このSSは、PC版「To Herat」のネタバレを含みます。 マルチが浩之の元を去った。 マルチの、まだ見ぬ妹達のために。離れたくない、少しでも一緒にいたいと願う二人は、しかし、別れざるを得なかった。 本当に、心から人の役に、否、すべての心あるもの、命あるものの役に立ちたいと願うマルチ。 大きく、広い心で、どんな人であっても、たとえ、機械が相手でも、それを受け止める浩之。 そんなマルチだからこそ、浩之は心引かれた。 そんな浩之だからこそ、マルチは主人に選んだ。 別れは、初めから分かっていた答え。 そして、マルチはいなくなった。 ”Interlude of Multi's story” あかり-1 マルチがいなくなってから数日が過ぎたある日の昼休み。 「なあ、あかり」 「なに? 浩之ちゃん」 「昨日の話だけどよ」 「昨日の・・・って、メイドロボの話?」 「ああ。・・・それで話があるんだけど、帰り、いいか?」 「うん、いいよ。でも久しぶりだよね、一緒にかえるの」 にっこりと嬉しそうに笑うあかりを見て、ふと、ああそうか、と浩之は漠然と考えた。このところマルチにかかりっきりで、 あかりのことを随分とほったらかしにしていた気がする。髪を切って女らしくなったせいだろうか、ときどきあかりのことを 女として意識する瞬間があった。 それが気恥ずかしいわけではなかったが、マルチのことを口実に、実はあかりのことを避けていたような気がするのは 確かだった。マルチといると、ほっとするような安心感を感じられるため、なんとなく逃げていたような気がして、浩之は、 少し心が痛む。 本当はあいつの気持ち、わかっているんだけどな・・・ それに答えを出すことに怯えている自分が、なさけなかった。今まで築きあげてきた関係が、一瞬にして崩れていきそうな予感。 あかりとだけでなく、志保や、雅史との関係も壊れていくのではないか・・・、それが恐かったのだ。 ただ、嘘はつきたくなかった。 少なくとも今の、いや、いままでの浩之にとって、あかりは家族のような存在であった。 手のかかる妹であり、気をまわしてくれる姉であり、面倒を見てくれる母のような存在。 身近すぎて、本来、表面上意識することのない存在だ。 「・・・浩之ちゃん?」 あかりが、少しだけほんのりと赤く染まった、困った顔で呼ぶ。 どうやら少し、ぼーっとあかりを見ていたらしい。 「ああ、いや、なんでもねえ」 慌てて意識をもとに戻し、平静をよそおって答える。 あかりは不思議そうな顔をしていたが、昼休み終了のチャイムが鳴るのを聞いて、 「じゃあ、帰りね、浩之ちゃん」 と言って、慌てて自分の席へと向かっていった。 ぱたぱたと急ぎ足で歩くあかりの後ろ姿を見て、浩之はふと、いいようのない罪悪感にかられるのだった。 その日の授業は、全く身に入らなかった。 マルチのこと。 頭の中は、そのことで一杯だった。 マルチがいようといまいと、時は過ぎてゆき、日はたってゆく。まるで、彼女のいた日々が嘘だったかのように。 日常というものに対するなれは、思い出を削り取ってゆく波のようで、少しづつ、しかし確実に、大事な記憶は薄れてゆく。 今はまだいい。だが一ヶ月、一年とたってゆけばどうなるのか。 ましてや、もう二度「あの」マルチとは会えないのだ。 浩之と再会を果たすのは、「マルチ」ではなく、「マルチの妹」なのである。 忘れたくない記憶がある。忘れ得ぬ想いがある。 いずれ薄れゆく、「記憶」の中に。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 その日の学校の帰り道。 浩之とあかりの二人は、終止無言だった。 どちらからも声をかけない、かけられない。 その調子のまま歩き続け一一やがて、浩之の家についてしまった。 二人共に、少しの間足を止める。結局、帰る間、お互いに一度も見合わせることのなかった顔が、ふと向き合った。目線が ぶつかりあい、わずかな沈黙の後。 先に口を開いたのは浩之だった。 「ちょっとの間でいいからよ、家に来てくんねえか・・・?」 「”Interlude of Multi's story” あかり-2」に続く --------------------------------------------------------------------------------- 皆様、こんにちわ。いきなり長篇連載を始めようという、無謀者、「笹波」です。 マルチがいなくなった後の浩之はどうしていたか、あるいはどうなったか、というものを、自分なりに 解釈してみたくなって書いたのが、このSSです。基本的に、PC版のマルチのストーリー(私は残念ながら、 PS版のTo Heartをやったことがない・・・欲しいんですけどね)を穴埋めする形で、物語を展開させて ゆくつもりでいます。 それにしても、これちゃんと終わるのか不安です(をい)。おおまかな話の流れはできているものの、 全部で十五〜二十話ぐらいになるようで(詳細は未だ不明・・・平気か?)、気力が持つかどうかが最大の問題ですね。 御意見、御感想を待っています。 ・・・と言いたいのですが、現在、私は学校からネットをやっており、いろいろな事情から、メアドが使えない 状況になっています。すぐに改善するつもりですが、それまでは、無礼を御容赦ください。 では感想です。 >「久々野 彰」さん 感想について、まったく同感です。その中身がどんな物であれ、読んだよ、と言われるのは 嬉しいですよね。ちなみにTHでは、私はあかりあ〜んどマルチ派です。 無罪ですか・・・。馬面は、そんなにいやなのか?とゆ〜か、人権が無いとか(笑) >「グンヤ」さん 芹香の友人で、同年代の人って、確かにいませんよね。みんな年下ばっか。でも男の人だと、 来栖川本家(というか親)がうるさいような・・・? >「里茄野のわく」さん 齢九歳で、なんちゅうシナリオを書き上げる子だ・・・。末恐ろしい・・・。なんかこれが 一番印象に残ってしまった。 >「vlad」さん 個人的には、葵ちゃんに勝ってほしかったです。綾香と闘うシーンが見たかったものですから、 ちょっと残念です。 >「うくふに」さん 感想有り難うございます。やっぱすごく嬉しいです。ZZだ〜。私、ZZのファンなんですよ。 とゆうより、ガOダムのファンなんですけど(苦笑)。 >「ARM(1475)」さん マルマイマー、最初は、「GGG]知らないしなあ、などと思っていたのですが、いざよんで みると、すごくおもしろいです! もう最近は、めちゃくちゃ楽しみにしてます。今度誰かから、 「GGG]のビデオを借りるなりして、見てみたいと思ってます。(まあ、借りても、見る時間が ないのがきついですが)がんばってください! >「未樹 祥」さん 委員長が、乙女チックですね。ここまで「あの」彼女を変えてしまうとは、浩之おそるべし! いや、「あの」浩之にやる気を出させた委員長のほうがすごいか? >「takataka」さん 充電中にあんな夢見てたら、コードが外れそうですね。でもって、外れたコードに水(笑)が かかって、感電したりして・・・ 「はわわわわ〜、ご主人様、なんか体がしびれます〜ぅ」 とかいって、放電したりして(笑) それではみなさま、また!