Interlude of Multi's story 第2話 投稿者:笹波 燐
このSSは、PC版「To Herat」のネタバレを含みます。


            ”Interlude of Multi's story” あかり-2

       「ちょっとの間でいいからよ、家に来てくんねえか・・・?」
       よほど話しづらいことなのだろう。浩之は、あかりと顔をあわせながら、しかし、微妙に目をあわせない様に言った。
       「・・・うん」
       そう返事したものの、あかりは何か嫌な予感がしていた。浩之は、誰かと話す時に、目をあわせないでいるようなことはあまりない。都合の悪い時や、
      照れている時ぐらいなものだ。特に今のように、人にものを頼むような言い方をする時は、必ず正面から相手の目を見て話す。自称「藤田浩之研究家」の
      あかりは、そのことをよく知っていた。その浩之が、目をそらしていや、――目を伏せて――頼んでいる。
       『どうしたんだろう、浩之ちゃん・・・」
       二人はそのまま、やはり言葉をかわさずに浩之の家にあがる。
       そのままリビングまでやってくると、先に歩いていた浩之がゆっくりと振り返る。
       「ま、どこかに座ってくれ。今日はすまなかったな・・・。さそっときながら、あんなんじゃな」
       帰りに、一緒に歩きながら、一言も喋らなかったことを謝っているのだろう。
       「ううん、いいよ。浩之ちゃん、なんか悩んでいるみたいだったし。私にできることなら何でも言って。私じゃ、あんまり力になれないかも
      知れないけど・・・」
       「ああ、・・・すまねえ」
       そう言うと、覚悟をきめたらしく、正面からあかりの目を見つめ、話し始めた。

       「なあ、あかり。・・・マルチのこと、覚えてるか?」
       「この前まで一年にいた、メイドロボのマルチちゃんのこと?」
       「・・・ああ」
       かすかに安堵の混じった声で、そしてそれ以上に、哀しみのこもった声で浩之は答える。
       「あいつのこと、・・・どう思う?」
       「どう・・・って言われても。私、マルチちゃんと直接話したこと、あんまりないからよくわからないよ?
      それでもいいのなら・・・」
       多少戸惑いながら、あかりが答えた。実際のところ、マルチと話しをしたのは、ほんの数回に過ぎない。あとのイメージは、浩之が話してくれたこと
      から想像されるものぐらいである。
       「それでかまわねえ。言ってくれ」
       「・・・うん」
       冷静な――というより、浩之よりな見方になることは避けられないことを承知の上で答える。
       「凄くいい子だったね。一緒にいるだけで、楽しくなれるっていうのかな。そばにいると、優しい気持ちになれる娘だったと思うよ。ロボットっていう
      のが嘘みたいな、そんな感じだったとおもうけど」
       「・・・そうか」
       優しい微笑みを浮かべながら、浩之はマルチのことを思い出す。
       「あいつはさ、どじで間が抜けてておっちょこちょいで。かなりぼけてる上に、それが天然とくる。いつも失敗ばかりして、人に心配かけ
      させてばかりいて。メイドロボなんて嘘みたいでさ。
       ・・・放っとけない奴だった。
       ロボットだったけれど、誰よりも人間らしかった。
       そんなあいつを、俺は。・・・俺はさ」
       そこで一旦言葉を切る。まるで、自分に言い聞かせるように。
       そして、あかりには分かってしまった。その後に続く言葉がなんなのか。
       けっして、聞きたくない言葉。それは・・・

       「俺は、マルチを愛するようになっていたんだ・・・」

       あかりが制止の言葉をあげるより早く、浩之はそう言った。
       「そ・・・う、なんだ」
       頭が痛かった。涙が出てきそうだった。現実感が希薄になってゆき、意識は遠のいてゆく。
       『どうして? どうして私じゃないの? たった1週間しか合っていなかったような子を好きになるなんて。私は、どうしたらいいの? 
       私じゃ、ないんだ・・・』
       自分じゃない。その事実を受け入れた瞬間。
       あかりは、一気に爆発した。
       「どうして? どうしてそんな話を私にするの!? ひどいよ! 浩之ちゃん、私の気持ち知ってる癖に!
      私だって、ずっと観てたんだからあっ! それなのに、ひどいよ! ひ・・・どい、よ・・・」
       その後は、言葉にならなかった。
       浩之にすがりつくような形で、力なくその胸を叩き続けるだけだった。
       そんなあかりを抱き締めながら、
       「ごめん、ごめんな、あかり。ごめんな・・・」
       浩之は、ただ謝り続けた。


            「”Interlude of Multi's story”  あかり-3」に続く

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        第二話をアップした、「笹波」です。
       ところでこれの第四話書いてる最中、なぜかいきなりシステムがクラッシュ。清書中の第三話ともども
      帰らぬ人となってしまいました(ちなみに原因は不明)。そのため、この後の話は少し遅れるかも知れません。

       えっと、後ですね。
       たまにみかける、「〜のとうり、図書館には残さないで下さい」という記述があります。この「〜」のところには、
      何か記号らしきものが入るようですが、”===+++===”←のことですか?
       誰か教えてください。お願いします(ぺこり)

        それではみなさま、また!