思いついただけのネタを次々と出していく。
「まずは突然どこかワケの分からん星から責めてきた異星人を相手にこんなこともあろうかと作っておいた超電磁ロボで戦うっちゅうのはどないや」
「お約束でいいなぁ。じゃあ当然ヒロインはちらちら見えるミニスカートで操縦するんだな」
「当然や。そいで次に敵に寝返って改造された正義の超能力者と戦ったりする」
「おお、ワケわからんがありきたりの展開」
「その偽善者の名はバンバラ千鶴!!」
「……」
「……」
「……よしっ、それで行こう!」
「よっしゃ、決まりや!」
 それまで描いていた原稿をポイと隅に放り投げて、俺と由宇は新しい下書きを始めるふりをした。
「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉ〜っ! あたしに許可無く何やってんのよ〜!?」
 慌てた詠美がテーブルから身を乗り出して俺を睨んでくる。その後方から由宇がいぢわるそうな口調でこう言った。
「しゃあないやろ? 赤点補習で新刊落っことしたしょーもないお子ちゃまにボランティアしとるんやで」
「ち、違うでしょお〜! あたしは足りなかった点数分、学校に出ただけよ!」
 それを世間一般では赤点補習と言うのだがな。
「そんなおバカがどーしてもこみパで新刊出さんとカッコつかんちゅうて泣きついて来よるから、しょーもなくやっとるんやろが」
「な、な、泣きついてなんかないでしょお〜! 下々がどうしてもあたしの手伝いさせてほしいって頼んでくるからやらせてやってるだけじゃないっ!」
 “今から設営を手伝うつもりだ”って断ろうとしたら、受話器の向こうで半分ベソかいてたような記憶があるがなぁ。
「まぁ出来の悪い子ほどかわいいっちゅうから、おかんは仕方なく夜なべしとるんやで。これ以上贅沢言うんは全人類の敵や、っちゅうこと教えたらんと世間様に申し訳が立たん」
「それと手抜きとどう関係があるのよ〜っ!?」
 丁寧になんてやってたら間に合わないって言いたいんだと思うがな、由宇も俺も。大体こみパ前日の夜にいきなり電話一本で召集し、その上昨日レンタル開始したばかりの新作OVAを早送りで見てすぐ描けなんて無理に決まっている。尤も詠美にしてみればちゃんとした新刊が出せなかった穴埋めをなんとかしたいがための苦肉の策であろうが……。
「つまりやなぁ、味方と思っていたヒロインが実は新しい敵の幹部で……」
「『ときメモ』にそんなキャラいないでしょおがぁ!」
 とげぬきメモリアル、通称ときメモは大人気ギャルゲーであり、そのOVAが昨日発売されたのだ。3年間かけて女の子の手足に刺さった棘を抜いて回る地蔵が主人公というシュールな内容にも関わらず各種メディアミックスに成功しているのだから世の中わからない。
 もちろん先程由宇と俺が話していたことは冗談だが、このくらい言ってやらないと詠美は反省しないようだ。いや、一度くらいはマジに手抜きの原稿を……と言っても詠美自身がネタ作りの段階ですでに手抜きを多用してるんだから反面教師にはなり得そうにもない。そんな一方、描く作業では詠美は天才的だから、確かに他の作家のスピードは遅く見えても仕方ない。だからこそネームは由宇がやってその他は詠美がメイン、細かく時間がかかる所は俺と……。
「……くすっ」
 右の方から小さくそんな声が漏れた。抑えていたが思わず出てしまった、そんな感じのかわいい過ちだ。
「あ、彩ちゃん今笑ったでしょ?」
「え……あの……その……」
 吹き出してしまった口元を恥ずかしげに隠しながら、彼女はぽっと頬を僅かに染めて視線を外す。
「んん? 何、彩? あんたも手を抜こうってんじゃないでしょおね!?」
「ち、違います……。私、詠美さんのお手伝いが出来るだけで……だから一生懸命……」
「ほらほらぁ、こーんなに正直で良い子もいるってのに、どーしてあたしのアシには他にロクなのいないのかしらね〜?」
 お前それは自爆だぞ、と俺は喉元まで出かかったが理性でそれを留めた。それを言ってしまうとさらに口喧嘩がヒートアップして原稿の完成が遅れるに違いないからだ。だが由宇は俺の代弁をするかのように遠慮なく捲し立てた。
「長谷やん脅してどーすんねん。大体そりゃ大バカ詠美センセの手伝いをしてくれる奇特なアシなんて普通いないからに決まってるやろ。ウチらの他に原稿手伝うてくれる友達、一人でもいいから言ってみ」
