パイロット(氷の猛女)  投稿者:ざりがに


 自らの愛した人々が
 手の届かないところへ行ったとき
 彼女は彼女を知る人々の前から
 姿を消した

 新たな場所で彼女は出会った
 空を翔ける妖姫
 物を言わぬ凶器
 彼女の新たな狂気
 kSu-37VFX



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 『パイロット』

  THE PILOT

    by
  ZaRiGaNie
    1999

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 埼玉県南部のいくつかの都市で、時間外飛行を知らせるサイレンが鳴る。
 狭山市にある航空自衛隊入間基地、そこで通常プログラム外の飛行計画が持ち上がった
ことを周辺自治体が知らせているのだ。
 サイレンを聞いて、基地周辺の見晴らしのいい位置に陣取ったその手の趣味の持ち主達
が、基地の上空にカメラを向けた。
 しばらくして、どこか遠くからゆっくりと爆音が近づいて来た。
「来たぜ」
最もいい位置を占めた人間の誰かが言った。
 基地上空に現れた怪鳥は、識別関係のもの意外、塗装すらまともに施されてはいなかった。


 kSu-37VFX実験飛行隊の自衛隊側の最高責任者は、以前は芸能プロダクションに勤めてい
たという変わった経歴の持ち主だった。
 その三等空佐の机の前で、長瀬は普段の彼からは想像も出来ないような厳しい声を出していた。
「私は反対です」
と長瀬は言った。
「kSu-37VFXに人間を乗せるだなんて。あれはメイドロボが乗って初めて百パーセントの能
力を発揮できるのです。だいたい、人間ではkSu-37VFXの殺人的な機動に肉体そのものが耐
えられない」
 書類に目を通していた三佐がおもてを上げた。眼鏡をかけ、髪を後ろでくくったその姿
を見て、長瀬は気がくじけそうになるのを感じた。
「そのことについては、あなたがたが解決してくださることを期待していたのですが」
kSu-37VFX実験飛行隊指令、篠塚弥生三等空佐は、にこりともせずにそう言った。
「今回の件は、もはや決定事項です。そちらの意見にも多々うなずける部分があるのは認
めざるを得ませんが、本実験計画は、それを見越した上でのものだというのをわかってく
ださい」
言葉遣いこそ丁寧だったが、要するにいいからやれ、と言っていた。
「しかし」
長瀬はさらに言い募った。
「確かに、メイドロボが乗り込んでいる以上、kSu-37VFXには小柄な人間が乗り込む程度の
スペースはあります。ですが、そこにはまともな生命維持装置はついていない。酸素マス
クすらないんですよ。キャノピーがなくて外は見れない。見れるとすればヘッドアップデ
ィスプレイごし。そんなものに乗りたいという人間がいるとは思えない」
 長瀬は言いながら、弥生の表情、仕種を観察していた。そこから相手の考えていること
を少しでも読み取ろうという考えだった。弥生は表情にも仕種にも、感情の片鱗すら見せ
ようとはしなかった。弥生のつけた、男物の銀のリストウォッチがきらりとひかる。
 無表情で長瀬の言葉を聞いていた弥生は、長瀬が黙るのを待って手に持っていた書類を
長瀬に見せた。多少感情的になっていた長瀬はなんだと思う暇もなく書類に目を通し、顔
色を変えた。
「本実験計画は、すでに決定事項です」
弥生はさきほどと同じ言葉をくりかえした。
「パイロットもすでに決定しています。長瀬裕介二等空尉。私が直接声をかけました」
「篠塚三佐……」
「彼も面白い経歴の持ち主ですね」
弥生は言った。
「S−市の集団発狂事件。彼はその生き残りだそうですね。例の事故による怪我も驚異的
なはやさで回復している。普通の人間にはありえないほど」
 長瀬は言うべき言葉を失った。
 それは、長瀬が裕介に対して抱く大きなしこり、裕介がkSu-37VFXをかばった際に、長瀬
に裕介の名を叫ばせなかった直接的な原因だった。
 心に抱える闇を見透かされたような気分で、長瀬は弥生の机の前から辞した。
 まるで、機械としゃべっていたような気分だ、と長瀬は思った。
 一見、会話が成り立っているようで、その実、相手はしゃべりたいことを一方的にしゃ
べっただけだ。
 一部の自衛官達が言う、kSu-37VFX実験飛行隊についての陰口を思い出す。
「あそこは」
と口の悪い者は言う。
「……パイロットから司令官まで、みんな機械だ」


 長瀬が弥生の机のある執務室から出ていった後、弥生は伏せてあった写真を立てた。
 写真には、全身で幸せを表現しているウェディングドレスの女性と、少し陰のある笑み
を浮かべたその未来の夫が、仲良くならんで写っていた。
 当時は、第一線で活躍する歌手と(本人はアイドルと呼ばれるのを好んだようだが)、
しがない一ADの結婚ということで、各種マスコミの話題をさらったものだ。
 弥生の人生を変えた事件だった。
 結婚が決まったときに返された、銀のリストウォッチを、弥生は無意識に撫ぜていた。



                               To be continued...?

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 パイロット、ストーリー展開案

A案
 長瀬裕介に続く第三のパイロット(気が強くて自信家、女性)登場によりラブ度がアップ。

B案
 中央アジア某国で極秘実験、死と隣り合わせの日常にkSu-37VFX実験飛行隊のメンバーにも
やがて強い連帯感が芽生え始める。

C案、
 各国上層部しか知らない宇宙からの『飛来者』との絶望的な戦闘に参加し、パイロット
達は『飛来者』と戦う第二の勢力の存在を知る。

D案、
 実は夢だった。




以下G案まで公開禁止、現在有力なのは、D案。