「むっかぁ〜っ! 言っとくけどね、あんたみたいな珍獣、最初から数になんて入ってないのよっ! 本当は手伝いに来てくれる友達くらい……ええと……あ……んと……」
 由宇は自分の台詞を発した直後“あ、しもた”との表情をしていた。彼女が予想した通り、詠美の口からは一人の名前も発せられず、しかもどんどん声が小さく気勢も沈んでいく。
「ふみゅうう……ううう……」
「ああっ! そうそう腹減ったな! 何か食い物はねぇのか!?」
「おお、同志よ偶然、いや一心同体の我らにとっては必然か。ちょうど吾輩もそう感じていたところだ」
「おめーはなにもしとらんだろが!」
 眦に涙まで滲みだした詠美を不憫に思い、俺はこの場を誤魔化すべく無理矢理話題の転換を図った。普段は邪魔なだけだが大志のフォロー(?)も今回だけはナイスなタイミングだ。ちょっとわざとらしかったかもしれないが、他に手はないであろう。
「そ、そやね。こら詠美、ここん家は客に飯も出さんのかい!?」
「な、何よ、何よ、何よぉ〜! パンダのエサくらいは用意してやるわよ。ユーカリじゃなくても我慢しなさいよねっ」
「アホ、ユーカリはコアラやろが」
「きぃ〜っ、むかつくぅ〜っ!」
 罵り合いを続けたまま由宇と詠美は台所へ消えていった。まぁあれはあれで一種のコミュニケーションなんだからいいだろう。それにしても元々疲れていたが今のでさらに精神力を摩耗させてしまったぞ。夜食の用意が出来るまで少し休憩でも……
 クイックイッ
「ん?」
 右袖が引っ張られる感触がしている。確認しなくても俺の右にいるのは一人しかいないので誰なのかすぐに判った。
「何、彩ちゃん?」
「……原稿」
 彼女は消え入りそうな声でそう呟いて3枚ほどの原稿をすっと差し出した。
「あ、そ、そうだね」
 コクリ
 俺が返事をして原稿を受け取ると彼女は一度頷いてまた作業を再開する。さっきの零下120度極寒ギャグで何の気まずさも感じずに黙々とペン入れをしていたのか……これも一種侮りがたいよな、と俺は思った。かなり気分が良さそうで、いつも作業中はほとんど無表情なのだが今日は妙にニコニコしながら丸ペンで写真のように細かく背景を描き込んでいる。この彩ちゃんの細部の仕上げは自称天才の詠美ですら認めているほど精緻に突出している。だからこそ性格は合いそうにもないのにこの場へ呼び出したのだろう。またストーリーも彼女に練らせた方が優秀な作品が出来るだろうが、今回はパロディ作品なのでアニメやゲームに疎そうな彩ちゃんには向いていない。しかも時間との勝負で見た目の掴みが重要な突発本の制作は、じっくりと深い創作系を本旨とする彼女には経験すらないであろう。
 友達が少ないのは彩ちゃんも詠美と同じで、特に彼女はこれまで作成から販売、撤収までずっと独りでやってきている。販売で売り子を雇い、即売会場で買い手へのスケブサービスを行うため会場限定だがコミュニケーションの多い詠美はまだ人間関係が広い方だ。だからこそ、詠美の我が儘で且つけたたましいとはいえ、共通の趣味を持つ者が集まって一つの目標に向かって作業をする場は彼女にとって新鮮であり楽しいことなのだろう。
 ま、彩ちゃんも喜んでいるし、由宇もまんざらでもなさそうだし、俺も別に悪い気はしていないからこれでもいいか。あ、原稿が出来ないと詠美が怒るからこれは気にしないとな。
「吾輩を忘れてもらっては困るな、まいぶらざ〜」
「人の心を勝手に読むなぁ! それにしてもそもそも何でお前がここにいるんだよ!?」
「水くさいぞまいはに〜。この場にいる大庭詠美と猪名川由宇の両女史を手中に収めれば同人界制覇への大きな前進になるではないか。貴様がそこまで真剣に野望に向かっているのならば、同志たる吾輩にはそれを歴史の証人として見届ける義務があるだろう」
 俺は言い返す気力が無くなって机に俯した。こいつにはもう何も聞かない方がいいような気がする。
「ほら、夜食が出来たで。場所空けてんか」
「え、もう出来たのか?」
 由宇と詠美が台所に向かってまだ10分経っていないはずだ。とにかく俺はまずインク瓶を蓋を閉めペン先の墨が垂れないよう注意して片付けた。作画に集中していた彩ちゃんも由宇が何やら重そうな大きな鍋を持っているのに気付くと急いで(それでもちょっとトロいが)原稿を別の場所に移す。
「ほら詠美、早よせんか。重たいやないか」
「うっさいわねぇ。そのまま置きゃいいじゃない」
「そういうわけにはいかん」
「ったく」
 後から部屋に入ってきた詠美はテーブルの上に少し湿らせた布巾を平らに広げた。その上に由宇が鍋をドンと置く。金属製の鍋の中にはぐつぐつと煮立った湯と銀色の袋が数個入っている。つまりこれはいわゆる……
「時間が無いんだからレトルトでいーわよね。ってゆーかこれしかないんだから文句を言う権利は存在しないのよ」
「はいはい。OK、OK」
 俺はなびいてきた湯気に顔を浸されながら親指を立てて了解した。それにしても突然の収集にしては用意がいい。詠美も多少は気が利くようになったのだろうか。
「それにしても何や、こればっかようけぇ沢山あるなぁ」
 ふぅと息を吐いて額の汗を拭った由宇が半分呆れたように言った。ここで普段なら含意を曲げて受け止めた詠美が喧嘩を売り始めるところであるが、今回は疲れているためか覇気のない返事をしただけだった。
「まーね」
「そんなに沢山在庫があるから、持ち帰りに何個か俺にもくれよ」
「ダメ」
 にっこり笑って言う言葉かそれがぁ〜!? 疲労しているくせに拒否の返答を明快にすると、詠美は一番最初に鍋からパックを一つ取って自分の皿に中身を開ける。
「雑炊?」
「そうよ。しかもちょお一流の味なんだから」
「雑炊に一流とか二流があるのかよ?」
 また詠美のいつものフカシだな、と思って馬鹿にしたようなニュアンスで尋ねてやる。
「あるみたいやなぁ」
「え?」
 こんな場合いつもなら俺と一緒になって詠美をからかうはずの由宇が、真剣味を帯びて横から口を挟んだ。由宇も熱湯からパックを取ってその袋を眺めている。
「さっきは注意して見んかったから気付かんかったけど、これ超一流ホテルの商品やで」
「そ、そうなのか?」
「鶴来屋っちゅうたら、有馬温泉の中ノ坊瑞苑か欽山クラスのホテルや」
 宿屋のことはよく知らないが、由宇の話では後者2つは最低クラスの部屋と料理で一泊3万円、12歳以下の子供は出入り禁止の超高級ホテルらしい。お得意さま専用では一泊数十万のコースもあるらしく、どこかの政治家や社長でなければ門前払いという下々には想像もできない保養施設だ。
 俺の怪訝と驚嘆の表情を見て取ったのか、詠美はいつもの自慢げな口調で解説を始める。
「ふふーん、驚いた? 驚いた? 驚いたぁ〜? これはねぇ、以前旅行したちょお一流高級ホテルのものなのよ」
「新刊2000部完売記念にリゾート……しかも一緒に行ってくれる友達がいなくて一人で、とか?」
「むっかぁ〜! 違うわよ! そのときは家族で行ったの! それにまだ同人始めたばっかりの時だったんだから!」
 同人開始当時……というと数年前だな。あの当時の詠美はほとんど本が売れなくてブースの島の中で泣いてたって聞いたことがあるけど。まぁいいけどな、と俺は呟いて、詠美の話の続きを聞くことにした。
「んでね、そのとき出てきた食事を美味しいって言ったら、誰かが感激して挨拶しにきてね、それがそこの女性オーナーだったってワケ。たまたまその日は料理長が急病で、代わりにその人が料理したんだって」
「女性オーナー? 旅館の女将なら分かるけど、それって社長とか会長ってことだよな?」
「そうなの! そうなの! そうなのよぉ〜! でね、それから毎年1年分の田舎雑炊のパックを送ってきてくれてるの」
「ま、毎年一年分〜っ!?」
 俺だけでなく由宇も驚いて声を張り上げた。彩ちゃんは声こそ上げなかったが、めいっぱいあんぐりと開けているであろう小さな口を手で覆い隠している。大志、おまえは相変わらずイヤな薄笑いを浮かべているだけだな。少しは反応しろ。
「毎年一年分言うたら毎日一食分浮くっちゅうことやんか」
「まぁねぇ〜」
 浮くっていうか、毎日食ってて飽きないのか?……と俺はツッコミたいのだが。
「それからこの田舎雑炊が毎朝の食事なのよ」
「飽きへんのか、あんた」
「うん」
 明朗な返答ありがとう。そのオーナーとやらも感慨無量だろう。とにかく俺はそのレトルトを一つ取って眺めた。
「『鶴来屋ホテル特製・田舎雑炊 家庭栽培キノコ入』か……」
 湯は煮立っていて熱いだろうから端っこを摘んで持ち上げている。銀色の袋の上の方に商品名が記入されていて、余りのスベースには宣伝文句が所狭しと印刷されていた。“美味しい!”“無添加自然の味!”“スタイル抜群、美人会長手作り!”……本当に一流ホテルの商品か、これ?
「ほらほらほらぁ、このあたしが特別の計らいで下々にちょおハイソな料理を振る舞ってあげてるんだからぁ、遠慮したらバチがあたるどころの騒ぎじゃないわよ」
「確かにこんな珍しいこと逃すんはタイガースの優勝決定試合を見んのと同じやな。有馬の大茶会を蹴ってきて正解やったわ」
「パンダは笹でも食ってなさいよっ!」
「ライバル旅館の研究や。一応食べたるわ」
 由宇はいつものコミュニケーションをして素早くパックを開けて皿に注いだ。粒が揃っている米粒がさらさらと流れ出し、とろみを帯びた透明に近い琥珀色の汁が続いて零れる。雑炊と言うよりリゾットって感じだ。香りもなかなか。
「ほぉー流石は鶴来屋やなぁ。いい仕事しとるわ」
 由宇はスプーンを取ると早々に味を確かめる。詠美は何か言いがかり付けてやろうとしていたが、口に含んだ雑炊が熱くて声が出ないでいる。随分温度が高そうだ。猫舌の俺にはまだ食べられそうにもない。
「……ごちそうさまでした」
「って彩ちゃんもう食べちゃったの?」
 しかも彼女の皿の脇には袋が二つも空いている。
「彩は食べるのが早いのよね〜」
「い、意外な事実だ」
 彩ちゃんは恥ずかしいのか、ぽっと頬を染めて下を向いた。にしても、他のみんなはこんなに熱い雑炊をよく食べられるな。俺はもう少し待たないと口にすら入れられそうにない。
「ん? 和樹、どうしたん? 食わへんのか?」
 一袋目を平らげて、二袋目に手を伸ばしている由宇が湯気の向こうからそう尋ねてくる。この子が早食いなのは納得できるがな。何せ客商売は早飯が原則だ。もたもたしていると一日中食事にありつけないことだってあり得る。
「時間を浪費している暇はないのだぞ、まいだーりん。コピー本とはいえ後一時間あまりで完成せねばならんのだからな」
 だから何でお前まで食べてるんだよ!?
「何、何、何ぃ? そーやって時間稼ぎをしてるってわけぇ〜!? やっぱ、あんたって裏でパンダと手を組んであたしを滅ぼそうと企んでいたのね!? 畜生の味方するなんて、人類の敵!? パンダの湯に浸かって珍獣人間になっちゃったんでしょお!?」
「ち、違うって。俺は熱いのが苦手で……」
「やーい、お子さまぁ。猫舌なんて、はっずかしー!」
 詠美の言うことは真に受けていない方が精神衛生上よろしい。こいつも締め切り寸前の上、徹夜続きで元々少ない理性がさらにすり減っているのだろう。
 でもそろそろ冷めてきた頃だ。皆が感想を述べていたようになかなか美味しそうな雑炊である。入っているキノコが見たことのない色形をしているのが少々気になるが、一流ホテルの物なら大丈夫だろう。
 鍋に入っていたレトルトパックは俺が取り出したのを最後に無くなったので、テーブルから降ろして床に置いた。2袋キープしておいた雑炊をいっぺんに皿に開けて、大盛り状態でスプーンを差し入れる。
「ふーふー、っと。ではいただきまー……」

                              続く
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 こんにちは

 多少長いので分割してUPいたします。一日置きに後3回、全4回です。
                             初心者A